2006年9月5日 【新潟県】
「トンネルを抜けるとそこは雪国だった。」
川端康成の有名な小説『雪国』の冒頭の一節。
このトンネルというのは群馬県と新潟県の境、JR上越線の清水トンネルのこと。
雪国にやってきた小説の主人公は、越後湯沢の温泉街に降り立つ。
さぁ、新潟県1発目は文学ロマンと湯煙の香り漂う越後湯沢だ。
向かう途中、清津峡という名所があった。
川を挟んで柱状節理の断崖が続く景勝だが、よく見えるポイントに入るには500円の料金がかかる。
うん、先を急ぐか。
国道17号線に出て下っていくと、山あいに巨大なホテル群が現れた。
おお、ここが越後湯沢か。
探検する前に、先にもうちょっと山を登ったところにある苗場に行ってみた。
苗場といえば毎年ユーミンが大きなコンサートをすることで有名で、首都圏からのスキー客も多い一大ウィンターリゾート地だ。
町中の建物は豪雪地帯らしい急傾斜の屋根。
今は静かな町だが冬になるとすごい活気になるんだろうな。
湯沢に戻ると、タイミングの悪いことに雨が降ってきた。
くそー…………と思いつつも雨の温泉地もまた風情があるもんだ。
まずは情報収集。
町の人に色々話しかけて聞いてみる。
公衆浴場はたくさんあるらしいのだが、ほとんどが沸かし湯でカルキ臭いらしい。
行くならば源泉100%かけ流しで、川端康成も執筆逗留の際に入ったという古くからの湯治場、山の湯がいいとのこと。
400円という値段もナイス。
ワクワクしながら向かうと定休日。
クソ!!!!
川端康成が逗留し『雪国』を書き上げたという高半旅館の外観だけ見て、さっさと湯沢を後にした。
なんでこんなに急いでいるのかというと、早速今日の15時から、地酒王国新潟の一発目、銘酒『緑川』の蔵見学を入れているからだ。
旧小出町、現魚沼市の日本一のコシヒカリ田園地帯の中にポツンと建つ緑川酒造の蔵元に到着。
『緑川』といえば地酒ファンだったらあの特徴的なラベルがすぐに頭に浮かぶはず。
よーし、行くぞ。
玄関をくぐる。
「あいあい…………………あい、座って。まぁお茶でも飲みましょう…………………」
事務所の中からお爺ちゃんがゆっくりと歩いてきた。
めっちゃお爺ちゃんやんと思っていたらなんとこの人、緑川酒造の大平会長!!
柔らかい雰囲気のお爺ちゃんだなぁ。
緑川の生い立ち、小出の町の歴史などをお話していただき、それから研究室へ。
緑川の酒のほとんどのラインナップを冷蔵庫から取り出し、並べてくれる。
「冷たいとわかりにくいからこのままにして行こうか。」
のんびりと、でもすごく丁寧にお酒の話しをしてくださる会長。
「あー、ほら、いっぱい酒の本があるでしょー。買ったって読みゃーしないんだけどね。へへへ。」
工場内に入る際にはまず、白衣と帽子を着用、靴を履き替え、手を洗いアルコール消毒。
観光ツアーの団体さんは入れないらしい。
小人数でちゃんと見てもらうためだ。
工場内は『5S運動』のもと、寸分の狂いもないほど隅々まで整理整頓が行き届いている。
掲示板には各所の写真と注意書きがこと細かく報告されてある。
秋からの仕込みに向け蔵内の整備を行っている蔵人さんたちは、俺を見ると、
「いらっしゃいませ!!」
と笑顔で挨拶をしてくれる。
素晴らしい教育だな。
『酒は人柄』。
こういう当たり前のことがきちんと行き届いている蔵こそ生き延びて、そして売れるべきだ。
壁にかかっている写真を見ると、雪景色の美しい蔵の写真に混じって、建物が崩壊している様子のものがあった。
そうか、中越地震の被害によるものか。
「あの時はもうめちゃくちゃだったよ。」
天井が崩落したりタンクが傾いていたりして、ものすごい被害だったようだ。
一通り蔵を案内していただき、それから研究所に戻って試飲だ。
この蔵の中を見た後だ。
細やかな気配りと清潔さが感じられる美酒という印象を受ける。
特に、会長がわずか250粒の種籾から育て上げた復活米、北陸12号、北醸によって醸された北醸吟醸は、香りよりも米の味のきいた、とてもバランスのいい酒だ。
「うちの酒を置いてある店を教えるから一緒に行こうか。もう歳で車取り上げられてなぁ……………バイクに乗ってたらそれも取られちまって。そんでいい自転車買ったら今度は孫にとられちまった。へへへ。」
ファントム号の助手席に乗るという会長。
ちょ、ちょ、ちょ!!!
