2005年 6月20日 【北海道一周】
朝起きて部屋をきれいに片付けてマスターを探したんだけど、どこにもいなかった。
どっかに出かけるみたいだ。
なんて無用心なんだろう…………
俺のことまだ何にも知らないのに…………
仕方なく雑記張にメッセージを残して出発した。
昨日は父の日。
スポーツ店で富良野の中田さんに卓球のラケットケースを購入して、マジックで『必勝!!』と書き、それを郵送。
親父には宗谷岬で買った岬をモチーフにしたケータイストラップを送り、あと、宮崎の鳶会社で働いていた時の先輩に宗谷岬の先っちょの先っちょのところから海に手を突っ込んでとってきた日本最北の石を送る。
彼にはすでに最南端と最西端の石を送っている。
あと残すところひとつ、っていうか先輩俺のこと覚えてるかな?
ま、いっか。
最後までやり切ろう。
稚内公園へやってきた。
あそこにも、向こうにも、ここには樺太に関するたくさんの碑が建っている。
旧日本領であるサハリン。
元の名を樺太。
江戸後期、間宮林蔵が探検し、たくさんの和人が北海道と同じように樺太に移住し、アイヌの住んでいた地を拓き、島全体に住みつき、町を作った。
度々あったロシアからの侵攻も防ぎ、南樺太は40万人が暮らす日本最北の国土だった。
しかし、第2次世界大戦敗戦直後、間髪入れずに攻め込んできたロシア軍により南樺太、さらに北方四島が占領。
北海道に逃げる人々、故郷での死を望み最期まで残った人々。
島にあった日本名の地名はすべてに旧が付き、ロシア名に変わった。
樺太の名もサハリンに変わった。
今では稚内とサハリンは友好関係を結んでおり、定期便フェリーが運航している。
違う国が、昔は自分とこの国だったなんて、なんか感覚わからないな。
ヨーロッパとか行ったら、どこもそんな侵略の繰り返しの国土なんだろうな。
さて、15時にフェリー乗り場へにやってきた。
これから北海道の島のメインといってもいい、利尻礼文探検だ。
駐車場を探すがどこも1泊1000円という馬鹿げた値段なので、この前の土曜に路上で知り合って一緒に飲んだおじさん、タカオさんにどこか安く停められる場所はないか電話してみた。
「車停めるとこ?あぁ、俺んち停めればいいよ。フェリー何時よ?え?あと30分しかない?もっと早くかけてこいよー。」
「すみません。」
「よし、どっかその辺の大丈夫そうなとこに停めときな。俺、仕事終わったら取りに行ってやるから。車のキー、タイヤの上かどっかに置いときな。」
なんていい人だー。
というわけで近くのでかいホテルの脇に車を停め、準備をしてドアを全てロック。
キーはタイヤの上ではちょっと目立つので、タイヤの上のサスのとこに引っ掛けてこれでOK。
フェリー乗り場へ向かい1880円のチケットを買っていざ乗りこんだ。
出港の時間になり、ゆっくりと動き出したフェリー。
よし、タカオさんにキーの場所をメールしとこうかな…………
メールを………………
ん……………?
………………………
ケータイがねぇ……………
キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!
ケータイ車の中だぁぁっぁあああああああああああああ!!!!!!!
やべぇ!!やべぇ!!やべぇ!!
タカオさんがキーの場所を発見できなかったら車は動かせない。
駐禁とられたらどうしよう!!!!
あぁっぁぁぁどうしよおぉぉぉ!!!
