2006年4月6日 【福井県】
ゆうべは福井県の敦賀市ってとこまでやってきて路上に出たんだけど、アーケードが伸びる中心地にいい感じのネオン街があり、18000円までいった。
ラーメン屋台がポツポツ出ていたりして、すごく雰囲気のある敦賀の飲み屋街。
真ん中に大きな公園があってその脇で歌ったんだけど、すごい楽しかったな。
おかげでこれでケータイ代が払える。
そして何よりいい出会いがあった。
歌ってるところにいつものようにお呼びがかかり『Hen』というスナックに行ったんだけど、そこのママが音楽好きで、敦賀の音楽事情にかなり詳しく、お店が終わってからとあるバーに連れて行ってくれた。
『フォークバー ひろき』っていうお店。
店内には拓郎や加川良なんかの古いレコードが並び、モーリス、マーチンなどの名器がズラリと壁にかけられていた。
気さくなマスター、音楽仲間。
いつものように地元のミュージシャンたちとセッションしながら夜はふけたわけっていう福井県初日の夜。
さて車の中で目を覚ましたら今日から日本海の県、福井県攻めだ。
今いる敦賀は県の西側の中心地みたいで、反対の東側に福井市なんかの大きな街が散らばってる感じかな。
西側はリアス式の海外が続く田舎の海岸線だ。
というわけでまずは県の西部、若狭地方を回ってしまおう。
27号線で小浜市方面へ走る。
小浜はその昔大陸との交易の玄関口であったために仏教文化が大いに栄えた地方。
現在も国宝・重文の寺院が多数散在している。
しらみつぶしに回りたいところだが、全部拝観料がかかるので1つに絞って行くことに。
数ある中から選んでやってきたのは、この地方を代表するお寺、明通寺。
木々の生い茂る山懐、古い山門が立ちはだかった。
400円を払って中へ進んでいくと、ものすごく立派なお堂と三重塔が現れる。
共に福井県唯一の国宝建造物だ。
真言宗のお寺で、806年に坂上田村麻呂によって創建されたと伝えられている。
写真を撮っていると後ろからお坊さんが話しかけてきた。
「ご案内いたします。」
お堂の中に通されると、そこには他に参拝客はいなかった。
俺1人にせつせつと寺の由緒を語って下さるお坊さん。
仏壇には立派なご本尊。
以前は秘仏として33年に1度しかご開帳されなかったありがたい仏様なのだが、現在は通年公開されているというのもうれしい。
鎌倉建築の豪壮な柱や梁、隣の三重塔の木組みも圧倒されるほど美しい。
いい寺だった。
若狭彦神社と若狭姫神社に立ち寄りつつ、一気に西へ向けて走っていく。
リアス式の海外が伸びるギザギザした海沿いの道だ。
京都との県境にある半島の先端を目指して走っていると、入江に小さな集落が現れた。
斜面に棚田、海岸沿いに民家。
泥まみれになってクワを振っているお婆さんに話しかけると、『畦つけ』という作業をしているところだった。
こうやって田んぼの縁の土を盛って固めることで水をこぼさないようにするのだ。
「歳もよるとえろーてならんー。」
この言葉を普通に理解できるようになったんだから、俺もいっぱしの旅人だな。
そこからさらに半島の奥に入って行き、好奇心のままに道のドン詰まりまで行き、そこにあった集落の中を歩き回った。
観光客なんてまず来ないようなほんの小さな入江の集落。
ここに代々住んできた人たちが積み上げてきた生活の跡。
ちょっと高台に見えるあの一回り大きな家はこのあたりの名士なのかな。
そういう田舎の慣わしや掟というものが放つロマンが胸を締めつける。
あそこにいる腰の曲がった爺ちゃんも、かつては筋肉に覆われた体を持つ若者だった。
その時に彼が見た老人たちはもうこの世にはいない。
この集落を作ってきた、歴史上の名もなき人々。
崩れた民家、草まみれの石段。
色あせた遠い過去の営み。
県西はこんなもんにして小浜まで戻ってきた。
商店街の中の『里ちゃん』という食堂でヤキソバを食べながら地元のおっさんとお喋り。
「これ、若狭の魚は美味いから食え。」
おっさんが塩サバをおごってくれた。
うまい。
ママもとても優しいなごめるお店だった。
いいなぁ福井。
こんな暖かい田舎が大好きだよ。
さて、そんな暖かい気持ちでいたんだけど、夜になって問題のあの2人から電話がかかってきた。
田辺のミキさんマユミさんだ。
はぁ……………正直めんどくせぇ……………
俺はあれから田辺を離れたので今回のことには直接関係はないんだけど、話がヘビーすぎてしんどくなってしまう。
相変わらず死ぬほどモメてるようで、もうぐちゃぐちゃ状態。
あの田辺での楽しかった日々がガラガラと崩れ落ちていく。
でもやっぱり楽しかったあの日々のことを思うと無下にはできない。
俺にできることがあったらするから、とは言って電話を切った。
俺はやっぱり自分が1番大事な人間だ。
翌日。
若狭湾といえば、岩手三陸海岸と並ぶ日本を代表するリアス式海岸だ。
今日もギザギザと入り組んだ海岸線を走っていく。
そんな若狭きっての景勝地、三方五湖のある半島の先端を目指してアクセルを踏む。
周囲を山に囲まれた入江ごとに形成されている小さな集落では、お婆ちゃんたちがイカやワカメを干している。
ガードレールにかけられた布団の白がまぶしい。
今日は最高の天気だ。
小川地区まで走ったところで車を止めた。
洗濯バサミで干してある小さなイカが面白い格好だったのでその写真を撮っていると、お婆ちゃんがこっちに歩いてきた。
「珍しいだろう。」
朝とれたばかりのイカに塩をふって干しているだけだが、これがビールのつまみに最高なんだそうだ。
珍味で、土産物屋にも売ってないとのこと。
このあたりの人たちの家庭料理だ。
「これも縁だ。先端まで行って戻ってくるなら、また寄るんだぞ。」
お婆ちゃんに挨拶し、そこからさらに北上。
山桜とどこまでも広がる大海原。
ささやかな暮らしがあるボロボロの集落。
いいなぁ。
この県道213号線、最高のドライブコースだな。
半島の先っちょにある常神集落に到着した。
しばらく民家の隙間の路地裏をぶらぶらと探検して、またもと来た道を戻った。
小川地区のイカのところまで戻ってくると、さっきのお婆ちゃんがいた。
「ホレ、持って行って食べろ。」
イカを5~6杯もくれたお婆ちゃん。
ええ!?こんなに!!
