12月18日 火曜日
【モンテネグロ】ウルツィニェ
~ 【アルバニア】シュコダル
「………ニア………バニア……」
……………はっ!!?!
「アルバニア!?アルバニア?!!!?」
「い、い、い、イエス!!!」
まだ真っ暗なモンテネグロの夜明け前。
バスターミナルの乗り場のベンチで寝袋サナギになってるとこを叩き起こしてくれたのはバスの運転手さんだった。
時間は5時50分。
出発は6時。
うう、眠い………
寝不足と二日酔いで疲れ切ってるのに、寝心地の悪いデコボコしたベンチでたったの3時間しか眠れなかった。
慌てて荷物をまとめ、切符うりばへ。
首都のティラナ行きは直通がないので、国境を越えたところにあるアルバニア側の町、シュコダルまでの切符を買った。
6ユーロ。
またもやボロい、旧式の小型バスに乗り込んだ。
ろくな道がなく、生活道路みたいなとこを何度も曲がりながら走って行くバス。
疲れ切っていたのですぐにウトウトしてしまい、国境もいつの間にか越えていた。
アルバニア入りは少し不安だったので入国の方法を調べたんだけど、20万円以上の現金や、いくら以上の価値の物を持って入る場合は、入国の際にきちんと申請をしなければ出国のときに没収される可能性がある、とかなんとか書いてあったのでナーバスになっていたんだけど、まぁ眠気には勝てない。
いや勝てよ!!俺!!
しかし、気がつけば1時間半くらいであっという間にアルバニアの都市、シュコダルに到着した。
バスを降りた瞬間、群がってくるおっさんたち。
「タクシー!タクシー!」
「アパートメント!!」
「タクシー!!!」
うぜえーーー!!!!
ウザすぎる!!!!
無視して通り過ぎようとすると、持ってる傘でギターを突ついてくる。
睨むと、さらに声をあげてタクシー!!と叫んでくる。
逃げるように歩くスピードをあげる。
これがヨーロッパ最貧の国か………
でも見る限りそうでもないな。
町の真ん中には大きなイスラムのモスクがあり、その脇から伸びるショッピングストリートは今までのヨーロッパの国々とそんなに変わらない綺麗な通りだ。
早朝の町にはまだ人通りも少ない。
しかし用心しないと。
なにがあるかわからないぞ。
雨の中歩いていると、後ろからスクーターが走ってきたので避けようとしたら、そのスクーター、バランスを崩してカフェのテラスに突っ込んでイスとテーブルをなぎ倒しながらぶっ飛んだ。
あばばばびばばばばばびぶぶばばばばば(´Д` )
あまりの出来事に呆然と立ちつくす俺に烈火のごとく怒っているおっさん。
ご、ごめんなさい!!
よくわからないけどとりあえずごめんなさい!!
ひとしきり怒鳴りまくって、最後になぜか親指をグッ!と立ててスクーターにまたがり去って行ったおっさん。
な、な、な謎すぎる(´Д` )
怖え、アルバニア怖ぇぇ(´Д` )
そんな謎の国、アルバニア。
雨はやまない。
濡れながら歩き回り、町を見て回るが、これといったものはないようだ。
通勤、通学時間になり、通りにはたくさんの人が溢れ、道路は車でごった返した。
信号がなく、お巡りさんが手旗信号をしている。
廃墟だらけだし、建物もみんなボロいけど、そんなに驚くほどでもない。
このショッピングストリートなら多分そこそこ稼げるはず。
しかし、雨はやまない。
これでは歌えない。
どうしようか悩んだ挙句、ついにフィンランド以来の外貨換金をやってしまった。
ボロい廃墟みたいなところで換金。
1ユーロ = 140なんとか
20ユーロ換金して、大量の札束をゲットした。
金を換金してる横で、汚いジープスのガキがずっとマネーマネー言ってる。
換金所で張り込みとはやるな!
断りづらい!!
もちろん無視だけど。
金も手に入れたことだしカフェを探す。
アルバニアはなぜかカフェが異常に多い。
今までの他のヨーロッパの国は何十人も収容できる大きなカフェがポツポツある感じだったけど、ここでは、10人キャパくらいの小さなカフェが無数に軒を連ねている。
ファストフード屋さんもいくらでもある。
適当にピザ屋さんへ。
ピザひと切れが100なんとか。
70円?!
