2004年 8月23日 【富良野 大工見習い】
今日は待ちに待った大工さんのお手伝いバイト初日。
中田さんにもらった新品の作業着を着て8時に現場に到着した。
初日の作業は畑の中にあるプレハブ倉庫の組み立て作業だ。
久しぶりの現場仕事に汗をかきまくる。
山田親方、仕事速すぎ。
そして驚きなのはお客さんからの差し入れ。
10時休憩がメロン。
15時休憩がスイカ。
驚異的な贅沢さ…………
さすが北海道…………
無理してでも2人雇ってくれた山田親方の期待に応えるためにもフルパワーで頑張った。
仕事を終えてすぐに総島自動車にやってきた。
今日は新しい2代目ファントム号がやってくる日!!!
これからの日本一周、後半の旅をともにする相棒は……………
こいつ!!!!
うおおおおお!!!!
かっこいい!!!!!
初代ファントムと同じカッティングもバッチリキマってる!!!!
文句のつけようがない!!!
注文から引渡しまで8日とか、総島さん仕事が早いいいいいいい!!!!
「実家に任意保険の証書があるべや?それウチにファックスしてもらえ。あとは全部やっといてやる。まったく金にならねー仕事だ!!お金持ちさんだから困っちまうよ!!ガッハッハッハ!!!」
ドアを開けるとすでにシートが取っ払ってあり、初代よりも広い!!!
オーディオスピーカーも初代ファントムから取り外したのをカッコよく取り付けてくれている!!!
うおおおおおお!!!!
めっちゃ快適いいいいいいい!!!!
これからの旅が楽しみすぎる!!!!!
総島さんありがとうございます!!!!
ルンルンで2代目ファントムに乗り、すぐに中田さんとこへやってきた。
「おー!!かっこいいべやー!!よかったなー!!」
「ご飯たくさんあるから食べていってー。」
出てきたのは赤飯とピザ。
「新しい車と初仕事のお祝いだ。」
腹いっぱい食べて、色々持たせてもらい山部ハウスに戻ると玄関に籠が置いてある。
中を見てみるとトマトとトーキビが入ってる。
もう…………みんな優しすぎる……………
富良野に来てからいいもん食い過ぎ。
この前まで泣きながらカップラーメン食べてたのに。
ここまでくると太らせて食おうと思ってるんじゃあるまいかってくらい食べ物もらい過ぎだよ。
自分たちでは何も買ってないのに冷蔵庫の中が満杯になってる。
あー、車代稼ぐために仕事頑張らないとな。
オーディオ取り付け、シートの取り外し、オイル交換やらなんやらかんやらの工賃はめっちゃ安くしてくれて2万円。
車の値段が33万円。
それに初代ファントムの廃車費用が3万円なので、なんもかんも合わせて38万円だ。
これを返して、なおかつある程度貯めて、そして北海道を攻略していかないといけない。
なるべく節約しながら頑張らないとな。
山田親方との仕事は毎日が新鮮で楽しいものだった。
美瑛の農家さんで納屋の新築工事を始めたんだけど、すべてがめっちゃ勉強になる。
最近の大工は工場から運ばれてきたすでに加工の済んでいる柱を組み立てるだけのような味気ないものなのだそうだが、そこにきて山田親方は基礎の掘削から鉄筋、型枠、コンクリ打ち、そしてもちろん図面引きから建前、内装までほとんどを1人でやってしまう。
俺が今までいた建設現場では全てそれぞれの業者がいたというのに、山田親方はホントにオールマイティーな職人さんだ。
それにしても現場の立地がヤバすぎる。
美瑛は丘の町として有名だけど、そんなパッチワークの丘の中を毎日トコトコと現場に通う。
名所になっているマイルドセブンの丘、可愛らしいポプラ並木、ポツリポツリと散らばる赤い屋根の農家。
全てが絵葉書の世界だ。
真っ青な空に緑の松が背伸びし、穏やかな風が斜面を撫で上げる。
こんな童話のような風景の中で仕事できるなんてたまらなくうれしい。
甘えん坊のでっかい犬のベルガがめっちゃ可愛い。
こうして数日、山田親方と一緒に大工仕事をさせてもらっただけだけど、大工さんって実際に触れてみるとめちゃくちゃ奥が深い。
木を加工する際に、この木は元はどれくらいの大きさで、どういう反りで、どういった場所に生えてたのか、それに合わせて使い方が違ってくるという。