お婆ちゃん民宿をやってるみたいだ。
『千島』のお婆ちゃん、どうかお元気で。
それから敦賀市内に戻ってきた。
立派な朱色の門が目をひく気比神宮にお参りして、急いで銭湯へ。
今夜は金曜。
さぁ路上だ!!
敦賀のメインストリート、本町通りの歩道には夜な夜なたくさんのラーメン屋台の赤提灯が灯る。
その中でも有名な『ごんちゃん』で晩ご飯。
カップルから家族連れまでたくさんの人たちが、歩道に並べられたテーブルでラーメンをすすっている。
屋台なんて博多ぶりかな。
懐かしいな。
ラーメン1杯550円。
チャーシューと紅生姜が入れ放題ってのが驚きだ。
味はまぁまぁ。
腹ごしらえしたらさっさと歌いに行きたいんだけど、敦賀には有料パーキングがない。
ネオン街のでかさからしたら30分100円くらいはしても不思議ではないんだけど、なぜかコインパーキングがない。
ではみんなどこに止めてるかっていうと、本町通りの道路沿いだ。
商店街の道沿いがずらっと無料駐車スペースになっているという奇跡。
こいつはなかなか珍しい光景だ。
助かる!!
そして路上開始!!
いやー、やっぱりこの年度はじめの時期は歓送迎会が多い。
役人さんばっかりだ。
おかげで大フィーバー。
一気に31000円までいったぜ!!
ひゃっほー!!
夜中の1時くらいまでで切り上げ、今夜もフォークバー『ひろき』に遊びに行ってみた。
しばらくマスターや他のお客さんたちとお喋りしていると、1人のダンディーなおじさんがお店に入ってきた。
「あ、旅してるっていう金丸君?どうも、佐野です。」
「えーーーーー!!!!!」
敦賀で有名なミュージシャンということでみなさんの口から何度もその名を聞いていたあの佐野さん!!
いきなりの登場!!
「佐野さんはすごいよ。」
「佐野さんは神だからね。」
とかそこまで言われていて、一体どんな人なんだろうと思っていたのだが、実物の佐野さん、病弱そう!!!
もっとヒゲで体格よくてデビッド・クロスビーみたいなのを想像してたのに。
まるで若い頃の佐野元春みたいにスマートでお洒落で男前。
年齢を聞いてまたビックリ。
自己紹介ということで1曲歌うと、佐野さんも1曲やってくれた。
サイケでスピリチュアルなコードとメロディ、詩の世界も深い。
安定した伸びる声。
放っているオーラ。
この人すごい!!
小手先だけじゃなく、そして激しいだけでももちろんない。
めちゃくちゃ突き抜けてる!!
超カッコイイ!!
「金丸君はどんな音楽好きなの?」
「日本をずっと旅してるんで日本らしい歌をやりたいんです。生活に密着してるもの、仏教とか。般若心経とか入れたりして。」
「うん、仏教ならね、般若心経より法華経を読んでみなよ。法華経は宇宙の法則を表しているからね。宇宙の力を受け取りやすい体を作ってから、そのパワーを歌に乗せて放出したらきっとすごいと思うよ。」
これだけ聞いたらなんかいかがわしい人だなと思うかもしれないけど、シンガーとしてミュージシャンとしてここまで音楽について深い思想のある人って初めてだったかもしれない。
音楽は深く考えるもんじゃないよー、と言う人もいるけど、浅い歌はやはりつまらないもんだ。
地元の人たちとワイワイお喋りして、店を出ると町にカラスが鳴いていた。
みんなに別れを告げて歩く。
朝6時。
白んだ空。
いい気分だ。
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