2016年4月25日(月曜日)
【インド】 カニャクマリ
インドの長距離移動。
飛行機と電車しか使ったことなかったけど、まさかのバスのクオリティーが半端なかった。
ただのセミダブルベッド。
しかもカーテンがついちょる。
なんなの?イチャついてくださいって言ってるの?
これで電車と値段だいたい同じ。
カンちゃんと一緒にくっついて眠れるので快適なことこの上ない。
今まであの地獄の青いボロ電車で、チャイ売りの雄叫びを聞きながらオッさんたちと密着していたのがアホみたいだ。
インドの移動はバスで決まりだ。
というわけでぐっすり眠ってて、目が覚めたら目的地のカニャクマリを通りすぎて見知らぬ町まで来てました。
なんなの…………なんで添乗員さん起こしてくれないの…………目的地チェックしてるやん…………
バスを降りて2人でぼんやり立ち尽くす。
「ゆうべはバスターミナル間違うわ、乗り過ごして知らんとこ来るわ、本当旅って楽しいねー。」
「ねー。ここどこだろねー。」
「とりあえずチャイでも飲む?」
「暑いからヤダ…………」
とにかく途方に暮れてても仕方ないのでここからカニャクマリに向かわないと。
オッちゃんたちに聞いたらどうやらここはナガルコイルという町らしく、電車でカニャクマリまで行けそうだ。
オートリキシャーに乗って駅に向かった。
人の少ない小さな駅で電車を待ち続けること3時間ほど。
ようやくやってきた電車は人もほとんど乗っておらず、ガランとした車内は寂しげだった。
窓から熱風が吹き込み、静かに揺られることわずかに20分くらいだったか。
電車はゆっくりとプラットホームに入って止まった。
駅は広い空の下にポツンと置き去りにされたように佇んでいた。
周りには何もなく、最果ての実感が湧く。
灼熱の太陽が降り注ぐ道を歩いて行くと、ふと風が吹いた。
それが潮風の匂いがして、故郷の風景が頭をよぎった。
海が近くにある。
予約していた宿は駅のほんのすぐ近くにあった。
ガネーシュロッジという宿。
1泊なんとツインで550円。1人270円という信じられない安さ。
やっぱりインドの宿は安いなぁ。
驚いたのは宿の人たちの対応だった。
このカニャクマリは観光地だろうし、安い宿なのでみんな観光客ズレした横柄な態度をするんじゃないかと思っていたけど、宿のおじさんたちはみんなめちゃくちゃ優しかった。
笑顔がスーパー素敵で、移動で疲れていたのでとても安心することができた。
この宿にしてよかったな。
汗でドロドロになっていたので、一目散に水シャワーを浴びると茹でられた頭からジューっていう音がしそうだった。
カニャクマリはインドの最南端だ。
ヒンドゥー教の聖地と言われているらしく、インド全土から観光客が訪れる一大名所。
なので外国人観光客も多いはず。
ということはそんな外国人相手のレストランもたくさんあるだろうと、久しぶりのウェスタンフードにありつくつもりで町を歩いた。
がしかし、予想は大きく外れて、町にあるレストランは純度100パーセントのインド人用のものばかり。
オシャレな南国風カフェでピニャカラーダ、なんて微塵もない。
どストレートのカレー屋オンリー。
は?ピニャカラーダ?なにそれマサラ入ってるの?っていう感じだ。
1軒だけ、ウェスタンかインド風かで言ったらギリインド風のハンバーガー屋さんがあったのでそこでチキンバーガーを食べた。
チキンどこですか?って食べ終わるまで分からなかった。
でも、そんなウェスタナイズされていないことが嬉しくもあった。
小さな田舎道、坂の向こうに水平線が見えた時はため息が出た。
このカオスなインドの中で海の爽快さはまるで別の星だ。
いつか子供の頃に親に連れて行ってもらった寂れた観光地のような、そんなおぼろげな風景。
とても静かな風が吹いていた。
海の方に歩いて行くと、そこにはたくさんのお土産物屋さんが並んでいた。
どれも外国人向けではなく、完全にインド人向けの昔ながらの古き良き土産物屋さんって感じで嬉しくなる。
1番多く見られるのは、貝殻を使った品物たち。
磨いてピカピカにしたものや、つなぎ合わせてスダレのようにしたもの、鏡の装飾に使っていたり、どれも観光地らしいものばかりだ。
青島がある宮崎で育った俺にはとても親近感が湧くものばかり。
そんな土産物通りを抜けて歩いて行くと、岬に出た。
日本のように綺麗な整備された岬なんかではなく、波の浸食でコンクリートがボロボロに崩れてひび割れ、まるで何百年か前の遺跡みたいな雰囲気だ。
そんなボロボロの石が散らばる波打ち際で、インド人たちが楽しそうに海に入ってはしゃいでいた。
インド人は水着という概念がない。
