2004年 5月4日
「光ちゃんただいまー!!どう?ギター録り終わった?」
「あ…………あへへ………あ、あと………ちょっと………あとちょっとで…………死神さんこんにちは…………」
仕事と連日の徹夜レコーディングで廃人みたいな顔になってる光ちゃん。
1人ぼっち作戦が効いたのかだいぶ作業も進んでるようで、なんとか今日中には最後のパートも録り終え、ミックスダウンまで完了しそうだ。
家にいたら邪魔だろうからと、今日は栃木から遊びに来てるセンジ君とユウキと3人で、この前行けなかった浅草の残りを回ることにした。
手ぬぐい屋、のれん屋を覗き、芸人さん御用達のボロい立ち食いうどん屋に行き、それからかっぱ橋道具街へ。
厨房関係の道具でないものはないというこの通り。
センジ君のお目当てのヤスリ専門店を探して歩き、ようやくみつけたのはシャッターの下りた古いお店。
裏に回ると車庫みたいなとこで、おじさんがゴウゴウと燃える炎に向かっている。
「おー!何が欲しいのー!」
ものすごく狭い店内には無造作に並べられた無数のヤスリ。
ヤスリ専門店とか初めて来たわ。
「とぐさ目でタイコになってるやつが欲しいんですけど。」
「おう、三味線か?」
それだけで何に使うかわかる大将。
センジ君の細かい注文を聞き、すぐに裏で火にかけて叩いてくれる。
大将が使ってるこの木槌もまた、こだわりのものなんだろう。
職人が使う道具を作るのもまた職人。
1つでも欠ければたくさんの職人が仕事を失うんだ。
ヤスリをゲットしたら、歩いて上野のアメ横にやってきた。
うおおおお、これがあの有名なアメ横か。
ていうか人多すぎ!!!!
ごちゃごちゃしすぎ!!!
古着屋の隣が魚屋さんというなんでもありの通りがずっと向こうまで続いている。
戦後のバラック市場の名残りなんだろうな。
東京も渋谷とかがある西側と、こっちの東側ではだいぶ雰囲気が違う。
こっちのほうが地方都市の雰囲気がある。
「はい!!おまけおまけおまけオマケええええ!!!これ千円だよおお!!オマケおまけええええ!!!まだまだーー!!おまけおまけええええ!!!」
威勢のいいお兄さんがチョコレートを袋に詰め込みまくって売っている。
これでもかってくらい詰め込んで千円。
上野って面白い街だなぁ。
上野公園で似顔絵描きのおじさんたちを見て、まだ時間があるので最後に柴又にやってきた。
駅を出るといきなり寅さんの銅像が立っていた。
おおお、さすが男はつらいよの町。
寅さんが産湯をつかった帝釈天に向かう参道は土産物屋と草団子屋ばかりだけど、どことなく上品な感じだ。
銀閣寺の参道と少し似ている。
帝釈天題経寺は1629年に創られたお寺。
中に入ると横山大観の屏風が飾られてある。
椅子に座って庭園を眺めた。
風になびく、よく手入れの行き届いた木々、草花。
京都で無数の庭園を見て回ったけど、ここのほうがよほどよかった。
この風はどこから吹いてくるんだろうなぁ、なんて思っていると、ふと何かが分かりそうになる。
でもすぐにフワッと消えてしまう。
いつか何かわかる日が来るのかな。
帝釈天の見どころはなんといっても彫刻。
至る所に細かすぎる彫刻が施されているんだけど、特に法華経の説話を描いた彫刻が大きなヒノキの1枚板に彫られているやつはすごかった。
それが10枚も並んでいて、今にも動き出しそうな緻密さだった。
帰りにはもちろん寅さんの実家で草団子を食べる。
6玉360円。
クソ高い。
元住吉の部屋に戻ると、1人で卓に向かって頑張ってる光ちゃん。
相変わらずはまりこんでるようで、狂ったように同じ部分を弾いている。
そうして日付が変わった頃、ついに録音が完了!!!
残りのミックスを終え、マスタリング。
夜中の3時半、とうとう地獄のレコーディングから解き放たれた光ちゃん。
ほぼ死人の顔で布団に倒れて幽体離脱。
光ちゃんお疲れ!!!
さぁ!!ここからは俺だ!!
CD100枚、即効で焼くぞおおおおおおお!!!
それから数日。
MTRの調子が悪すぎてCD-R1枚焼くのに2時間くらいかかったり、中途半端にストップしてCD-Rが使い物にならなくなったり、MTRがフリーズ起こしてパニックなったり、
イラつきすぎて発狂しそうになりながらも連日徹夜で焼きまくった。
そして5日後。
カーテンの外が青白くなってきたころ、ついに6ヶ月に及ぶ戦いが終わった。
長かった…………
出来上がった6曲入りのアルバム『同窓会』。
今の2人の全てを詰め込んだ。
…………マジ疲れた。
これで先に進めるぞ。
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