2006年7月30日 【東京都】
今日はセンジ君と上野にやってきた。
いつも行くガード下の立ち食いソバ屋でかき揚げ丼を食べ、アメ横の古着屋をぶらつく。
今度の松坂『マクサ』でのライブの衣装を買いに来たんだけど、アメ横は知名度ばっかりでどこも同じような店ばかりだ。
仕方ないので原宿へ。
こんな街つまらんとぶーたれてるセンジ君を引きずり回して、ようやく気に入ったロンTを購入することができた。
ユウキはここで帰り、センジ君と2人で阿佐ヶ谷にやってきた。
センジ君いきつけの日本酒と名古屋コーチンのお店、『志ノ蔵』にやってきた。
落ち着いた店内。
ずらりと並んだ日本酒のビン。
気さくなマスター。
管理の行き届いた選りすぐりの銘酒を冷でも燗でもいただくことができ、これが新鮮な名古屋コーチンとめちゃくちゃマッチする。
美味いわぁ…………
あー、美香と来れたらなぁ……………
美香何してるのかな………………
ほろ酔い気分でセンジ君と別れ、俺は1人元住吉に向かった。
懐かしい商店街。
ここを毎日歩いていたのは1年半前か……………
あの頃の日々が頭に蘇る。
引っ越しバイトやったり、東京で派遣やったり、CD作ったり、色々あったよな。
あれから東北、北海道、関西、四国…………
あっという間だったよな。
アパートの前につきピンポンを鳴らす。
「おう、久しぶり。」
相変わらずギターと機材が並ぶ散らかった部屋の中から出てきたのは光ちゃん。
光ちゃん、あれから音楽ちゃんとやってるか?
俺はバリバリ歌ってるよ。
音楽の話もそこそこにいつのまにか眠っていた。
翌日。
目を覚ましてゴロゴロ起きて寝ぐせまみれでオリジン弁当を買いに行くという1年半前と1ミリも変わってないルーティーンに我ながらビビる。
ずっと東京にいたらどこまでも沈めるよな。
怠惰に。
光ちゃんが最近作ったというデモを聴きながらウダウダして、ユウキがやってきたところで3人で渋谷に向かった。
人でごった返すハチ公前。
時間を潰すサラリーマン、家出少女、人待ち顔の学生、電車の轟音、いたるところから垂れ流されているJポップ、めまいがするようなネオン、大型スクリーンでアイドルがわめいている。
都会だ。
これまで日本中の色んなところで路上をやってきた。
ネオン街だけじゃなく、北海道ではかまくらの中でも歌ったし、この前までお寺の門前で歌ったりしてた。
ここまできたら日本で1番賑やかな場所でも歌わないと!!
てなわけで渋谷にやってきたわけだ。
さぁどこで歌おうかなーと駅の周りを一周してみると、お、やってるやってる。
スピーカーを立ててホストみたいな兄ちゃん2人組がエグザイルを熱唱している。
なんでこれで人が集まってるんだろう?
路上ってのは不思議なもんだ。
目立ったもん勝ちってとこあるからな。
たまにとんでもなく上手いおっちゃんとかやってるけど、誰も聴いていなかったりする。
スピーカーがうるさいのでちょっと離れた静かなところでギターを構えた。
こんなところで路上なんて旅に出発した頃だったら死ぬほど萎縮してギターすら取り出せなかったよな。
それが今じゃ一瞬の躊躇もなく演奏スタート。
図太くなったもんだわ。
どうだコノヤロー!!
東京がなんぼのもんじゃー!!
ガンガン歌っていると6~7人集まってきた。
うりゃああああ!!!
「はいはいはいー、お兄ちゃんやめてねー。」
ソッコーで国家権力登場!!!!
県警とかじゃなくて警視庁という文字がなんかめっちゃ怖い!!!
そっかー、ここらで歌っているやつらはみんな強行突破なんだな。
しかし俺はギター1本なのでそんなにうるさくはないはず。
あんなスピーカーやらアンプを持ち出してめっちゃ大きな音でやってたら苦情も来るよ。
路上だったら生で勝負しようぜ。
まぁ、久しぶりに光ちゃんに唄を聴かせられたのでよしとするか。
今度の松阪でのライブのいい予行練習にもなった。
元住吉に戻り、みんなですき屋を食べ、ユウキと部屋に戻った。
光ちゃん、元気でな。
音楽続けていこうな。
翌日。
「今日、横浜の花火大会だってよ。規制と混雑でこっち来れなくなるぞ。」
三重県まで乗せてくれる手はずになっているトラックドライバーの山口さんから電話が入った。
なんだって!!
やばい間に合わん!!!
