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寂しさに包まれた越前海岸








2006年4月12日 【福井県】





「日本海の海は荒々しい」



この言葉を象徴する海岸線、越前海岸。





305号線を車を走らせていると、激しい波が作り上げた奇岩奇石の景勝が海沿いにどこまでも続いている。


どこか陰鬱な気が充満していて、その寂しさが旅情をかきたててくれる。


海沿いに続く荒波に打ち上げられた貝殻のような集落たちは昔ながらの漁村の風景だ。


色んな魚が玄関先に干してあり、網やブイなどの漁の道具が無機質な防波堤を飾りたてている。






車を降り、民家の生活路地をうろうろと迷子になってみた。




爺ちゃん婆ちゃんばっかりだからか、各家屋から漏れてくるテレビの音量がやたらでかい。


いたるところから『いいとも』の音が同時に聞こえる。


日本中どこに行ってもみんな『いいとも』好きだなぁ。


こんな寂しげな世界に取り残されたような集落も、日本の片隅なんだよな。







「こんにちはー。」



「あぁ!?兄ちゃんどこの兄ちゃんだ!?」



「あ、旅のものです。」



「だな。知らねーもんな。」



小さな集落では村人全員が家族のようなものなんだろう。


1つの場所でずっと生きるのが、人間の本当の暮らし方なのかもしれない。





ふと、黒い服を着た人たちが列になって歩いてるのを見つけた。


あ、野辺送りってやつなのかな…………



先頭の人が棺桶のようなものを担いでいる。


霊柩車で運ぶのが一般的になった現代で、今もこうして昔ながらの方法で死者を送る風習が残ってるところがあるんだな。


寂しい田舎の風景と相まって、黄泉の国の出来事みたいだった。










陰鬱な海に背を向け、武生方面へ向かってアクセルを踏む。


そして有名な越前焼きの里、越前町にやってきた。


ここが日本六古窯の最後の1つだ。




のどかな農村風景。


切り妻瓦屋根に白壁という、日本昔話のような民家が田んぼの中にぽつぽつと散ばっている。


漁の集落と農の集落。


環境に沿った造りの違いがとても興味深い。








まずやってきたのは越前焼きの館。


協会に加盟している作家さんの作品がたくさん展示してある。





その中から目を引かれた作品の窯をチェックし、片っ端から電話をした。


そして窯元をたずね、見学、見学、見学。


せっかく来たんだから面白いものを見なきゃこの町を出られない。







しかしどこも響くものがなくて、なんかあんまり面白いところないなー、と思いつつちゃっちゃと回っていたんだけど、最後の1軒にしようとやってきた平等という小さな集落にある豊彩窯が当たりだった。



「どーもー。」



「おー、まぁ入ってー。」



笑顔の素敵な吉田豊一さん。


玄関を入ると中は作業場で、商品は置いてない。


その端っこでろくろに向かっている吉田さんとしばらくお喋りをさせてもらった。




「僕は自然釉はあまり好きじゃなくてね。京都で修行してきたからね、きれいな明るい薬が好きなんだ。灰のかかり具合で窯から出してみないと出来はわからない、なんて誰にでもできるもんだよ。薬をかけ、狙った色をキチッと出す。薬は組み合わせで無限の広がりがあるからね。」



なるほど!!!


すごいこの人!!!!





若い世代は一点物が好きだ。


焼き物だと自然釉の、ごつごつとした無骨なものがどうしてもカッコよく、まるでその道を極めた境地に見えがちだ。


俺もそう思っていた。


最近では都会からやってきた若い人たちが、ろくに基礎もやらないで自然釉の器をそれっぽい解説をしてとんでもない値段で売ったりしてる。


それって一見カッコいいけど、職人ではない気がする。






吉田さんはこの越前の里に生まれ育ち、18歳で修行を始めてから焼き物一筋22年。


修行時代はガンガン怒鳴られながら1日に何百個も同じ器を作っていたらしい。



「運否天賦の器もいいけど、同じ物が欲しいといわれたときにピシッと同じ物を作れるのが職人だし、職人でなければ作家になんてなれないよ。」



写真を撮ってもいいですか?と言うと、わざわざろくろを回してくれた。



「器を作るときは3手。これ以上触っても悪くなるだけだからね。」




うーん、深い………………






お土産にグイ呑みを1ついただいた。


なんともシンプルで使うことを最優先に考えたような形だ。


確かに焼き物のお店やギャラリー、個展に行ってみると、素人の兄ちゃんが作ったような奇抜な器がどう考えても桁1つ間違えてますよね?っていうような値段で売られたりしている。


『物作り』っていうことに芸術なんて思想はただの不純物でしかないように思える。




歌もそうだ。


味なんてものは不必要なものをそぎ落としてそぎ落として、核心に迫ればおのずと滲んでくるものなんだろう。



いやー、また1つ勉強させてもらいました。


吉田さん、ありがとうございました!!










