ゆうべ、お祭りが終わったのが夜中の2時か3時だった。
あれだけ汗だくの裸の男にまみれまくったというのに、周辺にどこにも24時間のお風呂屋さんがないなんてマジで勘弁して欲しい。
しかも雨で地面がぬかるんで泥まみれにもなってる。
結構離れたところに健康センターはあったんだけど、1人3千円もするので諦め、仕方なく公園の水道で泥だけ洗ってお風呂に入らずに寝た。
俺はまだ大丈夫なんだけど、美香はもう精神的にイッてて、髪をボサボサにして魂抜けきってる。
たまにエヘヘ………エヘヘへ…………とかって笑ってる。
というわけで翌日は2人して汚い体で後楽園にやってきた。
日本三大名園のひとつ、後楽園。
文化財保護法による特別名勝地にも指定されていて、後世に伝えるべき歴史的文化遺産。
ものすごく広くて整えられた日本庭園。
梅の木もたくさんあり、色とりどりの花を見てると春が来ることを今年初めて実感した。
そして梅の花があんなにいい香りがすることを美香に言われて初めて知った。
狂ったように鳩を追い掛けまわす美香。
後楽園を出てマクドナルドのドライブスルーで買ったポテトをモグモグ食べてる美香に、
「太るよ。」
ってボソッと言うと、持ってたポテトを運転してる俺に投げつけ、後部座席に転がり込んだ。
何だ!?とポテトを拾いながら後ろを見ると、毛布に包まってモゾモゾしてる。
美香の扱いはほんと難しい。
「おい!!おーい!!美香ちゃーん?」
「……………………」
もう何を言っても動かない。
今夜はお世話になった叔父さんに美香を会わせる約束をしていた。
俺の夢がバーテンになることと知ってる叔父さん。
「いいところに連れてってやる。」
と言ってくれ、水島の飲み屋街にやってきた。
寂れた水島の繁華街には不釣合いなほどオシャレなバー、アンダンテに着くと、いきなり6千円のシャンパンを開けてくれる叔父さん。
カクテルも料理もうますぎだった。
それから叔父さん行きつけのトライアングルっていうスナックでウィスキーの水割りをしこたま飲んだら、久しぶりにやばいくらいに酔って、何とか吐かないように頑張った。
叔父さんも美香も酒が強いので、ウィスキーからさらにワインをあけてる。
吐くのはだいっきらい。
記憶が無くなってしまう。
叔父さんはいつものように「ホッホーイ!!」と叫んでる。
美香はすましている。
翌日、叔父さんの家で目を覚ました。
叔父さんはすでに仕事に出かけている。
お酒もご飯もご馳走になり、泊めてもらって、あんなにたくさんバイト代ももらって、ホント叔父さんにはお世話になりっぱなしだ。
この日は、水島に来て最初にお世話になったお好み焼き屋さんの正ちゃんにやってきた。
「おばちゃん久しぶりー!!」
「あらーー!!かわいい彼女じゃなぁー。はよ宮崎に帰らんと今に取られてしまうよ!!」
相変わらず元気なおばちゃん。
困ってるところをたくさん助けてくれたおばちゃんに、こうして美香を会わせられてすごく嬉しかった。
焼きそばとミックスを食べ、あれからバイトをしていたんですと、たくさん話をした。
腹ごしらえしたら次は最上稲荷へ。
山の中腹あたりに寺が見えるんだけど、随分と離れたところにある駐車場。
順路を辿ると、細いゴミゴミしたアーケードのような参道に入る。
ここを通らないとお寺には行けないみたい。
小道の両脇に、ダルマと招き猫とフクロウの置物ばっかり並べた同じような土産物屋が、ずーーーっと続く。
ずーーーーーっとそればっかり。
だいぶ歩き、やっと最上稲荷に到着したものの、ぶっとい綱があるぐらいで、他に見所はなかった。
今夜も叔父さんの家に帰り、今日は部屋で酔っ払った叔父さんの「愛について」の話を延々と聞かされた。
正座して、はい、はい、とうなずく俺と美香。
徳島のフィリピンパブでこの世の終わりみたいな大騒ぎをしていた話は美香には内緒。
と見せかけて美香はもちろん全部知ってる。
次の日、叔父さんにお礼を言って車に乗り込み、町を出る前にお好み焼きの正ちゃんに寄ると、おばちゃんが缶ジュースのギフトセットを用意していてくれた。
