2004年 12月15日 【富良野新プリバイト】
「タブー」といわれるものはなぜか人を惹きつける。
らい、という病気がある。
旧約聖書にも書かれているくらい昔から存在する人間の病気であるこのらい。
感染病で、冒された者は10年ほどの潜伏期間を経て身体中に斑点が現れ、髪の毛、眉毛が抜け落ち、顔、体は変形し、肉が腐れ、失明し…………とまぁ世にも恐ろしいこの病気を、人は「業病」「天刑病」などとも呼んだらしい。
この病気にかかると、その家族はすぐに発症した者を隔離施設に入れ、戸籍を抜く。
それはなぜかって、人々はらいを恐れ、患者を出した家族まで村八分とかにしたから。
なので、いち早く自分の症状に気づいた者は、家族に迷惑をかけまいと家を出て病路行者になる。
夏は東北の平泉や月山、冬は四国88ヶ所。
しかしまっとうな道は歩けないので、彼らは山の中を人知れず歩いた。
そういう場所には、らい者などの隠された道があったそうだ。
今、中田さんから借りた北条民雄って人の本を読んでる。
昭和初期に謎の作家として現れ、そして消えたこの北条民雄こそらい患者だったんだけども、隔離されたらい院の中から本を書き、当時の文学界の大スターだった川端康成に送りつけ、見出されたんだそう。
当時彼は21歳。
そして23歳でこの世を去った。
今その本を読んでる。
なんでこんなすごい病気のこと今まで知らなかったんだろ。
インターネットの普及でなんでも情報が手に入る時代にこんなにも隠された存在って、よほど未だに人々から畏れられてるってことなんだろうな。
タブーは人を惹きつける。
まだまだ知らないことばっかりだ。
旅の中でもっと深く色んなこと学んでいかないとな。
そしてバイトが始まって3日。
「…………………………はっ!!!!」
目が覚めて時計を見ると昼の12時。
今日のシフトは12時。
もう12時。
死んだあああああああああああああ!!!!!
バイト3日目で遅刻!!!!!
ヤバすぎるううううううううううううう!!!!
鼻に指突っ込みながら猛スピードで顔を洗い、うおおおおお!!と着替えようとするといきなり鼻からポタポタと鼻血!!!!
キャアアアアアアアアアアアア!!!
止まらないいいいいいいいい!!!!
ティッシュねじこんで着替え完了!!!!
えーーーーーっと、ケータイケータイ!!!
ケータイがねえええええええええええ!!!!!
2分前に時間を見たあのケータイが消滅!!!!
そこらじゅうひっくり返してもどこにもない!!!!
キエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!
ないないないないないないない、あ!!!あった!!!!
雪道100キロという自殺行為で爆走し、ホテルに突っ込むと見せかけて慎重に駐車してこの世のものとは思えない顔でロビーに到着!!!!
「すみません!!!ホントすみません!!!」
「あ、金丸さん、じゃあプールの説明しますね。」
え?全然怒られない。
何事もなかったかのように案内してくれる先輩。
チーフに聞くのは怖いので歳が近い先輩に聞いてみた。
「あ、あの………後で遅刻のこと言われますよね……?」
「それがですね、僕も何度かしたんですけど怖いくらい何も言われないんですよ。」
んんんん…………なんか逆に怖いな…………
プールの監視員はウルトラ楽勝だった。
1人で監視室の中で座っといて、ボーっと漫画でも読みながらたまにお客さんが来たら「いらっしゃいませ」って言って見とくだけ。
ちょいちょい水温を測ったり人数確認したり、クローズ際に水面にシート張ったりするくらいのもんで、マジで楽勝。
女の人の水着見られるし。
時間がたんまりあるのでこの時間を使って色々本でも読んでいこう。
そしてバイト開始6日目。
目が覚めると8時20分。
8時出勤なのに。
かぺええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!
終わったああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
雪道をアイルトンセナくらいかっ飛ばしてドリフトで車を止めると見せかけて慎重に駐車して鬼の形相でロビーにヘッドスライディング!!!!
「あ、早く行って早く行って。」
また何も言われない。
6日目で遅刻2回。
なめてるとしかいいようがない…………
「おい!!!止めろ!!!早く音楽止めろ!!!」
お昼になったころ、何やらチーフが慌てて指示を出していた。
え?どうしたんだ?
どうやらお昼になったらホテルの敷地に流れる北の国からの音楽を止めろと慌てているようだった。
「止めろ!!あー、もう優しい時間の撮影してるのに北の国からはないだろ。」
あ、なるほど。
今この新プリンスホテルの敷地の森の中にある建物では、富良野を舞台にした新しいドラマの撮影が行われている。
あの倉本聰さんの脚本による「優しい時間」ってドラマだ。
長澤まさみ、嵐の二宮君、そして寺尾聡さんが出演しているやつ。
撮影場所は立ち入り禁止になってるのでまだ役者さんたちは見てないけど、ものすごく近くにそんな大物がいるのかと思うとまぁまぁワクワクする。
ホテルのトランクルームには撮影機材や大道具がごった返している。
撮影で使われている喫茶店は新しく建てられたもので、撮影が終わったらそのままホントの喫茶店としてオープンするんだそうだ。
また観光客めっちゃ増えるだろうから、富良野市からしたら倉本聰さまさまだよなぁ。
その後も新プリンスホテルは富良野で1番のホテルだけあって有名人がたくさんやってきた。
なんかのドラマの撮影で、織◯裕◯と矢◯亜◯子も来ていたし、皇族の人が来た時はものすごいSPの人たちが配置されて緊急感が漂っていたし、この前は普通にタクシーを呼んだ緒方さんって人を探していたんだけど、
「タクシーをお待ちの緒方様ー。緒方様いらっしゃいますかー?」
「はいはい。」
あ、緒方様、タクシー到着いたし………
おわっ!!
◯◯◯◯緒方やん!!!
んー、あと何人有名人見るかなぁ。
ホント、ホテルで働くって楽しい仕事だな。
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