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ランキング争いとホスト最後の夜







リアルタイムの双子との日常はこちらから







ランキングが決まる月末まであと残り2日になった。


この2日が勝負と、ホストたちみんな気合いが入りまくっている。




もうすっかりキャッチにも慣れ、この日も生キャに成功し、おばさんをお店に連れて行く。


今日、婚約までしてた彼にフラれたのだというこのおばさん。



「今日は歌いたい!!」



とカラオケを始めた。



カラオケか…………


というのもホストの世界では新規の客にはカラオケはなるべく歌わせたらいけないという店長の教えがある。


1時間飲み放題1200円のこの「1時間」は、20分でお互いの紹介をして、20分で客を褒めて、残り20分でイロを使う。


そう考えると、1時間はすごく短い。


その中でカラオケなんか歌わせるのは、楽しんでもらえるのはいいんだけど、その分、客のことを理解する時間が少なくなる。



「カラオケ歌いたがるってことは、お前らの話がつまらんってことやぞ!!」



店長の口グセ。




まぁ少しぐらい大丈夫だろうと、うまいよー!!なんて褒めてると、調子に乗ってジャンジャン歌い始めた。


マイク離さない。



「もー!!今夜は朝までいるー!!イェ~イ!!」



まだ2時。

やったぜ、これはすごい金額になるぞー!!って思ってたら、ドアマンのセンパイがこっちにやってきた。



「ちょっと歌わせすぎだよ。」




ボソッとつぶやくセンパイ。




「どーしたん?」



「…………あ、いや………ちょっと、カラオケ控える?」



するといきなり怒りだしたおばさん。


もう帰る!!と言い出し、結局15分ぐらいオーバーしてたけど1時間で計算してあげて、わずか1200円の売り上げ。


ポケットからお金を出そうとすると、ボサッと札束が出てきた。



やっちまったあああああああ!!!


この大事な時にいいいいいいいい!!!!!




はぁ…………





おばさんを見送り、ガックリしながらキャッチ場所に戻り、センパイたちにその話をすると爆笑されてしまった。



「そんなん、歌わせとったらよかったんやてー!酔ってきたら歌わんなるし、もう少ししたら俺らが戻ってヘルプ入ったのにー!!デカいの逃したなー。」



くそぉ…………











先輩のお客さんに化粧された。








そんなこんなありながらも、ついに5月最終日がやってきた。


決戦の日だ。


朝、お店が終わったらそのままソッコーで営業に繰り出す。


1人目の女の子が8時から12時まで。

2人目の女の子が12時から17時まで。

3人目とは17時からお店の同伴だ。



昨日の昼から一睡もしてないけど、気合いで女の子を楽しませ、今夜お店に来てもらえるように頑張る。



今、俺の順位は7位。

センパイのRさんが5000円違いで8位なので、何としても今夜で追いつかれないようにしなければ。



しかし今夜はラスト。

みんな気合入りまくっていて、何が起こるか終わってみなきゃ分からない。











お店がオープンし、少ししてから同伴で出勤。


順調に売り上げていると、夜中の2時くらいにトモコがやってきた。



「ラストまでいるね。」



俺の状況をわかってくれているトモコ。


看護婦さんの給料だったらきっと無理してくれている。


ほんとにありがとう。


おかげで7位は確定だ。








すると5時くらいにRさんのお客さんとPさんのお客さんが一緒にやってきた。


しかしまぁ、この状況から逆転はないな。


フフフ…………




「イェ~イ!シャンパン入りましたー!!」




今日はラスト。

気合いが入ってるのは俺たち2人だけではない。



よっしゃよっしゃ、シャンパンコールだ。


声が大きい俺はいつもシャンパンコールの時にはみんなから有り難がられている。



順位も安泰だし、思いっきり盛り上げてやろうかねと向かうと、そこはRさんたちの席。



ぐぅ!!マジか!!!


4万円のブーブクリコじゃねぇか!!!





いや、まだわからん。


これはPさんの客のオーダーかもしれない。


すぐにカウンターに向かい、伝票をチェックする。




P………ブーブ、¥2万
R………ブーブ、¥2万


 


……………ありえねぇ!!!




4万円のブーブクリコを2人で割って入れてるという共同戦線。


なんだよそれええええええ!!!!!

ズルすぎる!!!!!!