激安にもほどがあるな。
2枚食べてコーヒー飲んでたったの300なんとか。200円。
おお、さすがは最貧国………
「この町はとても歴史のある古い町なんだよ。ティラナは新しい町なのさ。」
とても親切なおじちゃん。
国民の英語を喋れる率は高そうだ。
充電をさせてもらいながら雨が止むのを待った。
が、いつまで経っても雨はやまない。
こりゃ、ここにいたって歌えないし先に進んでしまうか。
首都のティラナまで行ってしまおう。
ピザの値段がこれなら20ユーロ分換金したし、おそらく足りるだろう。
おじちゃんにバス停の場所を聞いて、雨の中歩いた。
教えてもらったバス停の場所が近づくにつれ、客引きも増えていく。
「ヘイ!ティラナ?!ティラナ?!?」
「ティラナ!?」
傘をさしたおっさんたちが話しかけてくる。
反対車線に路駐しているバンがクラクションを鳴らしてティラナー!?!と叫んでいる。
ピザ屋のおっちゃんに言われた場所に着いた。
バス停らしき雰囲気はまったくない。
ただの道路脇。無秩序な路駐の車が並んでいる。
ここでいいの?すげー不安。
おっさんが声をかけてくる。
時間もあったし、少し話してみた。
「ヘイ!!ティラナ!?」
「そうですよ。バスを待っています。」
「あー、あれがバスだよ。」
そう言って自分のボロいバンを指差すおっさん。
てめー、ただの乗り合いタクシーだろうが。
平気で嘘をつくなよ(´Д` )
「3ユーロだよ。」
はいはい、3ユーロなわけねぇだろ。
地図みたらどう安く見ても10ユーロはする距離じゃねえか。
乗った後で、3ユーロは初乗り料金でプラスいくらだよ、とかそんな手口なんだろ。
ほんとろくでもねぇな。
時間になってもバスが現れないのでキョロキョロしていると、向こうのほうにそれらしきバスが止まっていた。
急いでバスに向かう。
「ティラナ!!ティラナ!!」
「ティラナ!!!!!」
「ティラナアアアア!!!」
俺がバスに向かうのを阻止するように立ちはだかる客引きのおっさんの群れ。
バスの周囲は、もう信じられない光景。
おこぼれに預かろうとする乗り合いタクシーたちがひしめいていて、鬼の形相で俺を取り囲み、叫びまくってくる。
まるで不祥事おこした政治家と記者。
「チープ!!チープ!!」
「ティラナ!!チープ!!」
「ティイイイイラナアアアアアア!!!!」
「ギャアアアアアアアア!!!!」
き、気が狂いそうだーーーー!!!!!!
やっとの思いでバスに乗りこんだ。
はぁ、疲れる………
これってアジア行ったらもっとすごいんだろうな………嫌になるな。
走り出したバスの中でチケット購入。
気になる値段は、
300なんとか。
………2ユーロ。
嘘だろ?
信じランねぇ安さ。
あ!ていうことはさっきのおっさんたち、倍ふっかけてやがったのか!!
まぁそれでも安いけど。
さすがはアルバニア………
バスはいたるところで客を拾う。
地元の人じゃないと完全にわからない道端に止まる。
さらに、後ろからけたたましくクラクションを鳴らしながら乗用車が走ってきて、バスの前に回り込んでバスを止めた。
なんだ?!?!
そしてバスに乗り込んでくる人々。
謎すぎる(´Д` )
強引すぎる(´Д` )
そんな無法な国、アルバニア。
首都のティラナに着いた。
やっぱりバスターミナルなんかではなく、道端に強引に路駐して。
周りを見渡した。
………なんだこれ…………
すべてが廃墟のような建物、
路上に並べられたありとあらゆる売り物、
地面にあいた穴、
割れたアスファルトと泥水の水たまり、
激しく行き交う一時代前の車、
やむことのないクラクション、
警察による手旗信号、
頭が割れそうなほどのクラクションの嵐、
呆然と立ちつくす。
なんだこれ…………
ゴミ溜めか……?
どうしていいかわからずにフラフラ歩いていると車が突っ込んできて激しくクラクションを鳴らされた。
慌ててかわす。
また反対から来た車にクラクションを鳴らされる。
水たまりに靴を突っ込む。
路上が整備されておらずデコボコしておりキャリーバッグが引きにくい。
泥水だらけ。穴だらけ。
露店のせいで道がせばまり歩けない。
ひしめくカフェ。
乗り合いタクシーの客引きが叫んでくる。
うわあ!!逃げないと!!
なんだここ!!
頭が混乱してどうしていいかわからない。
危険な臭いが街全体に充満している!!
