2005年6月27日 【北海道一周】
いつもの北雪の塔の駐車場で目を覚ました。
ああああ、富良野サイコーーーー。
落ち着くーーーーー。
のんびり起きてから山部の旅人バスへ向かった。
まぁ、一応完成はしているが、宣伝なんてまったくやってないので、おそらく目の前のキャンプ場『太陽の里』に来たライダーさんが、何だこれ?と覗いていってるくらいのもんだろう。
あまり期待をせずに車を走らせる。
案の定、バスに置いてある雑記張には旅人のメモはなかった。
ただ、バスの壁に自慢の旅情報を書いていってもらおうと思い、まず俺が色々書いておいたのだが、その中に俺の字じゃない誰かの書いた旅情報を見つけた。
うお!!やったぜー!!
これからたくさんの旅人たちのオモシロ旅情報でこのバスの壁はいっぱいになるはず。
なんて楽しい場所だ!!
「もっと宣伝せんきゃダメだぁ。」
地主の佐藤さんが不満そうにそう言う。
お客さんが少ないことをすごく気にしているようだ。
俺としてはそんなに気合いれて宣伝はしたくない。
あくまで口コミ。
北海道に来る旅人さん、ライダーさんは、たいてい仕事持ちで毎年休暇を利用してツーリングに来る。
きっと今年来てくれたライダーさんはライダー仲間にここの話をして、来年には1人が2人になる。
最初の3シーズンくらいはそりゃあ少ないだろうが、きっと5シーズン目くらいには毎日たくさんの旅人でにぎわうはずだ。
だって俺だったら絶対行きたいもん。
さてさて、今回富良野に戻ってきたのはヒロちゃんのライブを見るためでもあったんだけど、それとは別にもうひとつミッションがある。
それは東京にとあるアーティストのライブを観に行くというもの。
そのアーティストとは………………
ジェフベック!!!!!
まさかの神!!!!!
ジェフベックが来日するということで美香と行きたいねーって話していたんだけど、なんと美香の頑張りのおかげでチケットを2枚ゲットすることができた。
あの神のライブに行けるなんて嘘みたい!!!!!!
そして、美香と再会できるのも嘘みたいだ。
別れたのに、最近ではちょくちょく電話することも増え、普通に笑い合えるようになっている。
今回、どんな顔して再会すればいいのかわからんけど、とにかく会えることが楽しみだ。
というわけでここ富良野に車を置いて、ヒッチハイクで東京を目指そうという計画。
北海道からヒッチハイクで東京?
楽勝楽勝ウヒョウ!!!
なんていうアホな考えで出発の日を迎えることに。
まだこの時はとんでもない地獄を味わうことになるとは想像もしてない。
ていうか想像する想像力をもちあわせてません。
出発の朝、総島さんのところにファントムを持っていき、荷物をまとめる。
おそらく寝ずヒッチになると思うんだけど、着替えも防寒着も何も持たず、ギターだけ持っていざ富良野を出発。
長袖Tシャツ1枚という散歩に行くような格好で親指を立てる。
4台目で車が止まった。
わずか20秒たらず。
幸先がいいぜ!!!!
楽勝楽勝ウヒョウ!!!
1台目………乗用車。高速のインターチェンジまで。
2台目………害虫駆除の仕事中のおばちゃん。札幌まで。
3台目………店舗デザイナーのお兄さん。北広島まで。
4台目………乗用車のおじさん。千歳まで。
5台目………スカした大学生の兄ちゃん。
「テレビをねぇ、クルクルって新聞みたいに折ったり曲げたりして持ち運ぶって面白くない?ホイポイカプセルだって質量と重量の原則を超えればできないこともないんだよね。そのためには電子レベルからの結合を………わかる?」
わかりません。
彼が登別。
6台目………乗用車のおじさん。室蘭まで。
7台目………乗用車のおじさん。虻田まで。
この辺りまで来るとなんか待ち時間が長くなってきた。
1時間超えが多い。
ここ虻田でも2時間待ってしまった。
22時ころにやっとこゲット。
8台目………トラックの兄さん。1発函館。
そして夜中の2時ころに函館駅に到着した。
ここは深夜の青森行きの電車があるために24時間開放している。
外はだいぶ寒く、中に逃げ込むと暖房がきいていてベンチもあり、夜を越すにはなんともうれしい場所だ。
早速寝ようとベンチに横になるが、頭が悪すぎてシャツ1枚しか着てきてないので、寒くてとてもじゃないが眠られない。
出発の時に総島さんにもらった餞別のおにぎりを食べながら日記を書いていると、北海道の早い朝が訪れた。
しょうがない、もう行くか。
ギターの重さが寝てない体にのしかかる。
まだ北海道も出てないのに早くも疲労困憊。
朝の函館を歩いた。
はい!!ヒッチハイク2日目!!!