悔しいけども仕事は別なのでライバルのシャンパンコールを盛り上げ、席に戻る。







8位に陥落してしまった俺に、気の毒そうな顔をするトモコ。


多分俺がシャンパン入れていい?と言えばトモコは売り掛けで入れてくれる。


でも無理して来てくれてるこいつに、さらに4万のブーブをおろさせるなんてありえない。



落ち込んでしまいそうになるけど、せっかく来てくれてるトモコのために気持ちを奮い立たせて思いっきり楽しませた。










熾烈なデットヒートで大混雑だった店内も、クローズが近づくと1人また1人と帰って行く。



残ったのは店長の太客、アンさん。




ランキングのNo. 1は常に店長だ。


でも店長にはこのアンさん以外のお客さんはいない。


きっと他の客を全部切り、このアンさんが店長を独り占めする代わりに凄まじいほどのお金を使っているんだろうな。



「店のビール全部持ってきて!!」



またかよ…………



アンさんのラストオーダーで100本以上のビールがテーブルに並べられ、ゲームで負けたら1本をイッキという狂気のホスト殺しがスタート。



次々と気を失っていくみんな。


最後の方では、70本ぐらいのビールを掛け合い。


スーツごとびしょ濡れのやつもいれば、丸裸でかぶってるやつもいる。




店の営業が終わると、そこはビールの海。


起きているのは俺を含めて3人のみだった。


そうして最終日は幕を閉じた。

















6月になり、また静かな日々が戻った。


道頓堀アーケードは変わらぬ顔ぶれ。



ランキング争いが終わり、すっかり気が抜けてしまった俺は、キャッチにもろくに行かず、店でうだうだウェイターをやっていた。


ランキングがある程度上位だと、お店の掃除やキャッチが免除される。






結局俺の順位は16人中8位だった。


しかし、ミーティングのときに発表されて分かったんだけど、先月分の売り掛けを金額回収できたのは新人の俺だけだった。


センパイにもまだ回収できてない人いっぱいだ。



中には相当な売り掛けを残したまま姿をくらましたセンパイが2人いる。



さらに俺が最後で負けたRさんも回収しきれてないみたい。


売り掛けで順位上げるなんてずるいよなぁ。


ちゃんと店に入れた売り上げでいったら俺は5位だった。







家出をしたサキは、あれから居酒屋のバイトを始め、順調にやってるようだった。


ミナミの居酒屋なので、サキはたまに仕事帰りに俺たちのキャッチ場所へとやってきた。


元気そうにはしているものの、相変わらず笑顔に影がある。



「今、2番目のお父さんのとこに住ませてもらってる。しばらくは今のバイト続けるわ。」



これで良かったのかどうか。


でも風俗に行かずに済んだのは、きっと良かったと思う。




















ホストも残り数日となり、気が抜けてボケーっとしていたんだけど、なぜかそうなってから生キャも新規も面白いように店に入ってくれた。


もうランキング争いもないし、別に来なくていいって言ってるのにお店に来てくれたり、テキトーにキャッチしたら行く行くー!!ってなったり。


え?そ、そんな簡単に?ってこっちが驚いてしまう。




なんかこうやって力が抜けてるほうがいいのかもしれんなあああああああ。


ギラギラ目を光らせて店来いいいいいい!!みたいに迫ると女の子も引いてしまうんだろうなああああああ。





この1ヶ月、キャッチして手に入れた電話番号やメールアドレスはヨユーで100件を超えている。


平行して10人くらいと同時にメールをしまくるということにもすっかり慣れた。


そうやってマメに女の子を繋いできて、1ヶ月経ってようやく芽が出てき始め、この調子なら来月の売り上げはまぁまぁいい線いくと思う。



でももうホストは嫌だ。

嘘つかなくていい仕事がしたい。









この日は、系列店のボスで、一晩の売り上げ1200万円という伝説を持つ大阪ホスト界の大御所、Gさんがお店にやってきた。


お前ら飯食わせてやる、ということで、お店が終わったら全員でそのGさんに引き連れられて、ミナミの朝の街を歩いた。


サラリーマンたちが出勤して行く中を、スーツ姿の異様な集団が歩く。




高そうな焼肉屋さんに入ったんだけど、全部おごりだから上のつくやつしか頼まなかった。


朝から焼肉なんて人生初だよ。


15人ぐらいで行ったけど…………一体いくらになったんだろう?


こんなトップクラスのホストは信じられないような月給を手にしてるんだろうな。




   










心斎橋に来てからあっという間に1ヶ月ちょいが経った。


この日がホスト最終日。


初日にわけもわからないままドルチェ&ガッバーナのスーツを着させられたのがつい先日のよう。


途中からずっと私服のロンTとかを着て仕事してたんだけど、ラストってことで、お店で俺ことを1番可愛がってくれていたセンパイのエムさんが、自分のヴェルサーチのネクタイ、ゴルチェのスーツ、グッチのタイピンを貸してくれた。


