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ここから新しい旅が始まる



2017年5月10日(水曜日)
【南アフリカ】 ケープタウン ~ 喜望峰






目の前に広がる水平線。


青い色。







沖縄の海を思い出した。


あの日、石垣島の平久保崎から見た青い海。



原付バイクを止めて丘の上を歩き、1人ぼっちで海を眺めていた。



日焼けした肌、長い髪の毛、二十歳の夏。





遠い昔の日。





















「さあああ!!行くぞおおお!!」



「いえーい!!行っちゃうぞー!!」



朝8時前に宿を出発し、まだ静かな町の中を歩いて予約しておいたレンタカー屋さんにやってきた。







この前のベテラン黒人さんの横には今日も白人の新人さん。


先輩黒人さんに受け渡しの手順を教えられているけど、そりゃたった2日じゃ慣れないか。


今日もおどおどしている。






ベテラン黒人さんのスムーズな手続きでチャチャっと受け渡しを済ませてからパパッと車に乗り込む。


うん!!ボロい!!




ドアを閉めるとガコン!!って変な音がしてズレながらハマる系のやつで、クラッチが浅すぎてめっちゃ離さないと前に進まない。



しかもアクセルを踏み込むとウィイイイン!!って空回りしてスピードが出ないというプラグが終わってるやつ!!



ビビる!!こんなの貸したらダメ!!



