2004年 8月8日
懐かしいこの雰囲気。
広い駐車場に白い線が引かれ、それに沿って並ぶ車の列。
大きな荷物を縛りつけたバイク。
アジアっぽいシワだらけの服にサンダルを履き、伸びっぱなしのヒゲにバンダナという旅人スタイルのバッグパッカーたち。
目の前に広がる津軽海峡。
ここは本州の出口、大間。
沖縄以来の雰囲気だなぁと思いつつ、とりあえずフェリーの時刻をチェックしてみた。
ここから北海道の函館まで、朝は6時半から4時間おきに1日4便。
車の料金は13000円。
人のみは1100円だったかな。
車で乗ったらドライバーの分はタダだ。
「何すんべー。」
一緒にいるのはむつの有名人、ニキさんと自衛隊員の松本さん。
ゆうべ徹夜で飲み明かしてそのままこの大間まで勢いでやってきたけど、別にやることもないのでこの町唯一のパチンコ屋さんにやってきた。
2人はこのまま開店待ちすると言ってるが、俺はもうさすがに限界が来たので車に戻る。
ケータイの充電がなくなっていたので、ファントムのキーをアースまでひねり、充電器をさして眠った。
起きたら16時になっていた。
うわぁ、ずいぶん寝てしまったな。
パチンコに負けた2人はフェリーで函館に遊びに行ってるみたいで、俺はそのまま車の中で日記を書く。
今日は確かこの大間のお祭りの日だったはず。
もう青森で何回お祭り行っただろ。
こんだけ毎日どこかしらでお祭りやってるってすごいことだよなぁ。
フェリー乗り場が夕闇に包まれ出したころ、どこからか祭囃子が聞こえてきた。
カメラを持って小さな町の中を歩いていくと、ささやかな山車がいるのを見つけた。
子供たちがロープで引っ張って町を練り歩いている。
狭い道を車が入ってきて、山車とスレスレで通り過ぎていく。
道路を規制しないところが田舎のお祭りって感じだな。
神社の前の広場に着くと、そこにはすでに3台の山車があり、地元の人たちで賑わっていた。
ふと思ったけど、お祭りって神様のものばっかりだよな。
神仏混合のこの国でなぜ仏教のお祭りってあんまりないんだろう。
「カッコいいーー!!」
向こうのほうでミニスカートの浴衣を着たヤンチャそうな高校生の女の子たちがこっちを見て恥ずかしそうにしている。
この田舎の小さな港町で派手な金髪ロン毛の男が珍しかったのかな。
チラッと見るとキャー!と騒いでる。
懐かしい地元の祭りを思い出す。
ファントムに戻ってエンジンをかけようとキーをひねった。
キュルキュルキュルキュル………………
あ、あれ?
キュルキュルキュルキュルキュルキュル……………
う、うそ、どういうこと?
エンジンがかからない。
ていうかセルが回らない。
嘘だろーーーーー!!!!
バッテリー上がってるーーーーー!!!!!
さっきキーを回したまま寝てしまったからだ…………
そしてファントムのバッテリーもきっとそろそろ寿命だったんだろうな…………
函館に行ってる松本君に電話すると、ブースターを積んでるからそっち戻ったら繋いでみようとのこと。
日記を書きながらフロントガラスの向こうの海を眺める。
車を降りてみると、暗い潮風がふと冷たく感じた。
あああ、あんなに暑くて死にそうだった夏が終わろうとしている。
この冷たい風。
フェリー乗り場のベンチで寝袋にくるまって寝ていた、あの鹿児島あたりの日々がブワッとよみがえる。
もう2年か。
風はまるでタイムカプセル。
寒い季節の恋が頭の中を駆け巡る。
冷たいサラサラした肌が触れ合う感触。
友達とバイクに乗って夜の中を走ってた日。
みんな遠い昔のこと。
あー、ここは津軽海峡なんだよなぁ。
センチな気分に浸りながら待つこと数時間。
日付けが変わって夜中の1時半にフェリーが着岸した。
降りてきたニキさんと松本さんと合流し、早速松本さんの車とブースターで繋いでみる。
イマイチやり方がわからないけど、とりあえずこんな感じかな?と挟んでみたら、
ん?
なに?
け、煙?
煙!!!!!
繋いでるブースターから煙が上がってる!!!!
見るとゴムの部分が溶けてる!!!
「うわあああああああああああああああ!!!!」
「早く取って取って取って!!!!」
軍手で思い切ってブースターを外した。
あまりにも高熱になってたのか、その軍手も溶けて一体化している。
あ、あぶねえええええええ…………
こりゃどうしようもねぇわ。
素人じゃわかんねぇ。
しょうがない。
諦めて明日整備工場に持っていくか……………
「じゃあ元気でな!!」
帰っていくニキさんと松本さんを見送り、1人またセンチな気分で海を眺めた。
祭りの余韻が潮風の中に静かに漂っていた。
翌日。
とうとうきた。
そう!!!
今日は長かった本州最後の日!!!!
そしてずっと計画していたあの作戦!!!
津軽海峡泳断!!!
実行の日!!!!!