つーか駅からフェリー乗り場まで遠いよおおおおおおお!!!!
7~8キロは歩いただろうか。
やっとこさ着いたフェリー乗り場から8時45分の船に乗って青森県の大間港へ。
1年ぶりの本州。
今日は天気がいいのでこちらから北海道の影がよく見える
1年前にここに到着したときはまだ北海道なんて想像もつかない秘境のようなイメージしかなかったのに、今ではガイド並に詳しいぞ!!
よっしゃ!!!
早速ヒッチ開始!!
9台目、10台目、11台目と順調に乗り継ぎ、
12台目………むつ市の鈴木さんに八戸市まで。
13台目………地元のおばちゃん。2キロくらいしか進まず。
14台目………タクシー。ヒッチでタクシーに乗ったのこれが初めて。二戸の手前まで。
15台目………乗用車のおばさん。
前に二戸の町の中で食べたそばの味が忘れられず、おばさんにそのそば屋さんまで乗せていってもらった。
「ほら、これで食べていきな。」
差し出された千円。
栄子おばさん、ありがとうございました!!
「あら、お兄さん去年も来てたべさ。」
皺くちゃの元気なおばあさん。
覚えててくれたんだ。
温天そばを食べたけどやっぱりうますぎ。
腹ごしらえして国道に出るまで歩いたんだけど、途中いきなり話しかけてきたお婆ちゃんかお爺ちゃんかわからないお婆ちゃんがノンストップで5分くらい喋り続けてきた。
すみません、方言で何喋ってるかひとつもわかりません。
16台目………美人のフリーライターさん。『じゃらん』とか結構有名な雑誌にも記事を載せている人で、専門は美容で今はマクロビオテックってのがキてるらしい。
17台目………モー娘のメンバーの名前を全部言えるかなりマニアックなお兄さん。一関市まで。
あっという間に時間は過ぎて、すでに夜中の2時。
国道を走ってるのはトラックばかり。
猛スピードで走ってるもんだから止まれるわけがねぇ。
トラックが走りぬけるたびに爆風がまきおこり、すさまじく寒い。
腹減った………
先はまだまだ長い………
泣きそう…………
そして2時間経ってようやくゲットぉぉおぉぉーー!!
18台目………オタクっぽいお兄さん。左足の太ももにパソコンを乗っけてチャットで遊びながら運転してる。
怖い………
仙台駅まで乗せてくれた。
ヒッチを開始してすでに40時間が経過している。
フェリーの中でとった小1時間の仮眠以外ずっと動きっぱなしだ。
あまりの疲労に口は動いていても目はもうほとんど閉じていて、運転手さんと何を喋ったのかまるで記憶にない。
乗せてもらってる時に眠ることはできない。
運転手さんだって眠いのに運転してるんだからな。
それがヒッチのマナーだ。
朝4時に仙台駅に着いたころにはすでに空は明るく、都会のビル群のガラスに朝焼けの雲がくっきりと映っていた。
眠い………眠すぎる……………
腕が、指がちぎれそうだ……………
意識が朦朧としながら開いたばかりの仙台駅の駅ビルの中をベンチを探して歩き回る。
横になれなくてもいいから…………
とりあえず背もたれのあるイスに座れるだけで充分ですから…………
しかし、駅のくせして1つもイスがない。
俺みたいな寝るやつ防止のためだろうか。
駅ビルからさえもはじき出され、白線だらけのアスファルトを眺める。
………………動くしかねぇか。
昼間のように明るいのにまだ5時。
この街の中、このマンションの中、たくさんの家族や1人暮らしがまだベッドの中だよな。
足を引きずり、道路まで歩いて、また親指を立てる。
ヒッチハイク3日目!!!!!