マジですか!?!??
こ、こんな超重要な人を乗せるなんて死ぬほど緊張するんですけど………………
しかも向かった先は酒屋ではなくて近所のスーパー。
会長の今夜のおかずの買い物になぜか付き合わされる。
会長自由!!!!
「じゃあなー。」
緑川の従業員さんに迎えに来てもらい、会長は帰って行った。
すげぇマイペースな人だな……………
会長の気さくな人柄が表れたとても暖かい雰囲気の蔵元だったな。
その後、緑川を全種類置いてある酒屋『マツキヤ』さんで純米を購入。
「そうですねー、新潟は『緑川』と『久保田』ですねー。晩ご飯ですか?んー、そこの『さくらや』さんとか美味しいですよ。」
腰の低い笑顔の素敵なご夫妻。
笑顔は相手を気持ちよくする。
いいお店だ。
酒屋さんで教えてもらった食堂『さくらや』に入ってみた。
せっかくの新潟なのでコシヒカリが食べたいと大将に注文。
「あー、うちは、っていうかうち以外はどこもコシヒカリなんだけどなー。まずいとこ入ったねお兄さん。ハッハッハ!!」
ここもまた人柄サイコー。
すき焼き定食、安くてボリューム満点で美味すぎ!!!!
いろいろとサービスしてもらい、常連のお客さんたちともたくさんお喋りして、新潟の情報をかなりゲットできた。
店を出てのんびりと歩いた。
心の中がとても穏やかで温かい。
意味もなく叫びたくなるほど上機嫌だ。
あー!!初日から新潟サイコー!!!!
翌日。
つーか新潟県広すぎないですか?
弧を描きながら縦長に伸びているので、地図のページをまたぎすぎて非常に見にくい。
真ん中から攻めるのは面倒なので、こうなったら一気に一番上まで登って、下りながら攻める作戦でいくとしよう。
というわけで新潟県の山側を北上していく。
途中、ちょこちょこと観光地はあるのだが、これといって目をひくものはない。
長野に比べると道の起伏もなく快適なドライブ。
長野が観光の県すぎたんだよな。
五頭温泉郷は平地に湧く小さな温泉地。
安い外湯もたくさんあり、とても庶民的だ。
温泉郷の中の1つ、出湯温泉は、華報寺の境内にある出湯の源泉である銭湯。
寺の境内に銭湯ってのも珍しい。
先に本堂にお参りをしていると、地元の爺ちゃん婆ちゃんが首にタオルを巻いてふらふらとやってきては帰っていく。
どこか懐かしい雰囲気に心がきしむ。
爺ちゃんたちに混じってぬるい湯にじっくり浸かると体の芯から温まり、じわじわと疲れがとれていくようだった。
一気に車を走らせて新潟県最北の町、村上市に入るが、もうちょっと北まで行ってみようとアクセルを踏む。
すぐそこは東北山形県。
懐かしい庄内平野と鳥海山がすぐそこだ。
山北の町から山に入っていき、小俣の集落へ。
かつての出羽街道の小さな宿場町だ。
ただならぬ由緒を感じずにはいられない『日本国』というたいそうな名前の山がすぐそこにあり、ここ小俣が神話発祥の地という伝説をにわかに信じさせる。
森の中を走り、細い峠道、掘切峠に登る。
ここから先が出羽の国、山形県だ。
山北に戻り、海岸線に出てきた。
久しぶりの海、久しぶりの日本海だ。
美しい海岸線の続く笹川流れを下り、村上の町に戻ってきたころにはすでに夜になっていた。
村上で今夜の飲み屋街を探してみるが、
………………んー、小さいな。
こりゃあ歌える大きさじゃない。
明日はここからフェリーに乗って、日本海の小島、粟島へ渡る予定だったのでせめてフェリー代くらいは稼ぎたかったんだけどなぁ。
残念。
朝1番の船に乗りたいのだがフェリーの時間がわからない。
まぁ朝9時くらいに行けばいいか。
あー、かなり飛ばしてるなぁ。
結構行ってないところが多くなってしまってる。
新潟のみなさんすみません!!
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