2016年3月20日(日曜日)
【インド】 アラコナム
「オーケーフミ、準備はいいかい?さぁ乗って。」
朝、タンクの水でバシャバシャと顔を洗って荷物をまとめる。
太陽がおぼろげに森を照らしはじめた早朝の学校にバイクのエンジン音が響いた。
ピンク色の空が静かに1日の始まりを囁いている。
原野の中の小さな学校は、日曜日の休息で自然の中に溶け込んでいた。
3日間滞在したこの学校ともこれでバイバイ。
リコーダーは果たして有意義に使われるだろうか。
でも日本人の信頼できる先生がいるこの場所ならば、他の学校に飛び込みで寄付するよりもはるかに安心だ。
しかもコズエさんは情操教育の一環として前からリコーダーを欲しがっていた人。
間違いなく子供たちに教えていってくれるはずだ。
俺もインドにいる間にもう一度ここに来て子供たちに音楽を教えよう。
リコーダーをくださった方々の気持ちに少しでも応えないと。
そして俺自身のやるべきことなんだから。
学校に駐在しているインド人の男性のバイクに乗り、校門を走り出た。
砂煙をあげながら田舎道を走って村の中心に着くと、人ごみの中にコズエさんの姿があった。
実はこの数日コズエさんにカデルの学校の話をしていたら、勉強のために是非見学に行きたいということになったのだ。
わずか電車で1時間の場所でカデルという国際的でフレンドリーなインド人とお友達になれたら嬉しい!!と目を輝かせているコズエさん。
このどローカルな小さな村では人の目もあってなかなかいい友達が出来なくて寂しい思いをしてるみたい。
日本が大好きなカデルだったらきっといい友達になってくれるはずだ。
そう思ってカデルにメールで聞いたら、すぐに連れて来なよ!!って嬉しい返事。
本当カデルはいいやつだ。
オートリキシャーでカトパディの駅までやってきて、人ごみにまみれながら切符を買い、プラットホームへ。
時間通りにやってきた電車に乗り込んだ。
電車の中で吹きこむ風を浴びながらコズエさんと色々お話をした。
JICAの海外派遣ってその任期をキチンと満了すると、公務員試験の一次審査をパスできる地域があるんだそうだ。
なるほど、そんなメリットもあるんだな。
自分で望んで海外で何かしらの貢献をし、その上特典があるってのは美味しい。
しかも派遣隊員にはキチンとJICAから生活費が支給される。
金額は現地の人々の一般的な生活費から割り出しているものなんだそう。
JICAってボランティア団体なのかなって思ってたけど、自腹きって活動するんじゃないんならボランティアとは違うよな。
それに寝泊まりもキチンと家を用意してもらっている。
周りの環境は様々だろうけど、生活には困らないだろう。
こうした金銭面での話なんだけど、これがよく批判の的になるんだそう。
なぜかというと、JICAは外務省がバックだから。
つまりJICAの資金は日本国民の税金だ。
隊員がちょっといいレストランでご飯を食べたり、ちょっと遠出して観光でもしたことをブログやフェイスブックに書いた日には、俺たちの税金で遊んでじゃねぇぞ、っていう批判がわんさか来るそうだ。
まぁ気持ちは分かる。俺も税金払ってる。
日本からでは現地の活動内容なんてほとんど見えないし、好きで外国に行ってそれで税金で生活するとかどうなんだ?って言いたくなる人もいるだろう。
ただ今回来てみたこのコズエさんが派遣されている場所に限って言えば、コズエさんはめっちゃ頑張ってると思う。
このウルトラど田舎のワイファイなんて霞も飛んでないような村で、一生懸命インドの貧しい地域の子供たちのために知識を伝え、文化を伝え、貢献していると思う。
JICAは親方日の丸だ。
外務省が国と国の間でかわす外交の一環。
コズエさんはそんな国際貢献活動のメンバーの1人だ。
コズエさんの気持ちだけではなく、国の思惑が大きく働く中での活動。
これは立派な公務員。
今、日本が世界中で好感を持たれ、途上国で様々な面で感謝されているという実情に、俺たち海外旅行者がどれほど助けられているか。
ある程度海外を回ったことのある人なら身にしみているはず。
それは紛れもなく日本の外交努力や、先人たちのたゆみない国際貢献の結果に他ならない。
今コズエさんが行っている学校への赴任も、間違いなく日本のイメージアップの一翼を担っている。
しかし、それでも批判される。
だって何やってるかよくわからないから。
海外好きな人が海外にボランティアしに行くのに俺たちの税金使うの?って具合。
JICAの活動は草の根だと思う。
そんな1年2年で結果の出るものではないってのは、今インドで1ヶ月間音楽を教えてみてとても感じている。
日本の子供たちが幼稚園のころから中学を卒業するまで、どれほど充実した多岐にわたる教育を受けていることか。
そしてそれがどれほどその国の経済に直結しているか。
ここに来てみてわかった。
隊員はみんな頑張ってると思う。
きっとコズエさんがいるこの地域よりも過酷な環境で活動してる人も多いだろう。
しかもこんな話も聞いた。
去年のことかな?
