船が動く。
ゆっくりと岸壁を離れ、速度をあげていく。
遠くなる日本の陸地。
吐き出される黒煙。
船内放送は韓国語なので何を言ってるのかわからない。
さっきヒッチで乗せてくれたお兄さんがくれたセブンスターをぼんやり吸っていると、白人のおじさんが声をかけてきた。
もちろん英語。少したじろくがなんとか会話はできる。
俺のこれからの旅、彼のこれからの旅、そんな話をした。
イギリス人らしく、今まで世界中を回って、今回も北欧からモンゴルまで色んなところを旅する予定だという。
俺が世界に行くのは初めてだと言うと、
おじさん
「ビッグアドベンチャー。」
文武
「うん、おじさんもやん。」
おじさん
「イエー、マイラストアドベンチャー。」
初老の彼は遠く海を見ながらそう言った。
シワの刻まれた目尻。
潮風にゆれる白髪。
その顔はまさにハリウッド映画のクリントイーストウッドみたいに人生を雄弁に物語っていた。
セイリングを歌ったら彼は微笑んでロッドスチュアートと言った。
部屋に行くと、そこは二段ベッドが4つ並ぶ8人部屋。
日本人の男が2人。
韓国でおりるおじさんと外国語学校のショッペー。
2人とも外国経験豊富な旅人で、外国での話をリアリティを持って話してくれる。特にショッペーはカウチサーフィンだとかクーポンの鉄道券だとか賢い旅の仕方をたくさん知っている。
デッキに出て日本人3人でビールを飲んだ。
500mlが500円。
喉に流し込むとすでに不安もなにもなくなっていた。
もう日本の影はどこにもない。吹っ切れたように俺の意識は世界に向いていた。
ショッペー
「はぁ?!あと6000円?!あはははは!!俺この人大好き。初日からこんな面白い人に会えるなんて!」
残金6000円。なんとかなんだろ。
楽しくてビールをもう一本。
勢いがついてしまい、広間でギターをいじってる韓国人の若者にからむ。
文武
「ベロベロー!韓国の女の子を口説くハングルのセリフ教えてよ。」
若者
「んー………ノーキヨウワ。」
文武
「ノーキヨワ?」
若者
「はいはい。アー!ソリ!」
若者が同じグループのかわいい女の子をこっちに読んだ。
「猟奇的な彼女」のヒロインみたいな気の強そうな女の子。
文武
「ノーキヨワ。」
女の子
「アー!」
恥ずかしがってる。かわいい。
Facebookの名前を交換した。
部屋に戻るとベッドの上でショッペーが日記を書いていた。
ショッペーは英語ペラペラで旅慣れしてるようだが、俺がどんどん知らない人に声をかけまくってるとこにはついてきてくれない。
真面目なんだろうな。
ていうか俺が浮かれすぎなのか。
いや、浮かれたっていいじゃん。
初日からこんなに楽しくていいのか?
異文化交流ってこんなに楽しいのか?
もしかして世界って楽しいことばっかりなんじゃないのか?
タバコを吸いにフラフラとデッキに出た。
酔った体に潮風が心地よい。
周りはどこまでも暗闇だった。空も海もない、途方もない漆黒の闇。その中を飛ぶ飛空艇。
知らない場所に行くんだ。