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登米で人生最強のズタボロ銭湯へ







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2004年 7月5日



さぁ北上北上!!!!




アワビの密漁で荒稼ぎした金で建てた、地元の人がアワビ御殿と呼ぶ豪邸をす通りし、ぐにゃぐにゃした海岸線のリアスブルーラインを駆け抜け、雄勝町にやってきた。


この町は石巻で出会ったヒデ君の住む町。


今日も町役場で働いてるはずだ。



でも会いに行く前にちょいと硯会館へ。

そう、この雄勝は日本一の硯の産地。






250円を払って館内へ入ると人っ子1人いない。


でも展示内容はなかなかのもんで、日本全国の硯から中国の硯、何百年も昔のものや、美しい彫刻が施された豪華絢爛なものまで色んな硯を見られる。


雄勝は硯やスレートの原料となる玄昌石という石が良質かつ豊富に採れるということで、600年前の室町時代から硯生産が行われてきたそう。


どこがどう良質かっていうと、程よい固さ、柔らかさ、滑らかでいて肌のトゲが細かくて、墨をとくのにバッチリなんだと。



ちなみに凹んだ部分が海(いけ)、傾斜の部分が胸、高いところが陸っていうらしい。


勉強になる。


でもガラーンとし過ぎててちょっと寂しい。







そんな俺ですら寂しくなる館内で、死ぬほど孤独そうにひとりぼっちで実演してる職人さんがいた。



いじめやん…………


会館の人、もうちょっとこの人に優しくしてあげてよ……………



「後継者問題で困り果ててるんです。」


「毎年の小学生たちの習字セットの収入はかなり大事です。」



ちょ、話題が切実…………


もうちょっと明るい話題を…………


ま、まぁ職人さんなんて孤独な仕事だろうから、ひとりぼっちには慣れっこなんだろうけども…………



「伝統工芸品に認定されるには歴史と、裏付けの資料と、そして品質が伴わないといけないんです。それでですねアレでですねコレがですねうんたらかんたらウンタラカンタラ……………」



おじちゃん洪水のように喋りすぎ。


よほど暇だったのか1時間半くらいノンストップで喋り続けるおじちゃん。



うん、職人さんでも話し相手は欲しいよね。






それから田舎らしい雄勝の役場に行ってヒデ君に会い、20分くらい色々喋ってから雄勝を後にした。


ヒデ君元気でな!!!








雄勝から海岸線を北上すると北上川にぶつかる。












日本の音百選である群生するヨシの原を眺め、次になんかめっちゃ落ちそうな岩へ。





落ちそうで落ちないから受験生がご利益もらいに来るらしい。







それから神割崎へ。


その昔、志津川町と北上町のふたつが村境の取り決めであーだこーだモメてる時に、ちょうど真ん中あたりの浜に鯨が打ち上げられた。


これはウチの村のじゃーー!!!

いやオラたちのだやーーーー!!!


って醜い争いをしてるのを見かねた神様が近くの巨石を真っ二つに割ってそこを村境とした、という伝説があるこの場所。




今でもここを境に町が分かれている。


まぁもちろん波の侵食かなんかで割れたんだろうけど、荒れた波がしぶきを上げながら岩の隙間になだれ込んでくる迫力は、神の力を想像するに容易い。











そこまで見たら海とはしばしの別れ。

内陸に向かって車を走らせる。



津山町の柳津虚空蔵尊へ。


会津の虚空蔵尊と同じ名前だな?と思って行ってみると、看板に日本3大虚空蔵尊と書いてる。


あれ?日本3大は千葉と茨城と福島のはず。


しかも本尊を彫ったのは弘法大師のはずなのに行基菩薩だそう。


どういうこと?



「すみません、ここって福島の柳津と何か関係あるんですか?」



「あー、地名が一緒なだけで別に関係はねー。」



ぶっきらぼうに答えるオッさん。


どうでもよくなってさっさとサヨナラ。


近くに日本3不動尊なんてのもあったけど、もう面倒くさくなって今夜の寝床を探した。






登米郡登米町ってとこにやってきた。


とめ群とよま町って同じ漢字で読み方が違うというややこしい町。

住んでる人、説明する時面倒くさいだろうな。



町に線路ないけど駅前食堂っていう首藤屋で晩ご飯を食べた。


美味い。





食堂で銭湯の場所を聞いて行ってみると、ボロボロの民家と崩れ落ちそうな蔵の隙間の道に「ゆ」とのれんがかかっていた。


え……?


こ、これ…………?


人1人やっと歩ける、狭くて真っ暗な隙間を恐る恐る進んでいると、左手の家が障子全開で居間が丸見えで、勝手に侵入してるようにしか思えない。




ええ…………?



