2005年 7月17日 【北海道一周】
ゆうべは乱闘に巻き込まれながらも12000円ほどになった。
今回の遠征は大成功だったけど………あのヤサ男とおばちゃん、どうなったことやら…………
富良野に向けて帰っていると、中田さんから電話がかかってきて、なんと!!!今バスにライダーさんが泊まっていて、俺に会いたがっているという!!!
ウッヒョー!!
そういうの待ってましたーー!!!
ノリノリで車を飛ばす!!!
が…………道、混み過ぎ…………
明日が海の日で連休なのと、どこもお祭りラッシュということですごい車の数だ。
美瑛のあたりから混み始め、中富良野に入ったころにはもう全然進まない。
農園やお店、あらゆるところにうじゃうじゃと人ごみができている。
このあたりはどこも景色がきれいなので、国道の脇とかに路駐かまして堂々と写真撮ってるバカとかいるからすっげぇ迷惑。
やってられん!!と裏道に逃げ込んだが最後、富田ファーム行きの車の大渋滞で、畑の中の細い道が完全にパンク状態。
なんだよこれ…………
エアコンの効かない代車の中、イライラしながら汗ダクでハンドルを叩く。
マジで5分に1メートルのペース。
無人の乗降所に止まった電車からは、コントですか?ってくらい人が降りてきて、ぞろぞろと歩いていく。
イライラが臨界点に達したのでもうこうなったら渋滞の責任者、富田ファームに行ってやることに。
こ、こりゃすげぇ…………
混雑するのわかるわ…………
香料を採取するために始められたラベンダーの栽培。
しかし当時ラベンダーの価値は低く、誰もが富田さんとこはバカだと陰口を叩いていたという。
それでも頑張って富田さんだけ栽培を続けていったところ、急にラベンダーの価値が見直されはじめ人気爆発。
以後、富良野=ラベンダーという最大の観光資源になるまでに地位を確立。
今日はそんな富田ファームで毎年行われているラベンダー祭りの最終日。
広大な敷地には一面ラベンダーの紫色の絨毯が広がっていて、他にもランやエゾカンゾウなど鮮やかな花々が咲き乱れており、こいつは確かに富良野に訪れてここに来なかったら損だな。
まぁでもこんだけ渋滞したら地元の人は大変だわ。
生活に支障が出るよ。
渋滞地獄から脱出し、総島さんのところに行くと、すでに車検の済んだファントム号がぴかぴかの姿で置いてあった。
おっしゃーー!!総島さん、早い仕事ありがとうございます!!!
ファントム、あと2年は頑張ってくれよ!!!
車検代の21万円を支払って荷物を移し替えていると、お昼に総島さんの奥さんがご飯を作ってくれた。
奥さんはとても料理が上手。
「俺はなぁ、店で買ってきた惣菜は絶対許さないんだぁ。手を抜かずにちゃんと作れ!!ってな。メシをきちんと作るのが女の仕事なんだからな。昔、買ってきた惣菜を皿に移してわからないように盛り付けて出してきたことがあったんだぁ。俺はこいつの味わかるからな。一口食べてふざけんな!!って、そのまま1人で寿司食いに行ったことがあったけど、あの時はお前怒ったよなぁ。」
「金丸君、ひどいしょ?」
は、はい、ひどいと思います…………
でもそこまではっきり言える男もカッコいいと思う。
女の言いなりの男にはなりたくないな。
久しぶりのファントムに乗りこんでハマショーのニューアルバム『マイファーストラブ』を爆音でかけながら旅人バスにやってきた。
すると、外のテーブルでコーヒーを飲みながらおしゃべりしている2人のライダーさんがいた。
うおーー!!
お客さんがいるーーーー!!!
