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戻ってきた東京はこれまでとは違っていた







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2006年1月19日 【関東出発】






………………………ん…………







…………………ん?






車が揺れている……………





どうせマスターが揺らしているんだろう。




目を開けると、リアガラス越しにわんずマスターがうれしそうに俺のことを見下ろしていた。


もう…………ゆっくり寝かせてよ………………









ゆうべ、地獄のミッドナイトランで1時間半かけて『わんずほうむ』に戻ってきた。


凍るような風を全身に受け、マジで死にかけながらわんずほーむに辿り着くと、さっきまであの浜田正さんの誕生日会をやっていたらしく、店内には隅から隅までバースデイライブの残骸が散ばっていた。


すぐに石油ストーブの前にうずくまり、宮崎土産で買ってきた芋焼酎『日向木挽』をマスターと2人で飲み、氷と化していた体がようやく温まってきたところで、久しぶりのファントム号の中で眠った。


なんとかまた旅の続きに戻ってこられた。










翌朝、ろくに眠ってないままマスターに無理やり起こされ、遊びに来ていたユキちゃんと3人で店の前で餅を焼き、それからファントム号の大掃除をした。


エンジンオイルを換えに行き、それからいつもの新島湯に新年の挨拶へ。


変わらず番台に座っている元気な春子ばあちゃん。


岡山では雑煮にブリを入れるということが信じられないと興味津々だった。












マスターに車を置かせてもらっていたお礼を言い、群馬を後にして元住吉に向かった。


正月に宮崎に帰らなかった光ちゃんとタカフミ。


元気にしてるかな。




「おーい、帰ったよー。あれ?タカフミは?」



「あー、タカフミ君帰ったよ。今日。」





えええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!




なんと3日前に青山のレストランを辞めて宮崎に帰ったとのこと。


別の仕事を探してるとか言ってたくせに、何も言わずに東京から引き上げるなんて………………




部屋の中はタカフミの荷物がなくなった分、スッキリしていた。


キッチンや風呂場がピカピカに掃除されているのは、タカフミが部屋を出る前にお礼にやっていったからみたいだった。








仕方なくコンビニに行ってビールを買ってきて飲んだ。


光ちゃんは酒がほとんど飲めないので一緒に酔えないのが少し寂しい。



「おーい、おいしいの買ってきたよー。」



と呼べば、ロフトからひょこっと顔を出していたはずのたタカフミはもういない。




「俺もそろそろハーデンタイテン辞めるんやわ。東京にも後1年くらいのはず。」



最近ギターを弾いているところを全然見ない光ちゃん。


音楽関係で食う、と言っていたあのころの情熱はすっかり色褪せている様に俺には見える。


ユウキは相変わらず横浜で仕事をしているようだが、あいつのことだ。


みんなが東京から撤退すれば動きがあるだろう。







2006年。


1981年組の俺たちは今年で25歳。


ぶらぶらするのも25まで、とよく言われるが、その期限が迫って早速みんな身の振り方を考え始めたようだった。





俺の旅も今年で終わる。


こんな俺が、俺たちの親のように強く生きぬいていくことが出来るかどうか不安でたまらない。


機械のように暮らすだけなら簡単だ。


でも人間ってのはそううまくはいかないはず。


考えただけでも背負っていくものが多すぎて頭が混乱する。



こんなこと、誰もが思い悩みながら大人になっていくんだよなって自分に言い聞かせる。



俺はこれからどんな人間になっていくんだろうな。












翌日






  
光ちゃんと一緒に部屋を出た。


今日はどこかで歌わないと。





茨城で美香と同棲していた頃、4ヵ月ほどつくばの足場屋さんで働いていた。


日給1万円で明解な仕事内容。


それにみんないい人だった。


キモイマン以外。



キモイマンみんな覚えてるかな?










今度の目的地は小笠原諸島と伊豆諸島。


小笠原は沖縄並に遠く離れた絶海の孤島なのでフェリー代だけでも7~8万円する。


しかも便数が極端に少なく、一旦渡れば東京に戻ってくるのは1週間後という長丁場になる。


野宿で凌ぐにしても諸々で10万はかかるだろう。


その資金、路上で稼ぎ出せるかなぁ…………








この日は栃木の宇都宮に歌いにやってきた。


何ヵ月か前にも歌ったが、今夜はどうだろうと気合いで声を振り絞る。




そして大爆発。

おいおいマジかよ。



飲み屋街の中の小さな橋の上に結構な人だかりができる。


人が集まっていると、普段足を止めないような人でも聴いていくのが路上の集団心理だ。


1人が金を入れていけば、周りの人たちもつられて入れてくれる。



呼び込みのナルオさん、クラブ『スパーク』の三村君。


みんなありがとう!!!






すごく楽しい路上を終えた頃には3万円超えのお金が溜まっていた。



よーし、なんとかして小笠原諸島行きのフェリー代を稼ぎだすぞ!!!






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