ハンパじゃない。
ハンパじゃない!!!!
引っ越し屋さんのバイト、マジでこの世の終わりくらいしんどい!!!!!
アパートの5階から家具を担いで狭い階段を慎重に下り、下のトラックに積んでまた5階に駆け上がる。
何度も何度も階段を往復し、全部運び出したら今度はトラックに乗って引越し先に行き、また4階の部屋まで荷物を担いで階段…………
しかもそれをダッシュでしないといけない。
猛ダッシュで階段を駆け上がらないとバイト先の人から鬼のように怒鳴られる。
足と腕がマジで死ぬ…………
足がガクガクして崩れ落ちそう。
腕の力がなくなって段ボールを運べない。
マジで限界を超えて息をするのも精一杯になりながらヒーヒーと階段を這いずる。
そんな俺の横を、1人で洗濯機を担いでタッタッタと階段を上がって行く先輩たち。
に、人間じゃねぇ…………
今は3月。
引っ越しシーズンなのでこうした引っ越し屋さんは繁忙期で、短期のバイト先は簡単に見つけることができた。
しかしマジでキツすぎる。
倉庫に戻る頃には全身ズタボロで、口から魂出そうなくらい絶望的に疲れ果ててる。
小鹿のようにプルプル震えながらトラックを降り、最後に倉庫で梱包や整理の作業をし、解放されるのが20時すぎ。
この時期は1日に3件回るなんて当たり前。
今日は20時で終わったけど、日付が変わるころに荷物の運び込みをするようなこともあるんだそう。
怖すぎる…………
バイト代の1万1千円をもらい、すぐに近くの銭湯に行き、220円払って塩を吹くくらい汗かいた体を洗い流す。
あああ、マジで体中痛い。
それにしてもバイト先の人、みんな怖すぎるんだよな。
言葉荒すぎ。
そっけなさすぎ。
ただの奴隷のように思ってるのか、一切話しかけてもこないし、仲良くする気なんて1ミリも感じられない。
まぁしばらくすりゃ少しは仲良くなれるかな。
そんなこんなの引っ越し屋さんバイト。
これが終わったら桜の京都観光を満喫するぞ!!!と意気込んで毎朝出勤するんだけど、マジで地獄すぎる。
全身恐ろしいほどの筋肉痛。
痛くて痛くて、ただ歩くのさえままならない。
一歩足を上げる度に激痛が走るし、握力もほぼゼロ。
指を曲げるだけで筋の一本一本が悲鳴をあげる。
こんな筋肉痛、人生初。
だが、仕事中にそんなこと言ってらんない。
ズタボロの体で根性振り絞って段ボールを2段重ねで持ち上げる。
ぐおおおおおおお!!!キツすぎる!!!
と泣きそうになってるところに、先輩がもう1箱乗せてくる。
腕ちぎれそう。
そんな状態で階段を4階まで駆け上がらないといけない。
体育会系の仕事の域超えてる。
そしてやっぱり先輩たちが怖すぎる。
めっちゃ怒鳴ってくるし、めっちゃ極限まで追い込んでくる。
引っ越し先にタンスを運んでる時、指に力が入らなくなってしまいちょっとだけタンスを床に落としてしまった。
「おいゴラ?落とすんやったら足入れろや!?骨折れてもいいから入れろや!?わかってんのかゴラァ?」
いや、落としたのは悪かったけどそこまで言う?
なんだろ、仕事に対して厳しくて怖い、とかならまだギリギリ理解できるんだけど、ただ単に嫌なやつが多すぎる。
トラックに乗ってオジサンの先輩と現場に向かってる時のこと。
俺が旅をしてると言うと冷たい顔でムカつくことを言ってくる。
「車で周ってるってのは、ちょっと軟弱やあらへんか?」
「はぁ、まぁでも、車じゃないと行けない山奥とかあるし、冬の北海道とかも予定に入ってるんで。」
「そんなん、冬用のシュラフで2人用のテント持ってきゃ大丈夫なんやし。その方が旅するんやったらええと思わんか?」
お前、やったことあんのかよ!!
ほざけ!!クソボケが!!!
豪雪地帯をそんな極地装備で歩いて旅?
何十年かかんだよそんな旅してたら!!!!
犬ゾリいるわ!!!!
