2005年 5月 【富良野旅人バス】
御陵線を走ってリサイクルセンターの坂道に曲がろうとした時だった。
(あ、あれ桜だったんだ。)
芦別岳に見下ろされた平原の真ん中に、1本だけの桜が花開いていた。
今までは雪の中に立つただの枯れ木で、それはそれで孤独な感じで綺麗だなと思っていたんだけど、まさかアレが桜だったなんて。
目いっぱい花びらを開き、風にそよぐその姿があまりにも美しかった。
もう5月も終わり。
日本最後の桜前線が、この富良野にもようやく訪れたようだった。
山部の町の先にある桜並木通りに行き、そこでやっている桜まつりに顔を出すと、たくさんの人たちで賑わう中、実行委員長の島さんが声をかけてきた。
「おー、金丸君、ちょうどいいところに来た。ちょっと外国人さんが歌いたいみたいで、ギター弾いてやってくれない?」
なにやらオーストラリアから来ている英語の先生たちがカラオケステージで歌いたいとのこと。
ちょっとだけ打ち合わせして、みんなでステージの上でホテルカリフォルニアとかバッドムーンライジングなんかを歌った。
話しているとだいぶ仲良くなり、俺の出発前にみんなで飲もうということになった。
英語ちゃんと理解できるかな。
その夜は農家の北さんの家にお邪魔して、春の苗つけ終了の切り上げ会に参加させてもらった。
これからは植えた苗の管理が主な仕事になり、これまでみたいな忙しさではなくなるみたいだ。
毎日来ていたヘルパーさんのシモちゃんも来ており、そしてあの森三中も来ていた。
相変わらず俺のことは無視だけど、まぁいいか。
そんなメンバーなのでまったくと言っていいほど盛り上がらなかったんだけど、シモちゃんと森三中が帰ったところで入れ替わりで中田さんたちがやってきた。
こっからが本番スタート。
酒で負けたことない!!っていう北さんの息子さんとビールを飲みまくり、お互いロレツが回らなくなり、大盛り上がり。
ジンギスカン美味かったなぁ。
「また寄るんだぞ!!」
北さんにお礼を言い家を出て、広大な農地が広がる中、鳥沼公園の駐車場で車の中で横になった。
真っ暗な農地には、とんでもない音量の虫の鳴き声が響き渡っていた。
虫の鳴き声もここまでくると暴走族並みだな。
もう夏も近いんだなと思いながら目を閉じた。
まだ旅人バスは完成していないんだけど、雑品の引き上げ業者さんの段取りがつかず、6月にならないと来られないということになり、時間が空いてしまっている。
早くバスを移動して設置したいところなんだけど、周りにある雑品を片付けないことにはその作業に取りかかれないんだよなぁ。
あーもう、もどかしくてうずうずする。
もうこうなったらどっか行ってしまうか?
このまま富良野でひたすら時間を潰しているのも馬鹿らしい。
うーーーーーん……………よし!!
無駄な時間を過ごさないためにも、この待ちの時間を利用して滝川町に行くことにした。
旭川から273号線を北上し、山の中を進み、滝川の町に到着。
するといきなりものすごい光景が目に飛び込んできた。
おわっ!!!なんだあれ!!
ピンクの山がある!!!
あれがかの有名な滝川の芝桜公園か!!!
