2006年8月27日 【長野県】
国宝四城といえばさぁどこ?
答えは、
姫路城(兵庫県)
彦根城(滋賀県)
犬山城(愛知県)
そしてここ長野県の松本城だ。
日本には無数のお城が存在するけど、国宝に指定されているのはたったの4つ。
ではその国宝に指定される条件というのが、創建当初の姿である、ということ。
1594年創建で現存日本最古の天守閣を持つ松本城は、文句ナシ国宝だ。
江戸時代、お城は全国に160以上もあったらしいが、そのほとんどが明治維新の取り壊し運動で破壊され、なんとか破壊を免れた名城といわれるお城も、第2次大戦で軍の基地に使用されていたため空襲に遭い焼失。
おかげで再建されている有名なお城はたくさんあるが、どれも鉄筋コンクリート建築だ。
時代ごとの数々の災厄を逃れ、江戸のそのままの姿をとどめているのは日本にわずか四城のみというわけだ。
松本の都会の中を走りお城に到着。
どこの町でもたいがいそうだが、この松本でもお城の周りには官舎が多い。
やはりお城が政治の中心だった名残りなんだろうな。
日曜はそれらのパーキングが開放されているため駐車場に止める必要なし。
うおおおおおおおおおおお!!!!
すげぇ……………
こんな本格的なお城、久しぶりだな。
水をたたえたお堀に映る黒板壁の端整な楼閣。
正に日本の美。
600円払って入城すると、日曜というのもあり城内は観光客で大混雑。
大阪城のようにエレベーター付きの広い通路ではなく当時のままの急な狭い階段なので、爺ちゃん婆ちゃんにはかなりしんどく、ヨロヨロと1段1段のぼっていくのを待たなければいけない。
人の背の高さの部分だけ手垢にまみれた土壁、丸く減ってツルツルになっている柱、壁に展示された無数の鉄砲。
ここを侍たちが走り回っていたんだよなぁ、たった200年前に。
200年前の人たちがその200年前を想像してもまだ江戸初期。
織田信長とかいたらしいよ、とか名だたる戦国武将が群雄割拠していた時代にみんなロマンをいだいていたんだろうけど、風景に関してはほとんど変わっていないはず。
それに比べ、江戸後期から現代までの200年はなんて激動なんだろう。
電車走って、車走って、道が張り巡らされ、鉄塔が立って、高層ビルまみれで、飛行機も飛んでる。
ハイテクの世界に残る世界中のいにしえの遺跡。
過去なんて知らなくても生きてはいけるけど、過去はまだ知らない自分を発見することに似た新鮮な喜びをくれる。
松本の街の中を散歩していると、バンドが路上ライブをしていた。
松本ミュージックフェスティバルで『M・M・F』っていうイベント中らしい。
この土、日で開催されていて、千歳橋ステージと駅前ステージとMウィングというデパートの前のステージの3ヵ所で、朝から夕方まで数多くのミュージシャンが次々と登場しているようだ。
地元のバンド『ザ・ビジーズ』の演奏する軽快な『Listen to the music』を聴きながら松本散歩。
今日は松本で歌う予定だったんだけど、まだ夜まで時間がありすぎる。
もったいない…………というわけで先に進むことに。
どんどん行くぞー!!
浅間温泉の歴史ある温泉街の中を走りぬけ北上。
焼岳、穂高岳、常念岳、槍ヵ岳。
名だたる名山の足元を夕日に照らされかっ飛ばす。
ここは日本の背骨だー!!
翌日。
新潟県との県境、深い山の中にある小谷村の道の駅で目を覚ました。
車のドアを開けると森の緑が目に優しい。
このあたりは秘湯の宝庫で、姫川温泉、奉納温泉などなど無数にあるが、特にオススメなのはここからさらに奥地にある小谷温泉だ。
よっしゃ行くぞー!!と言いたいところなのだが、金も時間もない。
お風呂はもう少し我慢だ。
白馬といえば冬期オリンピック長野大会の舞台になった場所で有名。
白馬岳のすそ野に広がる高原は、冬のウィンタースポーツだけでなく夏の爽やかなハイキングコースとしても観光客を集めている。
日本中を感動の渦に巻き込んだ長野オリンピックのスキージャンプ。
あのジャンプ台は500円でリフトで頂上まで登ることができ、連なる北アルプスの山並みを見渡すことができるとのこと。
でもまぁ別にいいのでとっとと次の場所へ急ぐ。
白馬から山越えのルートで山間部へ突入していく。
長野県はほんとに広い。
そして山だらけだからそれぞれの地域が厳しい山と谷で隔絶されていて、それぞれに趣のある文化が息づいているようだ。
森の中にある鬼無里村という恐ろしい名前の集落を横目に見つつ、戸隠村に入った。
長野県の中でもメインの1つといっていい場所だと思う。
この戸隠村は俺の故郷、宮崎と浅からぬ因縁がある場所。
こんなに遠く離れた土地なのに?
