2006年5月24日 【徳島県】
お遍路10日目。
今日もジロー君、アナイ君の3人で歩いていく。
遍路には色んなパターンがある。
『移動』…………歩き、チャリ、バイク、車、バスなど。
『宿泊』…………野宿、寺の通夜堂、宿坊、遍路宿、ホテルなど。
『期間』…………通し、一国参り(1県回って家に帰り、次来た時に続きの県)、週末歩きなど。
こんな感じ。
たいていの人はツアーバス団体でズザー!!っとやってきて大合唱でお経を唱えてズザー!!っとバスに乗り込んで次から次へと寺に行き、17時になったらホテルに入って宴会、って具合。
寺としても、個人よりツアー客のほうが金を持ってるからうれしいようで、1人の歩き遍路さんがとある寺で宿坊に泊めてくださいと申し込んだら団体じゃないとダメですと断られたって話もある。
ふざけた話だ。
3人で1日中トボトボ歩き続け、この日は砂浜の公衆便所に寝床決定。
「行く?」
「行くっしょ。」
「いええええええいい!!!」
「ひゃっほおおおおおお!!!!」
白装束を脱ぎ捨ててバカ3人、5月の海に飛び込んだ。
冷ええええええ!!!
でも気持ちいいいいいいいい!!!!
そして一瞬でみんな土左衛門寸前に。
こんな疲れ切った体で海入ったらいかんね………………
足の豆を潰す2人。
めっちゃ疲れたので早々に寝ることにして、みんなで海辺のコンクリの上に寝転がる。
「おやすみ……………」
「おやすみー……………」
カサカサカサ……………
カサカサ……………
「…………………ギャアアアアアアアアアアアア!!!!」
「な、な、なんだあああ!!!」
「どうしたああああああああ!?」
「うわあああああ!!!とってえええええ!!!」
ジロー君のドレッドの中でカニがジタバタしていた。
笑い声が真っ暗な海辺に響いた。
翌日。
11日目。
この日がきつかった。
なんせ雨と風がすさまじかった。
ジロー君アナイ君と別れ1人で歩いたんだけど、雨と風がひどすぎて吹き飛ばされそうになる。
強風はやがて暴風雨となり、カッパの下に雨が染み込んでくる。
見渡す限りどこまでも続く海岸線は遮るものがなにもなく、どこにも逃げ場がない。
海から吹きつける風に乗って雨が顔を叩き、突風でカッパがめくれあがり、逆てるてる坊主状態を何度も繰り返す1人コント。
道の途中途中にあるバス停には、ヤドカリのようにそれぞれ野宿お遍路が陣取っている。
みんな追い詰められた悲壮感を顔に浮かべながら、前を通り過ぎる俺を見ていた。
根性で室戸岬にある24番・最御崎寺にお参りをしたころにはもうパンツまでずぶ濡れになっていた。
やがて夜の暗闇が訪れ、激しさを増す風雨によろめきながらただひたすらに歩き続ける。
怖さはない。
寂しさもない。
ただ辛いだけだ。
夜の闇の中、雨に打たれる辛さは本当に心を削る。
でも解き放たれたような解放感もある。
人間なにをしてもいい、どこに行ってもいいっていう野生的な自由さが足を前に進める。
やっとの思いで室戸市の町に着いたのが21時半。
金がないので歌いたいが雨は一向に止む気配もなく、トボトボ寝床を探して歩き25番札所の門の中に隠れる。
しかし、ピカッピカッとライトが光って追い出されてしまう。
今日歩いた距離は、お遍路に出発して初の40キロ越え。
もう空腹でズタボロだ。
さまよい歩いて、なんとか港にある漁協の建物の影にたどり着き、ギターを置いてその上に横になった。
やっと休める………………
固いギターケースの上だけど、それでもいい。
それで充分なほどに疲れ果てている。
ゆっくりと目を閉じる。
しかし、ふと冷たくて目を覚ますと風であおられた雨が吹き込んでいて全身ずぶ濡れになっていた。
こんなとこじゃね眠れない。
体中痛いのを我慢して荷物を担ぎ上げ、また暗闇の暴風の中に飛び出した。
どこか、どこか寝られる場所………………
あの日は本当に泣きそうだった。
翌日。
ズゴー!!ズゴー!!
ガラガラガラガラー!!!
ものすごい轟音で目を覚ますと、そこは漁協の自動製氷ダクトの真横だった。
ダクトの中から大量の氷が吐き出されている。
ゴムエプロンをした漁師のおじさんたちが俺のことを見ている。
す、すみません、邪魔ですよね。
いそいそと荷物を担いだ。
この12日目で高知県最初のお寺である25番・津照寺に参り、そのまま26番・金剛頂寺、27番・神峰寺と回っていく。
もう金が全然ないので安芸まで行って歌いたかったが、どうにも歩きでは夜までに間に合わないので、仕方なくバスで安芸まで向かうことにした。
無論、明日またバスでもとの場所に戻ってスタートする。
その夜は安芸のささやかな飲み屋街で歌い、エガワ食品という会社の社長さんに流しに連れて行ってもらい、そのまま会社の事務所に行きソファーで眠らせてもらった。
ゆうべの地獄の徘徊から比べるとソファーがこの世のものとは思えないほど気持ちよかった。
社長さんありがとうございました。
まだまだ先は長いなぁ。