2005年9月20日 【山形県】
「どうぞ、一服休まれてください。」
そういってお茶を出してくれたのは平清水焼『青龍窯』の奥さん。
きれいなギャラリーに並べられた器はどれも美しく、磁器のような色の釉薬が目を引く。
しかしガラス質ではなく、なんとも深く渋い温かみのある肌触り。
残雪釉という名前も非常に風情がある。
たくさんの焼き物を見てきたけど、そんな俺が一発で虜になってしまった。
とても上品で親しみのある窯元だったな。
いつかまた必ず来ますと約束してギャラリーを後にした。
宮城と山形の県境、数々のスキー場や温泉、レジャー施設がひしめく日本屈指のリゾート地、蔵王山。
宮城攻略のときに少し登ったが濃霧で何も見えなかったので、もう1回山形側からリベンジだ。
グニャグニャ道をひたすら登っていくとしだいに木々の背が低くなってき、不思議な開放感からハンドルを握る手が汗で湿る。
道の先に遮るものが何もなくてとても怖い。
この山の頂上に山形を代表する名所、お釜というカルデラ湖があるんだけど、やはり今日も霧が出ておりこれでは登っても見えるかどうかわからんなぁ。
山頂までは有料道路になってて410円もするし、どうしようかな。
「こごまできだんだがらぁー。」
悩んでいると、ニコニコしながらそう言う料金所のおじさん。
うーん、それもそうだよな。
頼むから霧晴れてくれよと思いながら有料道路を走った。
しばらくして頂上に到着した。
車を止め、辺り一面どこまでもハゲ山の中を、霧にかき消されながら歩いていく。
お釜とは噴火によって出来上がったカルデラ湖で、太陽の位置によって色を変える何とも美しい湖らしい。
手すりのある展望エリアまでやってきて下を覗いてみた。
ここから見えるはずのなのだが……………
やっぱり霧でなんも見えん……………
クソ!!
やっぱりか!!
しかし410円を無駄にするのが悔しいのでひたすら待ち続けた。
他の観光客たちは痺れを切らしてみんな帰っていく。
20分ほど霧のうねりを見ていただろうか。
しだいに、わずかずつ山肌が見え始めた。
お、おおお、おおおおお!!!
いける!!
そのまま晴れてくれ!!!
そしてついにお釜がそのエメラルドブルーの姿を現した。
あまりにも壮大なスケール。
待ってましたーー!!とばかりにあちこちで歓声が上がり、みんなその美しさにため息をついている。
腰が抜けそうなほどの圧倒的パノラマ。
こいつはすげぇ。
今年見た中で3本指に入る絶景だよ。
山形に行くならここは100パーセント行くべし。
上山温泉、赤湯温泉を駆け抜け、113号線沿いのスーパーマーケット『佐藤くん』は弁当250円と最高。
小国町から赤芝峡を駆け抜け、県境から山に入り秘湯、泡の湯温泉にやってきた。
38℃のぬるめの湯だが、ゆっくり入ってると骨の髄まで暖められる。
いい湯だ。
マタギの里、小国町の最奥にあるこの泡の湯温泉。
外に出ると満点の星空が広がり、秋になり一層勢いを増した虫の大合唱がうるさいくらいに鳴り響いている。
さてと車に乗りこもうとすると、タイヤのところになにやら黒いのがうずくまっていた。
ん?猫か?
……………………ん!?
なんだこりゃ!!
のそりと動いたそいつは大の大人の拳2つ分もあるような巨大カエルだった。
宿の人に教えに行くとみんなぞろぞろと外に出てきた。
「おー、でかいでかい。」
「こりゃ珍しいわ。」
みんな平気でプニプニ触っている。
カエルもめんどくさそうな顔でうずくまっている。
おばあちゃんが遅れてやってきた。
「あー、なんだ、ガマだべ。こめぇこめぇ。ワスらのころはぁ、もっとでげぇの捕まえでダァ。ブッ。」
「ばっちゃ、さっきがら屁ぇこきすぎだべや!」
「あっははははははー!!」
夜の深い闇にみんなの笑い声が響く。
ガマはのそりのそりと草むらに帰っていった。
米沢市内へ入りうろうろしていたら、すごく久しぶりに歌ってる人を発見した。
おお、俺以外の路上なんて見るのかなり久しぶりだなと、すぐに話しかけてみた。
28歳のこのお兄さん。
そこに彼の友達がやってきた。
ずっと喋っている。
全然歌ってくれない。
平日といえど少しは人通りもあるのに全然歌わない。
彼が通行人に配布しているメッセージカードを読んでみた。
路上での出会いやふれあいの素晴らしさを訴える文章が書いてある。
「いやー、路上の真似事してるやつっていっぱいいるじゃない?」
真似事?
じゃああなたの路上はホンモノってことですか?
