2005年11月17日 【関東後半 群馬県】
ゆうべは1万円稼ぐことができた。
クソ貧民から一気に殿様気分。
オラアアアアア!!!!
金目当ての女たち何でも買ってやるぞおおおお!!!
イキり倒しながらすぐにトヨタの販売店に行き、ずっとやってなかったファントムのオイル交換をしてもらう。
「えっとですねー、オイルの交換は終わったんですが、オイルの受け皿みたいなものがあるんですがね、それが悪くなってますねー。もし今後漏れてくるようなことがあったら替えないといけないですね。」
「いくら位ですか?」
「工賃合わせてだいたい4万ですね。」
「ふーん。」
漏れても替えねぇ。
貧しすぎて泣きながら銭湯を探しまわっていたら、住宅地の中にめちゃくちゃ年季の入ったお屋敷、新島湯ってとこを見つけた。
中に入ると、古い建物の一部と化しているお婆ちゃんが置物のように番台に座っていた。
「はーい、300円ねぇ。」
貧乏人に優しい値段ありがとうございます!!!
これまた年季の入った風呂場で体を洗いながら地元のおっちゃんと仲良くなる。
「まー、太田が群馬で1番の盛り場だからなぁ。でも最近は景気が悪いったらねぇや。歌っておひねりがへぇるかい?」
群馬の方便は江戸っ子的だ。
「帰る」が「けぇる」。
「入る」が「へぇる」。
粋な感じでカッコいい。
お風呂を上がって、服を着ながら番台の春子ばあちゃんとお喋りした。
めっちゃお婆ちゃんなのにハイカラな人で、82歳という歳でホームページも持っている。
その名も『春子の部屋』。
「それ見りゃ私のこと何でも書いてるから。ヤフーでもグーグルでも出るから。」
「こんな婆さんのこと知ったって面白くもなんともねぇや。なぁ!!いつまでたっても死にゃしねぇ。」
「コレッ!」
春子お婆ちゃんと常連のオッちゃんのやり取りがすごく微笑ましい。
いい銭湯見つけたな。
路上に向かう途中で美香から電話があった。
もうずっと電話なんかしてなかったのでかつてないほどうれしい。
心して通話ボタンを押す。
「あ、こんばんは。アレのことなんだけど、アレでアレで…………」
冷たい口調で用件だけを伝えてくる。
嫌々電話したムードをビンビン出している。
でも久しぶりに声を聞けて嬉しくて嬉しくてつい冗談を言いそうになる。
言った瞬間切られそうだからやめたけど…………
最後まで事務的にしゃべってすぐに電話を切った美香。
前なら、
「も~切ってよ~。」
「そっちから切ってよ~。」
とやり取りをするところなのだが、そんな期待も空しく一瞬で切られてしまった。
それでも少しの会話ですごく満たされた気分になった。
今日も太田の路上に座る。
寒い!!
もーーー寒くてたまらん!!!!
すでに外気は6~7℃。
去年、富良野の中田のおばちゃんに編んでもらった赤いセーターが大活躍で、もはやこれなしでは路上に出られないくらいだ。
指がかじかみ、耳と鼻が赤く染まる。
旅に出て4度目の冬。
今までの冬の路上が蘇る。
ネオンに染まる白い息。
冷え性の美香の手足。
鼻水すすって次の歌だ。
翌日。
ゆうべのあがりは13000円!!!
よーし、これで当分は心配要らないな。
そろそろ少しずつ動いていくかと、太田市のすぐ隣にある館林市にやってきた。
これといって見所のない町だが、ひとつだけ気になる場所がある。
やってきたのは茂林寺。
立派な門をくぐると両側にズラリと並んだ狸の像。
そう、ここはあの有名なぶんぶく茶釜の舞台なんだそう。
300円払って宝物を拝観させてもらうと、平安期の掛け軸や屏風などなかなか見ごたえのある内容。
奥に進んでいくと、お!!これか!!
これがモノホンのぶんぶく茶釜か!!
普通!!
んー、これって狸が化けてるんだよなぁ。
尻尾はないみたいだ。
太田に戻り、日記書きなんかを済ませて今日も春子お婆ちゃんの風呂にやってきた。
新島湯はやたらと刺青の人が多い。
春子ばあちゃんは太田のマザーテレサだ。
今日ももちろん太田で路上。
明日も太田で歌うつもりだから4連チャンか。
俺の音楽の師匠であるテディーさんが結婚するって分かったのは数ヶ月前のこと。
あのテディーさんの結婚式。
出席しないわけにはいかない。
なので年末年始は宮崎に帰る予定を立てているんだが、その飛行機代が27000円もする。
もうすぐ美香の誕生日だからそのプレゼント代。
今度行くハマショーのライブのチケットが1万。
テディーさんの結婚式のご祝儀が3万。
宮崎に帰ったらケンエイとかと飲みに行くだろうから2万は必要。
そしてケータイ料金。
小笠原諸島にも行きたいのでフェリー代…………
軽く20万は要るな……………
こりゃ気合入れて稼がないと。
ここからボーナス時期になり、年末の忘年会シーズンが始まる。
年内はほとんど休まないで歌い続けないとなぁ。
しかし今夜のあがりは7500円。
あんまり入らなかったなぁ……………
翌日。
秋田県の横手市もそうだったけど、ここ太田市もヤキソバの町。
日本3大ヤキソバのふたつ目の町だ。
市内に50ものお店があるんだけど、その中でも1番人気と評判の岩崎屋というところに行ってみた。
なるほど、店の外に行列ができてる。
こりゃ期待できる。
しかし……………
まず……………
あまりにも美味しくなくて、なんでも食べる俺が残してしまった。
味がまるでしないんだもん。
よくこれで行列できるな。
今日で太田最後の路上。
新島湯に入り体を暖めてから、いつものネオン街、南一番街にやってきた。
土曜の夜で呼び込み組のみんなも大忙しだ。
歌っていると、酔っ払いが俺の目の前で消火器をぶっ放してどっかに逃げていった。
車に粉がかかり、怒り狂った呼びこみメンバーが男を追いかけていった。
あいつどうなるんだろ。
4日連続で聴きにきてくれたカップル、インディーズで歌ってるというチカラさん、呼び込みのみんな。
太田、楽しい街だった。
みんなありがとう。
18000円のあがりをポケットに入れ車に戻る。
路上で冷え切った体に防寒着をしこたま着込んで毛布にくるまる。
布団の中で白い息を吐き、毛布を温める。
寒くて寒くて膝を抱えて震える。
ああ、美香の手足も今頃冷たくなってるんだろうな。
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