2004年 12月28日 【富良野新プリバイト】
今日のシフトはプール。
プールの監視員は12時から22時までのシフトだ。
今日はその午前中の時間を使って富良野の地方ラジオの収録。
富良野のメインストリート五条通りの真ん中にある昭和の遺物丸出しの雑居ビル『サンビル』。
30~40年前にはダンスホールが入っていて、中田さんをはじめ、今の富良野の幹部世代は、みんなここで踊りに夢中になっていたという。
黒ずんだ壁と切れかけのネオン管が歴史を物語っている。
サンビルの前で降りしきる雪の中待っててくれたのは、この前の歌合戦の白組司会をやっていた久林さん。
彼はこのビルの中で小さなスナックをやっている。
白髪オールバックを後ろで結び、みぞおちあたりまであるヒゲを三つ編みにしたなんとも怪しげなオーラを発してたこの人。
今度ライブやってねと誘ってもらい、軽く挨拶してサンビルを後にした。
駅前のレンガ造りの建物、北の国から資料館のすぐ隣に、FM富良野の放送局はあった。
テーブルに座ってるおばちゃんたちを紹介してもらい、早速打ち合わせ開始。
「かける曲何にします?」
「あ、この曲お願いします。」
「わかりました。じゃあ入りますか。」
え?もう?と思いながらスタジオに入り、マイクの前に座る。
「…………はい!!始まりました。モーニング茶々のお時間です!!」
えええ!?
も、もうスタート!?
打ち合わせなんもしてないやん!!!
せめてタイムテーブルくらい見せて!!!
とにかく始まったんだから慌てず落ち着いてしゃべるしかない。
いつも聞かれる旅の話をして曲をかけてもらったらあっという間に20分のゲストコーナーは終了。
「あの、これ放送いつですか?」
「え?生ですよ?今の。」
えええええ!!!!
生なのにあんな打ち合わせとか大胆すぎるやろ!!!
「おばちゃんごめん。今日の生放送やった。」
「えー!!もうバカー!!」
スタジオを出て中田のおばちゃんに電話するとめっちゃショックがっていた。
おばちゃんの周りの人たちもみんな楽しみにしてくれてたみたいで、悔しいからみんなでラジオ局に電話して、
「ものすごく感動したからまたかけてください!!」
「いい曲だっからまた出演させて!!」
なんて言いまくったらしい。
大反響っちゃ大反響だけど、めっちゃやらせ臭いよな…………
そんなこんなで年の瀬も慌ただしく過ぎていき、とうとう2004年も残すところ後1日となった。
俺はバイトは休み。
ユウキは大晦日だというのに仕事。
朝スキーしてそのまま仕事するというユウキをホテルに送っていき、それから中田さんの家に行ってヒロちゃんと3人で富良野の町を一望できる八幡丘のすぐ下にあるお寺にやってきた。
ここは中田のおばちゃんの爺ちゃん婆ちゃんのお骨が納められてるお寺で、昔から仲良くさせてもらってる住職さんがいるとのこと。
俺が宗教のことに興味があるというのを知ってるおばちゃんが連れてきてくれたわけだ。
開拓から間もない土地なので新しい建物ではあるけど、大晦日ということもあってどことなく張り詰めた厳かさがある。
お参りを済ませ、暖かい部屋で住職さんとお茶をすする。
「浄土真宗の考え方は絶対他力というものです。あらゆることはお釈迦様による力。他力によるものだという考え方です。」
「禅を組んだり、修行をしたりはしないんですか?」
「それらは自力によるものです。己の力で悟りを開こうという考え方です。」
「では信仰するということも自力じゃないんですか?」
「信仰することすらお釈迦様の他力によるものだという考えに至り、ようやく親鸞は満足できたのです。」
わからん!!!
全然わからん!!!
考え方………考え方を普及していく…………
なんのための考え方?
辛い人生を生き抜くための力となる考え方?
なぐさめ………気づかないフリ…………
んんんん、わからんなぁ。
この前、五木寛之の「運転の足音」って本を読んだけど、あれは仏教のことがだいぶわかりやすく書かれたよなぁ。
色んな経験して、色んなことを学んだら、いつか腑に落ちる時が来るのかな。
それから中田さんちに戻り、みんなでうま煮を作った。
北海道では正月料理としてうま煮を作るのが慣例みたいで、ヒロちゃんと具材を刻む。
そして夜になったら大晦日格闘技のめちゃくちゃ楽しみにしていた試合!!!
魔裟斗VSキッド!!!!
めっちゃカッコいい!!!
キッドカッコよすぎ!!!
紅白も何年振りかにちゃんと見たなぁ。
布施明の『マイウェイ』はマジしびれた。
「着物着るかい?おじさんもう着れないのさ。あげるから。」
おじさんが若い頃に着ていた着物を引っ張り出してきてくれたおばちゃん。
なんてこった、こんないい着物。
これで奈良や鎌倉を歩けるなんてうれしすぎる。
派手な衣装をやめた小林幸子のステージに驚き、行く年来る年で各地の厳かな年越し風景をうらやましく見つめ、ヒロちゃんの着付けが終わったところで、いざ初詣に出発。
外に出ると凍てつく空気に髪が短くなった頭が寒い。
その時、スキー場の上にパッと花火が咲いた。
新プリンスホテルの年越し花火だ。
音を吸収する雪のせいで、無音の花火が消えては開く。
富良野神社はすでに初詣の人々で長蛇の列ができており、鳥居も燈籠も提灯もこんもりと雪をかぶり、境内に人々の賑やかな笑い声がささやかに響く。
おめかししまくってる若者たち。
マイクロミニにロングブーツの女の子が雪の階段でひっくり返り悲鳴をあげている。
着物姿は俺とヒロちゃんだけだったな。
お参り、くじ引き、招福の凧。
いい年越しだった。
こんなにも暖かい正月を迎えられただけで、今年もいい1年になるような気がする。
今年はどんなことが俺を待ち受けているんだろうな。
旅に出て3度目の新年。
抱負はもう決まっている。
『早起き!』
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