6月16日 日曜日
【カナダ】 トロント
うう………若干の二日酔い………
ゆうべバーベキューを終えてからもおしゃべりしてて、寝たの3時すぎくらいか。
もっと寝てたいけど今日はある方とお会いする約束をしてるので、ギターを持って家を出た。
フラフラと歩いてやってきたのはリトルイタリー地区。
街にはピザ屋さんやジェラート屋さんが並び、イタリアの国旗の色が目立つ。
ここトロントにはチャイナタウンはもちろんのこと、他にもリトルインディア地区とか、ポルトガル地区とか、世界中のそれぞれの国のコミュニティがいたるところに形成されている。
まさに移民の国。
そんなリトルイタリー地区の通りぞいにある日本食レストラン、リョウジにやってきた。
日本食レストランって言っても、ここはなんと沖縄料理店。
日本本国でもなかなかお目にかけない沖縄料理店なんてもんがあるってとこに、いかに日本食が北米でブームを巻き起こしてるかがわかる。
「金丸さーん!!はじめましてー!!」
ニッコニコしながらそこにやってきたのは日本人ご夫婦。
可愛いらしい奥さんと、なんか地元の友達みたいな親しみやすさの旦那さん。
ブログを読んでくださってて、北米に入ってからいつもメールをくれていたお2人だ。
トロントから少し行ったところにある、カナダとの国境にあるアメリカの都市、デトロイトにお住まいで、是非来てくださいと言って下さっていたんだけど、ルートの問題で行けそうになかったところ、お2人がトロントに来て下さったわけだ。
昨日はトロントで行われている軍の航空ショーを見に行っていたみたい。
俺の大好きな山口の岩国出身で、しかも旦那さんがスエヒロラーメンが大好きということで、やっぱりスエヒロは油多めで!!と盛り上がる。
それにしても、こ、これが沖縄料理店か(´Д` )
沖縄料理店ってもっとゴチャゴチャしてて、砂とかあって、島唄が流れてて、壁には具志堅用高のポスターが貼ってあるもんだよな?
あ?違うか。
もう、ただの高級レストラン。
BGMも洋楽ポップ。
そして食べたのもなぜかチキン南蛮とトンコツラーメン。
あああああああああああああ!!!!!!!!!
爛漫さんーーー!!!!
ごめんなさいいいいいいいい!!!!!
海外で偽物のチキン南蛮食べてしまいましたあああああああ!!!!!!!
あ、別に爛漫の宣伝するつもりじゃないですよ。
まぁ所詮食べ物ですからね。
宮崎市一番街アーケードを抜けて50mほど歩いた右手にひっそりと佇む老舗洋食店で、今や全国区となったチキン南蛮を数十年前に開発した当時のメンバーの1人であるマスターが、鳥を丸ごと仕入れて丁寧にさばき、上質なムネ肉を使用して作ってくれる極上のチキン南蛮1000円がこの世の物とは思えぬ美味しさっていうだけのことです。
て、ていうかうめえ!!!!
このチキン南蛮もうめえ!!!
そして、ラーメンもクオリティ高え!!!
かなりちゃんとした、というか日本でも美味しい部類に入るレベルの味だわ。
やるなー。
さすがは現在、日本食戦争が巻き起こっているトロントにこれだけのでかい店舗を構えるだけのことはあるわ。
サチさんご夫婦、さすがのチョイス。
そしてお会計になったんだけど、ここで驚くのがチップのシステム。
チップってその馴染みのない日本人からしたら、ホテルとか旅館とか、高級なレストランとかで、よほどの素晴らしいサービスを受けた時にのみ、料金の10パーセントくらいの払うってなもんで、別に払わなくても支障はない。
しかしここ北米では、確実に!!確実に払わないといけない。
旦那さんのお知り合いの方はチップを払ったにも関わらず、少ないという理由で呼び戻されたらしい。
さてそのチップの値段。
ここカナダでは10%~15%というのが相場らしい。
しかしサチさんご夫婦が住んでいるアメリカでは、ランチ15%、ディナー20%なんだって!!
そりゃ、チップだけで給料と同じくらいの収入になるってのもわかるわ…………
もうそれが慣例というか、当たり前に払わなければいけない、消費税みたいなものみたい。
もちろん税金も別にあるけど。
確実に払わないといけないのなら、はじめから値段に加えておいてくれればいいのに。
まぁあくまで、気持ちによるもの、という位置づけじゃないといけないんだろうね。
ちなみに、旦那さんはカードで支払いしていたんだけど、わざわざチップのパーセントを計算して、上乗せした金額を打ち込んでいました。
恐るべしチップ文化。
これを考えたら、エジプトとかモロッコで無理やり道案内をしてきて、さも当たり前にチップを要求してきた現地人たちにふざけんなバカって思っていたのが考え直される。
白人たちはおそらくスマートに払っていて、渋るのは日本人くらいのもんかのかもしれないな。
文化の違い、で片付けるにはあまりにも世界的なマナーなんだと、北米に来て思い知ってる。
ちなみにマクドナルドとかケバブ屋さんみたいなファストフード店ではチップを払う必要はないようなので、俺は払うことはないかな(^-^)/
自分の分の代金を払おうとするがどうしても受け取ってくれないサチさんご夫婦。
「歌を聴かせてもらったら、どうせそのお金を入れるんで気にしないでください!!ていうか歌の代金なので平等ですよ。」
日本人はこうして理由をつけておごるのが上手いよなぁ………
「あ、それとこれ。これよかったら食べてください。」
さらにお土産の袋までいただいてしまった。
中には…………
………綺麗すぎる折り紙………
もう、自分で呼びかけたことだけど、最近あまりにもたくさんの方に助けていただいて恐縮すぎて申し訳ない………
サチさん、旦那さん、ありがとうございます。
これだけあれば、多分南米まで足りそうです!!!