協力者のユウキは、すでに休みを取って富良野から函館まで来ていて、対岸で俺の上陸を待ち構えている。
距離は17キロメートル。
流されても20キロメートルくらいのもんだろう。
車の発炎筒を腕に巻いて泳ぎ、もしヤバくなったら対岸で見張ってるユウキに合図を出して助けてもらう。
絶対に成功させてやるぞ。
とりあえずまずはバッテリーが切れて動かなくなってるファントムの修理をするために近くの整備工場に電話をかけた。
「あー、わかりました、今から行きますので。」
さー、どうやって泳いでやろうかなぁ、17キロってどんくらいのもんなんだろ、これで泳ぎ切ったらヒーローだぜコノヤロウ、なんて考えながらフェリー乗り場のトイレに行って顔を洗って歯磨きして車に戻ると、
あ、あれ?
エンジンがかかってる。
え?
辺りを見渡すが誰もいない。
えええ?
な、なんで?
お、お金は?
仕事早すぎるだろ……………
ほんの数分よ?
なんかよくわかんけどお金浮いたな。
11時半のフェリーに車だけを載せる手続きをし、まだ時間があるので本州最北端の地へ向かった。
最北端の岬はこのフェリー乗り場から少し離れた場所にある。
ウミネコがミャーミャーと飛び交う大間崎。
軒を連ねる土産物屋や食堂。
つーか、北海道見えねーな…………
見えるって聞いてたのに…………
曇ってるし風強いし…………
とりあえず腹ごしらえしようと、食堂でマグロカレーを食べながらおばちゃんに聞いてみた。
「泳いでぇ!?絶対無理だぁ!!外国船に拉致されちまうがら!!軍の潜水艦も見張ってるし、鮫もウヨウヨいるんだがらぁ。潮も結構あるんだしぃぃー。」
……………ま、マジで?
岸壁で海水を触ってみた。
冷たっ!!
…………………………………………
1年前から企てていたこの大作戦。
こりゃ間違いなく死ぬな…………
やめ………と……く…………か……………
うん…………やめたほうが……………いい…………よな。
悔しくはない。
だって死ぬから。
ああああ!!もういいや!!
やめやめ!!!
ちょっと残念だけどさすがに死にそうなことはせん!!!
北海道で色白美女と遊ぶ前にサメの餌食になってたまるか!!!
そうと決まればファントムと共にフェリーに乗船。
ゆっくりと動き出し、岸から離れていくフェリー。
ウミネコの群れが船を追いかけてきて、餌を投げてくれるのを期待している。
本州、しばらくの間バイバイだ。
また戻ってくるからな!!!!
そして船は1時間40分という航海時間を大幅に縮めて1時間ちょいで函館到着!!!
ついに北海道上陸!!
うおおおおおお、なんだか乾いた日本っぽくない空気に胸が高鳴る。
「うおーーーい!!久しぶりやな!!ついに来たなー!!」
フェリーターミナルには、福島県で別れたユウキがいた。
富良野に向かう途中、函館でヒッチで乗せてくれたという女の人、冬ちゃんと一緒に手を振っている。
保険の外交員さんという美人の冬ちゃん。
軽く挨拶し、冬ちゃんは休憩時間を終えて仕事に戻っていった。
とりあえず3日間風呂に入ってないのでどっか銭湯行こうぜと湯の川温泉てとこに向かっていると、目に飛び込んできたのは、ビーチパラソルと水着の人たち。
「行く?」
「え?行く?」
駐車場で車の中に服全部脱ぎ捨ててパンツ1枚でダッシュ!
「わあああああーーーー!!!!」
思いっきり海にダイブ。
沖縄のようにきれいな海じゃないが、この真夏に3日風呂に入ってなかったので爽快すぎる。
気が狂ったように泳ぎまくる。
「ガボッ!!!ゴボゴボ!!グヘェェェ!!!」
しかし波が意外と高くて海水を飲みまくってしまい、5分も経たないうちにブイにしがみついて死にそうになってる2人。
こ、こんなんで17キロも泳げるわけねぇ……………
よかった…………
あのまま行ってたら一瞬で土左衛門だったやん…………
久しぶりの再会を祝して軽く飲むかということになり、藤の湯っていうとこで体を洗い、仕事を終えてやって来た冬ちゃんと3人で居酒屋へ行くが、連日の熱帯夜による睡眠不足でビール2杯でベロンベロンになってしまった。
店を出て、冬ちゃんの車でドライブし、俺は後ろで眠る。
しばらくしてどこかに着いた。
「おい、おい文武。行くぞ。」
外に出るとすごい人ごみだった。
どこだここ?と思いながらフラフラと階段を登っていくと、そこには目を疑うような光景が待っていた。
宝石を散りばめた、ってこのことだ。
黒い海に弧を描いてのびる光の線。
海にポコンと飛び出したウエストの部分までびっしりと光が瞬いている。
これが世界3大夜景のひとつ、函館山の夜景か。
なんてきれいなんだろう。
こんな海を隔てた遠い北の地にもこうして大きな街があって、当たり前のように俺の知らない人たちの物語がおくられている。
ようやくターニングポイント。
ここからが戻る旅。
いや、旅は踏み出したその時から帰り道をたどっている。
向かうだけの旅ってあるのかな。
あ、そうだ、人生こそ戻ることの出来ない旅か。
俺のやっていることなんて、非日常的でもなんでもない。
生きているから、生きられるから、生きる。
自分の生き方を貫くんだ。
この旅はあと3年続く。
きっとすごい男になってみせる。
【祭りまみれの青森県前編】
完!!!!
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