2006年5月5日 【愛知県】
「はーい、出発だよー。」
ミュージシャンたちがゴロゴロとひっくり返ってる部屋の中に声が響いた。
ノソノソと起きて楽器を抱えて外に出るシンガーたち。
それぞれの車に乗り込み、名古屋市内にあるビルに囲まれた広い公園にやってきた。
すぐに会場の設営が始まる。
今日もこれからここでライブだそうだ。
ゆうべあんだけのライブだったのに、ほんとみんなタフだわ。
ってゆー俺もこれから3時間走って滋賀の甲南まで行ってライブなんだけど。
「えー?もう行かないでいいじゃん。どうせ大したライブじゃないでしょ?」
そんなこと言ってくる1人の歌い手さん。
おおお、すごいこと言うな。
人のライブを平然とコケにするとか、そりゃ変わりもんって言われるよ。
でもそんな悪気ある感じで言ってるわけではないのがまた厄介。
純粋にそう思ってるんだろうな。
包み隠さないことが表現において大事なことって気はするけど、俺はそんなこと言いたくないな。
大きなライブじゃないけど、俺は俺のいるところで全力を出さないと。
独唱パンクのみんなに別れを告げて車に乗り込んだ。
ゴールデンウィークの渋滞の中を走り、甲南にあるライブスペース、懐メロ喫茶『竹の音』に到着。
「どうもー、よろしくお願いしますー。」
「よし、金丸君いこうか。」
え、ええ!??
もう!?
店に入った瞬間、即俺の出番。
マジかよ。
それでもゆうべの独パンの映像がまぶたに焼きついてるおかげで、いつもよりもぶっ飛ばして汗ダクダクで7曲がっつりやった。
前回もやってもらったがおっちゃん2人組の岡本さんに1曲ギターをつけてもらった。
お客さんで来ていた宮崎出身の甲斐さんってかたがとても気に入ってくれ、今度やる自分たちの結婚式で歌って欲しいと依頼をいただいた。
ありがたい。
どのライブでも全力を尽くしていたらちゃんと次の道が開ける。
そしていつかは俺も大きなステージに立つぞ。
遅れてかけつけた、タさきフみえさんの弾き語りを終えそのままお店の中で談笑。
「カネヤン、やっぱCD作らなあかんで。結構欲しいってお客さんおるんやで。」
うーん、作りたいのはやまやま。
でも作るからには時間をかけてじっくりいいものを作りたい。
今の俺にはそんな時間はないんだよなぁ……………
でもこれだけタケマスターもルーシーさんも気合入れて応援してやるって言ってくれてるし………………
1発作ってみるか!!
7月の12日に朝からこの『竹の音』でレコーディング。
そのまま夜に東近江のタケマスターがパーソナリティーをやっているFMラジオ出演。
8月5日には松坂『マクサ』でライブ。
6日に『竹の音』でライブ。
このところどんどんライブの場が増えて来ている。
ライブの場が増えてるってのは俺の力が少しずつ上がっていってるってことだ。
1つ1つステップアップしていくぞ。
この夜はルーシーさんと一緒に信楽の串カツ『武蔵』へ。
盛り上がっていると今度は看板娘のさとちゃんの兄弟夫婦たちがカラオケに行ってるからと、そこに合流。
寝不足で歌い疲れで飲んだくれて……………
旅に出なければ絶対に会うことのなかった人たちと笑い合う。
あー、いい夜だ。
翌日。
今日もライブ……………
毎日毎日音楽漬けだ。
今すごく音楽が楽しい。
てなわけでめちゃくちゃ勉強するためにやってきたのは、大阪『春一番コンサート』。
朝から3時間かけて大阪豊中の服部緑地に到着。
夜まで客席を離れられないだろうから、弁当とお茶を持ってダッシュで野外音楽堂へ。
おー!!
やってるやってる!!
今始まったとこだ!!
4000円払って会場内へ!!!
春一番コンサートといえば1971年フォーク全盛のころに大阪で始まったフォークの祭典。
1979年に幕を閉じたが、その後1995年に復活した知る人ぞ知る日本の伝統の野外コンサートだ。
今年は4、5、6、7日と4日間の日程で、いずれの日もすごすぎるラインナップ。
初日にはあの遠藤ミチロウさんが来てたし、2日目には有山じゅんじさん、AZUMIさんという関西フォークの重鎮というそうそうたるメンバー。
そして3日目の今日は………………………
もう泣きそうだった……………………
ハンバートハンバートの優しい歌声。
次にすぎの暢さん、いとうたかおさんの熱いフォークはまさにベテランの味。
宮武希さんの歌声も野外の春風によく合う。
中川五郎さんと中川イサトさんのベテランコンビに感動しっぱなし。
「渡に捧げます。」
渡っていうのは、60年代から彼らと一緒に音楽をやっていた高田渡さん。
あの伝説のフォークシンガー、高田渡が死んだのは去年のこと。
彼ら音楽仲間のもとに電話がかかってきて、仲間が彼の家に集まり、泣きながら酒を飲み解散する、という一夜の内容をシンプルなフォークにのせて淡々と歌っていく。
涙が出そうだった。
「一緒にやってきたやつらもどんどんいなくなってしまうね。」
そう言って仲間たちを追悼するノリノリの曲。
演奏中だというのに、いろんなミュージシャンが裏から出てきて演奏に加わっていくラフさ。
「もう誰でも入ってよ。」
屈託のない中川五郎さんの笑顔。
音楽は人間、フォークは人生だ。
「えー、次の曲は渡に捧げます。」
みんながみんな、それぞれのステージのたびに高田渡さんの『生活の柄』を歌い、そのたびに会場内に合唱がおこる。
毎年この春一番に出て、そのキャラクターから誰からも愛されていた高田渡。
あああ、俺が北海道の富良野にいる時、たまたま高田渡さんのライブを見ることができた。
あのすぐ後に彼は亡くなった。
彼が生きてるうちに、生の生活の柄が聴けたのは本当に幸運だったよな。
そこからジャズ。
アチャコ一座さんのノリノリのステージ。
さらに古澤良治郎さんのグループによるスイングジャズで会場大盛り上がり。
「えー、さっき60歳以上のかたは新幹線で来てもらいましたって言ってたけど、僕60歳以上なのにバスで来ました。うひゃあああああ!!!あえあいえうえあー!!!」
謎の言葉でメンバー紹介するアバンギャルド!!!
