2006年2月26日 【三重県】
さてさて、目を覚まして車の中でゴロゴロと寝っ転がる。
土曜、日曜である程度金も稼げたので今日は久しぶりに路上はお休みするか。
ちょうど雨も降ってるしな。
というわけで久しぶりの路上お休みで気持ちも楽な月曜日の夜。
どしゃ降りの中、ゆうべ見つけたライブハウス『マクサ』に駆け込んだ。
夜に歌わないで自由に過ごしてることがちょっと罪悪感抱いてしまうくらい最近毎晩歌ってたな。
ウッディな店内に入り、カウンターに座ると、ステージでは今日の1組目のブルースのコンビが演奏していた。
ゆうべ話した中村マネージャーに挨拶してビールをあおる。
2組目はジャズバンドの軽快なプレイ。
どのパートもみんなすごくうまい。
ジャズボーカルはテクニックが要りそうだ。
うーん、それにしてもものすごく音響がいい。
これまで小さなライブバーでばっかりライブを見てきたので、こんなに本格的なライブハウス久しぶりだ。
そしてトリの出番になった。
明かりの消えたステージ脇から出てきたのは1人の男性だった。
タオルを頭に巻いており、顔がよく見えない。
ステージ中央に置かれた椅子に座り、1人ギターを構える。
静まり返る店内。
ゆっくりとギターを構える男性。
ピンスポットがステージ中央だけを照らしている。
みんながその一挙手一投足を固唾を飲んで見守っている。
な、何が始まるんだ…………………
すると、おもむろにギターを弾き始めた。
「………………愛とはぁ……………何ぞやぁ………………愛とはぁ…………………………セックスやろうがああああああああああヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
いきなり静寂を打ち破る気が狂ったような絶叫とかきならすギター。
な、な、な、なな、なんだぁ!!!!?!?
と、と、とてつもない音量!!!!!
ていうか歌詞!!!!
ていうかギターの弾き方!!!!!
椅子から転げ落ちそうなほど前傾姿勢になり、さらにマイクを咥え込んで絶叫してる!!!!
すさまじい勢いの放送禁止用語の速射砲!!!!
なんだこの人!!!!
マイクに食らいつきすぎてマイクスタンドがあっちこっち動いてしまってめっちゃ演奏しにくそう!!!!
それを顔でマイクをズラして正面にもってきてまた絶叫!!!!
あまりの激しさにタオルがずり下がり顔がほとんど見えない!!!!
唇を歪ませて死ねとか殺すとかそんな言葉のオンパレード!!!!
会場内呆然。
お客さん全員凍りついてる。
「ジンルイみな兄ぉぉ弟いいい……………なぁぁぜそんなウソをつくぅぅぅ!?通りすがりの在日ですううう!!!ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
もうひたすらに差別とか殺すとか耳を覆いたくなるようなスリリングな言葉の洪水。
しかしちゃんと聞けば、その言葉の真意は人間の根源にある業や妬みといったこれ以上ない純粋な性だ。
そこに目を背けず、臭いものに蓋をせず、真っ直ぐすぎるほどに真っ直ぐに人間の弱さに直視してさらけだしている。
群馬のわんずほうむやクールフールで頭のおかしいミュージシャンはたくさん見てきたけど、こんだけキレてる人はそうそういなかった。
関西にもこんなヤバい人がいるんだ。
演者さんの名前は剛兵太。
こいつはド級の1人メタルだ。
ライブが終わり、ドッと疲れてビールを飲んだ。
ビール飲むのも忘れるくらいジェットコースターのライブだった。
いやぁ、いいもん見させてもらった。
こんなぶっ飛んだ表現してる人が世の中にいるなんて。
アコースティックの表現幅、マジで無限大だわ。
綺麗なメロディで、綺麗な言葉で、綺麗なハーモニーとか、マジで今まで見てきたギターの弾き語りがどんだけ売れ線の、限定した世界の中の表現だったかを思い知らされた。
やっぱり人のライブを見ないと自分の姿は見えてこない。
そこで何かしら自分に変化が起きる。
それが最高だ。
そして改めて思った。
やっぱり俺は詩だ。
メロディなんてたいした役割はない。
テクやリズム、もちろん大事だが、詩とオーラ、これをいかに伝えられるかだ。
いかに理解しやすく、そして深く心に残せるか。
あーーーー、刺激になる。
世の中色んな人がいて、色んな表現方法がある。
もっともっとギターの弾き語りってやつを突き詰めていかないと。
俺はどんだけ狭い世界でこれが全てだと思い込んで生きてきたんだ。
よーし、曲作るぞ。
新しい世界を掘り起こしていかないと!!!!
