今日はとある用事で江坂駅にやってきた。
とある用事というのは、俺の音楽の師匠、テディさんのライブを見るため。
こんな大阪でライブのオファーが入るなんてさすがテディさんだ。
線路沿いにあるカラオケ屋「コーラスライン」に到着すると、キャパ150人ぐらいの小さいスタジオにテーブルとイスが並んでいる。
受付で名前を聞かれ答えると、
「あれ?ないなぁ?ちょっと聞いてきます。」
とバタついてる。
…………なんのこと?
どうやら事前に来る人たちが決まってたらしく、その分しか席を用意してないらしい。
困ってるとこに頼もしい男テディさん登場。
「あ、ごめん。俺の連れだから。俺の近くに座らせといて。」
中ではリハの最中だった。
運ばれてきたビールでテディさんとカンパイ。
どうやらこのライブは、今全国で全然足りてない盲導犬をもっとたくさん育成する寄付金を募るためのチャリティーコンサートとのこと。
15時にライブが始まった。
子供2人のダンスに、謎のカラオケ、演歌など、微笑ましいステージが続き、前半の締めがデビューしたてのギノランちゃんって女の子。
さすがにオーラ出してた。
かわいかったな。
そして後半3組は本気のアーティストによる弾き語りステージ。
ブルーハーツ大好きなんだろうなぁっていう血管浮かしまくりの夜士郎さんって人。
2人組の陽気な関西人。
そしてトリでテディさん。
いいライブだったな。

打ち上げにも参加させてもらえて、いろんな人たちが話しかけてきて、音楽話で盛り上がった。
夜士郎さん、だいぶ酔っ払ってたな。
面白い人だった。
22時に解散し、テディさんを乗せて新大阪駅へ。
「また近いうちに。」
「おう。」
久しぶりのライブはいい刺激になった。
俺ももっと音楽頑張らないと。
いい曲作らないとな。
そうしてついに鳶バイト、最後の日がやってきた。
今日に限ってヒロシさんと一緒ではなく、SさんとKさんと3人。
絶対終わんないだろ、って量の足場をばらしまくった。
いつも以上に気合いを入れて、フル回転でやった。
最後の仕事を終えて会社に戻ると、仲の良かった人たちみんなで送別会をやってるということで食堂に集合した。
ヒロシさんやSさん、Kさん、他に何人も。
怖かったけど、みんなそれぞれのやり方で気にかけてくれてたんだよな。
さぁ乾杯しましょうか!!というところだった。
いきなり社長から呼び出された。
え………な、なんだよ…………
社長は俺みたいな下っ端が口も聞けないような雲の上の人で、あの鬼の先輩たちがヘコヘコしてる神のような存在。
あんまり会社にはいなくて、俺も何度か顔を見たことがあるくらいだった。
そんな人から呼び出しなんて怖すぎるよと思いながら事務所の奥の部屋に行く。
「おう、お前が金丸か。」
「は、はい…………」
「なかなか仕事できるらしいな。」
「え?」
話を聞くと、どうやら今日行った現場の監督さんが、俺の仕事を見てわざわざ会社にあの若い子馬力ありますねとお褒めの電話を入れてくれたようだった。
ブチ殺されるのかと思ったらまさかこんな展開とは思ってもみなかった。
「お前辞めるらしいな。まぁいつでも戻ってきたらええわ。籍は残しといたる。」
最後の日にいい仕事ができて嬉しかった。
食堂に戻り、待ってくれていたヒロシさんたちと合流し、そこからはひたすら飲みまくった。
今までお世話になったセンパイたちみんなに挨拶してまわる。
「一周したら戻って来いよ!!」
「まぁとりあえず、一杯飲めや!!」
笑顔で酒を注いでくれるみんな。
ただの鬼の化身みたいな人たちだったけど、こうやって笑顔で送り出してもらえて、ホント頑張った甲斐があった。
「よっしゃ行くぞ行くぞ!!」
その後、6人で近くの居酒屋へ移動。
みんなでワイワイ飲んでいると、そこにNくんから電話がかかってきた。
「もしもしN君?」
「おうカネ、ちょっと待ってな。ガチャガチャ…………金丸くん?」
ハッ!!!!
この声は!!!!
イマさんだ!!
そう、白虎隊2番隊隊長、イマさん。
俺とN君に対して何かと目をかけてくれていた人なんだけど、ホントに腰が低く、顔も柔和でいつもニコニコしてる。
金丸君、これ運んでもらっていいですか?なんて感じで、俺なんかにも最初ずっと敬語を使ってくれてたようなめちゃくちゃ丁寧な人だ。
仕事もすごく出来るし、教えかたも優しいし、知念さんっていうセンパイとこのイマさんが俺にとって会社の尊敬できる存在だった。
でもなんでこんな優しい人が白虎隊の隊長なんだ?と思ってた。
怖い人じゃないと白虎隊にはなれないんじゃないのか?