その夜、美香から久しぶりのメールが来た。


今度、会社の新しいプロジェクトの最高責任者に抜擢されたそうだ。


すごいなぁ。


この前まで頼りない大学生だったのに。



かたや一流大学出で一流企業のバリバリの出世頭、かたや食うや食わずの放浪の歌うたい。



「今夜はちょっと文武の最近のこと知りたい。」



そんなメールに俺の最近の出来事を返信したが、返ってきたのはおやすみの言葉だった。



おやすみ、美香。











翌日。









今立という集落に向かって走る。



山の中にポツポツと農村集落が寄りそうように固まっており、その中の1つの集落に小次郎公園というものがあるという。


今立はあの宮本武蔵との闘いで有名な佐々木小次郎の生誕の地なんだそうだ。








車を走らせていると、のぼりが立っていたのですぐにわかった。


近くの空き地に車をとめ、公園に向かって歩く。


きれいに整備された公園の中央に小次郎の銅像がある。





すぐ横にある高善寺というお寺が彼が生まれたお寺と伝わっており、文献も残っているそうだ。


小次郎生誕地説は他にも3ヵ所ほどあるようだが、ここが1番有力なんだって。





こんなものすごい田舎から何百年も名を残す男が生まれたんだな……………


生まれた地なんて、その人間の能力には何の関係もないんだなって思わせてくれる。




いつか俺も銅像が建てられるような人物になりたい、って男ならみんな一度は願うことだよな。



今のところ、俺はまだ銅像を建てられるような人物にはなっていない。






















今立の桜を見て、次にやってきた鯖江市では誠照寺で左甚五郎の彫刻『駆け出しの竜』を見物。


そして福井県で『黒龍』に並ぶ銘酒、『梵』の加藤吉平商店へ。





『梵』という名前が変わっているだけに、どのお酒もボトルやネーミングがユニーク。


全量純米でほぼ山田錦というこだわりよう。


んー、贅沢な蔵だ。



5年熟成の純吟『ときしらず』720ミリを購入して蔵を後にした。










それから急いで福井市内にやってきた。


酒屋さんの『花垣』でオススメしてもらった酒蔵『常山』の常山酒造へ。





ちょっと緊張しながら中に入ると、販売担当の明るい優しいおばちゃんが迎えてくれる。



お酒の一言コメントや蔵紹介のチラシもこのおばちゃんが書いているのだが、非常にわかりやすく親しみやすく、興味をそそられる。


売り方1つでこんなにも蔵に対する印象が変わるんだよな。



その後、銭湯の場所を地図まで書いて教えてくれたおばちゃん。


こんな若造だからといってテキトーに扱ってくる蔵より、こんなにも親切に接してくれた蔵の酒の方が美味く感じるのは当たり前だ。











福井市のネオン街、片町。



飲み屋街を見ればその街の景気がよくわかる。


平日だがなかなかの人出だ。


空きテナントも少ないし、新しいお洒落なお店が多いのは金がよく動いている証拠だ。



よーーーーーーーーし!!!


稼ぐぞおおあおおおおおおおおおあ!!!!!







…………………が、小雨のせいで中心部から離れたところでしか歌えず、残念ながら3500円どまりだった。


まぁ、いいか。


こんな夜もあるよな。










車に戻り、街の灯りを背にアクセルを踏んだ。





桜並木のトンネルをくぐりぬけ、車のいない国道を快適なスピードで走る。


やがて田舎町になり、田んぼの中を駆けぬけ山道に入る。


外灯もない峠道。





すると、暗闇の中に霧が出てきた。


視界はさえぎられ、ヘッドライトが真っ白な壁を作り出し、その向こうから白線が飛び出してくる。


マップルの全国地図を睨みつけ、細い道を見つけては近道をしようと脇へ逸れてみるが、峠道はまだほとんどが冬期閉鎖だ。




まぁ、いいさ。


今夜はどこまで走ろうかな。



眠気の限界までこの山の中を走ってやるぞ。





【福井県編】



完!!!




リアルタイムの双子との日常はこちら






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