2006年5月17日 【徳島県】
昨日のベンチより少しクッションのきいているベンチだったため、快適に眠ることができた。
といってもベンチだけど。
ここコインランドリーだけど。
外はどしゃ降りだ。
これでは動けないので、そのままコインランドリーの中で日記を書く。
そこに地元の主婦さんたちが洗濯物に来るんだけど、みんな別に俺のことを気にも留めない。
四国ではこういう光景はごく日常のものってことなのかな。
しばらくして雨が小降りになってきたので、近くの衣料品店で1000円のポンチョ型カッパを購入した。
背中にギター、前にセゴ、全部に丸ごとバサッとかぶさるやつじゃないと意味がないからな。
でもすげぇ歩きにくい。
外に出ると布ゾウリを履いた足が一瞬でビショビショになった。
重いし痛いし、もう限界だ。
中田さんには悪いがスニーカーも買おう。
ショッピングセンターの中を汚い格好でうろつき、1000円のスニーカーをレジに持っていった。
すると、可愛い店員さんがニコッと笑ってオマケにもう1枚靴底を入れてくれた。
マジ連絡先教えてほしい。
ワクワクしながら履いてみる。
えーーーーーーーー!!!!
何これーーーーーーーー!!
まるで宙に浮いてるよう!!
歩いても地面の感触がない!!
クッションが効いてて全然痛くない!
いや多分普通の、ていうかむしろ安くてクオリティの低い靴なんだけど、布ゾウリと比べたらマジで神の履き物。
すげー………………
靴って偉大だ………………
装備がだいぶパワーアップし、コンビニで明日の分の食料を買いこんでいく。
明日のルートはかなりキツいとのこと。
12番札所までは山道5時間、13番までは6時間という、『お遍路ころがし』の異名をとる最初で最大のハードコース。
今までの平坦な道から一気に山道になり、そのあまりのキツさにここでかなりの人数がふるいにかけられるという。
つまり断念して帰るということ。
雨の中を歩いて11番札所、藤井寺に到着。
弘法大師お手植えという藤棚は残念ながらもう散っていたが、雨の寺はとてもきれいだった。
この寺の境内の裏手から12番に続く山道が始まる。
今日はこの辺りで野宿して明日朝イチで登るか。
テキトーなとこを探し、公衆便所の障害者用トイレの中に陣取った。
床にギターを置き、その上に寝転がる。
お遍路は野宿が基本。
寺の軒下なんかで孤独な夜を過ごさないことには、夜のこの行き場のない無力感は味わえない。
これはとても貴重な体験だと旅に出て知った。
人間布団の上じゃないと寝られないなんてことはない。
闇の中で息をひそめ、ただの動物と化すんだ。
翌日。
全然眠れん………………
固いギターケースの上に横になっているので背中が痛いし寒いし空腹は止まないし…………………
うつらうつらと朝を迎え6時。
顔を洗い歯を磨いて荷物を持ち上げる。
ギター重いよ……………
カッパをかぶり、小雨の中いざ山道に足を踏み入れた。
山に入った瞬間、いきなりの急坂に汗が噴き出した。
足元の悪い道を一気に登っていく。
背丈まである草木についた露が、火照る顔をなでて心地よい。
苔むした野の仏、木にくくりつけられた『遍路道』や『同行二人』と書かれた札が森の中に揺れている。
霧雨にけむる幽玄な空気。
やっぱりスニーカーはいい。
泥べちゃの山道、わらじだったら大変なことになっていたな。
途中にある柳水庵というところでぶっ倒れそうになりながら湧き水にかぶりついた。
カッパを脱ぐと体中から蒸気が湧き上がる。
やっとここで半分か…………
「何それ!?ギターなんか持ってよく来たね!!」
後ろからやってきたおじさんたちがビックリしている。
つーかおじさんたちの軽装にビックリだよ。
何それ!?
お買い物ですか!?
遍路道にはいたるところに遍路宿という民宿があり、そこに泊まりながら回っている人たちは小さなリュック1つで事足りるようだ。
よし、あと半分。
鬱蒼とした森の中を遭難者のように無言で歩いていると、後ろから鈴の音が聞こえた。
振り向くと若い男がすごい勢いで登ってきた。
「どうもー。」
「どーもー。」
東京から来てる同い年の元証券マンの彼。
理解不能な経済の話で気を紛らわしながら一緒に歩く。
ようやくあと2キロ……………
ん?看板に何か書いてある………………
「がんばれ!!ここからが1番きつい。」
マジですか………………
犬のようにベロを垂らし、ドロドロになりながら山道を………………
……………………………………………………
時は飛んでそれから2ヶ月後………………
えー……………………
日記帳をなくしました……………………
日本一周の目玉、お遍路分がまるまる。
新曲の歌詞も4曲分くらい書いていた。
……………………………………
ぎゃああああああああああああああああ!!!!
ちくしょおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
マジで立ち直れん……………………
あの過酷な日々………………………
1日もかかさず書いたのに……………………………
アァァァァァァァアアアアアアアアア!!!!!!!
というわけで、ここからは一生懸命思い出した『四国お遍路・回想編』となります。
はぁ…………………サイアク………………