宮崎県には天岩戸伝説というものある。
これはまぁ日本の神話の中では有名なもの。
神代の昔、まだ悪ンボだったスサノオノミコトは悪行三昧の限りを尽くしていた。
それに嫌気がさしたスサノオの姉ちゃんである天照(アマテラス)大御神。
もうイヤ!!と腹をかいて洞穴に閉じこもってしまった。
アマテラスは日本の祖神なので、彼女がいなくなると国は一気に暗くかげってしまった。
困った周りの神々はなんとか出てきてもらおうと頭をひねるが、どうしても出てきてくれない。
そこでこれならどうだと、宝物中の宝物である『玉』と『鏡』を造り飾り付け、洞穴をふさぐ岩戸の前でドンチャン騒ぎをしたところ、様子が気になったアマテラスがちょこっと岩戸を開けて外を覗いた瞬間、力自慢の神様、天手力雄命が岩戸をこじ開け思いっきりブン投げた。
アマテラスが外に出てきてくれたおかげでようやく国に明りが戻ったというお話だ。
この伝説の舞台は宮崎県の高千穂町。
高千穂神社には今もその洞穴が残っていて、聖域として奉られている。
そしてブン投げられた岩戸が飛んでいったのが、その名の通りこの長野県戸隠村ってわけだ。
伝説にちなみ、数々の神社がこの村には点在しているとのこと。
ちなみに『玉』と『鏡』。
これに、その後改心したスサノオがヤマタノオロチを退治した際にヤマタノオロチの尾から出てきた『刀』を併せて三種の神器といい、今も天皇の皇位継承の際に用いられており、日本の帝の証として皇居に安置されているそうな。
森の中の坂を登っていくと、土産物屋の姿が目立ち始める。
観光地っぽい雰囲気期待が高まる。
まず手始めに1つ目の社、宝光社へ。
この宝光社をふくむ3つの社の総称が戸隠神社だという。
見事な彫刻が目をひく寺院建築で1058年創建の古刹だ。
次にそこからさらに5分ほど車で登ったところにある中社へ。
ん?
なんか人だかりができている店がある。
戸隠は神社だけでなく、信州そばのメッカでもある。
そこいら中に古びたそば屋が軒を連ねているのだが、その中でも特に人気なのが、中社の門前にある『うずら屋』だ。
歴史ある名店ということで外にはかなりの人数が時間待ちをしている。
そういうことならと、予約シートに名前を書いてその間に中社にお参り。
天を突くような巨木がズゴンズゴンと境内にそそりたっている。
神社ってすごいよなぁ。
俗世の中でだけ生きている俺たちにとって、この聖域はあまりにも異空間だ。
地上にこんな空間が存在することが、金や女、煩悩にまみれた中で暮らす俗人間にはまったく無意味で交わることのないもののように思える。
でもこういう思想がなければ、世界はもっともっと退廃したものになっているんだろうな。
人間ってのはなんて深遠な生き物なんだろう。
お参りを終えて『うずら屋』に戻り、しばらく待ってからやっと店内へ。
すっごい大混雑。
そばっつーのはそばの実を挽いて、粉にして、こねて、食すもの。
麺になっているものを普通『そば』と思っているがあれは『そば切り』というらしい。
ダンゴみたいに丸い塊にして食べるのは『そばがき』。
いろいろあるみたい。
まぁ、米が食えなかった時代の庶民の食べ物だよな。
のはずなのにかけそばが800円?
そば粉にシャブでも混ぜてるんですか?
美味いよ。
あー、確かに美味い。
これだけ美味いダシはそーないよ。
ざるそば840円?
わかってる、美味いよ。
隣の上品そうなオバ様たちが「香りが素晴らしいですわね、ホホホ。」と周りの人に聞こえるように喋っている。
そばの美味さがわかるのは通な大人って考えがあるようにしか思えん。
んんん……………
俺にはまだそばの本当の美味さはわかりません。
中社からまたさらに登っていくと、奥社の参道が現れる。
車を止め、森閑とした森の中に足を踏み入れていく。
一歩進むたびに俗世の喧騒がかき消されていき、人間があくまで地球上の一種の動物にすぎないという意識が純粋に湧いてくる。
2キロにも及ぶ超巨大な杉の並木道。
日光街道の杉並木なんか比じゃない荘厳さだ。
奥社は以外なほど小ぢんまりとしたものだった。
もっと体育館レベルの巨大な社殿を想像していたのに、これでは町の商店街の角にある社と変わらない。
さて、宮崎からブン投げられた岩戸はどれかなーと神官さんに話しかけてみたら………………
おいおい、スケールでかすぎるんですけど………………
なんと奥社の後方にそびえる戸隠山の絶壁、投げられた岩戸はこの山全体のことを指しており、この山すべてが御神体なのだという。
山や滝が御神体という神社はたまにあるが、まさか天手力雄命さん、山ごとブン投げたとは思わんかった。
この戸隠の里では岩戸に見立てた畳をブン投げるというお祭りがある。
素朴で民族くさい、歴史の深みが根付く村だ。
いい場所だった。
戸隠を終え、再び山越えのルートを走って野尻湖の静かな湖面を眺めつつ、飯山を抜け、奥信濃の温泉郷、野沢温泉に到着。
美しい田んぼと山のすそ野の隙間にある、昔ながらの古い温泉街の趣を残した野沢温泉郷。
700年代開湯という歴史が湯煙の中に香るようだ。
13箇所もある外湯は町中に点在しており、すべて無料(寸志制)。
ありがたい。
町のシンボルである麻がまには100℃の源泉が湧いており、地元の人がそこで名物の野沢菜なんかの野菜を茹でている姿を見ることができ、雪国の旅情たっぷり。
外湯の1つ、大湯できれいに汗を流した。
あー、長野はいいところだなぁ。
文化と歴史の宝庫だ。
爺ちゃん婆ちゃんにとっちゃ天国みたいな観光地だろうな。
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