インドの隣にあるバングラデシュで、日本人のボランティア活動をしている人がイスラミックステイトのメンバーによって射殺されたらしい。
他にもイタリア人の同じような活動をしている人も殺されたらしく、バングラデシュにいたJICA隊員は即座に全員出国。
詳しい理由はわからないけど、安倍首相のイスラミックステイトへの断固とした対抗発言によって、日本人は少なからず標的になっているみたいだ。
隊員たちはそれでも海外で活動している。
純粋に、世界に貢献したいという想いがあるからだろう。
そんな人たちの20年の30年の努力の積み重ねはきっと世界の様々な地域に根づいていると信じたい。
コズエさんたちの孤独な戦いはこれからもきっと続いていく。
マジですごいよなぁ。
本当、心から思うよ。
ラーメン食べたいって。
家系を。
佐とうを。
「あれ?ていうかこの電車って逆に走ってません?」
「え?マジですか?またまたー。あの、すみません、この電車ってチェンナイ方面ですか?」
「え?違うよ?逆方向だよ。」
というわけで、正しいプラットホームに正しい時間にやってきた電車が反対方向に走ってるというインドマジムカつく現象ですね、ラーメン食べたい。
ウオラアアアアア!!!!どうなってんだ馬鹿野郎!!!!!!!!油断しちまったよね!!そうですね!!乗る前に人に聞かないといけませんよねインドだもの!!!!
特急に乗ったので、20分くらい逆方向に爆走してすっごい遠くまで来てしまって、ようやく止まった駅で反対方向へ乗り換え。
早起きしたのにチクショウ!!カデルすまん!!!
というわけでウンザリしながらもなんとか昼前にアラコナムに到着。
お、おばさん!!後ろに猿座ってますよ!!っていうかほぼ体型一緒!?
いきなりビビりながら駅を出るとカデルが車で迎えに来てくれていた。
ニコニコしてるカデルの車に乗るとエアコンが効いている。
「コズエです、ナイストゥーミートユー。」
「ハジメマシテ、ワタシハカデルデス。アイスタベマショウ!」
カッコいい車で迎えに来てくれてすぐにアイスを食べに行くという、さっきまでいた村では考えられないコンボ技を繰り出してくるカデル。
ジャンプキック、立ちパンチ、バーンナックルからのトリプルパワーゲイザーですね。かわしてカイザーウェーブくらわすぞ!!
爆雷砲とか知ってる人いるかなぁっていうかカデルと友達で嬉しいいいいいい!!!!!
学校に戻ると、その立派な校舎や綺麗な敷地、遊具やガードマンさんなんかの充実ぶりに声をあげて驚いているコズエさん。
俺も今なら思う。
このカデルの学校がいかに設備が充実しているか。
教室に机あるもん。
滑り台とかの遊具あるもん。
パソコンルームあるもん。
ワイファイ飛んでるもん。
さらにカデルの家に入ると、優しいパパがハーイ!!ウェルカーム!!と笑顔で迎えてくれ、ママがフミー!!おかえりなさい!!と肩をバシバシ叩いてくるし、美人のハニーが優雅に話しかけてくれるしで心から落ち着ける。
カデルの部屋はエアコンが効いていて、すぐに美味しいご飯を出してくれ、マジで本当に本当に本当に帰ってきて嬉しい。
いや、あの村も素晴らしい。
あの環境も慣れたらきっといいところだと思う。
まぁ俺は3ヶ月で発狂して宮崎帰って爛漫でチキン南蛮食べて叫びながら日南海岸走って鵜戸神宮で運玉投げるふりして隣の女子大生のオッパイ触る。
「コズエさん、ここ最高でしょ。」
「はいー!カデルも優しいし、またここに遊びに来たいー!!」
コズエさんはタミル語が喋れる。
本人は少しだけと言うけど、パパもママもコズエさんのタミル語に大喜びしてすぐにコズエさんのことを気に入ったみたいだった。
よかった、これでコズエさんの残りの任期が少しでも楽しいものになったらいいな。
今日は日曜日で学校が休みだったのでのんびりと学校を案内して過ごし、夕方になって恒例のバレーボールで汗をかいた。
もちろんコズエさんも参加だ。
「ヘーイ!!コズエカモーン!!」
「コズエー!!フミー!!」
明るくてみんな最高にいいメンバーである先生たちともすぐに仲良くなり、暗くなるまでバレーボールで遊んだ。
コズエさんはまだこれから10ヶ月このタミルナドで活動をする。
俺はあと1ヶ月を切っている。
JICAの人たちがみんな頑張ってるのはよく分かった。
でも、俺にも俺にしかできないことがきっとあるはずだ。
ボランティアなんかじゃなくて、音楽の楽しさを子供たちに伝えること。
最後までやり続けるぞ。
あ、最後にカンちゃんへ。
俺変な顔。