壬生狂言、春の一般公開は、20日~29日まで毎日やっているとのことだった。
800円払って特設の席に座る。
壬生狂言は800年前に円覚上人っていう人が教えを説く演説をしていて、それを聴きに来る人が何万人にもなって声が届かないから、遠くにいる人のために身振り手振りで表していたのが始まりらしく、娯楽的な演目が多い中にも宗教的な要素が含まれていたりする。
今日見た演目は「花盗人」というもので、主人のために下っ端が桜の樹を切ってくるも、盗人に盗まれてしまい、主人にこいつでおどして取りかえして来い、と刀を渡される。
しかしうまいこと盗人にやり込められてその刀も取られてしまい、下っ端が主人にどやされるという朗らかなマヌケ下っ端ストーリー。
「おほほほほー。」
「アハハハー。」
と客席ではだいぶ笑いが起こっていたが、俺は全然笑えなかった。
でもまぁ、娯楽のない昔ではこりゃあ人気出るかな。
狂言だからもちろんセリフなし。
それにお面かぶってるから表情でも表現できない。
それをここまで見事に演じきり、客を笑わせるなんて、すごい演技だ。
これも伝統の技の1つだな。
ところで今日、神社と寺の違いを最近初めて知った。
◯鳥居は神社特有のもの。寺では手を叩かない。
◯寺は仏教と共にインド・中国を渡って日本に来た。神社は日本古来のもの。
◯奉っているものは寺は仏様、神社は~ノミコトといった昔の神様、あと天皇家。
◯仏様は有像だが、神様は形がない。
まぁ、こんなとこ。
そんなことを学んで次にやってきた伏見稲荷は…………神社だ。
おいなりさん(キツネ)を奉ってる、全国に3万ヶ所もあるといわれてる稲荷神社の総本山。
歩いて2時間はかかる山の中の道すべてが、赤い鳥居でトンネルになっている。
凄まじい数。
願いを思い浮かべながら石を持ち上げて、思っていたより軽かったら願いが叶い、思っていたより重かったら願いが叶わないという「おもかる石」なるものがあったから持ってみた。
んー重い。
ていうか俺の願いってなんだろな。
いつか見つかるのかなと考えながら伏見稲荷を後にした。
近くまで来たのでチラッとだけ引っ越しバイトの会社の前を通り、それから銭湯へ。
ここ京都でずっと通っていたこの銭湯も今日でおそらく最後。
240円という格安で、サウナ・水風呂・シャワー付きというめっちゃ良い銭湯だった。
相変わらず刺青のおっちゃんが多かった。
明日はサントリーウィスキー山崎の工場見学の予定を11時に入れている。
工場の近くにある、名水100選の「離宮の水」の湧く水無瀬神社の駐車場で今この日記を書いている。
夕方から降り出した雨は今も降り続いている。
明日もこの雨は続くらしい。
翌日。
目が覚めると外がガヤガヤとうるさかった。
カーテンを開けて窓から覗いてみると、ペットボトルやタンクを持った人たちが境内の中に歩いていく。
なるほど、ここは名水「離宮の水」の湧く神社だもんな。
俺も顔を洗おうと行ってみると、やってるやってる。
『1人タンク1つ、もしくはペットボトル3本まで』
と看板に書いてるのに、アホほどいっぱい空容器を持ってきて、おじさんおばさんが水入れながら世話話してる。
みんなが入れ終わるのを待って、冷水で顔をバシャバシャ洗った。
んーー最高!!
飲んでもみたが、いつも思うんだけど、うまい水っていうのは味がない。
もちろん水だから味はないけど、もっと微妙なところでカルキの臭いとか、ほのかな甘みとか、喉越しとか、そういう水って時々あるけど、名水といわれる水って、ほんとに味がない。
それだけに、多少口に入れたときに違和感さえ覚える。
さぁ、サントリー山崎ウィスキー蒸留所に突撃。
1923年に最初の日本ウィスキー作りが始まったのがここ山崎の蒸留所。
最初はちっちゃかった建物も、今はレンガ造りでものすごくドでかい。
庭も綺麗に手入れされていて、花が咲き乱れている。
集団でガイドさんが案内してくれるんだけど、ものすごくわかりやすく説明してくれて、見学者用の施設も整ってるのでウィスキーのことについてほんとに色々なことを学ぶことができた。
一番良かったのはもちろん試飲の時間。
カウンターのある部屋でまずはストレート。
おかわり自由ってんで、水割りも飲む。
おつまみのチーズもあるわ、カウンターの女の人みんな美人だわ、ヘタな飲み屋に行くよりもよっぽどましだ。
ガイドをしてくれた美人なお姉さん、素敵だったなぁ。
1時間ほどで見学を終え、車でしばらく仮眠をとってから、コーヒーを飲んで次は伏見へ。
伏見は日本3大酒造地で、あの月桂冠の故郷だ。
伏見の町に着くと、新緑の柳の間を川が流れ、そこに浮かぶ小さな舟。
木造の古い町並みは江戸時代の風情をよく残している。
そんな町並みの中に月桂冠の建物はあった。
1637年に開業した当時からの歴史の資料や、酒造りの道具が展示してある大倉記念館は、入館料300円で1合のお酒がパンフレット代わりにもらえる。
日本酒の銘柄ってあんまり知らないけど、昔っから月桂冠だけは知っていた。
親父が好きで毎晩飲んでいるからだ。
というわけで、お土産コーナーにあった古い月桂冠の復刻版を買った。
ほんとは買うつもりなかったんだけど、マジうまいこれ!!