19台目………ヤンチャな若者たちが朝まで仙台で遊んだ帰りだと言って相馬市まで送ってくれた。
陽に照らされると頭が冴えてきやがる。
くそ。さぁ、次だ。
20台目………乗用車のおじさんにいわき市まで送ってもらう。
そして次だった。
「おう、いいぞ。お台場まで行くからな。」
うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
東京1発ゲットオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
21台目………長距離トラックの運転手、谷口さんは元ヒッピー。
実家が佐賀県なのとギターを弾くのとでやけに盛り上がり、高速のサービスエリアでラーメンをご馳走になり、走るトラックの中でギター弾きまくり。
ドアーズやツェッペリンなどのロック黄金時代をヒッピーとして過ごしていた谷口さんのお話はかなり面白い。
「原宿とかでなぁ、ロックかけて踊ってよー。んでアクセサリー作って路上で売ってたんだ。飛ぶように売れたもんさ。だれかれ構わずかき集めては新宿のしょんべん横丁で飲み明かしてよ。みんな金持ってねぇはずなのに不思議と飲めてたんだよなぁ。今のカミさんともアクセサリー売ってるときに知り合ってな。いやー、あのころは街中がロックで溢れかえってたもんさ。」
複雑に入り組んだ道路をかいくぐり、空が首都高やビルで全然見えなくなってきた。
あああ!!!東京着いたぞおおおおお!!!!
ヒッピー谷口さんに別れを告げ、東京の新橋に着いた。
ビルに囲まれた街は、まるでサウナの中にいるような熱気にむせかえっている。
これがヒートアイランド現象か。
富良野の綺麗な空気が別の国みたいだ。
ごったがえす酔っ払いサラリーマンの群れをかきわけて居酒屋に入った。
「おう!!こっちこっち!!」
そこには友達のギター弾き、光ちゃんと、地元からつい先日上京してきたタカフミがいた。
タカフミは今は光ちゃんの部屋に居候しているらしい。
「よし!!ヌキ行くぞ!!」
嬉しそうにビールを飲み干すタカフミ。
む、無理です……………
体が死にそうなんです…………
居酒屋でしこたま飲んだら、懐かしの元住吉に帰ってきた。
懐かしの光ちゃんの欠陥アパート。
機材やギターがさらに増えていて足の踏み場もない中、3人で缶ビールで乾杯した。
や、やっとゆっくり寝られる…………
富良野から3日間かけての不眠不休耐久ヒッチハイク。
地獄の苦しみだった。
これを帰りもかと思うと…………気が遠くなる…………
東京に着いてから2日後。
クソめんどくさい電車の乗換えをクリアーして羽田空港にやってきた。
人で溢れるターミナルの中をキョロキョロしながら歩いていると、カフェにいる美香を発見した。
「どーも。」
「あ、どーも。」
いつもなら飛び掛ってくるのに今日は大人しい。
それはそうだ。
今俺たちは彼氏彼女ではない。
お互いぎこちない表情や動きで元住吉に戻った。
夜、美香と2人、中央線の阿佐ヶ谷駅にやってきた。
「おっ!!いい体してますねー!!」
いきなり変態が肩を抱いてきたので、東京怖い!!と思ったら栃木のセンジ君だった。
そしてなんと、まだ旅初めの頃に小倉で遊んだあの山田君もいる。
山田君、こっちに出てきたんだな。
4人でセンジ君の行きつけ、名古屋コーチンと地酒のお店『志の蔵』へ。
肉はもちろん胡麻1つとっても生産者直送のこだわりぬいた素材。
お洒落で酒の進む名古屋コーチンの料理。
そして日本酒の品揃えがすごい。
やたらたくさん置いてるのではなくて、厳選に厳選した数銘柄の生や生モト。
うますぎるー!!
もうセンジ君、なんでこんなお店知ってるんだよ。
「獣姦動物園って流行ると思わん?昼は普通の動物園で夜は大人の動物園。これヒットすると思うんだよね。」
真面目な顔してそんなことを言うセンジ君。
そんなこと考えながら三味線削ってるのかよ。
「あ、そうそう。これプレゼント。」
センジ君がバッグの中から何やら小箱を取り出して俺の前に置いた。箱を開けると中には木のアクセサリーが入っていた。
「なかなかいい感じやろ?風をイメージして作ったから。」
マジで!!
前にセンジ君が、金丸君をイメージしてアクセサリー作るよ、って言っていたんだけど、これか!!
