2005年9月11日 【山形県】
8時30分。
片道2000円を払って乗り込んだフェリーの中でこの日記を書いている。
フェリーというよりは遊覧船といった感じのこじんまりとした客船で、これから90分かけて飛島という周囲12キロの小さな離れ小島に渡る。
寝不足の体がだるい。
ゆうべは12000円までいった。
フェリーから島に降り立つときのあの感覚はいつも新鮮だ。
ついに来たかって感じ。
空と海に飲みこまれた島独特の無防備さがたまらない。
酒田の町もそうだがこの飛島もレンタサイクルが無料ってのが最高だ。
ボロい自転車にまたがり、あるメモ帳を片手にそこら中の人に話しかける。
「あー、初子さんだらあそこでまがないさつぐっでるよー。」
ゆうべ路上で声をかけてくれた人に飛島に行くと言ったら、1人の兄さんが、
「俺の母ちゃんとこに行って来いげー。」
と紹介してくれたのだ。
クレーンの動いてる現場事務所に行ってみる。
「すみません。初子さんっていらっしゃいますか?」
「あー、君がイ?長崎がらきでるって兄ちゃん。」
宮崎です。
仕事中なのでまた13時くらいにおいでということになり、しばらく島をグルグル探検した。
森の中の迷路のような道を走り回り港に戻る。
民家の路地裏を通ると、どの家も音量爆音でテレビを見てるもんだからあちこちからノド自慢が聞こえてくる。
ずっと昔からあるのどかな田舎の日常。
俺は迷い込んだ異物だ。
仕事を終えた初子おばさんと合流すると、軽自動車で法木の集落にやってきた。
さびれた漁師町で潮の香りが鼻につく。
ありがたすぎることに、お家で魚介類たっぷりのご飯をごちそうになった。
「昔はもっと活気あったんだぁ。飛び魚は寝る間もないほど大漁でのー。民宿もたくさんあっでのー。」
311人の人口で1番若い人が50代だというこの飛島。
今や無人島に向け一直線。
「はやぐ嫁さもらっではげぇ、仕事せんばの。」
初子おばさんに送ってもらい15時にフェリー乗り場に戻ってきた。
1日1便なので数時間しか滞在できなかったけど、それでも充分島を見て回る時間はある。
それだけ何もない、人々の生活だけが存在するのどかな島だった。
酒田の港に着き、ファントムのエンジンをかける。
今日でお世話になったこの町ともおさらば。
カメラのデータをCD-Rに落とし、コインランドリー、日記コピー、荷物発送、こまごましたことを同時進行で一瞬で終わらせ今日はコンビニストップ。
洗濯物を干している車の中は、いつものことだが湿気が充満して気持ち悪い。
が、最近は虫も少なくなってきたので窓を開けて寝られる。
ほんの3日前まで金がなくてピーピー言ってたのに今手元には2万円もある。
人間、ゆとりにすがっていてはハングリーさがなくなる。
歌って稼いで飯食って進む。
それだけだ。
翌日。
昨日はフェリー乗り場で、今日は道の駅で、どっかで聴いたことのある声の歌が流れてるなぁと思っていたら、ふと気づいた。
あっ!!
これ!!
鯉川酒蔵の佐藤社長の歌だ!!
すげぇ…………もはや酒田や遊佐のご当地ソングだな。
社長この町の人気者だ。
鶴岡の町を少し散策したら車を走らせ、日本百名山、鳥海山の頂にある展望台の手すりに座ってぼんやりと目の前を見つめた。
眼下にかかった濃い霧。
しかし強風とともにしだいに霧が晴れ始めると、ものすごい景色が見えてきた。
果てしない海岸線と大海原。
広大な庄内平野は一面稲穂の黄色に染まり、黒瓦の民家がポツポツと散らばっている。
うおー……………なんてきれいなところなんだろう。
鳥海山。
すばらしい山だ。
あー、このまま飛んで行けたらどんなに気持ちいいだろう。
鳥海山を下りながら眼下を眺めると、人工的なほどに真っ平らな庄内平野がどこまでも広がる。
黄金に染まる大地。
米どころ庄内は江戸時代から稲作で栄えた町だ。
青空にそびえる百名山、風に揺れる稲穂はもう収穫間近。
黒瓦の民家、月光川のゆったりとした流れ。
いやー、いいわ、遊佐町。
こんな町で穏やかに暮らせたら最高だろうな。
愛すべき日本の原風景だ。
夕方までいろいろ見て回ってから、遊佐町の太田瓦産業の事務所に顔を出してみた。
「おー!!よぐきだねっスぁー!!」
出迎えてくれた太田社長。
そう、酒田での最初の夜に出会ったあの『極楽鳥海人』の理事長だ。
理事長自慢のすさまじく立派な機材のそろっている録音スタジオを見せてもらい、ちょっと一杯やろうかということになり、すぐ横にある中華料理屋『あじな』へ。
このお店の店長さんはこの前の台風の夜に一緒に飲んだメンバーさんだった。
もちろん彼も極楽鳥海人。
大いに盛り上がり、食べきれないほど食べ、飲みまくり、やっぱりギターを持ってきて歌った。
最高においしかったな。
外に出ると、静まり返った秋の夜の闇から聞こえる虫のかすかな鳴き声がグワングワン頭に響く。
酔っ払ったああああ…………
酔拳のような動きで車に戻り、布団に倒れた。
稲作の平野、鳥海山、優しい人たち、
ホントに初めて来たとは思えないほど心休まる町だった。
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