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オンザロードアゲイン 9章










「あー、こんにちはー。◯◯テレビの高橋と申しますー。今日はよろしくお願いしますー。小野さんどうもお久しぶりですー。」



「あー、高橋さんご無沙汰ですねー。お元気でいましたか?」



翌日、待ち合わせ場所になっていたカフェにテレビ局のスタッフさんたちがやってきた。

グラナダで別番組のロケをしにきたところ、俺の今回の旅についても少し話を聞きたいということで取材することになったって流れだ。


もちろんこれもカッピーの打診だろう。

カッピーの業界のコネは、この歳になっても大したものだ。





でもこのところ釈然としない。


カッピーは俺をどうしようとしてるんだろう。

最近の雑誌やラジオの取材の連続で、気持ちが疲れてきていた。


今回の旅は俺にとってすごく個人的なものだ。

昔の埃をかぶった約束を果たすために俺が勝手に始めたものであって、カッピーやショータ君が付き合ってくれるところまで良かったものの、それがこんなに大げさなものになってきて、違和感を感じていた。


俺たちだけの旅だったはずなのに、そうじゃなくなってきている。



「いやー、金丸さん、ラジオ聞きましたよ。反響大きいですよ。かつての有名旅人、昔の約束を果たしにもう一度旅へ!!これいいですよ。」



「はぁ…………」



「軽くカメラ回させてもらっていいですか?できれば路上ライブをやってるシーンなんかも撮らせていただけたら嬉しいです。」



「フミ君、あんまり気負わずにいつも通りのことやってればいいからね。気楽に気楽に。」



「金丸さんが今回の旅に出ようと思ったキッカケからお聞きしてもいいですか?」




キッカケ。


こうして質問にされて整理してみると、俺はなんで今回の旅に出てきたのか、上手く言葉にできなかった。

というか上手くまとめられるような感情じゃない。

色んな出来事があって、色んな想いがあって、いつのまにかこうしてヨーロッパまで来ている。


かつての約束、カッピーとの約束、年齢、カンちゃん、


様々な現実から逃避するためだったのか、責任ともいえない責任をすっきりさせたかったのか、カンちゃんがいない喪失感を紛らわしたかったのか、

いずれにしても逃避なのかもしれないし、まだまだ若いやつらには負けないぞなんてカッコよく言い繕うこともできる。


ただ、テレビ用に耳障りのいい言葉にすり替えることには抵抗はある。



「奥様とは外国で出会われたんですよね。その奥様が亡くなられて、奥様との約束を果たす、ということなんですか?」



「あ、いえ、それは関係ないです。このマラソンの約束は当時応援してくれてた人たちというか、カッピーたちと交わしたものなので。もう覚えてる人もいないような約束ですが。」



「そうなんですね。奥様は今回のチャレンジについては応援してくれていると思いますか?」



カンちゃんのことについてたくさん質問されてモヤモヤがたまってしまう。

そういうわけじゃない。

カンちゃんをダシに使われるなんてたまらない。











それから路上の様子を少し撮影し、これまでの道中のエピソードなんかを話し、正直に飾ることなく取材を受けた。

これが日本で放送されるかどうかはわからないけど、別に俺にとってはどうでもいいことだ。


カッピーとしてはせっかくの大きなチャレンジなんだからこれをキッカケに何か面白い展開にもっていけたらと思ってるかもしれない。

その想いに添えないのは申し訳ないが、今回の旅は売り物にするような軽いもんじゃないってのもカッピーにわかって欲しかった。








モヤモヤとした気持ちを抱えたまま撮影を終え、テレビ局の人たちと別れ、カフェのトイレに行き、みんなで泊まっているAir B&Bのアパートに帰ろうとしているところだった。