翌日。
今日も『じんな』の唐揚げの味が忘れられずまた津市にやってきた。
じんな美味しいんだよなぁ。
街に入ると相変わらず右翼の街宣バスが叫びまわっている。
「日教組の大会がなぜこの地で行われるか!?この神の地、三重県で!!それは市長のホニャララがヤツラとつながっているからです!!!」
「そうですよおおお!!みさなん!!!」
30台くらいの街宣カーがそれぞれに叫び、相槌を打ちながら街を走っている。
ただでさえものすごい音量なんだけど、県庁前にさしかかった途端、いきなり怒号の勢いが頂点に。
「ホニャララあああああ!!!!わりゃー顔見せんかいいいいいいいいいいいい!!!」
「このバスに乗って市民に謝罪せえやああああああああああああ!!!!!!!」
「われ卑怯者やのおおおおおおおおおおお!!!!!」
「明日行くからな、コラ。」
もうめっちゃ怖い。
脅し方がプロすぎてマジで笑えんくらい怖い。
そりゃあもう昨日の剛兵太さんくらい叫びまくってる。
ていうか剛さんがこの右翼活動やったら一瞬で即戦力すぎるな。
殺すぞヴオオオオオオオオオオオオ!!!!!って。
ていうかホント、津の市長さん何したの?
こんな連日連日、右翼さんに取り囲まれて。
恨み買いすぎやん。
いやー、三重県に入ってから昼も夜も叫び声聞き過ぎやなと思いながら『じんな』に行き、今日も美味しい唐揚げを腹いっぱい食べる。
めっちゃ美味いいいいいい!!!!
ボリュームがすごくて食べ切れなかったんだけど、そしたら残った唐揚げをパックに入れてくれ、さらに夜ご飯に足りんやろ!!って新しいお米も詰めてくれるママ。
もう優しすぎる!!!!
お店の従業員さんたちもみんな暖かい人たちばかりだ。
さてさて、お腹も心も満タンになったところで、元気に車のエンジンをかける。
三重に入ってろくに動けないまま1週間経ってしまったからな。
やっとこさ攻略開始だ。
まずやってきた鈴鹿市白子は伊勢型紙の発祥の地であり、現在も日本で1番盛んに生産されている町。
テキトーに目に付いたお店に入ってみた。
伊勢型紙。
柿渋で和紙を張り合わせて作った特別な紙に、小さく細かな切り抜き模様をつけ、それを型紙にして着物の染付けに使うというものだ。
1200年もの歴史があり、江戸時代に最盛期を迎える。
現代はプリントや機械化で需要はすごく減ったが、それでも伝統工芸の質の良い物を求める人は後を絶たない。
最近ではその美しさから観賞用として楽しむ人も増えているし、キットを揃えて趣味で型紙彫りをする人も多いみたい。
「型紙のデザインをする人も別でいるんですよ。」
そう言う店員さん。
なるほどー。
型のデザインを描く人、それを彫る人、そしてそれを使って染める人、全部しっかり分業制だ。
どれか1つが欠けても日本古来の美しい着物は出来上がらないんだな。
次に関の宿場町へ。
古代からの主要街道で、東海道47番目の宿場町だ。
ここはいい!!
今までいろんな宿場跡を見てきたが、ここまで時代がかった当時の面影を残した町並みは初めてだ。
小さな2階建ての土壁、黒板、連子格子の民家が、細い道沿いに間隔なく並んでおり、まるで時代劇のセットだ。
そして時代劇にはない生活感がある。
通りの中央には行基の彫った日本一古い地蔵さんが祭られている地蔵院という大きなお寺なんかもあり、とても郷愁を誘う。
いやー、いい町だ。
それから山を越えて伊賀上野に入る。
伊賀といえば、そう、もちろん忍者の里。
町全体、色々と忍者にまつわる場所があるようで、かなり面白そうなんだけど、今日はもう時間がないので明日じっくり回るとしよう。
車を走らせて寝床を決め、今日も美香に電話をかけた。
お父さんの病気が悪化してしまっているようで、元気がない美香。
少し前に手術をして、それからしばらくは回復して何事もないように過ごしていたのだが、この数週間でまた悪くなってきたようだ。
「お父さん、やっぱり入院でさぁ…………」
「そうか……………どう?どんな感じや?回復しそう?」
食事をご一緒したこともあるおじさんだ。
病状を詳しく知っておきたい。
「はぁ?そんなこと言えるわけないやろ?非常識よ?」
いきなり不機嫌になって電話を切った美香。
くそが…………子供じゃねぇんだから……………
指くわえて無責任に治るよって言っときゃいいのかよ。
はぁ…………でもホントにだいぶ悪いんだろうな。
今俺にできることは何だろう。
美香にしてあげられることは。
強くならないとな。
乗り越えなきゃいけないんだな。
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