そう、滝川といえば芝桜。
今がそのシーズン真っ盛りということで、山を登って駐車場に着くとかなりの数の観光客が、地面を埋め尽くす芝桜を楽しんでいた。
400円の入園料を払い、園内の遊歩道を歩いていく。
いやー、なんて綺麗なんだろう。
近づいて見ると、ほんの小さな小さな花びら。
それが絨毯みたいに地面に広がっている。
中にはピンクや白の芝桜もあり、そのコントラストがまた美しい。
芝桜ってのは雑草に弱く、徹底して管理してないとなかなか綺麗に咲いてくれないデリケートな花らしく、園内にはたくさんの作業員さんたちが雑草をむしったりしている。
大変な作業だなぁ。
さすがは北海道だなぁ。
スケールが違うわ。
するとその時、向こうから歩いてきたツアー客のジジイが、何を思ったのか遊歩道の上から踏み出して芝桜の上をぐしゃぐしゃと歩いていき、クルリと振り返った。
そして遊歩道にいる奥さんに写真を撮れと催促している。
ちょっとダメですよ!!と言う奥さんに、いいから!!早く撮れ!!と言うジジイ。
芝桜を踏みにじりながら。
うん、とりあえず芝桜の手入れしている作業員さんたちのウンコ食えバカ!!
花踏み潰すとかマジで信じらんねぇジジイだった。
美しい花を満喫し、車を走らせていく。
濁川から上雄柏と、ひたすら山奥へと入っていく。
すると、木々の中に朽ちた廃屋があった。
北海道の田舎ってのはあちこちに廃屋が見られる。
でも東北とかそのあたりで見てきたような廃墟とはまた少しニュアンスが違う。
まだかろうじて人の気配がこびりついてるような、そんな置き去りにされたような雰囲気が漂っている。
開拓時代、北海道の各地に人が住み着き、集落を作り、この未開の大地に根を張った人たちがいた。
それが時の流れの中で引っ越したり、亡くなったりして廃れ、人がいなくなって廃村になっていったんだろう。
新しい村が、新しい廃村になる。
そのこびりついた生活感が、ここに人がいたことをリアルに想像させてくれてなぜか虚しくなる。
その時、草ぼーぼーの広場だったような場所に、◯◯小学校跡、っていう看板が立っているのを見つけた。
こんな山奥の寂しいところに学校かよ…………
それほど人口がいたってことなんだよな…………
瓦礫の山を乗り越えて中に入ってみた。
ものすごく古めかしいトイレ、反り返って今にも抜けそうな廊下。
驚いたのは年代物の馬ソリ。
ここらの子供はこんなもので通学してたんだろうか。
そんな原始的な移動手段って、昭和初期とか大正時代のことだったりするのかな。
すごすぎる。
外の校庭には、伸び放題の草に混じって桜の木が花開いていた。
カスリの着物を着た子供たちが、この桜の木の下で駆け回っていたのかな。
寂しくて、胸が苦しくなる。
その先で道が閉鎖されていたので仕方なく引き返し、中立牛から遠軽に抜けようとひた走る。
牧草の草原の中に、酪農農家の農場があり、サイロなんかが立っているんだけど、よく見たらそれらも全て廃墟だった。
なんだここ…………
廃墟の村だ…………
こんなにたくさんの建物があって、たくさんの人が住んでいたはずなのに、建物を放置して離れてしまったのってなんでなんだろう。
ここに住んでた人たちは今もどこかで生きているのかな。
私の故郷は北海道の山奥にあって、今は廃村になっていて、実家がそこに取り残されているんです、っていう人が日本のどこかにいるのかと思うとめちゃくちゃロマンだよ。
その集落の先でも道が閉鎖されており、そこにまた上古丹小学校跡という廃墟があった。
神社跡もあったりして、何かないか探したが草に埋もれていて何も見つけられなかった。
結局国道に戻り、紋別に出てから次の目的地の上湧別に到着。
車道の脇に咲いているチューリップ。
バス停の形もチューリップ。
そう、上湧別はチューリップの町。
そんな町の象徴であるチューリップ公園に行くと、もーーーーすごかった。
広大な敷地、見渡す限り咲き乱れるチューリップ。
コップの形をした見慣れたものからドクドクしい見たこともないやつ、こりゃすげえわ。
北海道の春は花の楽園だなぁ。
大地に咲き乱れる花々と、大地に放置されて朽ち果てるのみの廃墟たち。
対極にあるこのふたつだけど、どっちも美しかった。
俺は廃墟のほうが好きかな。
さ、富良野に戻るか。
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