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雅楽の先生がめっちゃ怖い







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上賀茂神社は京都で一番古い神社らしい。










でも神様が下りられるという立砂以外にそれほど見所はなかった。





それよりなにより、神社のすぐ表の葵家総本舗という和菓子屋さんの名物「やきもち」がめちゃくちゃうまい!!


クニュクニュの餅の中にアンコ。

1個105円。

これは絶対食うべし!!










久しぶりに動かしたファントムに乗って、次に鞍馬に向かった。


鞍馬といえば、くらま天狗。


天狗の世界にもいろんな階級があって、大天狗、烏天狗、草間天狗などがあるらしい。


日本各地の山に住んでいるらしいが、その中でも鞍馬の大天狗は、日本中の天狗たちの元締めなんだと。







民家ポツリポツリの細い道を車を走らせる。


だいぶ山の中だ。

こんな田舎久しぶりだなと思っていると、突然茶屋と土産物屋がズラリと現れる。


その向こうに赤い大鳥居。











駐車場に車を止め、鳥居をくぐると、時間が遅かったおかげで観光客も少なく、静かな森を歩いていく。


鞍馬寺は鞍馬山山中にあり、歩いていくしかない。


入口から出口まで1時間ほどで行けるが、途中途中に鞍馬火燃祭(10月)の由岐神社や、牛若丸(源義経)が大天狗と出会い、武芸を学んだ場所という僧正ヶ谷など、見所はたくさんあった。





















特に僧正ヶ谷は、広場に大木が立ち並び、お堂がひっそりと佇んでいて、小鳥のさえずりに小川のせせらぎ、木漏れ日にひんやりとした空気が心を綺麗にしてくれる気がする。


しばらく大木の下に腰掛けて目をつぶっていた。














森をぬけると、山をはさんだ反対側に出てきた。




この道をさらに山奥に進むと、賀茂川の水源にあたる貴船神社に行くことができるんだけど、もう17時。


この辺にしておくかと、帰り道にまた「やきもち」を買って食べながら現住所、将軍塚へ帰った。



明日は、日本雅楽保存会の先生のところに話を聞きに行くアポを取っている。


どんな話が聞けるだろう。

















翌日、いつもより早起きして8時半に山を降りた。


円山公園に出ると、もう出店がほとんどなくなっており、かなりさっぱりしている。




はぁーいい天気。めっちゃ快晴!!


天気がいいと心が晴れる!!!



ウキウキしながらほうじ茶ソフトクリームを買って2舐めすると、ボチャリと全部落っこちた。



ソフトクリームの頭が落ちると、どうしてこんなにも虚しくなるんだろう…………


子どもが泣き叫んで「また買ってー!!」とねだる気持ちがよくわかる…………






一瞬にしてブルーな気持ちになりながら、祇園から南に5分ほど歩いたところにあるえびす神社にやってきた。





ここが雅楽教室の本部らしい。


ここ最近、雅楽の演奏を何回か見てるうちに日本の伝統的な音楽って一体どんな深いもんなんだろうっていう興味が湧き、京都ならばなんか本場の先生とかいるんじゃないかって美香に調べてもらってここを見つけたんだよな。



「おー明日10時に来たらええ。」



昨日電話した時にそう言われている。

今9時50分。


そろりそろりと境内に入っていくと、神社の中におじさんがいた。



「おはようございます!昨日お電話した金丸という者です!」



「おー、こっち来い。」



「はいっ!」



普通のお爺さんファッションのお爺さん。


神社の神主さんらしいんだけど、めっちゃ無表情でなんか怖い…………







社務所に通され、奥の5畳くらいの部屋に入った。



小さな机をはさんで向き合う。



薄暗い蛍光灯。



目の前の怖そうなお爺さん。



静寂、静寂…………



気まずくて吐きそう…………




「で、何が聞きたいんや?」



「雅楽の歴史や楽器の種類などを知りたいんです。」



「そんなん、本で読んだらええがな。」




ちょっ!!!!


冷たい!!!!


マジで吐きそう!!!




