2003年、4月30日。
そんなこんなで始まった大阪ミナミでのホストバイト。
車は港区の海遊館のあたりに路駐して、そこから地下鉄で宗右衛門町にあるお店に通うつもりだったんだけど、これでは時間がかかりすぎる。
電車代もかかるし。
というわけで大阪港の端っこの目立たないあたりに車をほったらかして、着替えとギターを持って店に向かった。
今日から寮に泊まろう。
まぁ寮といっても店の中のソファーなんだけど。
途中、ケータイを換えようとJ-PHONEショップで機種交換したらとうとう文無しになった。
マジで200円ぐらいしかないし、もうどうしようもない。
仕方ないのでお店から前借りで1000円もらった。
この1000円で飯を食い、風呂に入り、タバコを買わなきゃいけない。
マジつらい。
あー腹減った。
でも他のホストのみんなもそうだ。
俺が食ったカップラーメンの汁に集まってくるくらいみんな金がない。
でもお客さんのついてる上の人たちは、いいもん食べに行ってる。
そんな極貧のホスト生活だけど、とりあえず仕事は頑張らないといけない。
毎日毎日、道頓堀アーケードに立って通りかかる女の子に声をかけまくる。
最初はビビりまくってたけど、数日経つと電話番号くらいは普通に聞けるようになり、おかげでメモリもだいぶ増えてきて誰がどれだかまったくわかりゃせん。
キャッチしてると女の子のほうから声をかけてくることがあるんだけど、
「ジョー!!」
「えー…………あのー…………リエ?」
なんて具合で名前と顔が一致しない。
ホストって記憶力も大事だわ。
1週間くらいしたら初めてお店でヘルプにつかせてもらった。
ヘルプの役割は、
★お客さんの酒をつぐ。
★メイン(お客さんが指名したホスト)の人に酒をつぐ。
★タバコに火をつける。
★グラスの水滴を拭く。
★ひじをついたらいけない。
★足を組んではいけない。
★タバコを吸ってはいけない。などなど。
目の動きからグラスの位置までものすごく細かいところまで気を張りつめていなきゃいけなくてすごく疲れる。
っていうか20時から~朝8時まで12時間も働いて、1日5000円って笑えてくるよ…………
徐々にホストの仕事も分かってきて、キャッチで聞いた電話番号に電話をかけまくったり、メールを送りまくったりして、だいぶ女の子との繋がりもできてきた。
そしてこの日は初めての営業にGO!
営業とは、番号を聞いた女の人とお店の外で会うこと。
外で会い、プライベートの時間を私に使ってくれてる、と思わせ、楽しい時間を過ごすことによって店に来させるように仕向ける。
早く言えば、ホレさせて金を使わせるというものだ。
その際、食事代などは一切使わない。
自分が出して当たり前、という意識を植え付ける。
というのが先輩からの教え。
でも…………
はぁぁぁ…………フツーに俺が金出してしまった。
だって言いにくいもん…………
なけなしの前借り1000円が…………
帰る途中、28号線沿いにある遺跡で何かイベントをやっていたので寄ってみると、ナントカ祭りっていう特設ステージでゴールドハンマーってコンビが漫才やってた。
さすが大阪、おもしろい。
でもみんな笑ってない。
大阪は笑いに厳しいなぁ。
店に戻ると、マクドと弁当のゴミが撒き散らかされた薄暗い店内に、ゴロンゴロンとホストたちがみっともなく転がっている。
その中に混じって俺もソファーに寝転がった。
要領をつかんできたこともあって、ホストを始めて10日経ってついに初キャッチが成功した。
うおっしゃああ!!!!
見たかコノヤロウ!!!!
俺だって地元じゃだいぶ遊んでたんだ!!!
女の子の1人や2人ヨユーだぜ!!!!!
まぁ店に入れるまでに10日かかったけどね!!!!!