男はルンギ、女はサリーのままで海に突入していく。
カッコよくクロールしてる人は見たことない。
みんな溺れそうになりながらはしゃいでいる。
そんな微笑ましい光景の向こう、少し沖のところに巨大な石像がそそり立ってるのを見て驚いた。
まるで自由の女神みたいに海の中にドゴーンと立っているんだけど、その黒ずんだ岩肌と不思議な姿形は、どの観光地のものとも似つかない異様さがある。
本当に別世界だな。
岩の島に作られているものらしく、人の姿が像の下に小さく見える。
どうやら渡し舟で行くことができるみたいだ。
明日行ってみよう。
日本の昭和の、観光ブーム時代に栄華を極めた名所のように、どこもかしこも崩れかけのひなびた空気が静かに流れているこのカニャクマリ。
今の所、外国人の姿は2人しか見ていない。
あんまりみんなここまで来ないのかな。
海から吹き上がった砂が道路の端につもり、鳥が音もなく飛び、遠くの方でおじさんがアクビしている。
この最果て感、たまらないな。
そして人の優しさに本当に感動してしまった。
水を買うだけでめちゃくちゃ暖かい笑顔を向けてくれるし、みんな気さくに話しかけてきて、とても心が安らぐ。
もう1発でこの町のことが好きになってしまっている。
「カンちゃん、ゆっくり歩こうか。こっちが夕日のスポットのはずだから。」
「なんでフミ君ってそんなに地理感覚があるのー?私こっちが夕日のスポットとか全然知らないのに。」
「1回地図を見たらだいたい頭に入るんだよー。よし、英語のレッスンしようよ。何か問題出して。」
「じゃあ桃太郎を英語で話してくださいー。」
そんな話をしながら2人で歩けば、30分ほどの道のりもまったく遠く感じない。むしろあっという間に着いてしまう。
ジャリ、ジャリっと砂を踏みながら手をつないで歩く俺たちの周りにはなにもない。
鳥の声がたまに聞こえるくらいの静寂の向こう、太陽が傾いて空が赤くなっていた。
夕日スポットにはたくさんのインド人観光客が集まって、みんな思い思いに沈む太陽を眺めていた。
海沿いにはかなりの人垣が見える。
俺とカンちゃんは少し離れた丘の上に行き、そこにあった大きな岩によじ登った。
岩の上に座ると風が気持ちよかった。
夕日は想像していたほど綺麗ではなく、あっさりと沈んでしまって夕焼けもほとんどないまま暗くなり始めた。
でも、人々が帰って行く様子を眺めながら、カンちゃんと2人きりになれていることがとても嬉しかった。
この当たり前の時間が、全て特別なものに思える。
俺はどこにでも行けると思っていたあの頃。
今もそう思っている。
でも、昔に比べてあの貪欲さは少なくなっていってると思う。
色んなことに限界までチャレンジして、当たって砕けて傷ついてみんなに笑われて。
でもそんなのなんとも思わなかった。
俺のやることが1番正しい。俺の考えが1番正しい。
たいして大きなものを失うわけでもないのに、変わることを面倒くさがって、何もしないで人を羨ましがるやつの言葉に虫酸が走ってた。
でも今、ちょっとずつそんな気持ちもわかるようになってきてる。
俺の中の貪欲さがなくなってきて、別にいいか、と思える気持ちが芽生えてきてる。
歳のせいかもしれないけど、カンちゃんと出会えたことが大きいと思う。
カンちゃんさえいれば、それだけでいいと思える。
俺の貪欲さの根源は、カンちゃんのような自分を肯定してくれる存在を探し求めていたところにあったのかもしれない。
それを見つけた今、あの頃みたいな無茶や、自分の命を試すようなこともする必要はないはずだ。
強くなったのか、弱くなったのか。
まだわかんない。釈然ともしない。
今回の旅で、どんな風に変化していくんだろうな。
夕日が沈んで海沿いを歩いて町に戻った。
涼しくなって人がたくさん歩くこの時間は、土産物売りたちのゴールデンタイムだ。
みんな威勢良く声を上げて、観光客に声をかけている。
だいたいインド人の客引きは外国人に群がるものっていう光景ばかり見ていたので、このインド人同士のやりとりが見ていてとても面白い。
そんな賑わう町の中で俺たちが向かったのは…………………
ついに……………………
ついに来られたよ…………………
「ぐおおおおおおおおおおお!!!!美味すぎる…………な、なんなの…………美味すぎるの?」
「おふぅ………美味すぎて吐きそう……………」
この夜はカンちゃんと2人きり。
心置きなくビールを飲んで、酔っ払って大笑いしながらお喋りし、久しぶりの酒を楽しんだ。
「美味っ!!!なにこれ!!このカレーヤバい!!はい、カンちゃん!あーーーん。」
「モグモグ……………ごめんなさい!!幸せすぎるんですけど。」
いやー!お酒楽しいー!!
でも泥酔!!