2003年、6月13日。
ホストでの酒にまみれた日々のせいで車の免許証がどこかに消えてしまっていた。
くそぅ…………
いつの間になくなったんだ…………
お店の物置に荷物を置いていたんだけど、どこを探しても見当たらない。
どうしようもないので一旦宮崎に戻って免許証を再発行してもらうしかなくなった。
車は運転できないため、大阪港に停めたままにしていくしかない。
ちょっと不安だけど、まぁこれまで1ヶ月以上大丈夫だったんだから多分いけるだろう。
最低限の荷物を抱え、ヒッチハイクで宮崎に向かった。
岡山、小倉と、お世話になった人たちに挨拶しながら4日で宮崎に到着し、実家でゆっくりしたり友達に会ったり、師匠であるテディさんのライブに行ったりしながら1週間ほど過ごした。
免許証も無事再発行してもらえて、これでまた旅に戻れるぞ。
よーし、じゃあそろそろまたヒッチハイクで大阪に戻るかー。
という時だった。
鳶時代のセンパイと朝まで飲み、翌日に家に帰るとお母さんが怒っていた。
「ふみたけ!!何でケータイつながらんのね!!大阪の警察から電話があったが!!車のことで!!!」
やっちまった……………
やっぱダメだったか…………
大阪港のすみっこに置いてきたファントムがまずいことになってるらしい。
話によると、なんか検察庁とかってとこに出頭しなきゃいけないとかなんとか…………
罰金もアホほどあるらしい…………
マジかよおおおおおおお…………
駐禁マークのないダダっ広い路肩に、他の路駐車に紛れ込ませて停めておいたんだけど、それでもダメだったか…………
大変なことになり、すぐに大阪に戻らないといけなくなったので、急遽飛行機で大阪に戻った。
伊丹空港に着いてすぐに大阪港へ向かい、恐る恐るファントムを止めていた場所にやってきた。
ど、どうなってるんだろう…………
路駐してあるファントムに近づいていくと…………
はい、黄色いの2つ。
そして窓には「呼出し」と書かれた張り紙。
こりゃヤベェ…………
どんなことになるんだろ…………
はぁ、とため息をついて車に潜り込んで寝た。
翌日9時に水上警察署に出頭した。
あわただしい署内。
狭い取調室でおじさん警官と向かい合い、再発行したての免許証を見せる。
まずは路駐の罰金1万5千円。
そしてもうひとつが青空駐車ってやつ。
まだこの時点では罰金の金額とかわからないらしいが、たぶん5万ぐらいとのこと。
終わった…………
またバイトしないと……………
全然先に進めねぇ…………
お昼に警察署から解放され、求人雑誌を買ってきて、即行で仕事探しをした。
ホストの給料は結局25万円近くあったんだけど、そこから前借り分を引いて約20万。
宮崎に戻り、飛行機で帰ってきて、そして今回この罰金を払ったらもうほとんどなくなってしまう。
マジかよもう…………
いや、ホストはいい経験になったし全然無駄じゃなかったけど、もうこれ以上あの仕事はしたくないし、ていうか早く茨城に行きたいのに…………
申し訳ないが美香に事情を説明し、もう少しだけ大阪で稼ぐことにした。
こうなったら経験のためにいろんな仕事をやってみたい、とか悠長なこと言ってられない。
とりあえず高い給料のとこを探すと鳶の仕事で日給1万円という会社があった。
ここしかねぇか。
はぁぁぁ…………やっちまった…………
寝屋川にある鳶の会社には即座に入社できた。
この会社はかなりデカいみたいで、100人以上が働いてるとのこと。
そして嬉しいことに寮付き。
今度は本当にちゃんとしたアパートの寮で、部屋は1K。
テレビ・エアコン・冷蔵庫・洗濯機・布団などが全部揃ってて月45000円。
一応これでも経験者。
宮崎の会社で怖い先輩たちに揉まれてきたので、ナメられないように頑張るぞ。
と、意気込んでスタートしたものの、ここがとんでもない会社だった。
都会の大きな鳶会社、誰でも簡単に入れる、ということで日本全国からスネに傷のある男たちが働きに来ており、誰も彼も小指がなかったり全身に刺青が入ってたりしてて、ただのヤクザの事務所状態。
