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女の子を傷つけずにホストってできるのか







リアルタイムの双子との日常はこちらから







朝まで店でお客さんと飲みまくって、お店が終わったら外で営業、営業、また営業。



完全に寝不足になってるけど、これも仕事だと割り切って頑張る毎日。


いや、まぁ女の子と遊ぶのはそりゃ楽しいけども。






今日明日はお店が休みなのでギッチギチに営業のスケジュールをつめこんでいる。



まずは、家出風俗嬢と13時までミナミで遊び、その後天王寺駅にダッシュ。


昨夜キャッチした専門学生とBASE吉本ってとこへ。


250人キャパのハコで、若手たちの漫才を見る。



「きゃー!!かっこいい~~~!!!」



中・高生くらいの女の子たち騒ぎまくってる中、何組もの漫才師が出てくる。


やはり本場、めっちゃおもしろい。

千鳥っていうのとかチュートリアルとかってのが出てた。





BASE吉本のすぐ横にあるタコヤキ屋がすごく美味くて感動しつつ、次は大阪港の海遊館へ。


世界一でかい観覧車があるって聞いたら、そりゃ行くしかねぇ。


観覧車から大阪の街を見下ろし、さんざん女の子を楽しませて最終電車で家に帰す。



うーーねむすぎる。


昨日の昼から一睡もしてない。


軽くクマもできてしまってる。













翌日も昼からミナミで、短大生兼風俗嬢の結構カワイイ子と営業。


ゲーセン行ったり、最近できたラーメン屋「かむくら」なんかに行く。


結構太い客なので、頑張って喋って楽しませていると、いきなり公衆電話から着信が入った。


誰だ?



「はい、もしもし。」



「あの、ジョー?あたし、サキだけど…………」



昨日の専門学生からだ。



「どしたの?」



「いや、ちょっと…………家出してきた。どーしていいかわからへんねん。」



泣きながらそう言うペニシリン好きの彼女。



「ちょっと待ってろ!!えーー…………ひっかけのマクドの前にいろ!今忙しいから、30分後に行くからな!!ヘタに動くなよ!!」



「うん…………ぐすっ…………わかった。」



ラーメンを一緒に食べてた風俗嬢に話をする。



「悪い!マジ悪い!!ちょっとどうしても行かなきゃいけない用事ができて…………今から行かんといかんわ。ほんとごめん!!」



えー!!と不機嫌になった風俗嬢をなだめながら駅まで送り、急いでマクドへダッシュ!!


ひっかけ橋からマクドが見え、看板の下に昨日と同じ服を着たサキを発見。




「うううう…………あたしどうしよう…………」



「絶対帰らんといかん!今、お前の親めっちゃ心配してるぞ!絶対帰らんといかん!!家どこや?今から送ってってやるから教えろ!!ほら!立って!!」



「えええ…………いや……いや…………帰れないよ…………出るって言って出てきたんやもん…………帰れんよ。」



「俺も一緒に親に話してやるから!!な、行くぞ!!」



無理矢理手をつかんで立たせ、御堂筋に路駐してあるファントムに乗せた。


もうすでに23時。


夜の大都会で、隣に泣き続ける女を乗せ走る。


BGMもなく、すすり泣く声だけが耳に入ってくる。




「…………これ見て。」



そでをまくりあげたサキの体には青黒いアザ。



「私、今のお父さん3人目で…………ヒック…………いつも暴力振るわれてて……この前はお風呂につっこまれて…………ヒック…………死にそうになったのー!!だから今帰ったら、あたし殺されるー!!」



