こんにちは、神田です。
健康第一。
これ、ほんと。
それを実感している日々です。
おわり。
過去最強、
今までに体験したことのない暴風雨、
台風10号のそんな前評判に九州中が恐怖のドン底にいました。
スーパーからはインスタント食品が消え、ガソリンスタンドは行列、ホームセンターには見たこともないくらいの量の車が止まっていて、みんな養生テープや木の板を買い漁っている。
何も持たなかった頃は、へー!台風ワクワクするね!!海に遊びに行って波しぶきかぶって、台風の後は浜辺に面白い物落ちてないか見に行くぞ!!なんて楽観的に思えていたけど今は違います。
建物を2個持つ身としては、瓦が飛ばないか、雨漏りしないか、物が飛んできて外壁が破壊されないか、そのことばかりが頭を巡り、いてもたっていられない。
不安で不安でたまらない中、台風は勢力を保ったまま北上。
しだいに強まっていく風。
降り出した雨。
こんなにも台風に対して何日も前から構え、準備し、不安に襲われ続けたのは初めてのこと。
どうか、どうか、建物が壊れないでくれ。
台風が最接近する日曜日の夜。
閉め切った雨戸のおかげで家の中は真っ暗。
電気をつけて晩ご飯を食べる。
ゴオオオオオーーーー!!!!!
ビュオオオオオオオオオオ!!!!!
ガタガタガタガタガタ!!!!!!
風が強く吹くたびに冷や汗が出る。
2階は砂が落ちてくるので、1階の畳の部屋に座布団を並べて寝床を作っている。
家が揺れる。
すぐ真横にある耳川は増水して岸壁の高さを超え、いつもの駐車場スペースはすでに川の一部になっている。
避難して、と病院のカンちゃんからメールが入る。
でも建物に何かダメージがあった時のためにここにいたい。
家が揺れる。
その時、パッと家の中が真っ暗になった。
ああ、早いな。
まだ21時だというのに停電。
台風は明日の朝まで吹き荒れるっていうのに。
真っ暗の中、ケータイの明かりをつけてカンちゃんにメールを送る。
カンちゃん、頑張って。
お腹つらいよね。
もうお腹ははち切れそうなくらい膨れ上がっている。
いつ陣痛が来てもおかしくないって状況になってすでに1週間くらい経ってる。
もし今陣痛が来たら、何がなんでも病院まで行く。
延岡の県病院まで1時間かかるけど、過去最強の台風だろうが知ったこっちゃない。
カンちゃん頑張って。
翌朝。
ほとんど眠れないまま座布団から体を起こした。
そして恐る恐る雨戸を開けると、カッと外の光が暗闇に差し込んだ。
空は晴れ渡っていた。
朝6時の太陽が水平線の上で光り輝いていた。
ワラワラと外に出てくる人たち。
大したことなかったなぁー!!って笑う声があちこちから聞こえる。
まだ風は強く、バランスを崩されるくらい突風も吹いてくる。
道は枝葉が散乱し、電線に枝が引っかかってる。
太陽に輝く海が荒れ狂いながら波濤をあげている。
ああ、車や雨戸に水かけなきゃな。
よかったあああああ…………
台風10号、そんなに激しくなかった。
これなら過去に何度も経験したくらいの激しさだったよ。
kokageに行くと、ユージさんが笑顔で迎えてくれた。
大したことなかったですね!
その言葉にホッと胸をなでおろす。
太陽の光がたまらなく安堵に包んでくれた。
翌日、息つく暇もなく病院にやってきた。
「金丸さーん、行きますか!」
「はいー!結構緊張する!」
「カンちゃん頑張って!!もうサクサクっといってポロンと出てきて廊下シュー!ってなってアダムスファミリーであっという間だから!!」
「うん!!頑張る!!!」
手を握って手術室へ向かう。
お腹はもう限界を超えてる。
赤黒くなって、無数の線が入り、かなり毒々しい。
これ以上お腹にいたらカンちゃんがもたないという判断で帝王切開に決定。
39週と1日。
どれだけグリグリをしても双子たちは一向に出てこなかったなぁ。
2人ともカンちゃんのお腹がよほど居心地が良いのか、立てこもりを決めてのんびりしてる。
双子って1人の出産より2週間くらい早く出すのが普通なんだそう。
40週までいったらレジェンドって呼ばれるとのこと。
このままだったらレジェンドになれそうだけど、母体を考えたら早くカンちゃんに楽になってもらいたい。
それに俺たちの双子は胎盤を共有してる、ちょっとリスクの高い双子。
無理に陣痛促進剤も投与できない。
胎盤を共有してる、つまり血を共有してるということ。
引き裂くことのできない、完全なる分身だ。
自分の足で手術室に入っていったカンちゃん。
待機室で待つ俺。
ずっとカンちゃんのそばにいたいし、赤ちゃんの第一声も聞きたいけど、コロナのせいで立ち合いは無理。
どうかカンちゃんが少しでも苦しまずにすみますように。
意外にも時間はそんなに長くは感じなかった。
突如、遠くのほうで何かの叫び声みたいな声が聞こえた。
あー、なんか変な人が大声出してんのかなぁ。
ん…………?