ちくしょう………………
こうなったらとにかく早く帰るしかねぇか……………
1時間半後、フェリーは利尻島の鷲泊に到着した。
いきなり目の前にそびえ立つまだ雪の残った利尻富士。
人口6000人ほどで、1600年代後半からニシン、ウニ、コンブなどの漁場として栄えだしたこの島。
ニシンは昭和30年ごろから獲れなくなってしまったが、利尻昆布といったら今でも全国的にも有名な高級食材で、7月からの昆布の収穫シーズンには昆布干しのバイトを目当てに全国から旅人がやってくるほど活気立つという。
早速ヒッチハイク開始。
利尻ってそんなに名所ないんだよな。
時間もないしちゃちゃっと回ってしまおう。
しかしどの車も距離が短く、4~5台乗り継いでもまだ鬼脇の少し先。
車がほとんど通らないからひたすら歩いた。
やはりこの島も廃屋だらけだ。
過疎化がどんどん進んでいる。
日が傾いてきたころ、やっとこさ1台の車が止まってくれた。
仕事帰りのお兄さんが島の説明をしながらいろんなとこに連れて行ってくれた。
『白い恋人』のパッケージと同じ角度から利尻富士の写真を撮り、一気に沓形へ。
飲み屋街あるからと聞いてはいたものの、あるのは寂れた灯りが4~5軒。
んー、これじゃ路上は無理だ。
今日はここで野宿か。
「泊まるとこないんですか…………んー…………うち来ます?おやじ酒癖悪いですけど。」
というわけでそのお兄さん、三上さんの家にやってきた。
海沿いの風情ある民家で、すごく懐かしい雰囲気。
魚の刺身と筋子をご馳走になっていると、明日この集落で行われるお祭りの準備に行っていたお父さんが帰ってきた。
「おっ!!なんだ!!タク!!友達か!?いやー、よく来たな。俺は潜水士でな…………」
だいぶ酔っているおじさん。
話が面白い。
「で、何でここにいるんだぁ?」
「さ、さっき偶然タクさんに車に乗せてもらいまして、それで野宿するって言ったら、じゃあうちに泊まってけって…………」
「なぁぁぁぁぁあああにいいいい!!タクゥゥゥ!!」
とんでもない大声を出して鬼みたいな顔になるお父さん。
や、ヤバい!!!
ブチ切れてる!!!!
友達かと思ったらそんなどこの馬の骨とも知れんやつを家に上げやがったのか!!!ってキレてる!!!!
「お前はああああああああ!!!!!……………………………エライ!!!!」
「はいはい、もういいですから。」
奥さんに2階に追いやられしぶしぶ階段を上がっていたおじさん。
めっちゃ偶然なんだけど、明日はこの利尻のお祭りの日。
相当歴史の古いものらしく、88歳の婆ちゃんが生まれる前から行われているという。
日付が変わるまでタクさんと色んな話をして、仏間に敷いてもらった布団に入った。
お婆ちゃんちの匂いのする布団。
年季の入った古民家の天井。
仏壇の白黒写真。
このご先祖さんの時代は島もニシン漁で活気に満ち溢れていたんだろうな。
こんな最果ての島でも、ずっと昔から人々の暮らしは営まれている。
祭りが楽しみだ。
「おい、ホレ、起きれ。朝飯食え。」
次の朝、気持ちよく眠っていたら婆ちゃんに起こされた。
時計を見ると…………まだ6時やんか…………
島の朝早ええええ…………
寝ぼけた頭でみんなと食卓につき、海の幸たっぷりの朝ご飯をごちそうになり、のんびりと久しぶりのテレビニュースを見た。
日韓首脳会議のことをやっていた。
タクさんとお喋りしながらお茶を飲んでいると、9時くらいになり外から祭囃子が聞こえてきた。
お、そろそろだな。
お婆ちゃんは早くからお盆に米を盛って表に立っている。
俺も外に出て行列を待つ。
「これ!!こっちサ降りレ!!!」
お婆ちゃんがいきなり怒りながら俺を手招いた。
え、ええ?どういうこと!?