もーまろやかな旨みがなんとも…………
これはこの記念館でしか売ってないらしく、親父喜ぶだろうなーと思い、そのまま実家に郵送した。
ゆっくり周っていたら結構いい時間になってしまったので、今日は早めに寝ることにした。
ホント、毎日毎日観光地をひたすら回っている。
全部回ろうと思ったら無限に時間がかかってしまうので、行くところを選ばなきゃいけないのが難しい。
行けるだけ行きまくって次の県。
早く先に進みたいけどテキトーになってしまうのだけはダメだ。
せっかくの日本一周、妥協のない旅をしないと。
京都で行きたかった場所は明日で周り切れる。
明日で京都〆だ!!
4月25日、金曜日。
京都ラストのこの日は宇治の住宅地で目を覚ました。
まずは昨夜チェックしといた源氏物語ミュージアムへ。
紫式部の書いた源氏物語。
平安時代に書かれた、ハンサム光源氏のプレイボーイ物語なんだけど、全部で53帖やったかな。
まぁその中の後半10帖が、ここ宇治を舞台として描かれたものだそう。
突然ですが、ここでいろんな観光地に行って気づいたことをランク付けします。
『マナー知ら図 TOP5』
5位 青年・若者
4位 おじさん・おばさん
3位 ガキ
2位 修学旅行生
1位 ツアーのオバタリアン。
もーーーー何度キレそうになったことか。
列に割り込むわ、ミュージアムの係員の話聞かんでくっちゃべってるわ、めっちゃ行儀が悪い。
ああいうおばさんに限って「今時の若いのは…………」とか言うんだよな。
風格ある宇治上神社をゆっくり見て回り、10円玉の裏に描かれている平等院鳳凰堂に感動し、お茶屋さんまみれの町の中を歩き、宇治茶資料館ってとこにも行ってみた。
お茶っていうのは元々お偉いさんの飲み物だったそうだけど、その中でも宇治のお茶っていうのはすごく高級だったらしく、今でも宇治茶は結構高い。
それもこれも、理由は手間ひまが半端じゃないから。
肥料を撒く回数だとか、どんな肥料がいいのかとか、遮光の段階とか、完全手摘みだとか…………
それに生産量も少ない。
資料館の中で抹茶を飲んでみたけど、すごくうまかった。
甘み、旨み、コク、後味のスッキリ感。
さすが本場だ。
なんかもっと知りたくなってきて、宇治茶研究所ってところにも行ってみた。
ちょうど今日が今年の初摘みの日らしく、無料で茶葉摘み体験と、製茶場の見学をさせてもらえた。
摘んだ茶葉から、抹茶、煎茶、玉露、と分かれていく工程を目の前で学ぶ。
ちなみに煎茶を自宅でおいしく飲むコツは、いくつかの湯飲みに急須で少量ずつ廻し注ぎしていき、最後に急須の中に湯が残らないようにする、ということらしい。
その際に、茶の種類によって湯の温度にも吟味すべしとのこと。
いやー、お茶って面白いな。
ていうか世の中にあるものなんでも奥が深い。
製造に関わってる人と出会うたびに、普段当たり前のように身の回りにあったものに対する見かたがどんどん変わっていく。
宇治の奥にあったダムがすごい。
さぁ、これで京都でやりたかったことは完了。
もちろんまだまだすごい名所はいっぱいあるんだけど、マジでキリがないのでここらで次の大阪に向かうぞ!!
うわぁ、大阪緊張する。
日本で2番目の大都会だもんなぁ、めっちゃ見所多いだろうし、都会すぎて緊張してしまう。
そんな大阪。
もちろん当てなんかなんもないんだけど、1人だけ、円山公園で歌ってる時に知り合った北新地のスナックのママがいる。
「うちで週1回の弾き語りのバイトすればええよ。車停める場所もあるし、なんなら家に泊まってもええし。」
そう言いながら俺の顔にチューしまくってたあのおばさんママ。
祇園の料亭「聞」で店の電話番号を書いてもらったクシャクシャの紙切れを一応まだとってある。
もし高級飲み屋街でバイトなんてことになったらどうしよう。
ドキドキしながら電話をかけてみた。
「あ、あのー…………先日、円山公園で歌を聞いてもらった者ですけども…………」
「あー、あのときの子ねー。どしたの?」
「あ、あの、大阪に今入ったので…………挨拶しに行こうかと思いまして…………」
「あ、そうなのー。遊びに来るのー?あたし今から出らなあかんのや。」
「あ、そーなんですか…………」
「うん、せやからまた電話してきてー。ごめんなー。」
はい、終了。
完全に俺のことなんかどうでもいい感じだった。
しつこく電話かけるような気にはとてもなれず、電話番号の紙を丸めてゴミ箱に捨てた。
たった1つの当てもなくなり、雨の大阪市内を走る。
今日は花の金曜日。
梅田のメインストリートにまぶしすぎるネオンの明かりがきらめき、色とりどりの傘がうごめいている。
路駐天国大阪はやっぱりすごい。
歩道側にタクシーの行列。
中央分離帯側に一般車の行列。
片側3車線が、1.5車線ぐらいになっており、どれが止まっててどれが動いてる車かもわからなくなる。
ノロノロ走ってるとものすごく強引にタクシーが割り込んでくるし、とにかくみんな運転が荒くて怖い。
いつのまにか大阪港に迷い込み、暗い隅っこの行き止まりでエンジン切った。
真上を走る巨大な有料道路のせいで、雨の夜空すら見ることができない。
明日からまたゼロからのスタート。
いつもそう。
ゼロから何ができるかだ。
車の中、興奮して眠れずに明けていく夜を見つめていた。
フロントガラスに、青みがかった朝が現れた。
【桜の京都編】
完!!!
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