「いやー、そこのキャンプ場、ファミキャ(ファミリーキャンパー)がうじゃうじゃいてねー。肩身狭くなってこっち来たんだけど、こりゃいいですわ。」
島根と埼玉から毎年北海道に2週間ほどのツーリングをしに来ているこの2人。
太陽の里キャンプ場で知り合った女性ライダーも誘って今夜ここでジンギスカンをやるという。
俺も後で顔出しますと言い、一旦銭湯に入りに富良野へ。
17時くらいになり、手ぶらもなんだから自分の飲むビールとお肉も買ってバスに戻ってきた。
すでに煙上げながら肉を焼いてるみんな。
「どーもー。」
「あ、どーも、ここ座って。」
………………あれ?
えっと…………
なんか……………なんか態度がでかい。
なんかめっちゃ上から目線な感じ。
太陽の里で知り合ったという女性ライダーさんも、いかにも旅慣れしてますって気取った態度にカチンとくる。
肉買ってきたのにありがとうの一言もない。
しばらく飲み食いしていると佐藤さんが家からメロン1玉とアスパラを持ってきてくれた。
そんな!!佐藤さんは気を遣わなくてもいいですよ!!と恐縮している俺を尻目にライダー3人は、
「おー、いいですねー。アスパラってこのまま乗せてもいいです?」
と平然としている。
え?
ええ?
ちょっとちょっと、確かに北海道の人はいろいろ差し入れしてくれるよ?
でももっと感謝表そうよ?
なんでそんな当たり前みたいな感じなの?
なんか釈然としない気分のまま車に戻った。
中田さんにはこのことは言わなかった。
バス最初の宿泊客がこんな感じでしたなんて、なんとなく言えなかった。
いや、悪い人ではなかったよ。
うん。
でもこれが現実。
理想通りとはいかないよな。
翌日。
車の中で目を覚まし、雨が降る中、旅人バスに行ってみた。
ゆうべ泊まっていったあの2人のライダー。
なんと2人で2500円も寄付金ボックスに入れていってくれていた。
バスの壁を見ると、ライダーならではのレアな旅情報も書いていってくれている。
きっと旅先で色んな人にバスのことを宣伝してくれることだろう。
態度がでかい、なんて思ってしまって悪かったな。
彼らが最初のお客さんでよかったはず。
この調子でもっともっとたくさんの旅人に利用してもらいたい。
輪が広がっていくといいなぁ。
すると、正面にある『太陽の里キャンプ場』から出てきたライダーさんがバスに入ってきた。
話を聞くと、雨が降ってきてテント張りが大変だなぁと思っているところに、キャンプ場の管理人さんが来て、
「あっちにいい寝場所があるよ。」
と紹介してくれたらしい。
地元の人たちに受け入れられていることがものすごくホッとする。
俺ももっと寛容でいないと。
感謝を求めてたらカッコ悪いよな。
ホーマックに行って新しいカーペットを買い、3年間でだいぶボロボロになっていたファントムのカーペットを敷き直したり、荷物をどういう配置にすれば1番広くなるだろう?と車内の整理をしたりしていると、中田のおばちゃんから電話がかかってきた。
なにやら富良野に札幌の画家の黒田晃弘さんという方がやってきているらしく、面白そうだから行ってみないかい?とのこと。
この黒田さんは似顔絵描きとして有名な方のようで、今日から富良野で5日間に渡り似顔絵を描きまくるというイベントをやるんだそうだ。
別に珍しいもんでもないよな?と思いつつもせっかくだから行ってみることに。
富良野のいろんな創作活動をしているアーティストの作品を展示販売しているアトリエ、『クリエイトスクエア』に入ると、麦藁帽子をかぶり、伸びた髪を無造作に後ろでくくり、ヒゲを蓄えた黒田さんの姿があった。
芸術家の目は鋭い。
似顔絵ってどんなのだろう?