聞くと、どうやら行列は民家のある内陸側からではなく、道路を渡った海側から見ないといけないという風習らしい。
神輿は上から見てはいけないっていうもんな。
田舎の信心深さの素晴らしさ。
やって来たほんの短い行列。
歴史衣装に身を包んだ人たちがゆっくり歩いている。
先頭にほうきを掃く人。
塩をまく人。
そして赤天狗と白天狗の姿。
タクさんの話では、代々中学生がこの白天狗役を担い、町の子供たちを脅かして歩くのだという。
タクさんも子供のころだいぶ泣かされたらしい。
でも今の白天狗はすっかり大人しくなってしまったんだよなぁとタクさんが寂しげに言う。
確かにお行儀がいい。
仙法志という好奇心をくすぐられる名前の集落をノロノロと歩いていく行列の荘厳さに、時間を忘れてシャッターを押す。
離れ小島とささやかな集落、まるで黄泉の国にでも迷いこんだような不思議な時間。
すると地元のおばちゃんが話しかけてきた。
「お兄ちゃんギター弾くの?歌ってや!!」
いいですよと言うと、話がどんどん大きくなり、次の神社で赤天狗が御神酒を頂いてる間にみんなを集めて歌うということに。
マ、マジですか…………
お祭り関係者のほぼ全員が神社の階段に座り、謎の旅行者の演奏を心待ちにしてこっちを見ている。
もちろん白天狗もいる。
こんな神聖な祭りで俺なんかが歌っていいのかと思いつつ、覚悟を決めて声を振り絞った。
まぁ、なんとか歌い切ったかな。
途中、乱入してきたタクさんのお父さん。
やっぱりぐでんぐでん。
出発の笛が鳴り、行列がまたノロノロと進み出した。
俺は地元のおばちゃんたちにツブやらトンビやらを食べさせてもらい、土産に手巻き寿司までいただいて、その辺のおじさんに沓形港まで送ってもらった。
お祭り、最後まで見たかったけど先を急ごう。
タクさん、ヒッチハイクで乗せてくれたドライバーさん、そして利尻のみんな、貴重な経験させてもらいました!!!
ありがとう!!
730円、40分でお隣の島、礼文島に到着。
利尻は森の島だが礼文は草原の島。
高山植物の花が一面に自生していることで花の島といわれていて、シーズンには美しい花に覆われるという………………
が、今日はあいにく霧のかかった曇天。
全然景色楽しめない。
そんな寂しげな空の下、ヒッチ開始。
帰りのフェリーまで4時間。
その間に島一周だ。
さぁ間に合うか!!!
うん!!!間に合うわけねぇ!!!
でもやる!!!
止まれ止まれ止まれ止まれ止まれえええええ!!!!
よっしゃああああああああ!!!
1台目ゲットオオオオオ!!!
そこから順調に進み、4台目に乗せてくれたお兄さんがナイスな人だった。
「よし、じゃあ岬の手前まで送ってくわ。」
「あの、アツモリソウってきれいですか?」
「おー、きれいだぞー。もう見られないけどな。一株何十万もするからな。盗掘するやつがいるんだよ…………うーん、しょうがねぇ、咲いてるとこまで行ってやるわ!!」
明らかに仕事中だというのに、道をそれて丘を登り、この島にしか咲かないレブンアツモリソウの群生地に行ってくれたお兄さん。
そんな調子でどこまでも乗せてくれる。
「しょうがねぇ、岬まで行くか!!」
「あー、もう!!早く見て来い!!戻ってやるわ!!」
お兄さんに甘えて行きたかった場所をリクエストしてドンドン進んでいく。
そして礼文で必ず行っておきたかった場所、スコトン岬に到着。
めちゃくちゃ寂しげな岬が風の中に押し黙っている。
北緯一分差で宗谷岬に最北をゆずってはいるが、このスコトン岬も本当にもう地の果てといった雰囲気だ。
岬の手前にはほんの小さな、ひと気のない集落があった。
すでに廃校となっている日本最北の小学校だったスコトン小の前で止まってもらった。
ここはなんと富良野の中田のおじさんが通っていた小学校。
おじさんが子供だった45年前は、まだこの島もだいぶ活気に満ちていたんだろう。