「たまには電話してな。これ持って行きー!!」
左のサイドミラーで、姿が見えなくなるまで手を振るおばちゃんを見ながら結構寂しかった。
おばちゃん、元気でいてね。
美味しいお好み焼きありがとう。
それから玉野の由加山というところにやってきた。
由加山には由加大権現蓮台寺がある。
本堂内を見学し、畳の大広間で礼拝作法の表を見ながら美香と手を叩いたりしてると、ドヤドヤと20人くらいの団体さんが部屋に入ってきて、俺たちの周りに座った。
立とうとする美香を、面白そうだからと引き止めてると、いかにもお坊さんって服を着た人が入ってきた。
「えー本日は、みなさん名古屋からお越しくださったということで、遠いところからわざわざお越しくださりありがとうございました。うんたらかんたら。」
「や、やばくない…………?」
美香と目で会話するが、今更立てないので素知らぬ顔で団体に混じっていた。
でも実際はやばいことは何もなく、逆にお坊さんの一期一会のありがたいお話を聞き、お祓いまでしてもらって、さらに美味しいお茶まで飲ませてもらった。
「良かったねー。」
2人で笑いながら、山を降りた。
翌日、牛窓という海沿いの町の展望台で目を覚ました。
起きたときに景色がいい場所がいい、という美香のお願いで、昨夜のうちに海に面した高台にあるオリーブ園に到着していた。
料金所のゲートが開いていたので勝手に入り、展望台の一番見晴らしのいい場所で寝たわけだけど、美香が喜んでくれるような景色が見られるかな。
なんせ牛窓は日本のエーゲ海なんてキャッチフレーズがあるとのこと。
そりゃあもうギリシャみたいな美しい島なみの景色が広がって…………
と思ったらどっからどう見ても純和風の漁港。
ただの鳥羽一郎のホーム。
何がエーゲ海だ!!!
兄弟船のモデルか!!!
でもまぁそれなりに綺麗ではあったかな。
名所もなく、強いて言えば、西日本最大級のヨットハーバーがあるってくらいだった。
昼ごはんを食べた後は日生町に向かった。
日生はカキの町。
有名な五味の市に行くと、カキばっかり売ってある。
近くにカキの殻やホタテの殻が山のように積み上げられており、時代劇に出てくるヒモで連ねた投げ銭みたいに綺麗に整理してあった。
牡蠣買いすぎ。
昨日風呂に入れなくて、美香が軽く壊れ始めたので、夜は和気町の鵜飼谷温泉へ。
ここ安いのに設備が充実しててすごくいい温泉!!
美香が風呂から出るのがいつもより遅かったから間違いない。
今日のシメは鵜飼谷温泉に隣接してあるラーメン屋さんで餃子を食べながらビール。
最高っ!!
さぁ次々いってみよう!!
翌日は備前の町へゴー!!
岡山県備前市は、焼き物の町。
日本6古窯ってやつのひとつらしく、町全体が焼き物の窯元やギャラリーで溢れていた。
人間国宝の山本陶秀さんの素朴な作品を座り込んでまじまじと見つめていると、1人の人間が生きて、死んだという、人生やそんなもの抜きにして、ただその2つだけを感じて変な気分だった。
陶芸を理解するにはまだまだ若すぎるけど、年をとったらこの陶器に何が見えるようになるのかな。
焼き物ってすごく面白いな。
備前を堪能したら、岡山市内に美香の高速バスのチケットをとりに行った。
去年の末に買ったゴリラのマスクを2人でかぶりながら車を運転していると、すれ違う車の運転手や通行人の驚く顔がすごくおもしろい。
ていうか岡山、すっごい街!!
こんな都会なんだな。
街すぎて運転が疲れてしまうので、バスチケットだけ取ったらさっさと岡山市を抜け出した。
足守の町並み保存地区へ着いた頃にはすでに真っ暗になっていた。
たまにはコンビニ弁当でも食べようかと、武家屋敷の駐車場に車を停めてミニパーティーをした。
うん、連日いい感じにあちこち行けてると心が晴れやかになる。
お金も今は充分あるし、ファントムも修理して調子いいし、この調子でどんどん先に進むぞ。
コンビニ弁当、うまいっ!!
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