ショッピングセンターとかでカップルやファミリーに描いてあげてるアニメキャラみたいな感じのやつかなーと思いつつ、店内に無数に飾ってあったその似顔絵を見てみたらめっちゃカッコいい。
何とも抽象的な絵。
ただの似顔絵じゃなくて、会話を通し、その人の内面を反映した似顔絵を描くのだそうだ。
こりゃすごいということで俺も描いてもらうことに。
「あ、どうも。はじめまして。どうぞ座ってください。」
「あの、自己紹介に1曲歌います。」
「お!!いいですね!!ぜひお願いします。」
やっぱり歌ってるところが本当の俺だよなってことで、小さな店の中でオリジナル曲を熱唱した。
おもむろにバッグの中から木炭の棒を抜き出す黒田さん。
みるみるうちに顔が描かれていく。
「一期一会の出会いの中でだけ生きた絵が産まれてくるんです。あ、ここにアドレス書いておきました。もし旅先で会うことがあったら一緒に何かやりましょう。」
彼もまた自分というものを旅し続ける旅人だ。
良い物描いてもらえた。
さぁ、ホントにもう出発だ。
いい加減前に進まないといつまで経っても宮崎には辿り着けない。
昨日飲みすぎたせいでいつの間にかケータイがぶっ壊れて画面が真っ白になっており、それをケータイショップで診てもらったんだけど、修理に10日ほどかかると言われたが、もうそんなのいい。
そんなの待てない。
明日出発だ。
しばらくケータイなしで進もう。
別れを告げるべく、この1年お世話になった人たちへ挨拶して回った。
富良野の駅前のメインストリートにあるフクシカメラ。
美人ぞろいの娘さんを持つ山中さん。
スナック『啄木鳥』のマスターである久林さん。
アスパラの北さん。
いつも最高のご飯を食べさせてくれた千石食堂。
最高の家主さんだった川淵さん。
みんなみんな優しさに溢れたいい人ばかりだった。
新プリンスホテルにも行ってみるとベルにカオリさんがいた。
「カオリさん、お世話になりま、」
「何してんのあんた?まだいたの?」
ゴミクズを見るような目で見てくる。
相変わらずだなぁ。
でもそんなカオリさんが可愛かったな。
カオリさん、みんな元気で。
そして最後に中田さんちへ。
節目節目にはいつも豪華なものを食べさせてくれたおばちゃんだったけど、今日のメニューはカレーだった。
「こういうののほうがいいべや。」
何回晩ご飯をごちそうになっただろう。
何回このリビングで一緒に笑ったことだろう。
滞在11ヶ月。
息子と呼んでくれ、お兄ちゃんと呼んでくれ、感謝という言葉が不自然なほどに家族の一員だった。
旅をしていなかったらこんな運命のめぐり合わせのような中田さんにも出会えなかった。
パズルのピースがピタリとはまるような、出会うべくしての出会い。
俺が宮崎の街で歌を歌ってた夜も、中田さんたちは降り積もる雪をすくっていた。
あのころから、もう会うことは決まってたんだろうな。
そんな人たちがこの地球にあと何人いるんだろう。
必ず会おう。
そしてそこまでの道のりをお互い語り合おう。
富良野、『北の国から』のイメージはもうほとんどない。
思い浮かぶのは優しい人たちの顔と木屑の匂いとメタルのサウンド。
数年後、訪れたとき数々の若かった日々が蘇ることだろうな。
みんなほんとにありがとう。
富良野、本当に本当にありがとう!!!
出発だ!!!!!
翌日の朝。
「そうかー。もう少しで富良野で1番大きなお祭りのへそ祭りもあるのにな。そのころにはケータイも直ってるべし。1週間働くか?ははは、冗談冗談。」
はい、滞在延長決定。
山田親方のとこでもうちょっと金作ることに。
中田さんとこへ。
「すみません、やっぱ1週間延ばします。」
「何それー!!」
「えー!!私今日、授業3時間もつぶして手紙書いたのにー!!もうあげん!!」
「ハッハッハ!!そんなことだろうと思ったー。」
すでに挨拶した人たちに会わないことを祈る…………
リアルタイムの双子との日常はこちらから