「まじかよ…………でも学校……」



「さっき家出る前、目の前でお母さんが学校に電話してた…………もう行きませんからって…………もう私行くとこないよー…………どうしよう…………」




車を脇に寄せ、考えた。


帰していいものか…………


暴力を振るう親の元にまた送り返すのが優しさか。


猛スピードですぐ横を走りすぎていく車たちで、ファントムが揺れる。


どうするべきなんだ…………


















ゆうべはあれからサキを車に残して真夜中営業に行った。


風俗嬢ヨウコが、新しくできたラブホ「ローズリップ」に行きたいと言って、一緒にホテルへ。


でもホストは客とHしてはいけない。


じらして、じらして、体を切り札として取っておく。



「簡単に枕してホストとしての価値を下げるなよ!!」



店長の言葉だ。








朝、車に戻ると、泣きつかれたのか助手席でぐったりと眠っているサキ。


起こさないように後ろのスライドドアを開ける。



中に入り、ドアを閉めると、ビクッと体が動き、サキがこっちを振り返った。



「おかえりー!!」



嬉しそうに後ろに来て抱きついてきた。


今のこいつには俺しかいないんだな。








昼まで眠り、金のないサキに俺のなけなしの金でご飯を食べさせてあげた。



「とりあえず住むところがほしい…………」



知人も誰もいないサキには、本当に今俺しかいなくて、住むところさえない。



「夜働いてみる?すぐに働けるし、寮だってあるところもあるし。」



「うん、住むところさえあればなんだってする。」



夜専門の求人雑誌を買い、一緒に良さそうなところを探した。


ウキウキとページをめくるサキの隣で、俺はやっぱり浮かない顔。

こんなもん働かせていいのか。



「一般人つかまえてキャバクラに入れる!!!キャバクラよりも風俗に落とす!!!そんで金を使わせる!!!分かったかお前らぁぁぁ!!」



これも店長の言葉。

さすがにそこまではできんよ…………




港に車を停め、ミナミに戻り、俺は仕事へ、サキはキャバクラの面接に向かった。

どうすりゃいいんだろな。







この日はこの前キャッチで捕まえた女の子が店にやってきた。

4万ほど使ってくれたものの、末収。

末収とはいわゆるツケ。

ホスト遊びではよくあることだ。


住所と名前と連絡先を書いてもらったが、大丈夫かな。

























毎日毎日、路上に立つ。


こんだけ毎日外に立ってると、街の人たちの顔もたいがい覚えてくる。


知り合いもたくさんできた。


毎晩毎晩仕事が終わると、ホストたちのキャッチ場所に遊びに来て、店には入らないけどじゃれあいながら朝を待つ風俗嬢たち。


おばさんになってしまったことに気づかずに、きわどい格好とケバい化粧で誰かを待つ女の人。


ダンボールを集めて小銭をもらい、他のルンペンたちにコンビニの捨て弁当を配るキタローおじさん。
 











ある時はチンピラに絡まれたりもした。


こんだけ毎日繁華街にいるんだから、そりゃイキがったおっさんや酔っ払いに絡まれることもあるわな。



ニッカポッカを履いたドカタのオッサン2人が、後輩Kの友達の女の子たちに絡んでいるのを見て、Kが止めに走った。


それを遠くから見ていると、オッサンたちがKに向かって叫びだした。



「なんやねん!!おら!コラ!ワシャなんもしとらんやろーが!!」



アーケードに響き渡る怒鳴り声。

あーあー、面倒なことになってきた。


他の後輩たちに「ここにいろよ。」と言い、Kの元へ。



「あっ!!すんません、ほんと迷惑かけましてー。」



「なんやお前!!関係あらへんやろが!!」



おびえる女の子たち。

めんどくせーと思いつつなだめるも、ヤカラたちの熱は収まらない。



「おう!お前土下座しろや!土下座!!それが筋ってもんやろが!!」



Kを囲んでさんざん叫んでるチンピラたち。


Kも相当ムカついてて拳を握っている。


でも俺たちホストは仕事中。

暴れて問題起こして、店に迷惑かけるわけにはいかない。



その時、Kがゆっくりと腰を落とし、ひざをついて頭を下げようとした。



「何してんの。立てよ。」



Kの腕をつかんで無理矢理立たせると、今度は俺に矛先が向いた。



「何しとんのや!こら!!何止めとんじゃー!!」



「いくらなんでも男に土下座はないでしょー。」



こんな酔っ払いチンピラの扱いは、路上生活で慣れに慣れている。

最終的にうまいことなだめてオッサンたちも機嫌が良くなった。



「おう!!気をつけろよ!!今度ミナミで見かけたら声かけろや!!」



誰が声かけるか。





また別の日には、どう見ても怖い黒塗りのベンツがアーケードの中に我が物顔で入ってきて、モーゼの十戒みたいに人が割れていくんだけど、それに気づかずにどこかの店のホストが道の真ん中を歩いていた。


するとベンツの中から極悪人でござい、みたいな顔をした男が降りてきて前を歩いてたホストを引きずり倒して顔に思いっきり蹴りを入れ、うずくまってるホストを無視して走り去った。


