2006年 4月2日 【滋賀県】
大津市の繁華街、浜大津の飲み屋街を歩いてみたが閉まってる看板のほうが多いんじゃないかって寂れぶりだった。
人はまったくいない。
おまけに雪は降り出すわでゆうべは3500円どまり。
土曜の夜でこれはきつい………
そんな土曜から一夜明け、今日は甲賀から攻めることに。
甲賀といえば忍者の里。
三重県との県境にある田舎町で、すぐ三重側は伊賀。
この辺りは忍者のメッカだ。
まずは忍者屋敷に行ってみることに。
標識にしたがって田んぼの中を走っていくと、ちょっとした古い集落があり、狭い道を奥に入っていくと、普通の民家に囲まれた屋敷が現れた。
日本で唯一現存するというほんまもんの忍者屋敷とのことだ。
600円払って中へ。
まぁ、内容は伊賀で見たのと同じような感じかな。
「はい、これ手裏剣。こんなもん役にたちませんからね。3メートルも離れたら絶対当たりません。塀の上にピョーンってジャンプなんてのもウソウソ。みーんな作りもんだすわ。忍者ゆうても人間でっさかい。」
子供の夢を破壊しつくしながらおっちゃんが屋敷を案内してくれた。
もっと聞きたくて係りの人に質問をするのだが、何を聞いてもうまくはぐらかされているような回答で納得できない。
忍びの世界のことなので口外されずに伝承されるものだからわかないんです、ってことらしい。
んー、こりゃ絶対今でも忍法使う人いるぞ。
忍者屋敷を出て甲賀の町に向かっていると、ふと気になる建物を見つけた。
……………ん?
ライブハウス!?!?
こ、こんな集落に!?
うお!!三上寛来てる!!
え!!
ドブロギターの名手、五十一さんの名前も!!!
マジか!!!!
思いきって玄関のドアを引いてみた。
鍵が開いてる。
人の気配はない。
「……………すみませーん……………」
シーン…………
「……………すみませーん!!」
「……………………ん?あー、なんだー?」
どこからか声が聞こえた。
「あ、あのー、ここライブやってるんですか?」
「あー、やってるよー。まぁ入んな。コーヒー飲んでけ。」
声の主であるおじさんがロフトから顔を覗かせた。
コーヒーか…………
今はあんまり金使いたくないんだけどな…………
「コップその辺の使えー。」
ロフトからブレンディが落ちてきた。
「こっち上がってきなー。」
すげぇラフなとこだなと思いながらコーヒーを注いでロフトに上がると、そこには頑固そうな顔をしたマスターと、もう1人おじさんが炬燵に入ってやしきたかじんが司会やってる関西の番組を見ていた。
俺もそれに混じってインスタントコーヒーをすする。
のんびりやってるライブバーで、別に毎日営業してるわけでもなく気の向いたときにミュージシャン呼んでライブをやっているらしい。
「ただいまー。」
そこに、店のマネージャーというルーシーさんという人が入ってきた。
このルーシーさん、かつて川島英吾とも飲んだことがあるという関西の音楽業界では結構なつながりを持ってる人のようだ!!
「よし!!やるか!!」
ドン!!とカウンターに置かれた一升瓶。
よしじゃねぇ…………
まだ15時なんですけど……………
まいっか!!
もう今日はここでとことん楽しんでやる!!
よくわかんないまま3人で飲んでいると、色んな人がつまみを持って店にやってきては自由に飲んで帰っていく。
いいなぁこのアットホームな雰囲気。
そんな中でちょっと歌うことになり数曲聴いてもらった。
するとそこにいた大林さんというカントリーのバンドをやっているおじさんがとても気に入ってくれ、この近くにもう1軒ある懐メロ喫茶とこことで早速ライブを組んでくれることに。
22日と24日。
んー、ふらっと立ち寄っただけなのに、どんな展開になるかホントわかんないもんだ。
いつの間にか夜もふけ、窓の外は真っ暗になっている。
五十一さんの渋いブルースが流れる店内。
神田さんというお兄さんとルーシーさんと3人で飲み続ける。
マスターはいつの間にかどっかに消えている。
「マスターどこいったんですか?」
「忍者にさらわれたかもわからんな……………おっとアカンアカン。」
何っ!!
