めちゃくちゃ二日酔いで夕方に目覚め、ホカ弁を買ってNくんの部屋に行こうと電話すると、はよ来い!!と言うので駅前に行ってみるとNくんとウメ君が2人でナンパしていた。
「カネ、お前も飲む?」
ワンカップ片手に2人ともだいぶ赤い顔してる。
こんな明るいウチからよく飲むわ。
「あーケンカしたいわー!!オラー!!」
そこら中のチャリを蹴り倒しまくるN君。
無法者すぎる。
町の人たちの視線が痛い。
「おい!!…………おい!!」
すると、いきなりすれ違った男2人を呼び止めるNくん。
「何見とんじゃコラ。」
始まったよ…………
近づいていった途端、2人のうち1人の襟首をつかんで壁に叩きつけた。
ウメくんも横からそいつの襟をつかむ。
「何見とんゆーとんじゃ!!」
「ハハハァ!!!カネは後ろで見とりゃーええけぇのー!!ハハハァ!!!ゴルァ!!」
よく見ると、そいつらは2~3日前にうちの会社に入った新人2人だった。
1日だけだけど一緒に仕事したこともある。
愛媛から流れてきた2人で、トビの面接にスーツで来るほど覚悟決めてるやつらだった。
「あああああ!!…………ふぅー!ふぅー!!」
襟首をつかまれながら、相当我慢してるそいつ。
「おい!!もうやめとけって!!こいつらうちの新人やわ!!もうやめとけ!!」
俺が間に入って止めようとしても聞く耳もたず。
そのとき、Nくんが相手の顔に一発放った。
拳が顔に当たるか当たらないか、ついに襟首を持たれていたヤツがキレた。
「オラアアアアアアアア!!!」
ものすごい勢いで暴れ始めたそいつ。
後ろで見てた連れも爆発してもう殴る蹴るの大乱闘。
「やめろって!!おい!!やめろ!!」
ウメくんをボコボコ殴ってる、最初に襟首つかまれたヤツを羽交い絞めにする。
「離さんかいゴルァ!!!」
「もうやめろって!!俺らが悪かったから!!もうやめとけ!!」
そいつのはだけた胸にはどんぶりが入ってた。
どんぶりとは、大胸筋に沿って彫られた刺青のこと。
ソッコーで5~6人の警察が飛んできて、止めに入る。
それでも暴れまわる4人。
「ゴルァ!離さんかい!!」
「殺したるわああああ!!!!!」
はい、めでたく派出所で10人ぐらいの警官に囲まれ事情聴取。
しばらくすると、うちの会社のアネゴこと、T部長が鬼の顔で派出所に飛び込んできた。
「何しとんやワレどもおおお!!」
げんこつが炸裂。
「後はこっちできっちり話しますんで。えらいご迷惑おかけしました。…………おら!行くぞ!!」
そして会社の事務所の奥に連れて行かれ、アネゴの話。
「あんたらねぇ、同じ釜の飯食うとるもん同士が何しとんのや!!」
「いや、でも俺らは先に手ぇ出してないんで。」
「ああああ!!!お前が先に殴ってきたんやろがー!!」
「何やとゴラアアア!!!やるんかい!!」
「ええ加減にせんかい!!誰の前やと思うとんじゃ!!姐さんの前やぞ!!」
「あんたらねえ。あたしのことただのオバンや思うとったらアカンでぇ!!」
うちの会社の社長と常務のお母さんである姐御。
噂では太ももまで全部刺青が入ってる。
「あんたら…………誰が間入ったかわかっとんやろなぁ。これで何かあってみ。行くとこあらへんからな。」
凄みかたがハンパねぇ…………
ただの極道の世界やん…………
全く乱闘の耐えん会社だ。
翌日、門真の免許センターにやってきた。

酒気帯び運転による免停60日間。
それを30日間にしてもらう短縮講習を受ける。
1日5時間の講習を2日間。
講習料2万3千円。痛すぎる…………
自動車学校でやったような、ルールやマナーのお話し。
心理テストや視力測定。
シュミレーション機械での運転。
それから筆記テスト。
試験官に答えを教えてもらったりしながらなんとか合格点を取り、無事30日間の短縮が決定した。
免許が戻ってくるのは10月30日。
それまで車どこに置いとこう…………
悩んでいたら、会社のハヤシさんっていう信用できる在日韓国人のおじさんが面倒を見てくれることになった。
ハヤシさんに鍵を渡し、1ヶ月後に取りにきますと伝えた。
でもこれで車持って飛ばれたら、俺おしまいだな。
ファントムに寮の荷物を詰め込んだ。
空っぽになった部屋を見ると、不思議と寂しさがこみ上げてこなくもない。
3ヶ月か。
地獄みたいな日々だったけど、これはこれでいい経験ができたよな。
大阪最後の夜はセンパイの知念さんの家で晩ご飯をご馳走になり、泊めていただいた。
現場でいつも優しくしてくれた知念さん。
まぁでもこの知念さんも怒らせたらめちゃくちゃ怖いんだけどね…………
翌日、知念さんの家を出てアウトドアショップに行ってみた。
こっから1ヶ月ファントムに乗ることができないので、荷物を入れる大きなバッグが欲しい。
どうせこの先も絶対使うだろうからいいやつを買っておこうと、守口のアウトドアショップでバッグを探す。
45リットルで16800円。
うん、高い。
「これいいですよー。ペラペラペラ。」
「いや、1万円しかないんですよねー。」
「ああああ…………1万円は無理やなぁ。これなんかどないですか?40リットルのやつ。」
「これがいいんですよー。12000円!!…………じゃ13000円!もう飯代も払いますわー。」
「あああああ…………わかった!負けました!いいでしょ。13000円でいいですわ!!」
3800円の値引きに成功し、ファントムに戻って、荷物をまとめた。
膨れ上がったバッグにギター。
沖縄でのスタイルだ。
大通りを歩き回り、やっと車が停まってくれそうなところを発見。
親指を立てる。
やっとだ。
やっと大阪脱出。
雨が降りしきる夜に大阪に突入して、あれからちょうど5ヶ月。
あっという間だった。
手に入れたものもあったが、この土地ではなくしたもののほうがはるかに多かった気がする。
自分が旅人だってことすら忘れてしまいそうになってた。
道草だいぶ食ってしまったな。
やっと、やっと次に進める。
「兄ちゃん、どこまで行くのー?」
【大阪鳶編】
完!!!
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