耐え難い雰囲気の中困っていると、先生は戸棚から本を取り出した。



「これ、宮内庁で演奏しとる人が書いた本や。これ読んだら全部わかるわ。」



本を差し出され、恐る恐る受け取り、表紙を見てると、




「それ、置け。」



「はい。」




マジ怖いんですけど…………





今度は雅楽の流派っていうか、枝分かれしたもの、たとえば京の雅楽、中国の雅楽、朝鮮の雅楽など色々あるんだけど、そういうのや楽器の種類や、作りなんかを説明してくれた。


っていうか、わからん専門用語がいっぱい出てきて、



「わかりません。」



と言うと、



「来るんやったらもっと勉強してこんか。」



「舞と踊りの違いを言ってみろ。」



などなど、厳しい言葉を何度も言われたが、それでも俺1人のために色んな話をしてくれた。


何やら先生は、映画「羅生門」の音楽で演奏してたり、中国の音楽大学の名誉教授をやってたりと、実はかなり偉い人らしかった。


そりゃこんな金髪ロン毛の怪しいやつがいきなり闇雲にやってきて雅楽ってなんですか?とかアホみたいな顔して言ってきても先生も困るわな。





「明日は練習があるわ。5~6人は来るんやないかな。まぁ、見に来るんやったら来たらええわ。」



1時間ほどで神社を後にした。


あー明日も突っ込まれたらいけねーから、少し勉強しとかなきゃなぁ。












それから平安神宮にやってきた。


やってるやってる。

本堂の前の特設ステージで、今日は1日中、舞や演奏が行われているのだ。
   



何か6~7人の平安時代的な服を着た人たちが、巨大なまな板の上で、鯛かなんかをデッカい剣みたいな刃物でゆっくりゆっくりおろしている。


演目を見てみると、「◯◯流包丁道家元」とか書いてある。









へえええ、魚を下ろすのにも型というものがあるんだなぁ。

さすが京都、いろんな家元がいるもんだ。









舞妓さんの踊りってすごい。












微妙な指先の動き、ほんのわずかな首の傾げ方。


あんなに顔塗ったくるんだからどの人もみんな一緒になるもんだと思っていたけど、やっぱり違う。


清水寺辺りで見かけるニセ舞妓さんとは段違いのオーラ。


18歳以下とは思えない艶かしさ!


こりゃほんとにすごい。















平安神宮でイベントを堪能したら次に三十三間堂へ向かった。


大学生っぽい人力車の兄ちゃんたちにさんざん勧誘されながら清水寺付近を歩いていく。






っていうかこの時期って修学旅行シーズンだっけ。


桜が散った代わりに、制服の群れが京都を染めあげている。



そういえば、俺も修学旅行の時にこの清水寺の表参道の土産物屋で合法ドラッグとかいう白い粉を買った気がする。

もちろんそれは子供騙しのギャグ商品で、鼻から吸うとスースー冷たくなる、ただの鼻詰まりの薬みたいなやつだった。



ネジをまくとカクカクカクと女に腰を動かすくだらないブリキのおもちゃを、面白い!って思いつつも見て見ぬふりしていたのは確か中2の頃。


この道を歩いていると、そんな思い出が頭に浮かぶ。













おかげで三十三間堂も修学旅行生だらけ。


田舎から来てる長めのスカート女子たちの間を縫って中に入っていくと、こりゃすごい。


一体あれば寺の目玉になるような千手観音がはるか向こうまですき間なく並んでいる。









その数1001体。


そんな千手観音たちの前には28体の立派な仏像(全て国宝)。


すげすぎる。マジ動き出しそう。




この1001体の中に自分の顔の観音様が必ずどこかにいると言われていて、修学旅行生たちが、



「あ、あれー!」



「キャー!そっくりー!!」



ってはしゃいでいて、やかましいことこの上ない。




120mもある本堂を観音様を眺めながら歩いていると、群れの中にボスが現れる。


巨大な千手観音がちょうど真ん中の所にいて、まだここからあと500体。


すごすぎ。






この長いお堂を利用して、古くから「通し矢」という競技、というか大会というか、催し物が行われているそう。



夕方6時から24時間、廊下の上で120m先の的に向かって力の続く限り矢を打ちまくり、当たった数を競うというもの。


歴代チャンピオンは当時わずか18歳の青年で、1万3千本以上当てたらしい。










次!東福寺!!


ここすごすぎ!!!


ここ、俺の中でダントツ京都1!!!