きれいに磨き上げられたそのペンダントはもちろん三味線の原料、紅木。
緩やかな曲線と鋭さ、中央に開いた穴。
もはやアートの域だ。
うわああああ、こいつはいい。
カッコよすぎだよ。
これからずっと首にかけていよう。
風のように自由で強くあるように。
あんまりおいしすぎて日本酒グビグビやってしまったせいで泥酔し、俺と美香2人は帰ることに。
センジ君と山田君は何をしに行くか知らないがこれから新宿2丁目にくりだすそうだ。
電車の中でグデングデンになりながら美香に引っ張ってもらい部屋に戻った。
翌日。
目が覚めると美香が隣で眠っていた。
場所がないとはいえ俺の横にくっついて寝てくれたことが嬉しくてしょうがなかった。
いつものオリジン弁当を買いに行って、それを食べながら昼間からビールを飲み、光ちゃんの新曲を聞いたりしていたらいつの間にか15時に。
いよいよ待ちに待ったジェフベックのライブ。
うーーーーーー、ついにあの神に会える…………
気合いを入れて出発する俺たちと一緒に、
「勝負に出る。」
と言って気合いを入れてパチンコに出陣していったタカフミ。
無駄に気合い入りすぎ。
無数のダフ屋がひしめく道をドキドキしながら国際フォーラムに到着。
心頭滅却。
ギター弾きにとってこの上ない最高到達点が今この近くにいる。
興奮を落ち着かせて開演のブザーを待った。
もうただの神です………………
あの音。
一瞬で彼とわかるあの音がホールに響いた瞬間の鳥肌。
むせび泣くようなアーミング。
奇跡だ…………
奇跡でしかない……………
新しいアルバムからばかりでなく、昔の曲もたくさん演ってくれたし、大好きな大好きな『ピープルゲットレディ』を生で聴いた時は感激が止まらなかった。
ハーモニクスの1音をアーミングでメロディーにしてしまう。
秘技ボリュームコントロールはもう泣かずにはいられない。
もうこの人怖い……………
2時間のライブ、大満足。
ロッドが飛び入りで出てきてくれることを願ったが、まぁあのギターだけで失禁ものだった。
大興奮のまま元住吉に戻ると、タカフミが意気揚揚と帰ってきた。
見事8万円勝ってきたタカフミのおごりで4人で焼肉へ。
「高いやつから順にたのもうや。」
相変わらず金に糸目をつけないタカフミ。
最高の余韻にひたりながら死ぬほどビールを飲みまくった。
翌日。
「タカフミ君ー、ホラー、母乳ですよー。」
「んー…………………ゴキュゴキュ。」
寝ているタカフミにビールを飲ませ、チャーのDVDを見ながらゴロンゴロン。
あー、ジェフベックやばかっなぁ。
連日のオリジン弁当のゴミが山のようになっているので、光ちゃんを仕事に見送ったら居候3人で部屋の片付けをした。
ビール飲みながらロフトから俺たちに指示をとばす美香。
渋谷に遊びに行き、大好きなカレー屋さん「ラージマハール」でチーズナンを食べ、センター街でマンバを見て、夜になって武蔵小杉のキャバクラへ。
女連れてキャバクラなんて初めてだったな。
帰りにリンガーハットでチャンポン食べながらビールを飲み、光ちゃんちに帰ってからビールを飲み、ひたすらビールばっかり飲んでる1日だった。
「ただいまー、ってまだ飲んでんのかよ!!」
「おかえり光ちゃああああん!!!飲む?」
夜中の3時に仕事から帰ってきた光ちゃんとまたビールを飲んで、いつ寝たのかも覚えてない。
翌日。
「ほらー、タカフミ君、母乳だよー。」
「んー……………ん……………ゴキュゴキュ。」
死んだように寝てるタカフミにビールを飲ませ、美香と一緒に元住吉の駅に向かった。
今日で美香は大分に帰る。
俺も北海道に向けて恐怖の耐久ヒッチを開始する。
タカフミは今日の午後に青山の高級レストランに面接に行くことになっている。
グータラもこれまでだ。
きれいな服をまとった美香。
大学を卒業し、社会人になってから美香はすごく綺麗になった気がする。
スラッとした足、くびれた腰。
美香ってこんなにスタイル良かったっけか。
光ちゃんとたかふみが下で寝てる部屋のロフトで、美香と眠った3回の夜。
自然とキスをした。
次に会うのはいつになるのか。
その時にはどんな関係になっているのか。
それはわからないけど、カッコ悪い旅だけはしないように、やり切って帰らないとな。
美香を見送って光ちゃんの家に戻り、夕方になってみんなが出かけて静まり返った部屋を出た。
センジ君にもらった、ペンダントを首にかけ電車に乗り込む。
首都圏を出なければヒッチは難しい。
ここまで来ればいいだろうと電車を降り、草加の町を1人歩く。
知らない町、知らない道、この町で生まれ育った人たち、自転車の列、ガードレールと立て看板。
『北へ』と書いたダンボールを、小雨の中でかざした。
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