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モンテネグロはセルビア人の国

12月16日 日曜日
【モンテネグロ】ポドゴリツァ






雨の日のテントは嫌いだ。

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湿気がひどくて、結露が中のものすべてを濡らしてしまう。


もともと雨の中を歩いて身体中濡れていたから、なんもかんもビショビショ。

寝袋も濡れてへにゃへにゃになっている。
こんなんで風邪が治るわけねー。



それでも久しぶりの野宿はとても気持ちよかった。

ハウスダストに敏感な俺からしたらホステルの相部屋の埃のほうが体に悪いかもしれんな。


ここはモンテネグロの首都、ポドゴリツァ。





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山の上からは幻想的な霧が立ち込めるポドゴリツァの町を見渡すことができた。

周りを山に囲まれ、真ん中を川が流れ、低い建物が密集している。

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しかし密集しているのはほんのわずかな中心部だけで、少し町を外れると畑が広がっている。

ポツポツと建つアパートは廃墟のように古びている。


これが首都か。

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町を散策。

こりゃ、相当ボロいな………

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日曜日ということもあって人が歩いていない廃れた町はまるでゴーストタウン。

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うお!!
馬が走ってる!!
すげぇ………モンテネグロ………

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お腹空いたのでピザ屋さんへ。
この大きなピザが2切れで1ユーロ。

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タバコが1.5ユーロと激安だったので久しぶりに金だしてタバコを買った。

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中心部はそれなりにビルがあることはあるが、日本の寂れた山間部の町って雰囲気。

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えびの?!

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メインストリートはそれなりにカフェが並んでいるけど、やっぱり人が歩いてなくて静まり返っている。

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これが勝ち取った独立の結果か。





モンテネグロの男前ということかな。どう?

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地元の子供たち。ウザい

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とりあえずコーヒー飲もうと適当にカフェに入った。

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エスプレッソ小さい。
お金を払おうとしたら、そこにいた常連ぽいおじさんが払わなくていいよ、と言う。

は?どういうこと?


なんといつの間にかそのおじさんがコーヒー代を払ってくれていた。

なんで?!
まだ口もきいていないのに?!




「どこから来たんだい?」


常連ぽいそのおじさん。
おじさんといっても38歳だったけど。
ヨーロッパ人は老けて見える。

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「サラエボから来たのかい!?あそこはムスリムの町だ!!俺は奴らが好きじゃない!!セルビアは1番強い国なんだ!!!」


ここモンテネグロは独立したとはいっても、いまだセルビア人の国のようだ。



「ほらほら、どんどん飲みな。君はお金を払う必要はない!!これがセルビア人のもてなしなんだ!!オルトドクスの信者は素晴らしい人間しかいないのさ!!」

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彼らは優しいセルビア人。
オルトドクスとは正教会のことだろう。

笑顔を作るが、しかし戸惑いを隠すことができない。



昨日まで俺はムスリムの町にいた。
たくさんの優しい人たちに会った。
そしてハリスから、セルビア人がムスリムにどんなひどいことをしてきたかを嫌という程聞いた。

しかし今俺は目の前でムスリムを批判しセルビアを讃えるセルビア人男性にビールをおごってもらっている。
頭が混乱する。一体これはどういうことだ。
彼が強めの右思想の持ち主だということはわかるが、間違いなく旧ユーゴスラビア諸国にはいまだ続く宗教によって割れた民族対立が厳然と存在しているんだ。


「ヨーロッパとアメリカは最悪だ!!やつらがセルビアを叩き、コソボを奪ってアルバニアにあげたのさ。君はアメリカが好きか?」


「いえ、嫌いです。」


「よし!!!ほら!!飲んで飲んで!!」






すっかり気に入ってもらえ、おじさんの家に招いてもらった。


「これが俺の車。乗って乗って。」


これ?!?!
寂れた町に不似合いなめちゃイカしたポルシェ。

なにこの人!!?






超高級なポルシェで郊外へ走る。

町を抜けてやってきた場所は、何か道路工事かなんかの大きな会社の敷地だった。
いくつもの倉庫の間にダンプやミキサー車が何台も並んでいる。


「これ全部俺の敷地。周りに家があるだろ。あれ全部うちのファミリーのものなんだ。」



なんとなんと、彼はここポドゴリツェで3代続く老舗道路工事会社の社長さんだった。

一族経営の会社で、周りに見える豪邸はみなファミリーのもの。


スーパー金持ち(´Д` )(´Д` )(´Д` )

庭にテニスコートがあるってどういうことですか?(´Д` )(´Д` )(´Д` )





「いいものを見せてあげるよ。」


そう言って彼が連れていってくれたのは、数ある倉庫の中のひとつ。

そこでは1人の男性が座ってなにかをしていた。


身体中、真っ白い粉にまみれているその男性。

彼の目の前には、十字架があった。

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そう、彼は十字架や柱など、オルトドクスの教会の装飾を作る職人さんだった。

白い石を削るために身体中粉まみれになっていたのだ。

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うー、こういう滅多に見られないものを見学させてもらうと旅の喜びを感じるな。


青森のねぶたでも友達にねぶたの制作現場に連れていってもらえたし、宮城の雄勝では硯の職人さんの仕事場を見学させてもらった。

匠のしなやかでためらいのない手つきは見ていてほんとに美しいな。





社長はこれらをすべて教会に寄付している。
買い取ってもらってるのではなく寄付。
地元の名士って存在なんだろうな。








社長の家はまぁ豪邸。
今まで外国で訪れた家で断トツの豪邸ですね。

家には3人の息子たちがいました。
16~10歳で、大社長のボンボンといったらクソ生意気な人生舐め切ったガキってのが相場だけど、彼らはそうじゃなく、とても素直で親父に似て大きな心を持ってるなと思った。





いやああああああああ!!!!!

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犬に襲われる。




「我が家のクレイジードッグだよ。こいつはなんでも食べるんだ。1番好きなのは電気の線。すぐ食いちぎるからパソコンが使えないんだ。だからウチはインターネットがないんだ。おかげでうちはいつも会話が絶えない。会話が良い家族の条件なんだよ。」



俺と社長がご飯を食べてる時も、息子たちはみんな周りに集まって来て、常に会話をしている。

社長の丸太のような腕には狼のタトゥーが彫ってあった。
狼とはとても家族の絆を大事にする動物らしい。

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この強い家族愛が、一族経営の会社を強くしているんだろう。


そして息子たちにとって、この強い親父はもっとも尊敬できる男なんだろうな。

ゴッドファーザーの世界だ。


「クロアチア人が150万人のセルビア人を殺したんだ。しかも銃ではなく、ナイフやハンマーで残虐に殺したんだ。」


そう話す社長はキャベツだけのスープを食べている。
これは彼らの宗教、正教会の教え。
クリスマス前の40日間は肉を食べたらいけないそうだ。
ミルクもチーズもダメなんだそう。


こんな強い信仰心と民族愛の塊みたいな親父の教育のおかげで、息子たちもみなセルビア至上の考え方を持っていた。

サラエボでオーストリアの皇太子を暗殺したプリンツィフは、彼らにとってセルビア人の魂を守った英雄だった。





風呂すげえ。

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「フミは今夜うちに泊まるんだよね!!ね!!」

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子供達とすっかり仲良くなり、戻ってくるからね、と約束して社長と一緒にお昼のバーへ。





その夜は、まぁ、ご想像の通り。


セルビア人たちと吐くほど飲んだってわけです。

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