レンタカーの値段はフルプロテクションの保険込みで1日350ランド、2970円。



















ケープタウンは近代的な大都会なので車も多く道も複雑で、町を出るまでかなり緊張する。



ぶつからないよう気をつけて安全運転し、なんとか市街地を抜け、郊外の綺麗な道を南へと走った。




ケープタウンの市街地を抜けても、市域はとても広いのでどこまでも町が続いていく。


テーブルマウンテン、ライオンヘッドが青空にそびえ、その向こうにもいくつもの岩山と丘陵が連なっている。



目立たない展望台があったのでちょっと寄り道した。


眼下に広がるケープタウンの町と海が霞んでいる。

















喜望峰、って聞いてみんなはどんなイメージをするだろ。




アフリカ大陸の南端、


見渡す限りの荒野、


サバンナと砂漠、


この世の果て、




長い長い旅路の果てに、ついにたどり着く世界の端っこ。


荒涼とし、殺伐とし、誰もいないどん詰まりに立ち尽くす。



そんなイメージだ。







そんなイメージだったんだけど、まぁこんな有名な観光地が殺伐とした誰もいない場所なわけないわな。



それからもしばらく海沿いの道を走っていると、やがて建物がなくなっていき、岬の道路らしくなってきた。


風が強く、海がかなり荒れている。

波が崩れるたびに白いしぶきが空に舞い上がる。



















ケープタウンを出てから1時間半くらいしたところで、道にゲートが現れた。









ここから先は喜望峰の保護エリアだ。


入域料は1人135ランド、1150円。




ゲートを越えると寂しげな道が岬の端に向かって伸びている。


いつか走った、日本の岬の有料道路みたいだ。















そしてしばらくすると広い駐車場に到着した。


いくつかの車が止まっており、綺麗に整備された歩道が坂の上に続いており、その先に灯台が見える。

みんなあそこを目指して歩いているよう。



この岬の端にはふたつの突端があり、ひとつがケープポイントというところ、もうひとつが喜望峰になる。


俺たちが最初にやってきたのはケープポイントだ。





車を止め、カンちゃんと手をつないで歩いた。


周りに広がる海はとても青く、岬らしく風が強い。


白人の観光客たちが楽しげに記念写真を撮っており、黒人さんもいいカメラを持って家族の写真を撮っている。


ほのぼのとした、和やかな観光地の風景。












































坂を登り終えて灯台にたどり着くと、目の前にものすごい断崖絶壁が現れた。


このケープポイントの端っこは切り立った断崖になっており、それが少しずつ低くなりながら海に沈んでいっている。


相当な高さがあり、波がぶち当たって砕ける潮騒がうるさいくらいだ。


こいつは大迫力だ。










せっかくここまで来たんだから行けるところまで行ってみようと、灯台の裏に回って、人がほとんどいない遊歩道のほうを進んでみた。


どうやら観光客は灯台あたりまでしか行かないようで、こっちはとても静かで、人は誰もいない。


潮騒もこっちには届かず、不思議なほどの静寂だった。



静かな海、こいつは大西洋かな、それとも南極海か。










遊歩道はさっきの断崖絶壁の上に続いており、足元がスースーする気分で岬の先端を目指した。


こうした陸の先っぽにはなぜか崩れた廃墟があるもんだけど、ここにも何かの建物の残骸が風に吹かれていた。













そしてしばらく歩いていくと、道が終わった。


遊歩道がどん詰まりになりここから先は入ったらダメだと、色あせた看板がたっていた。


崖はもう少し先まで続いており、岩場に隠れるように向こうに小さな灯台が見えた。


誰にも近寄られない崖の上で、寂しげに海に向かっていた。














目の前に水平線が広がる。


青くて、風が強くて、なにもない開放感。


心細くなるほどなにもない。





ふと、沖縄の海を思い出した。



20歳のときに旅を始めて、最初に渡った沖縄で見た海はとても綺麗だった。


宮崎の海とは全然違ってて、なんだか果てしなくて、どこかに続いていることを想像させた。





この海の向こうになにがあるだろう。


どんな場所があって、どんな人たちがいて、どんな暮らしがあるんだろう。


そんなことを想像しながら、海を眺めていたあの20歳のとき。



よく日焼けして、髪の毛も今より多くてサラサラしてた。

破れたジーパンにウェスタンブーツを履いていた。






あの時見ていた海と、この海は繋がっている。


ここは、あの時沖縄から眺めていた海の先だ。




今、こうしてアフリカ大陸の先から眺める先に、遠い日の沖縄がある。


あそこにはもう戻れない。


夢と希望に満ち溢れた、無防備な若者にはもう戻れない。






でもあの時の俺に自慢したいな。


俺ここまで来たぞーって言いたい。


いろんなことがあって、色んなことを乗り越えて、たくさん友達ができて、たくさん経験して、長かったようであっという間だった旅の時間を経て、今俺はここにいる。



沖縄のころの俺、グッジョブ。ありがとう。


お前のおかげだわ。











水平線が広がっている。

海と空が青い。


あと10年後に、俺はどこの岬に立ってこのケープポイントにいる自分を振り返るかな。




人生短かいんだろうなぁ。



















ケープポイントめっちゃよかったけど、喜望峰は全然なんてことなかった。




ケープポイントの横にある岬の突端なんだけど、車でブーンと近くまで行くと駐車場があり、周りにはただの磯が広がってるだけ。


マジでただの磯。


そこにケープオブグッドホープの看板があるだけ。










すごい数の観光客たちがその看板に群がっており、他にやることもないのでみんなで順番に記念写真を撮っている。


世界中から訪れた様々な人種が、みんな笑顔で写真待ちの列を作っていて、まぁ風情もなんもない。








正確にはバルトロメウ・ディアスというポルトガルの船乗りがヨーロッパ人として初めてこのケープオブグッドホープを発見した。


しかし海が荒れる地域だったために、バルトロメウはやむなく引き返すことになる。


その経験にちなみ最初は嵐の岬と呼ばれていたそうだけど、もしここを抜けることができればその先にインドが待っており、香辛料貿易のルート短縮になる。



それは大航海時代に海の向こうを目指したポルトガルの大きな希望。



そしてこの岬は喜望峰と名付けられた



その後、バスコダガマがインド航路を開拓し、補給港を作るべくオランダ人入植者によってケープタウンが築かれた。








ケニアから始まったアフリカ陸路の旅の果てに今こうしてこの岬に立ち、ついにここにたどり着いたんだという思いがあるけども、この喜望峰という名前を見ると、どこかこれまでの旅路を労うものではなく、この先の旅路に対しての願いみたいに思えてくる。



そうだよ、ここは達成したことを祝う場所じゃないんだよ。


ここはこの先に待ち受ける大いなる旅へのスタートポイントなんだ。






まぁ、ただの磯だけど。


ていうかなにこれキモっ!!!!!










なんかホースみたいなのが打ち上げられて岩の上でウルトラ絡まってるんだけど量が半端じゃなさすぎる!!!