イマさんって下手したら年下からナメられてしまいそうなくらいぺこぺこと腰の低い人なのに。
しかしやはり白虎隊は伊達じゃない。
センパイたちに、会社で1番怒らせたらいけないの誰ですか?と聞くと、誰もが口を揃えてイマさんと言う。
いつも人を殴るのを生き甲斐にしてるような悪の化身のセンパイたちですら、イマさんと話す時は緊張したりしてる。
最初は信じられなかったけど、ときおり見せる氷の表情とかは背筋が凍る気分だった。
想像できないけど、背中にはベラっと一面刺青が入ってるらしい。
そんなイマさんから電話なんて、いったい何事だ。
「は、はい!!」
「金丸くん、今どこにいるの?」
「あ、◯◯っていう居酒屋です!!」
「わかった。ちょっと顔出すわー。」
「え!!は、はい!!」
やばい。
すぐにヒロシさんに伝えた。
「バカたれ!!おまえ、イマさん来たらこの雰囲気ガラッと変わるのわからんのか!!」
たしかに。
でも俺に断れるわけなんかない。
しばらくすると、Nくんとともにイマさんがやってきた。
「おつかれさまです!!」
「おつかれさまです!!」
「おつかれさまです!!」
「あぁ。」
大騒ぎしていたみんなか一気に腰が低くなった。
ヒロシさんですら手を膝に置いている。
こりゃ悪いことしちまったぁ………
が、その横で1人だけ全く態度変わらないヤツがいる。
イワタ君だ。
「まぁまぁまぁ!!いっときましょーアニキ!!」
「イマさんもほら!飲んでくださいよー!!」
俺と同期で、いつもはおとなしいはずのイワタ君。
酒が入るとこんな感じになるやつなのか…………
ちょっとまずいな…………
このままいくとまずいことになるぞイワタ君。
とりあえずヒロシさんにイワタ君を任せて、俺はイマさんに挨拶に。
「本当にお世話になりました!!」
「うん、金丸くんならどこでもやっていけるよ!!正味の話、何でもできる!!」
イマさんからありがたい話をいただき、結構感動した。
カッコいいセンパイっているんだよなぁ。
それからもみんなで飲み続け、ちょっと美香に電話しようと外に出た。
もう9月も後半で夜風が気持ちいい。
すると、100mほど向こうの暗がりで、5~6人の人だかりができてるのが見えた。
何だろ?
なんか口論のような声も聞こえる。
近づいていって驚いた。
馬乗りになった人がボコボコ誰かを殴っていた。
うわぁぁぁ…………誰だよこんなところでケンカしてんの…………
と近づいていくと………あれ?ヒロシさん?
………あれ?ニシさんもいる。
な、殴ってる人…………山本部長!!!?
え?誰を殴ってるの!!??
「ゴルァ!!イワタアアア!!!わしを誰やと思うとんじゃー!!」
マジかよ………イワタ君だ…………
「おう言うてみろや!!どこん組じゃー!!」
もはや完全に酒に飲まれてるイワタ君。
あの神のような存在の山本部長に食ってかかってる。
からむ相手間違いすぎだよ…………
すでに殴ってる山本部長は血まみれ。
止めに入ってるヒロシさんも返り血でドロドロ。
そこにイマさんやKさん、一緒に飲んでた会社のみんなも駆けつけてきた。
「俺は◯◯会のイワタやぞおおお!!お前はどこの組やああああ!!!」
ビシッ!!
もう馬乗りで殴られすぎて力がなくなってるイワタくんの闇雲なパンチが山本部長に届く。
「ガハハハハ!!俺は◯◯組(うちの会社のこと)の山本やー!!!」
グシャ!!!
グシャッ!!!
頭蓋骨がコンクリートに打ち付けられる鈍い音が響く。
それでもイワタ君の叫びは止まらない。
もう顔が血まみれ。
「おまえら帰れや!!俺らがやっとくからお前らマジで帰れや!!」
ZさんやKさんに引っ張られて寮に戻された。
「今お前らがおってもジャマなだけや。イマさんやヒロシさんに任せとけば大丈夫やって!」
Nくんと寮の前で話していると、そこに血まみれで、元はどんな服だったんですか?ってくらいにビリビリになった格好で戻ってきたヒロシさん。
イワタ君や他のメンバーはKさんの車で病院に行ったらしい。
事の発端は、居酒屋でイマさんにまで無礼を働き始めたイワタ君を見かねて、ヒロシさんが外に引っ張り出してなだめていたところ、
「なんやお前どこの組の者やー!!」
と豹変したのだそうだ。
何発殴られても、あのヒロシさんが手を出さずに我慢してやったんだそう。
それでも、あまりにも手のつけようがないので、近くで飲んでいた世話役の山本部長に電話をしたとのこと。
さすがに山本部長には引くだろうと思っていたら、イワタ君はなんと、うちの会社の絶対的存在、あの山本部長にまでつっかかっていった。
そりゃやられてもしょうがないわ。
酒は飲んでも飲まれるな。
「悪かったな、最後の日に。」
ボロボロの血まみれのポロシャツを脱ぎ、ヒロシさんが俺に手渡す。
もらっておこう。
一番この会社らしい記念品だ。
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