2006年12月17日 【熊本県】
昼過ぎに熊本市内に入った。
福岡の専門学校時代の友達であるタイキと夕方から会うことになっている。
それまでに熊本市内を制覇だ。
中心部からちょっと離れたとこにある武蔵塚にやってきた。
閑静な公園の中央に建っている宮本武蔵の像。
実は武蔵は小次郎との決闘の後、50歳のときに肥後藩に客分として招かれ、亡くなるまでの5年間を熊本で過ごしている。
島原の乱では幕府軍の総大将もつとめたりと、九州とのゆかりが深い人なんだな。
日本の武の歴史を変えた剣聖は熊本で亡くなり、この武蔵塚に埋葬された。
あー、ここにあの幾多もの死闘を演じた武蔵が眠っているのかー。
胸が熱くなる。
それからタイキおすすめの熊本ラーメン『北熊』で腹ごしらえ。
チェーンだからちょっと心配だったがなかなかうまい。
熊本人はみんなこのラーメンを食べて育つんだなぁ。
郷土の味に触れられることが旅人の喜びだ。
市内中心部、にぎやかな人通りの上通りアーケードのすぐ横に広がる熊本城へやってきた。
築城は加藤清正。
秀吉の家臣を務め、賤ヶ岳七本槍の1人に数えられた歴戦のツワモノだ。
秀吉亡き後は関ヶ原で徳川につき、その功により肥後54万石の大大名にのしあがる。
高々と反りあがる石垣と巨大な天守閣を有する名城を築き上げ、加藤家は栄華を極めたが、2代目が将軍とうまいこといかんでなんとお家とりつぶし。
その後、熊本城には豊前国小倉城主だった細川氏が移ってきて、以降徳川幕府の太平の世を謳歌することになる。
最後の戦いは明治10年の西南戦争での篭城戦。
奇しくも侍の歴史が幕を閉じた戦にて、その堅牢ぶりを世に轟かせたという。
当時の篭城の準備をしている様子の写真が展示してあった。
もうこの頃から写真ってあったんだよな。
そしてたった130年前に紛争が起きてたんだ。
500円で城内を散策。
姫路城、名古屋城に並ぶ日本三大名城の1つに数えられるだけあって見事な風格。
残念ながら現在の天守閣は再建されたものだが、熊本城の最大の見所は石垣だ。
武者返しと呼ばれる美しい曲線を描く石垣が迷路のように張り巡らされている。
熊本ってどこか品のある町だなーと思いながら城内をプラプラと歩いているところに電話が鳴った。
「うわー、変わってにゃー。だごすごかー。なんばしよっとー、ギターば持っちかんとー。」
懐かしのタイキはバリバリの熊本人。
同い年なのに熊本弁がすごすぎて何言ってるかよくわかんねぇ。
面白いやつで、専門学校ではみんなの人気者だったよな。
そんなタイキと街の中で待ち合わせし、早速飲みにいくことに。
「フミー、今日は客ばってん金ば使わしゃんたい。もっこすやからー。」
もっこり?って言いながら上通りにある居酒屋で飲んでいると、遅れてコウスケがやってきた。
「もっこすなめんなー。ワイ昨日も『送るあてのないラブソング』聴いとるからな。お前の歌は全部歌えるたい。ワシらの青春たい。」
こいつらと遊んでいたのはまだ18歳のころ。
誰かのアパートに集まってはみんなに拙い歌を聴かせていたよな。
昔作って、今ではまったく歌わなくなってる俺自身ほとんど覚えてないような曲を2人は歌詞まで完璧に覚えてくれている。
そんな友達があれから何年も経った今でも遠い街にいるんだってことが、とても嬉しかった。
「よし!!ヌキ行くったい。フミの分は出したるばってん、コウスケは自分で出せ。」
「おう、ちょっとコンビニでおろすわ。」
「そこまでしておごってくれんでもいいよ。」
「もっこすなめんな!!」
「もっこすは人に借りてでもおごるけん。」
3人ですっきりしてから持ってきたギターをアーケードの中でひろげる。
目を輝かせて座っている2人。
チューニングしていると、他にもタイキたちの地元の友達がたくさん集まってきた。
今ではまったくやらない古い歌を歌った。
「あー、きた。これたい。」
「わし泣けてきたったい。」
18歳のころ。
はじめての一人暮らしで、寂しくて、でもワクワクしてて、やっぱり寂しくて。
友達の中にいたギターを弾いて歌うやつ。
あの頃聞いた歌って、不思議と今でも覚えている。
当時の風景や記憶が鮮やかに蘇ってくる。
甘酸っぱい、10代の思い出。
日曜のにぎやかなアーケードに24歳になった俺の声が響いた。
翌日。
「おい……………フミ……………行くど…………………フミ起きんしゃい。」
母親を起こさないように電気を消したままのタイキの部屋で目を覚ました。
さすがに朝は冷えこむ。
そういえば昨日は雪がちらついてたもんな。
仕事に行くタイキを見送り、車に戻って震えながらもう一眠りした。
タイキありがとうな。
またいつか再会して18歳の頃の思い出話しながら飲もう。
あの時代を一緒に過ごしたかけがえのない友達だもんな。
昼に目を覚まし、タイキおすすめのうどん屋『空海』に行き、いざ南下開始。
日が沈むころに鹿児島県に入った。
そして今、出水の武家屋敷通りの真っ暗な駐車場の中でこの日記を書いている。
とうとう、とうとう47都道府県のうちの47県目。
残り日数は5日。
信じられない。
旅が終わろうとしている。
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