もう時間が遅かったのと、シーズンもだいぶズレてたので人がほとんどおらず、のんびり周れた。




ここは京都を代表する紅葉の名所として知られているだけあって、本当に紅葉しかねぇ。


新緑の紅葉がまぶしいほどにキラキラと風にざわめき、俺の髪を揺らす。


春と夏の間にもう1つ季節があったんだな。


今まで、こんなに季節の移り変わりを、違いを、感じたことはなかった。


変わっていく季節を気にも留めさせてくれないほどに、俺はめまぐるしく大人になったんだな。


今は少しだけ色んなものを感じられるようになった。





緑の葉のシャワーの中に架かった橋をゆっくりと歩く。


方丈八相庭園もまた美しい石庭で、龍安寺の人だかり庭園よりよっぽど心に響いた。






歩いて帰る途中、大谷園という宇治茶専門店の抹茶ソフトクリームを食べた。


ちょーうまい。

ちょっと足を伸ばしてでも食うべき。









将軍塚に戻り、今日も車の中で日記を書く。


この将軍塚で寝るのも今夜が最後。

京都市内はもうだいぶ周ったからな。



ゴミが散らかってたり、野良犬がうろついてたり、綺麗な場所ではなかったけど、静かで、人もほとんど来ずホントいい拠点だったな。


いつも顔をあわせてたタコ焼き屋のおっちゃんおばちゃん、今日店閉まってるから1週間後くらいにまたさよなら言いにくるよ。



駐車場に住みついてる3匹の野良犬、またな。
















翌日、今日も天気良すぎで暑い中、森の中を下って昨日のえびす神社にやってきた。


部屋の中にはお弟子さんたちが来ており、みんな、笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、神楽笛なんかの楽器を持っている。





「こいつはなぁ、車に寝泊りしながら日本中を周っとるらしいわ!!」



昨日あんなに怖かった中川先生。

今日は生徒さんたちの前だけあってすごく饒舌だ。



「へぇーすごいねー!!これから北上するんだー!」



生徒さんたちもフレンドリーでいい人ばっかり。










調子に乗って隣で笙を吹いてた若い人に聞いてみた。



「すいません、あの、楽器触れさせてもらえませんか?」



「あーすいません。ここじゃ人の楽器触ったらアカンってことになってるんですよー。」



「おう、そいつの持ってるのは250万の笙やぞ。」



「え!!そうなんですか!!へー、これが…………あのー、京都には雅楽の楽器を作っている職人さんっているんですか?」



「1人いるよ。鞍馬にね、普通の家で作ってはる人がいてるわ。」



「お前なんかが行っても相手にしちゃもらえんぞ。」



中川先生は相変わらず言葉荒いけど、昨日よりは全然親しみがある。






「また旅の帰りにでも寄ったらええ。」



「はい!!ありがとうございました!!」



こんな2日じゃ雅楽のなんたるかなんて1ミリもわからんかったけど、こうして先生や生徒さんたちとお会いできただけですごくいい経験をさせてもらえたな。


先生、いきなりお邪魔してすみませんでした!!!

ありがとうございました!!!









手土産にもらったまんじゅうをぶら下げて蛸薬師のアーケードに行ってみた。


昨日ジッポーを地面に落としてフタがゆがんで中身が取り出せなくなってしまったんだよな。


というわけでシルバーアクセサリー屋さんを何軒か回ってみたんだけど、ジッポーってのは買ったときについてる保証書と一緒にジッポー社に送ったらタダで修理してくれるよと言われた。


保証書ねぇーよ。


はあああ…………










気を取りなおし、源光庵という場所に向かった。


観光マップにも載ってないほどのマイナーなお寺なんだけど、そこには1つの見所がある。




昔、BOWYというマンガで登場人物の岡本が仲間たちと感動的な別れをする場面があった。


その舞台が源光庵というお寺だった。



「この寺に行くのじゃ。そして悟りの窓を覗いて来い。」



岡本が絵の師匠にそう言われて、悟りの窓にたどり着き、夢だったフランス行く決心をしみんなに別れを告げる。

そんなシーン。



一体どんな窓だろう。









道に迷いながらもやっと到着するとホンの小さなお寺。




ささやかな庭園があり、寺の人以外に観光客はいない。



なぜか天井の板に、手形・足形がいっぱいついてる。


これって徳川家康の家臣の鳥居元忠って人が石田三成と戦って負けた時、380人もの兵士たちがみんなで自害したらしいんだけど、そのときの血が染み込んだ伏見桃山城の床板を使っているんだそう。


気味が悪いことこの上ない。

みんな怖くないのかな。







そんな怖い本堂の中に、あった、あった。




これが悟りの窓。


壁にぽっかりと開いたその窓から、外の緑の庭が見える。



寺の案内には、大宇宙を表しているとかなんとか書いてあって、またわけわからんことを、と思っていたが、実際に目にすると思わず座り込んで5分ほど見入ってしまった。


大宇宙ってわからんでもない気がした。


静寂のお寺ってのは本当に心が落ち着く。



岡本はここで夢に向かう決心をしたけど、俺は今が夢のど真ん中だ。













夕方に嵯峨野に到着した。


この前いろんな情報をくれたみやげ物屋のおばちゃんに会いに行ってみると、ちょうど店を閉めてる所だった。



「おーいおばちゃーん、久しぶりー。」



「あー来たねー。」



ちゃんと俺のこと覚えてくれていた。



「明日は嵯峨野めぐりするから明日も来るね。」



「うん、明日も来ぃやー。」



しこたま動きまくった京都もラストスパートだ。





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