例えば、この木目の入り方を見ると斜面に斜めに生えてた木だから、いずれ乾燥して外側に反ってくるのでこの部分に使おう、といった具合。
すげー。
そこまで考えて木を選んでるんだなぁ。
昔、山田親方がまだ新米だった時についていた師匠は、とてもミスの少ない人だった。
ある現場で、その親方は1つのミスもせずに1軒の家を仕上げた。
しかし、最後の最後で天井裏の骨組みの加工を間違えた。
あぁ、パーフェクト逃したなぁ、と残念がる山田親方をヨソに、師匠はニコニコしながらやり直したという。
実はそのミスはわざとやったもの。
所詮は人間の造ったもの。
完璧には出来ませんのであとは神様に守っていただこうという、大工職人の最高の仕事の証だ。
大工ってのは宗教と密接な関係のある仕事なんだなぁ。
あとは絶対に人目につかない天井裏に、当時そこから見た風景を描いたり、名前を残したり、自分のカンナとかを家の下に埋めていたりと、解体する時にしかわからない未来の職人へのメッセージが残されていたりするんだそう。
粋な世界だなぁ。
仕事を終えて帰る農道。
夕焼けに燃える大雪山系。
海原のようにうねる丘の中を、ゴマ粒みたいなトラクターがゆっくりと動いている。
あれしたい、これしたいって、あくせく野望を抱いて生きていることが、ふと馬鹿らしくなってくる。
何もかも捨てて自然に溶け込んで流れるままに生きることって出来るんだろうか。
今日も中田さんから電話がかかってきて、お邪魔して晩ご飯をご馳走になっていると、美香から電話がかかってきた。
仕事がきついと泣きじゃくっている。
『頑張れ』という言葉に拒絶反応を示す美香。
俺は今までかなりハードな仕事を乗り越えてきたつもりだ。
だから仕事をしてきた人間として、頑張れよと言う。
頑張って頑張って、でももっと頑張ってる人もいるんだからその人よりも努力するつもりで頑張んなきゃ、って言う。
それじゃ副店長と一緒だよ、と泣く美香。
じゃあどうすればいいんだよ?
美香の親友の由ちゃんはこう言っていた。
「頑張れって言われても、もうすでに必死に頑張ってるんやから頑張れって言葉は必要じゃないとよ。フミちゃんが初めて仕事を始めた時の気持ちになって話してあげんと。」
んんん…………
新人に教育をする時、先輩は自分が乗り越えてきた経験を話す。
激しく叩き込む人、こんこんと言って聞かせる人、目で盗めの人。
みんなそれぞれやりかたがある。
でも自分が新人だったころのことを想像して、優しく優しく教えてあげるのってめっちゃ難しいっていうか、甘ったれんなってなってしまう。
俺が、血ヘド吐くまで働けっていう環境で育ってきたせいもあるんだろうけど。
環境の違う人間同士、心を通じ合わせることの難解さを初めて痛感した気がした。
「難しい!!わかんない!!それよりこれしよ!!」
隣で聞いていたヒロちゃんがプレステのぷよぷよを出してきた。
おいおい、この俺にぷよぷよで勝負?
かつて地元で連鎖の鬼と言われたこの俺に?
中学生のガキが大人にぷよぷよで勝てると思ってんのか?
よおおおおおおおおおおし!!!!
画面全部お邪魔ぷよで埋め尽くして泣かしてやるぜウヒョオオオオオオオオオオ!!!!!
キャアアアアアアアアアアアア!!!!
まだ積み上げ始めたばかりだというのに画面の上に死ぬほど星いいいいいいいいいいい!!!!!
ヒロちゃん、高橋名人並に超強ぇ。
中学生にパズルゲームで勝てるわけないですね…………
足の指でやっても勝率ゼロってくらい絶望的に惨敗していたんだけど、そのうちコツを覚え奇跡の1勝。
「うっひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!あれ!?!?アレェ!?!?弱いですね?あーぁ、せっかく手加減してあげてたのになぁ。まぁよく頑張ったほうだよ。よし!!!そろそろおいとましましょうかね。」
「ダメーー!!もう1回!!」
「あれ?それがものを頼む態度かな?」
「きーーー!!」
中田さんファミリーのおかげで毎日が本当に楽しい。
美香もこんな暖かい人たちばかりの富良野に連れてきてあげたいよ。
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