古澤さんとても60歳以上には見えない!!
こんなジャズかっこよすぎやん!!!
渋谷毅オーケストラでは小川美潮さんのほんわかしたヴォーカルに癒される。
「親友を紹介します。」
ステージ袖からフラリと出てきたのは、サンダル履きでバッグを手にぶら下げ、タバコを指にはさんだ、下町のスーパーによくいる普通のおばさんだ。
誰だこの人?
こんな普通のおばさんがステージ出てきたらいかんやん。
「紹介します!!金子マリ!!!」
ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
こ、この人がああああああああああああああああ!!!!!!
『下北沢のジャニス』こと金子マリ!!
ブラスバンドを従えてゴスペルをその独特なしゃがれ声で歌い上げる!!!!
…………………かっこよすぎなんですけど。
スーパーにいるおばさんとか言ってすみませんでした!!!!!
ジャズ部門が終わりこの日のライブも佳境。
登場したのは朴保さん。
在日の中国か韓国の方なんだろう。
フォークの真髄、反戦ソングの数々。
そこらの平和ボケした日本人の反戦ソングとはまるで別格。
リアリティありすぎ………………
「戦争はまだ終わってない!!」
その最後の叫びが夕焼けに染まり始めた会場に響いた。
朴保さんが終わると、急に会場内のお客さんたちが大量に移動し始めた。
ステージ前が埋め尽くされ、誰もが期待の表情を浮かべている。
つ、次は誰だ?
そこに出てきたのはあの伝説のバンド『憂歌団』の木村充輝さんだ!!
ぐおおおおおおおおおおおお!!!!
豪華すぎるにもほどがあるううううううううううう!!!!!
「えへー、あへへぇー、アヘアヘー、へへへへ。」
「キャー!!木村さーん!!」
「やぁー。アヘアヘアヘー。」
「待ってましたーー!!!」
「エヘヘー。ヘッヘッヘェー。」
「あほー!!」
「やかましいアホんだらぁ!!!!」
「ハハハハハハー!!」
客からアホて言われてるやん!!!!
いや、アホみたいな顔して出てきたけど!!!!
うおー、木村さんって伝説ばっかり聞いていたけど、こんな人なんだ。
お客さんと距離近すぎ。
客席のおっちゃんが缶チューハイを木村さんの足元に置く。
缶チューハイて!!!
ツレやん!!!!
1曲目は1人で地元天王寺の歌。
そして2曲目からはギターとドラムが入る。
うそ!!
ギターが三宅伸治!!
ドラムが島田かずお!!
どっちもすごい人!!
もう会場爆発。
名曲『おそうじおばちゃん』ではもうお客さん踊りまくって酔っ払ったおっちゃんがそこら辺でひっくり返っている。
なんて自由すぎるライブなんだ!!
関西のノリ全開でギトギトすぎる!!!
春一番ヤベェ!!!!
トリ前に登場したのは押尾コータロー!!!
すげー、さすがに尋常じゃないくらいギター上手い。
「伝統ある春一番に出られたこと、そして僕がギターを始めたきっかけとなった中川イサトさんと同じステージに立ててとっても光栄です!!」
そこに日本のギター界の大御所、中川イサトさん登場。
2人でギターのアンサンブル。
素晴らしすぎてもうわけわからん。
日も沈み、照明が照らし出すステージに現れたのは今日のトリ、日本フォークの象徴、加川良。
トリは木村さんか押尾コータローかなと思っていたんだが、やっぱり春一番はフォーク。
ならば加川良にかなう歌い手はいない。
「僕もこの歌を唄わせてもらいます。」
やはり加川さんも『生活の柄』を歌い、会場全員で大合唱。
加川さんのライブを見るのはこれが初めてだ。
これ以上ないほどまっすぐで、イモっぽい歌声のどフォーク。
しかしそれがあまりにも胸にくる。
言葉選びがヤバすぎる。
そして言葉をとんでもなく大事にしている。
なんて心が揺さぶられるんだ。
「いやー、僕もつい最近なんですよ。フォークのよさに気付いたの。」
この加川良にそんなこと言われたら、フォークやってます、なんて軽々しく言えないよ。
最後はすぎの暢さんのスライドギターが入り、『幸せそうな人たち』という曲。
アコギにスライドギターのまったりとした音色が絡みつき、いぶし銀に乾いた加川良の歌声が夜空に抜けていく。
『生まれた時から僕たちは 滅びていく道の上にいる』
一生で絶対に忘れられない1日になった。