しかもよく見たらそのホースの上を尋常じゃない数の虫が蠢いてる……………







「キッモ!!なにこれキモっ!!!」



「キモいーー!!!キモウ峰やー!!」




喜望峰の思い出、キモい虫です。

























俺たちも観光客の列に並んで、知らない人と写真を撮りあったら、これで喜望峰は満足だ。



車を走らせて半島を北上していく。




でもケープタウンに戻る前にもうひとつ行っておきたいところがある。


それがペンギンのビーチ。


アフリカペンギンが大量に見られるという場所が喜望峰の近くにあり、喜望峰観光は岬とペンギンのセットで回るのが一般的だ。









というわけでやってきたのは喜望峰とケープタウンのちょうど真ん中くらいにあるサイモンズタウンという町。

















海沿いのほんの小さな町なんだけど、ここはかつてイギリスの海軍基地があった場所らしく、イギリス統治時代の面影を色濃く残している。



確かにイギリスらしい綺麗で古めかしい建物が通り並んでおり、さらによく整備されたハーバーにはいくつかのオシャレなカフェやレストランが並び、イングランドで訪れた田舎の美しい港町によく似ている。



欧米人の年配旅行者たちがテラスでのんびりくつろいでおり、静かな保養地って雰囲気だ。

















港の向こうにはネイビーの軍艦らしきものも見えるし、ヘリコプターも飛んでいる。


今でも海軍基地として稼働しているのかな。














海辺のフィッシュ&チップス屋さんでチキンバーガーを食べ、ハーバーで観光客相手に路上パフォーマーがコーラスをやっているのを聞きながら散歩し、それからペンギンビーチにむかった。



サイモンズタウンの町から少しはずれのあたりにあるこの場所。


車がたくさん止まってる駐車場に入ると、駐車場整備のおじさんが声をかけてきた。



「ペンギン見たいなら1人70ランドだよー。でもお金節約したいなら横の遊歩道にもペンギンいるからそれで充分だよー。」




え?そうなの?


ここはボウルダーズビーチという砂浜で、そこに大量のアフリカペンギンがいるということなんだけど、そのビーチに入るためには入場料がいる。

1人600円。



でもそういうことならばと車を止めて歩いて行き、ビーチへの入り口を通り過ぎて遊歩道のほうに行ってみた。














「本当にビーチまで行かなくてもペンギン見られるのかなぁ。」



「そうだねー。ペンギンってそんなに近くで見られるかなー。」



「そうだねー、ハウアッ!!!!!!」








めっさおる。













ペンギンおりまくり。





「カンちゃん!!ペンギン!!すごい!!ピクリともしない!!」



「ねー!!ビビるくらい全然動かないね!!」



ここは海沿いの林の中にのびる遊歩道なんだけど、確かに藪の中にめっちゃペンギンがいる。


こんな近くで見られるのかよ!!












ちゃんとフェンスで保護されてるし、もしペンギンに触ったり餌をあげたりしたら罰金になるけども、マジで数十センチの距離でペンギンが見られる。




それにしてもピクリとも動かない!!



いやー、旭山動物園でお散歩してたペンギンたちは元気にペタペタ歩いてたよなぁ。



それに比べてここのアフリカペンギンたち、まったく動かないなぁ。



うぃー、ねみーねみーって感じで、みんな目をしばしばさせて眠そうな顔をしてる。











「カンちゃん!!お腹がカンちゃんみたいだよ!!なでなでしたい!!」



「ペンギンちゃうし!!くびれてるし!!」





現在は産卵の時期らしく、運良くペンギンの赤ちゃんも見ることができ、いやー、これならお金払ってビーチ入らなくてもいいやんーってルンルンで遊歩道を歩いた。


すると木々の隙間から奥のビーチが見えた。










ゲロおる……………





白い砂浜にペンギンおりまくり。



岩場の上でもペンギンたちが寝っ転がったりペタペタ歩いていたり、なんなら透き通った海の上を可愛く泳いでるペンギンもおるやん。





奥のほうのビーチでは海水浴もオーケーみたいで、ペンギンと一緒にビーチで泳ぐという、世界中探してもここだけじゃないのか?っていう遊びができるみたい。





ビーチ自体もすごく透明度が高くて、こんなに綺麗なビーチでペンギンと一緒にたわむれることができるなんてそりゃお金払う価値あるわ。




















行くべき場所に全部行き、満足してケープタウンに戻っているとき、ふと変な光景が見えた。



この整備されたヨーロッパみたいに綺麗な南アフリカ。

住宅地はどこも立派な民家が並んでおり、もはやアフリカっぽい掘っ建て小屋なんてほとんど見かけていなかったんだけど、そんな中で道路の向こうに見えたのはなにやら銀色の集落だった。



