6月28日 金曜日
【カナダ】 トロント
バケツをひっくり返したような雨が降っている。
裏庭の木々の緑が濡れて光り、雨の匂いがたちこめる。
勢いは増すばかりで、これでは路上どころか外に出ることすらできない。
今日は歌えないかな…………
もう日にちもないのに。
ナオトさんと朝ごはんを作り、それからアメリカでの滞在予定表を作成した。
何日から何日はニューヨークのどこどこホテルに滞在。移動はなになにバスでいくらかかるか。
全ての町のホテル、移動手段、
それらの住所、料金を細かくノートに書き出した。
もちろんこれはアメリカの入国審査の時に、質問に対してスムーズに答えられるように、そして審査官の印象を良くするために知恵を絞って作り上げたプラン。
この通りに動くつもりは一切ない。
あくまで、どっからどう見ても一般的な観光旅行者でなければいけない。
路上で稼いでます、なんて絶対ダメ。
彼らが警戒しているのはテロや不法就労。アメリカの風紀を乱す者を取り締まってるわけだ。
パスポートを見れば、旅をしてるのはすぐわかることなのでアメリカを出て行くだろうというのは予想できる。
これに出国の航空券も用意してるんだから完璧。
ただシェンゲンのオーバーステイがどこまで引っかかってくるか…………
そして所持金の額…………
今なんとか1600カナダドルくらいにはなっている。
あと路上で歌えるのは4日。
目標金額だった2000カナダドルにはおそらく到達できない。
この金額で入国することが出来るのか。
怖え………
雨が小降りになってきた。
この怖さを紛らわすには歌うことしかできない。
ギターを持って街に向かった。
トロントの一大フェスティバル、ゲイパレードはこの週末に開催される。
すでにフライングで街はすごいことになってるんじゃないかな?と思ってダウンタウンにやってきたんだけど、別にこれといって普段と変わったところはなかった。
相変わらずやかましい路上パフォーマンスの嵐が繰り広げられているダンダススクエア。
屋根のある場所を探して回っていたら、完璧な場所を発見。
屋根のある凹んだスペース。
目の前がトラム乗り場になっていてたくさんの人がトラムを待っている。
くぼんだスペースになっているので声が響いてとてもいい音響。
トラム待ちの人々に無理矢理歌を聴かせ、トラムがやってくるとみんなお金を入れて乗りこんでいく。
完璧。
もう時間が遅かったので2時間くらいしか歌えなかったけど、それでもあがりは55カナダドル。
いい場所見つけた。
あと3日、ここでなんぼ稼げるか。
家に帰ると、てぃちゃんが冷やし中華を作ってくれた。
それとベジタリアンのお店で働いてるナオトさんが持って帰ってきてくれたサラダ。
ベジタリアンの中でも、最強にストイックなベジタリアンをビーガンって言うらしい。
もう本当に野菜しか食べないっていう。
そんなビーガンお弁当の野菜でお腹いっぱいになった。
野菜もちゃんと食べないとな。
「ヘッドマッサージやっでやるがー?」
食後、お酒を飲みながらていちゃんが頭と顔のマッサージをしてくれた。
うわー、完全に王様みたいだ。
俺みんなに何にもしてないなぁ…………
せめて明日は何かご飯を作ろう。
てぃちゃんのマッサージがあまりに持ち良くていつの間にか眠っていた。
てぃちゃんが布団をかけてくれたのをうっすら覚えている。