さて、最高の青空が広がる日曜日のリトルイタリーは町おこしイベントみたいなのをやってて、通りが歩行者天国になり、無数の屋台がひしめいている。
ここで歌ってもいいかなぁと思ったんだけど、通りのそこらじゅうでスピーカーを使ってライブをしているので、やはりいつもの地下鉄に行くことに。
旦那さんの車に乗せていただいて、ダウンタウンのクイーン地下鉄にやってきた。
お2人を前にして歌った。
うおー、緊張する。
下手な歌は歌えない、と気合いを入れて歌うんだけど、今日に限って声がマジで死んでて、申し訳なさすぎる不甲斐ない演奏になってしまった。
サチさん、旦那さん………
ごめんなさい…………
そして心から感謝します。
次に会った時には必ず、絶好調にしときます。
お2人を見送ってからも、ダルくて仕方ない体にムチ打って歌う。
こりゃ今日はダメだな………ってところに、ついに来てしまった。
セキュリティのおじさん。
「ライセンスは持ってるかい?」
「い、いえ、持ってないです………」
「そうか、じゃパスポート見せて。」
身長からなにから、こと細かくチェックされる。
「罰金265カナダドルね。」
「えええええ!!??ま、マジですか…………」
「でも今回は払わなくていいよ。次見つけたらダメだからね。君はいいシンガーだから外で歌いな。外なら問題ないから。」
た、助かった………
あがりはわずかに5カナダドル。
今日はもうきついからやめるか………
いや、そんなこと言ってらんねぇ。
やらなきゃ。
いつものダンダスストリートでギターを鳴らす。
きつい。
歌ってて、歌いながら眠くなってくる。
うお、いかんいかん!!と奮い起こすけど、声が全然出ない。
連日の休みのない路上で疲れがたまり溜まってるのかな………
途中、いきなりウクレレのおじさんが入ってきて一緒に演奏したりしながら1時間頑張るが、限界が来て終了。
あがりはわずかに16カナダドル。
ヤバすぎる………
もう早く帰って寝たいんだけど、今夜はまだ用事がある。
そう、シェルターのスティーブとライブバーでセッションをしようと約束している。
はっきり言ってスティーブもあの時、勢いで言ってしまったように思える。
忘れてるかもしれない。
でも行かなきゃ。
重い体を引きずってシェルターにやってきた。
スタッフのみんなに挨拶して中に入ると、そこにはいつもの光景があった。
晩ご飯を食べる人、外でタバコを吸う人、テレビを見てる人。
みんな顔見知りの面子だ。
「ヘイ、最近見なかったな。」
「お、戻って来たのかい?」
「いや、俺は今友達の家に泊まってるんだよ。」
「なんだなんだ!!とっとと出てっちまえ!!こんなしみったれたとこ!!ハッハッハ!!」
テーブルにスティーブの姿があった。
「ヘイ、フミ、元気にしてるか?」
「スティーブこそ。調子はどう?」
「まぁまぁさ。いつもまぁまぁだよ。」
それから食堂でたくさん喋った。
お互いの女のことや、人生のこと。
でもスティーブは今夜のセッションのことは切り出さなかった。
ショーシャンクの空のことを思い出す。
若い頃に犯した罪で何十年も刑務所の中にいて、老人になってから出所した男が、あまりの世界の変わりように戸惑い、絶望し、誰も身寄りもおらず、すぐに首を吊って死んでしまった。
塀の中にいることを望みはしない。
しかしいつの間にか人は塀の中にいることに安心を覚えるようになる。
このシェルターにいれば、友達とは言えなくても同じ境遇のやつらがいて、共に生活することで安心を得ることができる。
一度その錆びついた鎖のような安心を覚えてしまったら、なかなか外に出ることはできなくなってしまうような気がする。
50歳のスティーブ。
笑顔がとっても可愛いんだけど、どこか憂いを含んでいる。
見栄を張ってセッションしに行くぞと言ってしまったこと、充分わかるよ。
「フミ、ちょっと歌ってくれよ。なんでもいいから。」
喫煙スペースでギターを弾いて歌った。
ゾロゾロとみんなが中から出てきて、外のフェンス越しにもここのオッさんたちが覗いている。
スタッフの人たちも集まってきて、ミニライブになってしまった。
みんなが真剣に聴いてくれる中、思いを込めてアイシャルビーリリーストを歌った。
ここに俺を閉じ込めた奴の顔を
俺は全部覚えているのさ
太陽が登る 東から西へと
いつの日か
いつの日か
解き放たれるんだ
シェルターを後にして、ナオトさんの家に戻ってきた。
「あれ、早かったですね。セッションどうでした?」
今夜も友達が来ていて、裏庭のベンチでビールを飲んだ。
ほどよく冷たい夜風が心地いい。
みんなみんな、それぞれの塀の中で、塀の外を夢見ながら眠っている。
強くなんてならなくていいさ。
今ある居場所を大事にしなきゃな。