トイレを出ると、テレビ局の高橋さんとカメラマンのスタッフさんが何やら話しているのを見つけた。

カッピーの姿もそこにあった。


話し声が聞こえてくる。



「だからぁ、奥さんの話はナシじゃダメなんだって。そこは絶対織り込んでいかないと。」



「でも嫌そうな感じでしたよ。」



「あのなぁ、こういうのは誰か死なないとストーリーにならないんだよ。誰か死ぬから人は感動するの。」



「高橋さん、フミ君もカンちゃんがいなくなったことは少なからず影響してるだろうから、また僕からもちょっと話しておきますよ。カンちゃんの話があったほうが流れ的にもスッキリしますよね。」



「そういうことなんですよ。小野さんわかってるなぁ。昔のファンとの約束だけじゃ弱いんですよね。あ、金丸さん……」



ガン!!!



頭がカッとしてイスを蹴飛ばした。

店の中の人たちが全員こちらを振り返った。



「あ、いや、違うんですよ金丸さん、ストーリーの流れとして奥様のことを盛り込めたらなと思いまして、」



「フミ君、後で話そうと思ってたんだよ、ちゃんとフミ君の意見を聞いた上でカンちゃんのことを使うか決めるつもりだったから、」



「近づくな。俺に近づくな。頼む。」



鼓動が早くなって、大声を出してしまいそうになるのをこらえてカフェを出た。


フミ君!!と後ろから呼ぶ声が聞こえた。

















ショータ君とイクゾーがいるアパートに戻った。



「あ、金丸さんお帰りなさい。」



「お、どうだったフミ君、テレビの取材は?これでマラソン終わって日本に帰ったら有名人で女にモテまくりだな。ヒャッハー!!」



腰を振っているショータ君を無視して冷蔵庫からビールを取り出して一気にあおった。


頭を冷やしていると大慌てでカッピーが戻ってきた。



「フミ君、ちょっと話聞いて。さっきのは、」



「何も言うな。カッピー、あのテレビの取材は全部キャンセルだ。雑誌もラジオも、すでに出てるもの以外全部キャンセルして。」



「おいおい、どうしたんだよ2人とも。そんなことしたらハーレムが台無しじゃねぇか、ああん?」



「見損なったよカッピー。いや、お前は昔からそうだったか。こっちの気持ちは考えないで突っ走って、自分の計画通りに進めてしまうんだよ。」



「…………なんだとテメェ…………こっちがどんだけフミ君のこと考えてやってるかわかってんのかよ!!これまでの取材とりつけるのに俺がどんだけ苦労したか分かってねぇからそんなこと言えんだよ!!!」



「それだよ。良かれと思ってやってるっていうところが余計タチが悪いんだよ。俺がいつそんなこと望んだよ!!!お前が勝手にやってるだけだろ!!!」



「ちょ、ちょっと2人ともやめてくださいよ!!落ち着いてください!!!」



「テメーは黙ってろ!!!!」



「………………」




ビールを飲み干す。




「………………フミ君はいつもそうだよ。あの頃もそうだった。日本に帰ったら面白いことやろうぜって言って、2人で有名になろうとしたのに、結局ケツまくって逃げたからな。俺のことほったらかしでよ。」



「それはお前が俺の考えを聞かずに売り込みまくったからだろ。やりたくもない仕事を受けたり、歌いたくもない曲を作らせたり。俺がどんだけ辛かったか考えたこともなかっただろう。」



「そんな甘ったれたことで有名になれるとでも思ってんのかよ!?そんなチンケな覚悟でやれると思ってたお前と組んだのがそもそも間違いだったんだよ!!!結局カンちゃんと結婚して田舎に引っ込んで俺たちとの約束放り出してのうのうとやりやがってよぉ!!」



「ふざけんなよ!!!カンちゃん関係ねぇだろうが!!!今回のことにカンちゃんをダシに使うなんて絶対ゆるさねぇ!!!」



「はっ!!カンちゃんをダシに使ってんのはお前だろ?カンちゃんを幸せにするため、カンちゃんが望むなら、カンちゃんがいなくなったから、全部カンちゃんをダシにして決めてんじゃねぇかよ。そんなんじゃ死んだカンちゃんも報われねぇよ!!!」