これ不法侵入やん…………



とか思っていると奥からお爺さんが出てきた。



「風呂入るんだっちゃ?350円。」



金を払って先に進むと荒れ放題の植木があり、半分崩れてんじゃないか?っていう家。


ど、どこだよ…………って思いながらよく見ると、生い茂ったツタの葉に隠れるように「ゆ」ののれんがあった。



こ、これか…………


すごいボロさですね…………




「すみません、トイレどこですか?」



「こっちだよ。」



なんか木材とか色んなもんが散乱している建物の裏へ連れて行かれる。


マジ暗闇。



ここだよ、と指差すお爺さん。

埃をかぶった便器のふたがある。



「あの、紙がな、」



「電気消してきてね。」



スタスタ歩いてくお爺さん。



か、紙…………




紙がないのでお尻が拭けず、半ケツ状態でヒョコヒョコ歩きながら木材の横を通って風呂までたどり着き、貸切状態で髪の毛を洗う。


するといきなりお爺さんが風呂場のドアを開けた。



「21時までだから。」



「え!?あと何分ですか?」



「5分。」



ろくに湯船につかることもできずにすぐ上がる。


脱衣所で俺が服を着るのを真横で見ているお爺さん。


圧がすごすぎる。



「ここって歴史古いんですか?」



「大正のはじめだから100年くらいか。オラで3代目だ。バラックの頃からだがら。」



このズタボロの銭湯もかつては新築のころがあって、たくさんの人で賑わった最盛期があったんだろうなぁ。


そう思うとこのひどい雰囲気も悪くない気がしてくる。




さっぱりして、車に戻って眠った。
















翌日。




『時が経つのを忘れてしまっているような風景…………』


とパンフレットに書いてあるこの登米。


城下町として栄えた後、明治維新後は県庁が置かれ、北上川の舟運で大いに賑わったようで、武家屋敷や白壁の蔵が当時の繁栄を今に伝えている。













教育資料館っていう、明治21年に建てられた立派な木造校舎の小学校を見学し、誰もいないので変な写真を撮りまくる。













それから武家屋敷群も見て周り、そろそろ出発しようかと思ったが、どうしても気になってゆうべの銭湯『千代の湯』に寄ってみた。



「おー、九州の兄ちゃん。」



明るい下で見ると改めてすごい建物。












今まで色んな古い銭湯に入ってきたが、「わかりにくさ度」「さびれ度」「恐怖度」、全てにおいてここがダントツ。



「おーい、コーヒー入れたから飲んでけー。」



ぶっきらぼうだけど、優しいお爺さんだった。













炎天下の昼下がり、108号線を走っていく。

暑い。

暑すぎる。


ファントムは男の乗り物だから、っていうかガス入れてないだけなんだけど、おかげでエアコンが効かない。


汗ダラダラでハンドルを切る。


運転席の窓から照りつける日差しで右腕が運転焼けしている。







小牛田町に入り、スーパーのヨークベニマルに車を止め、おばちゃんに話しかける。



「ここから『一ノ蔵』の蔵まで歩いてどれくらいかかりますか?」



「はー!歩いでだっだら1時間以上かがんべよー!よし、オラん自転車貸しでやっがら。」



そんなわけで前後にカゴのついたママチャリをこいで、宮城県最大の規模を誇る酒造メーカー『一ノ蔵』を目指した。



山の中腹にあるもんだから、登り坂で汗ビショビショ。


30分かけて工場に着いたころにはパンツまでずぶ濡れ状態だ。

受付をしてロビーで待つロン毛、破れジーパン、全身汗まみれの若造。










「本日案内させていただきます、管理課担当の末永と申します。よろしくお願いします。」



大手のメーカーはそろって対応が素晴らしい。


こんなふざけた格好した若造にもこの上なく丁寧に説明してくださる。





「やはり蔵としては化粧をしていない純米酒を飲んでいただきたいですね。」





ゆっくりと見学して回り、試飲をさせていただいたころにはもう16時。



お礼を言って蔵を出て、ヨークベニマルに戻るとおばちゃんが心配して待っていた。


俺のこと何も聞かずにいきなり自転車貸してくれるなんて優しいよなぁ。

どう見ても怪しいと思うんだけどなぁ。


ありがとうございました。








夜、酔いがさめた頃に山に向けて出発した。


奥羽山脈に沈む太陽。

夕焼けがとてもきれいだ。







江合川沿いに点在する鳴子温泉郷は、川渡温泉、東鳴子温泉、中山平温泉、などを含む一大温泉郷。

その中で1番大きな鳴子の温泉街へ。


街の中心にある共同浴場『滝の湯』は150円というありがたい値段で、床から浴槽、壁まで全てが木造で、なめらかな肌触りが心地よい。






濡れた髪のままシャッターの閉まった温泉街を歩いた。


各店先に並ぶこけしの看板。


宮城県の温泉地はどこもこけし作りが盛んだ。




車を走らせ、今夜はさらに山奥の鬼首というなんとも怖い名前の土地で眠った。





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