自慢げに女の子をお店に連れて行き、席に座ると、いらっしゃいませーと先輩が膝をついてオシボリを渡してくる。
今まで俺もずっとオシボリ渡す側だったけど、やっともらえるようになったぞ。
お店のシステムは初回1時間、ブランデー、焼酎飲み放題で1200円という信じられない安さ。
もちろんここから高いお酒を頼んでもらうのがホストの腕の見せ所。
キャッチで引っ掛けたのは18歳の風俗嬢だった。
家出中のこの子は、17歳で家を飛び出し、行くあてもなくミナミをブラついてて、ヤクザに拾われて風俗に入れられ、ピンはねで月最低限のお金しかもらえず、酒で体を壊し、やつれ、やっとの思いでそのヤクザのもとから逃げ出し、今は違うピンサロで働きながらサウナ暮らししてるという。
ひどすぎる…………
「もう家に帰りたい………家は豊中…………送ってってくれる人を探してるんや。」
「俺が送ってってやる。絶対家に帰らないかんぞ!!俺に任せろ。」
「そんでな、私と親の間に入って、話してもらいたい。」
「おう、俺がうまいこと話つけてやる。だから日曜まで待ってくれ。今はまだ行けない。忙しいからなぁ。」
トラブル大歓迎だ。
これは俺に対する試練だ。
心斎橋節のアーケードのアイドル、ニラちゃん。
めっちゃかわいい。
絶え間ない、なだれのような人の流れの中をいつもテクテク歩いてる。
夜が更けると、アーケードの真ん中で寝っ転がり、つぶらな瞳でミナミの夜の喜怒哀楽を見つめてる。
こちらは心斎橋節のアーケードの浮浪者たちの世話役、双眼鏡おじさん。
タイガースのキャップにシャツ、首から双眼鏡を下げ、軽快に杖でリズムをとりながら通行人に話しかける。
「おっ!ねえちゃん!!おっぱい見せて!!」
「にいちゃん!男前やなぁ!!」
しわくちゃの笑顔。
真っ白く長いひげ。
人々はそんなおじちゃんを笑いながら通り過ぎて行く。
それを遠くから見る俺。
この爺ちゃんにも、若く、情熱にみなぎっていた青春があったんだよなぁ。
どんな世界を見てきたんだろう。
「おい!ここで寝ちゃいかんぞ!!あっちのくぼみに行け!!ここはトラック入るからな!!」
コンビニの捨て弁当を他の浮浪者に配り、無い秩序を守っている。
一度、生キャ(キャッチで即店に入れること)が成功すると面白いようにキャッチが成功するようになってきた。
俺が順調にお客さんを連れて帰ってくるのを見て、売れっ子の先輩たちも俺に目をかけてくれるようになり、自分たちの席のヘルプによく呼んでくれるようになった。
ヘルプはとにかく酒を飲むのが仕事。
そして酒を注ぐときも、お客さんをつぶさないように女の子のグラスにはさりげなく少なく注ぎ、従業員たちのグラスにはめいっぱい注いで売り上げを伸ばすってわけだ。
「ちょっと失礼します!!」
優雅に席を立ち、優雅にトイレに入り、オェー!!ウボー!!と吐きまくり、髪をセットしなおし、また笑顔で優雅に席に戻り、
「イェー!!さぁいってみよー!!」
とハイテンションで酒を飲む先輩。
…………いやぁ、プロだ。
「店のビール全部持ってきてー!!」
ウチの売れっ子ホストHさんの上客アンさんが叫ぶと、120~130本の中ビンがテーブルに並べられ、一気飲みゲーム開始。
ホストたちが1人、また1人とつぶれていき、残りのビールはぶちまけあい。
全員ビールまみれになり、店の中はビールの池。
フラフラになりながら後片付けをしたらすでに朝10時。
ぶっ倒れて寝たいところだけど、そのまま営業だ。
370円のミナミの銭湯「桃の湯」に入り、身だしなみを整えたら女の子と待ち合わせてして笑顔を作る。
いやぁ、ホストって結構過酷な仕事だわ。
リアルタイムの双子との日常はこちらから