ビール瓶をテーブルの上に置きカッピーをぶん殴った。


よろめいたカッピー。

しかしそのまま振りかぶって殴り返してきた。


カッピーの拳が顔をとらえて、足がもつれて後ろに倒れた。

椅子がひっくり返り、花瓶が割れる。



「はぁはぁ…………ふざけんなよ…………俺はいっつもお前に振り回されてばっかりだよ…………」



カッピーが部屋を出ていった。


か、カッピーさんー!!待ってくださいー!!と追いかけていったイクゾー。



「ハァハァ…………チクショウ…………」



「…………あーあ、熱い熱い、まったくこれだからお前たちはよぉ。」



ショータ君が立ち上がってドアに向かう。



「なぁフミ君。」



「………………」



「これはフミ君の旅だ。俺たちはただくっついてきてるだけだからな。だから、フミ君がやめたいんだったらいつだってやめたらいい。俺は一切責めないよ。」



冷静な顔でテーブルの上のビール瓶を持ち、飲むショータ君。



「カッピーな、最近奥さんと上手くいってなくてな、別居してるんだわ。子供も向こうについてるし、まぁ寂しそうにしてる。俺から見たらな。だから、まぁそんなとこだよ。人生色々だよな。あんまりあいつのこと責めないでやってくれよ。さて、俺はバーにでも飲みに行ってくるかな。」



ショータ君も出て行き、部屋に1人になった。


頬がようやく痛くなってきた。






















翌日、路上で歌った。


横にはバッグパックが置いてある。

みんなと同じ部屋に泊まるのが嫌で、荷物をまとめてゆうべは公園のベンチで寝た。



体があまり言うことをきかない。

脱力していて、虚しさがこみ上げてきてはそれを散らしてまたギターを鳴らす。


喉の調子は良い。

なかなか良い声が出てるし、ギターも丁寧に弾けている。

石造りの町に音が響いて、とても気持ちよく染み渡っていく。


チップの入りも悪くない。

でも胸の中を風が通り抜けていくみたいだ。






エルビスのyou were always on my mindを歌う。


小さな子供がテクテク歩いてきてコインを入れてくれた。

ニコッと笑ってありがとう、とお礼を言う。

テクテクと親のところへ戻っていく子供。



ふと、カンちゃんがその子を呼び止める。


そして膝をつき、子供の目の前で折り鶴の頭を曲げ、羽を広げてる。

子供は目を丸くしてワォォォと喜び、折り鶴を受け取ると走って親のところへ戻っていき、その折り鶴を自慢している。


お父さんお母さんはニッコニコしながら、良かったねぇええ、綺麗だねぇと子供に言いながら、俺たちに向かってウィンクをする。

子供は大事そうに折り鶴を持ち、お母さんに自慢しながら歩いていく。


その心温まる幸せな光景を見送り、カンちゃんを見ると、穏やかな微笑みを浮かべている。



ギターを強く鳴らす。

カンちゃんの姿が消える。

俺1人の歌が石畳に響く。








曲を終えると、1人の上品なお婆さんがポトリとコインをギターケースに入れてくれた。

ありがとうございますとお礼を言うと、お婆さんはシワシワの顔を上げた。


深くシワの刻まれた目尻、オデコ、頬、口元、綺麗にお化粧をしている。


じっと正面から見つめてくるお婆さんの窪んだ瞳に心が射抜かれる。



「あなたの歌はとても美しいわ。でも、とても悲しいわ。」



お婆さんは歩いて行った。


ギターを下ろす。

町の中で1人置き去りにされたような悲しさが胸に覆い被さってくる。




カンちゃんに会いたい。

カンちゃんを1人にして俺はこんなとこで何やってるんだろう。


帰ろう。

今さらどうでもいい。過去の約束なんて誰も覚えちゃいない。


日本に帰ろう。


ギターを片付け、石畳の道を歩いた。


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