え…………
こ、これ?
これなの!?
嘘!!!
急いで外に飛び出してエレベーターホールに行くと、看護婦さんが何か大きな透明の入れ物を押している。
怖いけど、なんかもうわからんくらい怖いけど、足を止めることなくその透明の入れ物の前に立って中を覗き込んだ。
そこにはけたたましく鳴き声を上げる赤い小さな生き物が2つ。
手足を動かし、全身を使って力の限りに声を上げている。
今までたくさん感動して、たくさん不思議な感情を抱いて、なんとかそれを文章にしてきたけど、この時の感情は本当に今まで感じたことのない初めての種類のものだった。
表す言葉がない。
こんな感情、まだ人生に存在したのかよ。
まだこんなのあるの?
なんかもう色んなことが、俺の人生が、学生時代やら世界をさまよってたころや、失敗やら達成やら、カンちゃんの人生やら、カンちゃんの失敗やら達成やら、2人の喧嘩とか、一緒にいるときに感じる穏やかな気持ちとか、つい40分前までお腹の中にいたことやら、
そんなことが全部フラッシュバックして、その一瞬の膨大なフィルムが全て詰め込まれた生き物がここに2つ。
俺たちの何テラバイトという人生の思い出が全部凝縮されたやつが目の前で動いてる。
指がある、目がある、鼻がある、歯はないけど舌はある、髪の毛もフサフサしてる、全部がとんでもなく小さい。
人間はこんな複雑な機能を持ち合わせた生物なのに、産まれた時からちゃんとそれらを備えてる。
驚くよな、ずっと暗いお腹の中で暖かい羊水につかってのんびり過ごしてたのに、いきなり外の世界に引っ張り出されて肺に空気入ってきて謎の呼吸をしなきゃいけなくなって、なに!?!?なにこれ!?!?どうすればいいの!?!?ってそりゃ驚くよな。
ずっと見ていたかったけど、対面は30秒くらいですぐに運ばれていった赤ちゃんたち。
それからさらに40分~50分くらい。
ずっとエレベーターホールに立って手術室のドアが開くのを待つ。
なかなかカンちゃんが出てこない。
今頃きっとお腹の縫合をしているはず。
帝王切開の動画を見たけど、赤ちゃんがいるところまで行こうと思ったら、皮膚、それからなんかの膜、さらになんかの膜、またさらになんかの膜、って感じで7回くらい切開していた。
それを全部縫い合わせるんだとしたらそりゃ結構時間かかるよな。
お腹を切られるなんて想像もしたくないくらい恐ろしい。
でもカンちゃんはそんな素振り全然見せなかった。
受け入れるしかないことだから、それに対して抵抗していなかった。
本当、カンちゃんは肝が座ってる。
何事にも動じず、なんとかなるでしょってケロッと笑う。
そんなカンちゃんにいつも励まされてきたよなぁ。
ようやくドアが開いた。
寝台に乗せられて出てきたカンちゃんに駆け寄ると、さっきの赤ちゃんと同じように顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていた。
あまりの泣きかたに、一瞬何か大変なことがあったんじゃないかって不安になるほど。
でもそういうことではなかった。
「私の……産まれたときと…………そっくりだった……ウエエエエエエエん!!」
その言葉がとても重かった。
とてもとても感動的だった。
命は繰り返す。
紛れもなく、俺とカンちゃんがミックスして生まれた人間だ。
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