神田さんは忍者の家系なのか、子供のころ婆ちゃんに色々教え込まれていたという。
アカンアカンといいながら酔っ払ってる神田さん。
「ここだけの話……………甲賀の子供のポケットには手裏剣入っとるで。」
「甲賀の人間は眠りが浅いんや。誰かが家の敷地に入ったらパッと目が覚めるんや。」
「甲賀の家では長兄にしか伝えられんことが多いんや。」
「ワイ、紺が好きやねん。闇に紛れるようにね。あー、アカン、今日は喋りすぎや。」
まだすごいことをたくさん聞いたがこれ以上は口外禁止。
やっぱり精神的・体質的なものって受け継がれているんだな。
「金丸君、今日は知りすぎたね。里を出るときは気ぃつけなあか、シッ!!」
バッ!!と玄関の方を振り返った神田さん。
「……………………なんや風か。」
ニヤリと笑ったハンサムな神田さん。
そんな不思議な忍者の里の夜だった。
翌日。
ロフトで目を覚ますとめちゃくちゃ気持ちが悪かった。
もう9時半か……………
気持ち悪……………
やっぱり飲みすぎたな……………
階段を降りていくとカウンターにマスターとルーシーさんがいた。
ルーシーさんの手作りの朝ごはんをもぐもぐゆっくり食べる。
よし!!出発だ!!
飛騨高山の祭りが14日と15日、それから22日と24日が甲賀でライブ、その間に奈良県を攻めて…………
あー!!こんがらがる!!
しっかり予定組んで全部クリアしていくぞ。
マスターたちに一時の別れを告げて車を走らせた。
やってきたのは狸で有名な陶都、信楽。
思い入れの深い町だ。
美香と初めて泊まった本格的な旅館。
おいしい料理と貸しきり風呂。
心を奪われた畑地区の枝垂れ桜はもう咲いているかな。
あれからずいぶん遠くに行ってきたよな……………
地図を見なくてもわかる町中を走っていく。
あちらこちらに美香の姿がちらつく。
森を抜けて畑地区に入ってきた。
相変わらずのどかな農村風景の丘の上に巨大な枝垂れ桜の木があった。
2年ぶりの再会だ。
が、しかしやっぱりまだ桜は咲いていなかった。
それでもたまらなく綺麗だ。
今にも開きそうな蕾が春のおだやかな風にそよいでいる。
この時期の桜もいいな。
今年こそは絶対に満開を見逃さないぞ。
湖南部には常楽寺、長寿寺、善水寺、石山寺など国宝文化財を擁する寺がいくつも存在する。
が、どこも拝観500円。
金がないので1つに絞り、大津市内にある三井寺にやってきた。
古くから日本四大寺の1つに数えられている境内はなんとも格式に満ちた豪壮なものだった。
重要文化財の仁王門・三重塔、国宝の金堂、弁慶が盗んで引きずってきた梵鐘など、こりゃあ確かに500円の価値がある。
寺を後にし、急いで向かったのは堅田町。
これから酒蔵見学を入れている。
琵琶湖沿いに国道161号線をとばしていく。
大津市街を抜ると、のんびりとした田んぼがどこまでも広がる田舎道だ。
その時だった。
いきなり目を疑うような光景が飛びこんできた。
「………………………な、なんだありゃあ!!!」
それはボロいモーテルの密集だった。
ケバケバしいモーテルの群れが湖畔に大量に密集している。
まるで何かのテーマパークの廃墟。
完全に怪しいオーラを放っている。
あれ、なんなんだろう………………
気になりながらも今は見学の時間が迫っているのでひとまず酒蔵に向かった。
堅田の町に入っていくと、古い木造の民家が並ぶ中に寺や神社があり、なんとも郷愁を誘う町並だ。
グルグルと迷いながらたどりついたのは銘酒『浪の音』の浪の音酒造。
まだ30代前半の3人息子が造りをしている人気急上昇中の蔵だ。
とてもフレンドリーでにこやかな蔵人さんたちが迎え入れてくれ、一気に気がほぐれた。
案内してくださったのは3兄弟の真ん中、33歳の杜氏、中井均さん。
若い人がひっぱっている蔵はやはりパワーに満ちている。
チャレンジ精神のある蔵は空気からして違うな。
生産量は400石。
600~900キロの小仕込み。
きれいで優しい、膨らみのある酒質を目指しているという中井さん。
利き酒もさせていただいた。
山田錦よりも高級だという酒造好適米、愛山のお酒なんかも飲ませていただく。
味があって骨太だ。
日本酒で漬けたという梅酒も秀逸。
山田錦、金沢酵母の4合を購入。
石井さん、丁寧なご案内ありがとうございました!!