雨は激しさを増し、ギターがどんどん濡れていく。
カフェに逃げこんでビールを頼んだ。120なんとか。85円。
言葉の通じないおばさんがやたら絡んでくる。
ほっといてくれよ。
頭の整理ができないよ。
それでもおばさんは無遠慮に俺の荷物をいじっている。
なんて街だ。
ヨーロッパ最貧ってこういうことか。なめてた。完全なめてた。
汚い
うるさい
臭い
今まででダントツだ。
最悪の街、ダントツ1位。
マイナスのエネルギーしか感じられない。
とにかく、ここは危険な街。
暗くなる前に寝場所を見つけることが重要、と店を出た。
雨は激しさを増していく。
これでもかってくらいクラクションを鳴らす車の列。
こいつら頭おかしいのか?
クラクションがなければ運転できないのか?
他のヨーロッパ諸国のように、道を横断しようとしてる歩行者がいたら必ず止まってあげる、という紳士さはここには欠片もない。
みんな、減速することのない車の隙間を縫って道路を渡っている。
そしてまたけたたましいクラクション。
街を背に歩く。
どこまでもどこまでも。
国旗にもなっているアルバニアのシンボル、鷲のモニュメントが冷たく俺を脅しているように見える。
マクドナルドも、Wi-Fiがありそうなカフェもないので、地図を見ることができない。
動悸がする。
なにをすればいいか考えがまったくまとまらない。
なんだこれ?
こんなの初めてだ。俺の頭の中、どうなってるんだ。
いやだ、いやだ、いやだ、この町いやだ。
街にすっかりエネルギーを吸いとられてしまった。
上着から水が滴り、パンツまで濡れてきたころに、一軒のレストランを見つけて飛びこんだ。
郊外の暗がりにあるこのレストラン。
ドアを開けると、地元のおじさんたちが1組いるだけだった。
ジロリとこちらを見る彼ら。
びしょ濡れでイスにへたり込んだ。
うなだれる俺にマスターが話しかけてきた。小さなカフェみたいなお店なので1人でやってるよう。
「何をお望みだい?」
カタコトの英語を喋るマスター。
なんでもいいから食べ物をくださいと言った。
マスターにおまかせします、と。
途端、はりきるマスター。
ここがトイレになります、上着はこちらにどうぞ、お飲物はどうします?
そして子供を外に走らせた。食材を買いに行かせたみたいだ。
彼からしたら、この郊外の小さなレストランに迷い込んだ日本人は、先進国の金持ち観光客。
失礼しますねー!とテーブルクロスをひいてくれる。
出てきたのは、硬い豚肉と山のようなサラダ。
そして、これはサービスですとワインを1杯注いでくれた。
思いっきりがっついた。
暖かい食べ物が喉を通る。
食べながら、これがいくらであろうと、思いっきりふっかけられようと、嫌な顔せずに払おうと思った。
お腹いっぱいになると多少気持ちも落ち着いた。
そして気になる会計。
「8ユーロお願いします。」
そう言って手書きの明細みたいなものを見せてきたマスター。サラダがいくら、肉がいくらと書いてある。
別にそんな納得させようとしてこないでもいいですよ。
8ユーロということは1120なんとかか。
ファストフードなら200なんとかでお腹いっぱいになれる国だよな、と思いつつも、何も言わずにお金を払おうとすると、マスターは俺の手から1000なんとかだけ取って、これで大丈夫だよ、とニコッと笑った。
店を出て、すぐ目の前に落書きだらけの鉄板で囲われた空き地があった。
囲いの隙間をくぐって中に入ると広大な空き地だった。
見渡す限りの真っ暗な草むら。
開発途中で工事がストップしてしまったような作りかけの建物がこの国にはいくつもあったけど、ここもそんなとこか。
だだっ広い空き地の真ん中にテントを張って潜り込んだ。
早く寝てしまいたかった。この夜から逃れるために。
連日の寝不足ですぐに眠りに落ちた。
何時間たっただろうか。
なぜかパッと目が覚めた。
身体中が汗でびしょびしょになっていた。
頭が冴えている。
ぐっすり眠れたようだった。
もうすぐ朝か。
そう思い時計を見た。
目を疑った。
まださっきから1時間しか経っていなかった。
もしかして丸一日寝ていて次の日の夜なのか?と疑うほどに異様な感覚だった。
すぐにもう一度眠ろうとするが、治りかけている喉がイガイガして咳が止まらなくなった。
寝袋の中で何度も何度も咳き込む。
どんなに止めようとしても止まってくれない。
咳き込みすぎて腹筋が痛くなってきた。
顔中、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら体を曲げる。
すると、テントの外で犬が吠えた。
音の近さからして、テントのすぐ外にいる。
この空き地に住んでる野良犬が敵と思っているのか。
咳き込む。
犬が吠える。
咳き込む。
犬が吠える。
精神が錯乱している。
怖い。つらい。
なんてひどい1日だ。