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ホームレス、家を買う

こんにちは!神田です。



今、私がこれをしてる間、フミくんはお昼ご飯に焼きそばを作ってくれています。

「皮むき器がないいいいい!!!!!!!!!!」て叫んでます。


テレビではお昼の主婦向けワイドショーみたいなのがやってます。

昨日の夜は、ご先祖様を迎え入れるための松明を玄関前で燃やしました。



今日も美々津は平和です。



おわり






セミが鳴く真夏の炎天下。



汗を流しながら延岡市の法務局にやってきたチンパン2人。




別に犯罪を犯してるわけでもなんでもないのにめっちゃキョドりながら登記変更手続きの申請書類を何食わぬ顔でそっと提出。





「あああん?おいコラお前この公課証明の平米数が現況と合ってねぇじゃねぇかこの野郎、役所なめてんのか?殺すぞこの猿?惑星に帰れや?こんなもんが通ると思ってんのか?ナメクジ食わすぞ?」



みたいなオーラをほとばしらせながら申請書類をチェックしている七三分けメガネのおじさん。



す、すんません…………ナメクジ食べたことあります…………











しかしその七三分けメガネのおじさん。


書類をパラパラとめくり、ここの部分に割り印をして、ここに家屋の情報をキチンと書き足してくださいねーとチェックはしてくれるけど、問題の部分については何も言わない。


そして何も言わないまま書類を返してくれた。


注意された部分を訂正し、割り印を捺し、2万円以上分の印紙を貼り付け、大量の書類を受け付けに提出。


奥から出てきたやり手職員みたいな人が再度書類をチェックしていく。





ペラリ、ペラリ、と書類をめくる職員さんが、パスポートをめくるイギリスのイミグレーション職員にしか見えない。



鬼のような厳しさで情け容赦なく入国拒否かましてきそうなオーラ。




恐ろしくてオシッコ漏れそうっていうか漏れてる。




一瞬にして書類を引き破られたらどうしよう…………













が、その職員さん。


トントン、と書類を揃え、ではまた結果は後日お知らせいたしますーと言った。






え?何も言われんかった?





お前ものすごい勢いで不法就労して不法滞在するつもりだろう、日本に帰るフライトチケット見せろや?とか全然言われなかった。


所持金いくらあるんだ?どこのホテルに滞在するんだ?そのホテルの予約はすでに取ってるのか?的な追いつめる質問も一切なし。



当たり前ですね。ここ法務局ですから。




い、いや、もちろんこれはただ書類を受け付けてもらえただけの話で、ここから厳正に審査されてそこから受理されるかどうかが決まるはず。


その中で不備が見つかったらヨユーでウンコかけて燃やされて終わりのはず。


そして泣きながら土地家屋調査士の先生に測量してもらって再度申請という形になる。



そうなったらまた1週間くらいかかるし、めっちゃ大金かかるし、ていうかその大金は不動産屋さんのコニーが間に入ってくれて家主の岩本さんに相談してくれて岩本さんが負担してくださるって話にはなってるけど、そうなったらなんかめっちゃ気まずいし、うわああああああああ!!!!!面倒くさい!!!!



できるならばこの申請が通ってほしい!!!!


でも厳しい法務局に通用するかはマジで全然わからない!!!!



もしかしたらそこまで厳密なものではなくてすんなり通るかもしれんけど、少し前まで橋の下で寝てて立ちションしようとしたら大蛇の巣があってもうすこしで丸呑みにされていたかもしれんような生活をしていたホモサピエンスには全然想像がつかない!!!









とにかく………………






書類は向こうの手に渡ったので後は神に祈るのみ。



うわあああああああ…………



ていうかよく考えたら、この書類が通って登記変更が完了した時点で僕家主です。ヤヌシ。


ヤヌシですよ。タニシみたいな生活してたのに。




一国一城のアルジ?


夢の一戸建てマイホーム?



そんな日が来ることを、ヨルダンで20キロくらい歩いた後に公園で雨でずぶ濡れになりながらテント立ててアザーン聴いてた時に想像できましたか?


うわぁ…………

キツかったよなぁ…………あのへん…………





一国一城のアルジ。


そうなったらまた色んな責任がつきまとってくる。



火災保険、地震保険、水害の保険、入院保険や生命保険、


コッキンでお金を借りてるのでそれに対する保険も考えないといけない。



小さい町ではあるけど、引越しをして地区が変わるので町内や班の方々に挨拶にもいかないといけない。


一応すでに近隣には粗品を持って挨拶回りはしてるけど、今後もっとキチンとやらないといけないはず。





ふうううう…………


これまでの人生経験が試されるなぁ。



誠意を持って人と接し、愛を持って土地に生きる。



これまでの積み上げてきた過去の思い出。

その全てが今の俺を作っている。


きっと俺はちゃんとやれるはず。



旅をして、知らない場所に突っ込んでいって、色んな人たちの中で揉まれてきた自負はある。


頑張って胸張ってやっていかないと。




















そして2日後。




延岡の法務局にやってきた。




緊張しながら、深い深呼吸をして建物のドアをくぐる。




3階の法務局の事務所に行き、受付のかたに申請番号を伝えた。



はじかれるか、どうか。



俺1人、ドキドキしながら椅子に座る。


今日はカンちゃんは自動車学校に行っている。









田舎の宮崎では自動車がないとなにもできない。


カンちゃんはまだ免許を持ってないので、取りに行くならお店がオープンする前の今のタイミングしかない。



本当は俺がいつまでも運転してあげたい。


取らなくてもいいよって何度も言った。


今のところ、不都合はない。




カンちゃんが免許証を取ったら、カンちゃんだけでお買い物に行ったりするようなことが増えるはず。


ということは離れる時間が増えるってことだ。





俺が運転して、カンちゃんをどこにでも連れてってあげたい。


ヨーロッパの時みたいに、日本を旅した時みたいに、俺がカンちゃんを遠くに連れていきたい。




でもカンちゃんは前からずっとそうだけど、男についていく女、って言われるのが結構嫌い。


俺と旅してる時、偉いねー、彼氏さんについて行ってー、ってよく言われていた。



そうじゃないんだよな。



俺たち、お互いの意思で旅をしてるんだから、どっちかがどっちかの旅についていってるんじゃないんだよな。



これからも、無理やりどっちかに引っ張られて生きていくんじゃなくて、ちゃんとお互いの意思で進むべき道を決めて歩いていこう。



















「金丸さんー、こちらが書類になりますー。大事な書類ですので大事に保管してくださいー。」





何気ない顔して書類を受け取り法務局の建物を出た瞬間、アメリカの国境を越えたあの時並みのガッツポーズ。



正式に登記が完了した。




ホームレス、家を買う、だ。







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