今は4000人ほどしかいないこの島も、昔は1万人以上が生活していたそうだ。
やはりニシン漁で栄え、衰退した歴史を持っている。
ここでお兄さんと別れ、今度は桃岩方面へ。
やっとこさ軽トラをつかまえて山を越えると、スコトン側とはまったく異なった荒々しい風景に様変わりする。
岩山と絶壁だらけの恐ろしい場所で、大迫力の桃岩は溶岩が固まったもので、珍しい球状節理という地形。
まるで霊界への入り口みたいに禍々しく巨大だ。
桃岩からさらに奥に進んだ道の終わり、マジでこの世の最果てみたいなとんでもない場所に、あの桃岩ユースはあった。
そう、この桃岩ユースこそがあの、客に『落陽』を歌わせるっていう場所。
襟裳あたりで拓郎大好きおじちゃんから聞いた情報を信じてここまでやってきたってわけだ。
ここで1曲『落陽』を歌うためだけにわざわざ重たいギターを持ってきた。
よっしゃ、気合い入れて歌わせてもらおうじゃんかと、勇んでドアを開けた。
「おかえりなさーい!!」
う、これ苦手なやつだ。
おかえりなさいで、ここはあなたの家ですよ的な親近感を持たせようとしてくるアレ。
この時点で若干イラッとする。
とにかく歌えればそれでいいのでスタッフさんに『落陽』の話をしてみた。
「あー、それは夕食後にですね、宿泊してるみんなでミーティングを行ってるんですけど、その一環として全員で歌を歌うんですよ。もちろん『落陽』も。」
「それ僕も混ざれますか?」
「ミーティングは宿泊者のみです。泊まっていきます?会員ですか?」
忙しそうに言うだけ言ってどっか行ってしまった兄さん。
俺玄関にたたずむ。
……………え?
どういうこと?
完全に放置なんだけど?
いくら待ってても誰も来なくて、ずっと立ち尽くす。
なんだこれ?
なんか腹がたってきた。
「すみませーん!!」
「……………あ、はい。どうしました?」
「……………帰ります。」
ヒゲでバンダナの俺も元旅人なんだよー!!的なおじさんが、おー!!歌って歌ってー!!みたいになるのを想像していたのに、何だこれ?
ユースってこんなもんなのか?
マニュアルじみてて、会員以外は何の用ですか?みたいな身内感。
ミーティング?
林間学校かよ。
くそ。
………………くそ楽しそう!!!
でもそこに馴染む気になれずにすごすごと建物を後にした。
なんのためにクソ重いギターを持ってこんなとこまできたと思ってんだよ…………
まぁもういいや。
とにかくこれで礼文島でのミッション完了!!
あと30分でフェリーが出る!!!
急げ急げぇぇぇーーーー!!!
何とかギリギリでヒッチに成功し、猛ダッシュでターミナルを走りぬけタラップに飛び乗った。
よっしゃー…………絶対無理だと思ったけど諦めなければなんとかなるもんだ。
2100円のチケット代を船員さんに払って一息ついた。
さぁ、後の問題は稚内に停めてある車。
おそらくタカオさんはキーを発見できず、電話しても車の中で鳴ってるし!!っていう状況に困り果てたことだろう。
駐禁の可能性、大。
今15000円も罰金払ったらマジで終わる。
稚内の港に到着し、フェリーを降りて超ドキドキで車を止めている場所へ急ぐ。
た、頼む…………
黄色い輪っかだけは無しでお願いします…………
そして結果…………
車は………………
ある!!
よかったああああ…………
レッカーされてなかったし、駐禁も切られてなかった。
うおおおおおお!!!
マジ助かったああああああああ!!!!
サスに引っかけてたキーをとり、ドアを開け、すぐにタカオさんに電話した。
「何だよーーー!!!心配したんだぞーー!!まったくまいったよ。ケータイ助手席で鳴ってんだもんよー!」
タカオさん、すんませんでした…………
まぁとにかく助かったあああああ…………
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