歌わないでずっと友達と喋っている彼を見ながら、悠長だなぁと思っていた。
俺の路上は金を得なければいけない。
金をいただくからにはハンパなことはできない。
ひとたび路上でギターを持てばもうそこは自分のステージなんだから、絶対に油断してはいけない。
周りに誰もいなかったとしても、ビルの上とか換気扇の隙間とか、どっかで誰かが見ているし、どっかで誰かが聴いているんだ。
いつでも本気。
それが路上であり、芸だよな。
真似事か本物かどうかは、聴いてもらいたい!!という強い想いがあるかどうかだ。
兄さんと距離をとり、思いっきりギターを鳴らして歌った。
寂れた町だけど、なかなか反応がよくて、それに町の雰囲気がなんか懐かしい感じがしてすごくやりやすい。
近くで踊ってたダンスチームの『4REAL』のみんなもやってきて、みんなで歌った。
若い彼ら。
3年も旅してるなんて言うと、この人きっとすごい人なんだろうと思ったのか、目を輝かせて俺を囲んで質問してくる。
みんな元気でな。
また必ずどこかで会おうな。
山形最後の夜、7000円ゲット。
翌日。
米沢藩は越後から飛ばされた上杉家が藩主を勤めてきた藩ということで、上杉家ゆかりの地がいくつもある。
てなわけで米沢城のあった城跡公園の上杉神社にやってきた。
ここに祭られているのはあの名将、上杉謙信。
戦の真っ最中に、食料がなくて困ってた敵方の武田軍に、しっかりせんかいと塩を送ったという話が残っているナイスガイ。
すぐ横の宝物殿にはあの有名な『毘』と『龍』の字の染め抜かれた軍旗など、上杉家ゆかりの品々が展示されてあった。
450年も昔に戦に駆け回っていた本物が身に着けていたものを間近で見ると迫ってくるものがあったな。
結局、山形は庄内地方だけで内陸側はほとんど蔵巡りができなかった。
この米沢にも藩お抱えだった『東光』などたくさんの酒蔵があるのだが、もういいかな。
頭の中は東京でいっぱいだ。
早く進みたいよ。
このまま南下していけば関東はもうすぐそこなんだけど、最後に1発温泉入っとくことにした。
米沢にはバラエティー豊かな秘湯がわんさかある。
地図を見るだけでもうんざりするほど温泉マークだらけだ。
最後だし、その中でも1番山奥の道のどん詰まりにあるところまで行ってみるかな。
大平温泉、五色温泉も捨てがたかったが、写真を見る限り姥湯温泉ってとこが1番ワイルドっぽい。
ハイパー山奥のデコボコ砂利道を崖から転落しかけながら進み、車の上を飛び回る野生猿の群れをかいくぐり、やっとの思いで到着。
なんてとこだよ……………
こいつはハンパじゃない秘湯っぷりだぞ。
峡谷の源流、そそり立つ断崖絶壁に囲まれたありえない位置にうずくまってる建物。
おいおい、まじかよ。
吊り橋を渡り、宿で500円払って、さらに奥にある露天風呂へ。
………………………………すっげええええええあええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!
目のくらむような絶壁の谷間、白い川が流れるまさにこの世の果てともいえる仙境の地。
そこに屋根も何もない岩風呂が2つ。
川に流れているのと同じ乳白色の湯からは鼻をつく硫黄臭。
湯は気持ちいいんだけど落石が怖くてビクビクだ。
この岩場に時たまカモシカが姿を見せるそう。
ロケーションのダイナミックさは今までの露天風呂で間違いなく1番!!!!
東北最後の温泉を堪能したら山を降り、白布温泉の風情たっぷりの旅館群を横目に見ながら峠越え。
山形バイバイ!!
そして福島県に戻ってきた。
裏磐梯から喜多方を通って懐かしの会津若松へ。
こんな故郷から遠く離れた東北の町なのに、複雑な市内の道が全部頭に入っているのがたまらなく嬉しい。
1年前、この町にいた時も辛かったよな。
心が折れそうな夜をなんとかやりすごす毎日だった。
あれから1年はあっという間だったけど、遥かに長い道のりだった。
夜になり、お世話になった串焼き居酒屋『串ぜん』に顔を出してみた。
「どーもー…………」
「ん……………おー!!懐かしいねー!!元気にしてたかい!?座んな座んな!!」
覚えていてくれたようで暖かく迎えてくれたご主人。
「今日はもういいじゃん。な。飲んでいきな。」
「あ、でもそんなに余裕が…………」
「ばか。気にするな。」
商売人だけど人情派のご主人。
他にお客さんいるのに俺につきっきりでお話してくれた。
「何をやればいいのかやる前からわかってるやつなんていないさ。夏目漱石も死ぬ前に、俺の人生これでよかったのかな、って言ってるんだ。やりたいことをウダウダ悩む前にやる。人間ってのは後悔するために生きてるんだよ。はっはっは。」
ご主人のお話を聞きながら熱燗と串焼き。
あああ、最高すぎる…………
「よし、それじゃ行こうか。」
そのままの流れでご主人の自宅へお邪魔することになった。
「あらー!!お久しぶりー!!よく来たわねー!!」
「お!!いらっしゃい!!あがってあがって!!ここからが大人の時間だ。」
家にいたのはにこやかな奥さんと、すさまじくハイテンションなお婆ちゃん。
お風呂をいただき、広くてきれいなリビングで超豪華なお食事。
「ホラ!!若いんだからもっといこう!!」
潰し上手の異名を持つお婆ちゃん。
酒を注ぎたくてうずうずしながら俺のコップを狙っている。
おいしい手料理、楽しい会話。
いつもお泊りは気を遣いすぎて苦手なんだけど、今夜はとても心地いい。
明るすぎない照明とゆったり流れるジャズ。
フラフラになりながら2階の部屋へ上がり、ノリのきいた布団にドサリと身を沈める。
今日で長かった東北・北海道が終わる。
九州の人間からしたら想像もつかない未開の地だったこの東北・北海道。
山深く、温泉まみれで、独特の文化を持つ個性豊かな東北。
雪に埋もれてたくさんの人の優しさに触れた北海道。
めちゃくちゃ濃厚な1年4ヶ月だった。
明日は朝から長時間運転で東京入り。
タカフミ、光ちゃん、センジ君、横浜でアートイベントに出展中の黒田さん、そしてこれから出会うたくさんの人たちが俺を待ってくれている。
都会にへこまされたりなんかしないぞ。
九州男児は絶対に折れないぞ。
でも……………
ああああ、こりゃ明日絶対二日酔いだろうなぁ…………
【東北ラスト 山形県編】
完!!!!!!
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