みんな恐ろしいほど乱暴者で、喧嘩っ早くて、会社の中でも外でもいつも乱闘してる。
この寝屋川近辺で起きる暴力事件の8割がウチの会社の人間、って噂されるくらい、毎日誰かを殴り倒して、返り血を浴びて帰ってくる。
仕事でももちろんハンパじゃなかった。
寝坊でもしようもんなら寮の部屋にセンパイが乗り込んできてリンチ。
現場で仕事ができなければ暴力三昧。
会社に戻ってきたら、事務所に併設されている食堂でセンパイに酒を注ぐ。
センパイがタバコを吸おうとしたらすかさずライターで火をつける。
タバコの残りが少なくなったら外に買いに行き、ビニールをとって箱を開け、1本を外に半分くらい出した状態でセンパイの前に置く。
できなかったらキレられる。
マジでこの前までやってたホストの接客よりもやることが多い。
「おらぁぁ!!!ぶち殺すぞゴルァァアアアアアアアア!!!!」
「やってみんかいゴミがあああああああ!!!!」
酒が進むと、周りでテーブルをなぎ倒しながら殴り合いの喧嘩が始まる。
そうして夜遅くまでセンパイの酒の相手をし、寮に戻ってヘトヘトで眠り、次の日も朝6時出勤。
こりゃ恐ろしいところに来てしまったな。
でもやっぱり一応経験者なので、チャチャっと足場を組み、センパイの手元もそつなくこなしていたらすぐに馴染むことができ、他の素人で来てるやつらよりかはそこまで俺は雑に扱われることはなかった。
鳶バイトを始めて数日。
朝、同じように事務所に出勤して、たくさんの人が行き交う中、外の地べたに座って職長に声をかけられるのを待っていると、イカつい男たちの中に見たことのある顔がいた。
あ、あれ………?
あの人誰だっけ…………?
見覚えがあるんだけど、あんな知り合い俺にいたか?
誰だったっけなぁ?と思いながらバンに乗り込んで現場へ行き、仕事を終えて夕方に会社に戻り、食堂でどこに座ろうかとキョロキョロしていると、朝見たあの人が1人でご飯を食べていた。
あっ!!!
思い出した!!
「お疲れ様です、ホワイトさん!!」
「あ、お…………おう、ジョー。」
そう、ホストクラブで働いていた時に、60万円もの売り掛けを残してトンだセンパイ、ホワイトさんだった。
まさかこんなところで再会するとは。
未収で女の子に飲ませまくっていたものの、それを回収できずに姿を消した彼。
しかしホストクラブってのはイメージ通りに裏社会との繋がりが強い。
しっかりマークされており、ミナミでうろついてるところを捕まえられ、タコ部屋行くか?って脅されて、結局この会社にブチ込まれたのだ。
未収はそのままホストの借金になる。
逃げた罰金もあるはず。
現在は毎月5万ずつ返済しながら働いているのだという。
ご飯を食べて、ホワイトさんの寮の部屋に行った。
ホストのときもカッコいいなんて思ってなかったけど、一応髪の毛をセットしてスーツを着て、それなりにホストだった。
それが今じゃ髪の毛はボサボサ、ヒゲも生え、疲れ果てていて、目をふさぎたくなるようなブサイクだ。
部屋の壁にはホストの頃の宣材写真がかけられていた。
ホワイトさんは結構長いことホストをやってたので、ミナミのホスト雑誌にも何度か写真が載ったりしてたんだけど、その雑誌なんかも大事に持ってきており、自慢げに俺に見せてくる。
四国出身の彼。
親は蒸発しちまって帰るところもなく、家出で大阪にきたもんだから、身分を証明するものもなく、身よりもない。
「この会社サイアクやぞ。寮費とか作業着、食堂代、光熱費…………いろいろ引いたら月10万くらい持ってかれるからな。早く辞めて次のバイト探すんや。」
そう言う彼はもう24歳。
同じところで働いてるけど、シャンパンで送り出された俺と未収トバしてブチ込まれた彼とは雲泥の差だ。
これも人生。
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