山の斜面に小さな銀色の何かがギュッと密集しており、そこだけ異様な雰囲気が漂っている。



あれなんだ?と思ってその集落に向かってみた。










近くにしたがって、道路脇にたくさんの黒人さんが座り込んでいるのが見えてきた。


綺麗な大通りにはガソリンスタンドやスーパーが並んでおり、その裏通りに行くと一気に色んなものが汚くなった。




そしてひとつの脇道に入った途端、急に景色がアフリカになった。


なんだこれ…………











写真ではほとんど分からないけど、さっきの銀色の密集はトタンの建物だった。



小さなトタンで囲われただけの小屋がぐじゃぐじゃ!!っとすごい密度で固まりながらひろがっており、その一帯だけが荒れ果てたスラムになっていた。



洗濯物が干されているのを見ると、これらは民家のよう。

一目でここが貧しいエリアだってのがわかる。



そしてたくさんの黒人さんがフラフラと歩いているんだけど、白人さんの姿は見事なまでに皆無だ。





これがもしかしてアパルトヘイトの名残なのかな。

当時から続く黒人居住区なんだろうか。






南アフリカの都市部は確かにヨーロッパやオーストラリアみたいに近代的なビルがそびえる大都会だ。

全てが整備されており、整然としており、規律で整っている。


教育を受けた人々は知性に溢れ、資本主義社会の経済を支えている。





しかしそれはきっと都市部だけの話なんだろう。


地方都市や小さな町、そして裏通りに行けば、今でも貧しい黒人さんたちがあばら家で暮らしているんだ。





すげぇな…………


この南アフリカって国がどんなところなのか、まだ全然見えて来ない。


今はもうこの国は立派に独立しているけども、でもこうやって発展した都市部と現地の貧困層を見てみると、まだここはイギリスの植民地のままじゃないのか?って思えてくる。




なんて不思議な国なんだろ。


これもまた、TIAなんだろうなぁ。


少しだけスラムの中を回ったけど怖くてすぐに抜け出した。






















朝8時に出発してケープタウンに戻ってきたのは17時だった。


そして車を返す前にレンタカー会社指定のガソリンスタンドで満タンに給油。




今日の走行距離は171キロ。

うん、結構走ったな。




そしてガソリン給油量が…………83ランド。700円。




あれ?6.2リットル?



え?170キロ走ったのに6.2リットルって燃費良すぎじゃねぇか?






しかしちゃんと満タンに入れてもらったのは間違いない。



なんかおかしいなと思いながらもレンタカー会社に返却に行くと、車のチェックをしていたスタッフさんが、もう一度ガソリンスタンドに行くぞと言った。




「君たちはガソリンをフルで入れたみたいだね。でも私たちが貸し出しをした時にはフルのフルのフルで入れてるんだよ。ただのフルじゃなくてフルのフルのフルにしてもらわないといけない。」




知らんし!!


それなら提携してるガソリンスタンドのスタッフにちゃんとフルのフルのフルで入れるよう言っといて!!!





レンタカー会社のスタッフさんの運転でガソリンスタンドに戻ると、フルになってるところにさらにガソリンを入れていく。


ポンプのセンサーが反応してガコンガコンと給油が止まるのに、それでも極限まで入れていき、結局さらに80ランド分払うことに。


さっきと合わせて12リットル給油。



つまりリッター14キロ。まぁそんなもんか。



















とにかく無事にレンタカーで喜望峰とペンギン観光完了だ。


はっきり言ってあんまり達成感はない。ていうか、あれ?喜望峰行ったの?ってくらい肩透かし感がある。


ケープポイントは良かったけど、喜望峰はただの観光客まみれの磯だ。




アフリカ旅も終盤にきて、もう次の旅先へ心が行ってしまってるのかもな。








ケニアに着いた時、なにも想像がつかなくて怖かったアフリカ旅。


はるか遠くに霞んでいた喜望峰にとうとうたどり着き、もうこの大陸を出る日まであとわずかだ。


もう次の旅が目の前に来ている。




アフリカすごかったな…………











って、おい、まだ終わってないぞ。


ここからまだ1週間かけて南アフリカを旅するんだ。


最後まで気を抜かずに出国の飛行機に乗り込まないと。








グッドホープはここから始まる旅への希望。


ここで終わるんじゃない。


ここから新しい旅が始まるんだ。

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