高級なスーツを身に纏うと一端のホストになった気分だ。
















さぁ行くぞ!!と、今まで覚えたテクを全部駆使してキャッチ。


でもつかまらない。


まぁそんなもんか。



すると2時くらいにエムさんから電話が入った。



「お前もう戻って来い!!」




店に戻ると、8番テーブルにエムさんと、エムさんの常連のフミコさんがいた。



「おらー!!ジョー!!こっち来いやー!!」



「今日は使っちゃうぞー!!ジョー覚悟しいやー!!」



中学生の頃からお水をやってる夜の世界の大ベテランであるフミコさん。


年は俺と一緒なんだけど、ヤクザの女になったり風俗をたらい回しにされたりと人生経験がとんでもない人で、そのフミコさんが店にやってくると俺が必ずヘルプについていた。


ヘルプの達人、エムさんが自由に店の中を動き回れるように。



おかげでエムさんがいない間に2人でいろんな話をしたもんだ。

お客さんの中で美香の存在を話したのもフミコさんだけ。

フミコさんもエムさんにしてない話を内緒でしてくれたりした。







ギャンギャン飲んで、しばらくすると2人がニヤニヤしながら言った。



「ジョー、ちょっと目つぶれや。いーから!いーから!!」



10秒ほど目をつむる。



「いーぞー!!目ー開けろー!!」



パッと開けると、目の前に花束。


カラーというその花の花言葉は「純粋」。






「ジョーには、いつまでもその純粋さを忘れんでほしいっていう意味やで。」



「ジョー!!おつかれさまー!!」




…………かなりやばかった。


あと1ミリで涙出そうだった。



『JOE、今まで本当にお疲れさま!!これからいろんなことあるけど、頑張ってね!!エム&フミコ』



メッセージカードにそう書かれている。



「ああああもう!!!!今日は死ぬぞー!!」



思いっきりグラスをあおった。











「よーし!!ジョー!!もう1回目つぶれ。」



しばらく飲んでると、また目をつぶれという。


次は何だーとおとなしく目をつぶっていると、いきなり店のBGMが消えた。






シーーーン





静まりかえる店内。




な、なんだ……………?








……………ジャンジャカジャーージャーージャーー!!



聴きなれた爆音。


そうだ、これはシャンパンコールのBGMだ。



「いくぞおおおお!!!ジョー!!目ぇあけろーーー!!」



Pさんのマイクでの絶叫が響き、目を開けると従業員全員でクラッカーが打ち鳴らされた。



「今夜は!!ジョーの退店を記念して!!フミコさん&エムから!!素敵なブーブを頂きましたーーーー!!イェエエエエエエエ!!!!それでは感謝の気持ちを込めて!!3回行くぞおおおお!!!!」



4万円のブーブクリコをホストたちが回し飲みしていく。



「おっしゃー!!そんじゃシメのイッキ行くぞー!!やっぱり今夜のラストはこの人にイってもらいますかー!!フミコさん、ご指名どうぞー!!!」



「ジョー!!!」



「イェーーーーーイ!!!」



「ウギャー!!!」



もう壊れまくりでRさんフルチンになってるし、あのいつもクールでシャンパンコールなんて絶対に参加しない店長も大声で盛り上げてくれている。


嘘だろーーー!!!!


まだ半分以上残ってるブーブを胃の中に流し込む。



Rさんの下の毛に火がつけられ、ボワッと燃え上がると店内は爆笑に包まれた。














BGMも元の曲に戻り、ブーブの空ボトルにみんないろんなことを書いてくれる。



「ジョーは、今まで行ったホストで一番いいヘルプやったわー!!」



「おっしゃ!!ジョー、他のヘルプまわってこいや!!」



いつものお客さんとこに挨拶をしてまわり、初めてヘルプについたときのことなんかを話してまわる。



「ジョー、頑張ってね!!」



「店、戻ってきなさいよ!!」




すると5時ぐらいに、トモコが来てくれた。


結局トモコが一番の客だったな。




席に着くと、今度はエムさんがソファーを飛び越えてやってきた。



「はーあーいー!!トモコさーん、今日はどぎゃんなー!!」



さすがのテクニックで盛り上げてくれるエムさんと3人で楽しく飲んだ。















7時になり、お店のクローズの時間がきた。


俺のホストもこれでおしまい。



トモコを見送ってエレベーターを降り、ビルの出口で別れを言う。



「また連絡するよ。」



「…………いや…………連絡なんてしないで。」



「どうしてだよ。」



「もうこれ以上つらくしたくないよ…………バイバイ。」



「……………………」




同情か、なんだったのか、突然涙が出そうになった。


そんな俺のことを見つめているトモコの肩を持ち、クルッと前を向かせて背中を押した。


振り返ろうとするトモコがかすかに見えて、すぐに俺も踵を返し、エレベーターに戻る。




3つあるエレベーター。

そのひとつに乗り込むと、向こうのエレベーターからエムさんとフミコさんが出てくるのが見えた。


閉まりかけたドアをこじ開け、走る。



「イェーーーイ!!!」



が、勢いよく走ってったはいいものの、涙があふれてきた。

フミコさんとエムさんに腕を持たれて、涙が止まらない。



「あーーもーーくっそー…………腹立つわあああ………」



そう言いながらエムさんも涙がこぼれている。




フミコさんがタクシーに乗るのを見送り、エムさんと泣きながら肩を組んで店に戻った。




店の中ではみんなが片付けをしていた。


涙を気づかれないように、外で目をこすって、なんとかバレないようにしてから中に入った。






【大阪ホスト編】


完!!






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