「おう、次の曲がる交差点どこや?」
「え?ええっと、次の交差点ですか?」
「そうやナビしろや?お前車で日本一周しとるんやろ?地図の見方もわかるやろ。次曲がる交差点まで何分や?」
「えーっと…………何分って言われても…………」
「地図の見方もわからんのか?縮尺見て時速何キロで走ってたら何分くらいかかるってだいたいわかるやろうが?ホントに旅なんかしてんのか?」
これ、俺なんも悪いことしてないからね。
ただこの性格のねじ曲がったオッサンのストレスのはけ口になってるだけ。
ただ若いやつにイチャモンつけて偉そうな態度取りたいだけのボケがマジで多すぎるこの引っ越し屋さん。
体力的にも精神的にもめっちゃキツいけど、それでも、キツいから辞める、ってのだけは絶対にしないと心に決めてる。
クソボケと思いながらも気合いで荷物を運ぶ。
そんな引っ越しバイトで救われるのは差し入れをもらえること。
何もくれない所もあるけど、大抵はジュースとかお菓子とかをくれる。
現金をくれるところもある。
今日5人で行ったところでは、お爺ちゃんが1人5000円もくれた。
「正直、これがないと引越し屋なんてやらへん。」
って先輩は言ってる。
うん、確かにアンタと仕事するのにこんなチップがなけりゃやってられんわ。
3月も後半になり、気温もどんどん暖かくなってきた。
引っ越しトラックで京都の街の中を走っていると、あちこちに桜のピンク色が見える。
もう至るところで咲き始めてしまってて焦ってしまう。
桜満開の時期に京都を回れるよう日にちを調整してきたんだから、この引っ越しバイトが終わってお金ゲットしたら、京都を隅々まで回ってやるぞ。
そうして引っ越しバイトを始めて11日が経ち、バイト最終日がやってきた。
気合いで頑張ってきたおかげで、最初は口も聞いてくれなかった先輩たちともほとんど打ち解け、仲良く話ができるようになっていた。
が、1人だけまだ挨拶も返してくれないオヤジがいる。
最終日なのにこのオヤジと一緒なんて嫌になる。
「おらあああ!!!お前ええええ!!!いらんことするんやったら帰れやあああ!!」
怒りかたが理不尽すぎる。
このクソオヤジには俺と同い年くらいの息子がいて、そいつと3人で回ったんだけど、こいつがまた暗い奴。
いじめられっこを絵に描いたような奴で返事もロクにしないわ、目を見て話さないわ、いつも目を伏せている。
「そこ…………こっち…………」
「えっ?!何です??」
「置いてー…………」
ボソボソと何言ってるのかわからん。
そんな息子にはめっちゃ甘いクソオヤジ。
「ここはこうだからな。大丈夫か、重くないか?重かったから無理するなよ。オラアアアアアアアアアアア!!!!お前はちゃんと運ばんかああああ!!!ボケがああああああ!!」
クソイラつく!!!
ボケジジイが!!!!
極限までイラつきながら、20時に仕事終了。
4月に入って引っ越しシーズンもひと段落ついたようで、繁忙期もおさまったみたいだ。
事務所に戻って日当を受け取る。
「はい、お疲れさん。元気でな。」
「お世話になりました!!」
ユニフォームを着替えて事務所を出るとき、奥からみんなの話し声が聞こえた。
「なんか、さびしーなぁ。」
「おう、素人にしちゃあ頑張ってたもんなー。」
最初はめちゃくちゃムカついてたけど、まぁ打ち解ければみんないい人だったな。
あのジジイを除いて。
いやぁ、ホント、もう何があっても引っ越しバイトだけはしたくない。
そんくらいキツかった。
まぁ日当は1日平均1万円はもらえたから全部で10万円ちょいはゲットできた。
確かに短期で一気に金貯めようと思ったら引っ越し屋は手っ取り早い。
でも二度としたくないけどね!!!!!
よし!!!気を取り直して早く銭湯行かないと!!
今日は待ちに待ったK-1の日。
めっちゃ楽しみにしてたボブサップVSミルコ。
いつもの銭湯じゃなく、少し高い、設備の整ったスーパー銭湯にやってきた。
「すいませーん、ここ何時まで営業してますか?」
「夜中の2時までですよ。」
「あの、サウナのテレビのチャンネルって変えてもらえるんですか?」
「あっはい、言ってもらえれば大丈夫ですよ。」
ソッコーで体を洗い、水風呂に浸かり、臨戦態勢。
21時に始まると同時にサウナに突撃!!!!
セフォー強すぎ!!
アーツ頑張ったぞ!!
CMになった瞬間、外に出て水風呂に飛び込んで体を冷してまたすぐにサウナの中へ。
あつすぎる!!!
また限界までテレビを見て、CMになったら水風呂で体を冷やすってのを何度も繰り返す。
ていうかサップ弱すぎっていうか、ミルコ強すぎ。
ミルコ大好き!!!
ホーストは格の違いを見せつけ余裕の勝利。
6試合すべて見たら24時になり、さすがに2時間もサウナ、水風呂、サウナを繰り返していたら、ヘトヘトになってしまった。
大満足で車に戻り爆睡。
さぁ、明日から桜の京都攻略スタートだ。
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