辺り騒然。

でもそんなの日常茶飯事だった。















ホスト生活にもすっかり慣れたころ、この日も生キャで1人の女の子をお店に連れて行った。


今まではほとんどが風俗嬢とかの夜の女の子だったけど、その子は看護婦さんだった。



「ホストらしくなかね。」



熊本出身のトモコは、俺が無理矢理高い酒を飲ませようとせずに予算に合わせてあげることに驚いていた。


だいたいホストってのは女の子がその日お金を持ってなくても、売り掛けでいいからと強引にシャンパンなんかを入れさせて後からとんでもない金額を払わせたりするのが常套手段。


そんなのどう考えても女の子がキツすぎる。




そのおかげもあってか、トモコはそれから毎日のようにお店に通ってくれるようになった。









店長はいつも言っている。



「惚れさせて当たり前。お店で金使わせてナンボだからな!!!営業行って遊んでバイバイじゃ話にもならんのやからな!!!」



惚れさせるには1番簡単なのはイロを使うこと。


◯◯ちゃんに会いたいわ~とか言って、相手をその気にさせ、私この人と付き合ってるんだって錯覚をさせる。


そこまできたらこっちのもんだと。




そんなこと言われてもなぁ。


嘘をつかなくてもいい仕事をしたいよ。


とは口で言っても、俺だって女の子たちに期待させるようなこと言っているんだから同罪だよな。
















5月も後半になってくると、店のホストたちが急に仕事熱心になってくる。


普段はヨユーを見せてる先輩たちも、月末が近づくとケータイをポチポチといじって女の子たちへメールを送ったり、飲みに来いよと営業電話に精を出している。


そう、ホストクラブにはランキングってのがあって、1ヶ月の売り上げで順位づけをされる。


だからみんな月末になると熾烈なランキング争いを繰り広げるってわけだ。



1位、2位、3位あたりはもう売れっ子の先輩たちがずっと独占しており、下っ端が食い込むことはまず不可能な売り上げ金額。


でも4位から下は結構どっこいどっこいだ。



俺は現時点で7~8位あたりにいる。


お店のホストの数は16人。


俺よりずっと先輩なのに売り上げゼロって人も何人かいる。


旅の途中だし、どうせ1ヶ月しかいないから別に金さえ稼げればそれでいいんだが、せっかくなら上位を目指したいのが男ってもん。


というわけで俺も営業に励んでいた。











その日もトモコと外で会っていた。


ここ最近すごく頻繁に店に来てくれてるトモコ。



彼女の住むアパートに行き、ご飯を作ってもらう。


悪いなぁと思いつつも、これも仕事だと「彼女いないよ。」と言い続けている。




そんな時、美香からメールが入った。


メールを見て血の気が引いた。




「文武さようなら」




え!!なんだ!!


すぐに部屋の外に出て電話をかけた。




「…………うっ…………ううう…………ばっ、ばかふみたけー!!!」



「おい!!どうした!!大丈夫か?!おいっ!!」



あぶら汗が噴き出す。


10分くらい外で何とか美香を落ち着かせようと言葉をかける。



…………なんてこった。


美香は今、就職活動に卒論、そして俺の仕事と、俺の連日の営業。


美香から電話が掛かってくるとき、俺は仕事中か営業中で、ろくに電話に出てない。


店が終わる頃には疲れてかけ直すこともなかった。


こんなに追い詰められていたなんて…………



「バイバイ。」



電話が切れた。


やばい!!


かけなおしても出ない!!!





何度も何度もかけていると、やっとつながった。



「…………だっ大丈夫…………もう落ち着いたから。うぇっ…………うっ…………ふーっつらかったぁー。」



「ごめん美香、もう少し、あと少しでこの仕事も終わるから。そしたら俺、茨城まで飛んでいくから。なっ、もう少し待ってて。」



「ううん、そんなこと望んでない。私は私、文武は文武やからね。わざわざそんなことせんで。」





…………ホストが終わったらすぐに茨城に行こう。


すぐそばでもう一度2人のことを見つめ直さなきゃ。





部屋に戻ると笑顔のトモコ。


俺何してんだ…………



「ちょっとセンパイに会わんといかん。ゴメン、いろいろあって。今ちょっと2人ではおられんわ。」



「…………あぁそーなん。うん、わかったわかった。大丈夫だよ。」



きっと気づいてんだろうな、俺に彼女がいること…………


先輩ホストのみんなはこんなことどうってことないって言うんだろうけど、やっぱこの仕事キツいわ…………






頭の中が考え事でグルグル回りながら、大正から難波までトボトボ歩いた。







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