急いで荷物をまとめて、キッチンのカレーをたいらげ、仕事を終えたユウキのバイクにまたがって横浜に向かった。
でかいバッグとギターをかついでバイクの2ケツはきつい!!
ギターが受ける風圧でぶっ飛びそうになりながら首都高をかけぬける。
高速はガラガラにすいていて、横浜の夜景の上に輝く花火が見えた。
もう少し早かったらな。
ベイブリッジの上から横浜の港ごと花火を眺められたんだが。
この前、関西からヒッチハイクで山口さんに乗せてもらった時におろしてもらった大黒ふ頭のオークション会場に到着した。
前回は乗せてもらったお礼にここで中古車の積み込みを手伝ったんだよな。
「おせーぞ、文武ー。」
ユウキを見送って、今回も早速積みこみを手伝う。
何千台もある会場内から積む車を番号をたよりに探していく。
「文武ー。最近セックスしてねーから目がよく見えねーよ。次何番だー?」
山口さんは下ネタ大王。
話がめちゃくちゃ面白くて、前回乗せてもらった時は車の中でずっと笑い転げてた。
いつも名古屋の栄でブイブイいわしているらしく、山口さんの彼女は名古屋のキャバクラ界で知らない人はいない超美人なんだそう。
すげぇ。
助手席に乗り込むと、車を何台も積み込んだ巨大なトレーラーがゆっくりと動き出す。
埠頭を抜け、首都高を駆け抜けていく。
夜の東名高速はトラックたちのレース会場だ。
巨大なトラックたちが轟音をあげながらカッ飛んでいく。
そんなトラックたち、知り合いを見つけると抜きしなにホーンを鳴らしていく。
山口さんのキャリアカーは電飾が派手だからどこを走ってもすぐにわかるんだそうだ。
日本中をぶんぶん走り回るトラックたちにたくさん仲間がいるっていいな。
夜通し走り、青白く染まる空の下、駆け抜けていく鉄の塊。
アクセルを緩めるととても神聖な気分がした。
星たちのパレードを先導していく。
トムウェイツの歌が頭を流れる。
翌日。
「降ろしてくるから隠れてろよ。」
朝方、山口さんの運転するトラックが三重県の届け先会社に到着した。
俺はシートの後ろのベッドに隠れ、揺れる車内で息をひそめる。
すでに24時間寝てない。
ウトウトし始めたころに荷を降ろし終えた山口さんが戻って来た。
「寝とってええんやぞ。」
そう言われても眠るわけにはいかない。
ヒッチで睡眠は厳禁だ。
と、そこに横浜のユウキからメールがきた。
「車のキー忘れてるよ。」
…………………………
眠気吹っ飛んで車の中で叫んだ。
な、なんだぁ!?って驚いてる山口さん。
はぁ……………
速達で送ってもらうか………………
とにかく三重には着いたので、ちょっと休むかと、山口さんと一緒にトラックドライバーが集まる食堂にやってきた。
「トラックはとっととやめて俺クレープ屋やるんや。ワーゲンバスを改造してな。んでキャバ嬢にクレープ作らせんねん。それで純白のメルセデスにプール付きのマンションでビッグマネーつかんだんねん。」
「でも欲しい物はすべてブラウン菅の中ですよね。」
「はははは!!!知っとるな文武!!あー!!キャバ行きてーなー!!太もも舐めまわしたんねん!!」
話の合う山口さん。
いくら話してても飽きない。
そんな山口さんの会社の近くにあるトラックステーションで話をしていると、若いお兄さんがやってきた。
「おー!!この人が金丸君ですか!?」
山口さんの後輩の赤塚さんは最近レイブにはまっているヒッピーさん。
レイブとは人のいない山奥でトランス流して自由にトリップするヒッピーたちのイベント。
富山や岐阜など山深い場所で人知れず行われているピースなパーティーなんだそうだ。
そんな赤塚さんはビートルズとストーンズをこよなく愛するかなりの音楽通。
「ラブソングなんてやったらあかんで。あんなもん歌ったら誰でもウケルのわかっとるやん。あー、セックスしたい。」
赤塚さんはトラックを運転しながらシルバーの職人を目指しているらしく、彼もワーゲンバスで放浪しながらシルバー細工を売って歩きたいんだという。
トラックの中ギターを弾き、3人で歌いながら色んな話をした。
「よっしゃ!!もっと語るぞ!!」
そのまま鈴鹿市の居酒屋に行き大騒ぎ。
もう40時間くらい寝てない。
あー、なんかもう展開が急過ぎてよくわからんけど楽しい!!
四国編の日記をなくしてヘコんでたそのすぐ後にこんなにいい人たちと出会えるなんてな。
「文武!!お前売れたらお前のツアーにクレープ屋でついて行くからな!!」
「僕はシルバーでグッズ作るでなー!!」
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