堅田のひなびた町並みをしばらく見て回り、酔いをさましてから晩ご飯、銭湯。
そして、日も暮れたとこで、どうしても気になっていたあの昼間の廃墟に行ってみることにした。
いやぁ、あのモーテルが密集した雰囲気、マジでただごとじゃなかったぞ。
絶対なんかヤバいエリアのはずっていうか、すげぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええ!!!!!!
ぐおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
なんだこれ!!!!!!
さっきまで廃墟だったのがまるでラスベガスのようなど派手なネオン街に変身してる!!!
………………あっ!!!!
そうかここか!!!
ここがかの有名な大歓楽街、『東の吉原 西の雄琴』か!!!
はやる気持ちを抑えながら目の前のコンビニの駐車場に車を止めた。
大型トラックも止められるようなだだっ広い駐車場。
それくらいここは街から離れた場所だ。
よ、よーし、めっちゃ怖いけどここはもちろん探検だ。
車を止めて歩いて雄琴の中に突入してみることに。
ドキドキしながら歩いていく。
やっぱり怖いのでユウキに電話をかける。
「なぁなぁ、今からすごいところ行くからこのまま電話で話しててくれん?」
「なんや、怪しい風俗街?よし文武、ビビンなよ。」
「いやこれマジですごいよ。めちゃくちゃ田舎にいきな、」
「はーい!!!お兄ちゃーん!!!」
突入した瞬間、1秒で声をかけてきた呼び込みの兄さん。
う、うわぁ!!
きやがった!!
「店探してるんでしょ?お店もう決まってるの?ほら、こっち、ほら。ホラ。」
「いや、いいです。」
「あ、わかった案内所で探そうとしてるんでしょ。こっちこっち、こっちがいいんだって。ね。見てみ?ホラ。」
「いや、いいですから。」
「いっとくけどそっちボッタクリだからね!!あーそれでもいいんだ。だったら行けば!!!」
こうなることを予測して声かけづらいように電話しながら歩いてるってのに、人が電話中とか1ミリも気にしないで真横でまくしたててくる呼び込みの兄さん。
電話の向こうで爆笑してるユウキ。
それにしてもすげぇ……………
温泉街のホテル並みのビルが丸ごと1つの店。
それがズゴンズゴンとそそり立ってる。
飲み屋が見当たらない。
全部風俗店。
そんな恐怖のエリアを呼び込みのおじさんたちに囲まれながら1人歩く。
ジロリジロリと品定めするように俺をねめ回す無数の視線。
ライオンの檻の中に入れられた羊みたいだ。
今電話切ったら絶対身包み剥がされる。
そのとき、正面から車がやってきた。
「ハイイイイイイイイイイイ!!!!ライイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」
「オォォォォォォォォォォーーーライイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
突然、呼び込みの人たちがガソリンスタンドの店員さんに変身!!!
車の前に飛び出してとんでもない大声で車を自分の店に引き込もうとしてる!!!
こ、これが噂のマイカー登楼か!!!
しかしまぁなんてとこだ。
何でこんな町外れの田舎にこんな巨大ソープ街があるんだろう?
この雄琴は古い温泉街。
近くは比叡山。
比叡山への参拝客狙いで一緒に栄えてきたとこなのかな。
なんとかユウキと電話をつないだままライオンの檻から抜け出すと、辺りは一気に真っ暗になった。
周りには田んぼとちょっとした民家の明かりが広がるのみ。
んー、いくらどこでも路上やってきた俺でも、とてもここで歌う勇気はない。
危険な匂いで圧しつぶされそうだった。
車に戻ってそのまま毛布をかぶった。
道路の向こう、窓越しに見えるラスベガスみたいなネオンの灯り。
欲望ドロドロだけどある意味きれいだな。
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