夜の海岸沿い、178号線を東へ走った。
降りしきる雨が路面でライトを反射させ、やはり雨天の夜のドライブは気が抜けない。
蒲生峠を抜けると、兵庫県に入った。
それと同時に助手席に重ねられた鳥取の情報誌は過去のものになった。
むやみに遠くへは走らず、県境の浜坂町ってとこのJR居組駅のドロベチャ駐車場に車を停めたのが、ちょうど日付が変わった時。
私服警官の職質に軽く受け答えし、眠りについた。
目が覚めると、悲しげな無人駅だった。
壁中に書かれた相合傘や誰かのイニシャル。
山道の行き止まりにあるこの駅に、人は誰もいなかった。
さぁ行こう。
向かうは、といっても地図も何もない。
頭の中にある日本地図で兵庫県の場所を確認しても、下半分より北は一切記憶にない。
とりあえず近くの観光地でマップを入手することにして、向かったのは温泉町。
町の名前が温泉?
なんだそれ?と思いながら温泉町の湯という、めっちゃそのまんまやんっていう名前の地区に入ると、なるほど、文字通り温泉街!!
そこは鳥取で出会ったトムが「あそこはいいよー。行くといいよー。」と言っていた湯村温泉だった。
「荒湯」と呼ばれる源泉が沸くこの町の中心部が、一番の見どころ。
川の横にある足湯には常に湯が湧き出ていて、その横では湧き出た98℃の源泉にタマゴを入れ、温泉タマゴにしてその場で食べるのがこの温泉町のオーソドックススタイルらしい。
近くの売店で、みかんの赤いネットに卵を入れてるものを購入。
3個で150円。
ネットに長いヒモがついていて、スルスルと湯まで降ろし、引っ掛けるところにヒモを結ぶ。
雨の平日なのに観光客いっぱいで、そんなツアーの爺ちゃん婆ちゃんに混じってタマゴが茹で上がるのを待つ。
そして約10分で温泉タマゴのできあがり。
タマゴを買ったときに付いてた塩をつけて、その場で食べる。
グツグツ湧いてる温泉をひしゃくで掬い、コップに入れて飲む。
すっごくおいしい。
白血病と闘いながらこの町で芸者をやっていた夢千代さんの人生を描いた、『夢千代日記』ってドラマの舞台になったというこの町。
町の中心には夢千代さんの像が建てられてあり、その横にドラマの出演者の手形がいっぱい並んであったんだけど、みんなが手を合わせるから擦れて変色している。
中でも、吉永小百合さんの手形が一番、ダントツで変色していた。
驚いたのは、この辺りは民家にも温泉がひっぱってあり、蛇口をひねれば温泉が出るんだって。
最高だなぁ。
薬師湯という湯屋でゆっくり温泉につかり、地図を入手して次の町へ向かった。
今夜は村岡町ってとこで過ごそうと決め、テキトーにラーメン屋に入った。
狭いカウンター席が7~8席だけのお店。
地元の人たちの間に座り、ミソラーメンを注文した。
「いただきます!!」
いつも驚かれるくらい大きな声で言うんだけど、ここでもやっぱりみんな驚いてる。
「兄ちゃん気持ちええわー!!」
隣にいたおじさんグループの1人が話しかけてきた。
「いやー、いい!!いい!!もうなぁ、今時の若者にはおらんぞ、こうやってちゃんと言える奴はなぁ。いただきますっ!!…………もう作った人も周りの人もみんな気持ちエエ!!よっしゃ、そのラーメン、わしがおごったる!!あーええ、ええ、遠慮せんでええ!!今日はわしも勉強させてもろうた。家に帰って息子に言ったらなアカン。」
しばらく話し、おごってもらい外に出た。
こういう出会い、随分減ったなぁ。
一期一会のその場だけの出会いがもっとほしい。
沖縄で出逢った旅人、秋田さんはほんとにすごかった。
もーそこら中にいる人、だれかれ構わず話しかけまくって、すぐに仲良くなってた。
俺も昔に比べれば少しはおしゃべりできるようになったけど、あの秋田さん比べたらまだまだだ。
フロントガラスに雪がちらつく。
明日はどこ行こう。
翌朝、村岡町の長楽寺で目覚めたんだけど、もーーすごい吹雪!!
オシッコをしようと外に出ると震えあがってしまう。
もう3月なのにまたまだ山の中は寒くてたまらん。
この長楽寺、歴史の浅い寺なんだけど、そのデカさに度肝を抜かれた。
門の両脇の仁王像もハンパな大きさじゃない。
五重塔を通り過ぎると、仏殿が見えてきた。
仏殿の入り口から見える中の仏像がデカすぎてめちゃくちゃ異様だ。
20mもある金ぱく塗りの大仏さんが3体並んでて、壁一面には小さな仏像が無数に並んでいる。
なんかの世界一らしい。
このあたりのタクシー会社かなんかの社長さんが何十億もかけて作ったらしいんだけど、完成を見ることなくその社長さんは死んでしまい、その後も工事は続けられ、平成6年に完成したらしい。
何を思い、作ろうと考えたんだろう。
俺には到底わからない。
八鹿町あたりでも、ものすごい吹雪!!
もう真っ白。
それでもノーマルタイヤで普通に走れるのはガードレールに取り付けられている配管や、アスファルトに埋められたスプリンクラーみたいのから水が道路に噴射されてるから。
これで雪を溶かしてる。
雪国ってこんな仕掛けが道路に設置されてるんだな。
豊岡市ですごい大火事が起きてて、めっちゃ渋滞に巻き込まれてかなり時間をくってしまったけどなんとか次の目的地に到着。
玄武洞という溶岩が固まってできた不思議な地層を見学。
岩石の採掘のためのこの洞穴は、すごく奇妙な形に折れ曲がっていた。
溜まりに溜まった洗濯物をコインランドリーに持って行き、カメラ屋に行き、いそいそと用事を済ませているともう結構いい時間に。
寒さに震えながら夜の駐車場を歩いていると、久しぶりに地元の友達から電話がかかってきた。
「おーい、今どこや?兵庫?遠くまで行ったなぁ。」
最近、地元の仲間でブラブラしてたヤツらが、どんどん道を固めていってる。
労働基準法に反するくらいこき使う会社で、「でもみんないい人だから。」と言ってずっと頑張ってるヤツ。
仕事やめて、実家の家業継ぐために修行に出たヤツ。
三味線作りをしてるあいつは毎日ラジオ放送で三味線番組を聴き、日本芸能に人生を捧げる、なんて言ってる。
21歳。
そろそろ本気で自分の生きる道を見定める時期なんだろうな。
あー焦る。
出石町は「但馬の小京都」と言われている。
小京都ってのは文字通り京都みたいな木造建築の古い町並みだけど京都ほどではない場所のことで、北は松前から南は知覧まで全国54市町にあるという。
宮崎県では日南市がそう。
そんなこの町の一番の見どころは、町のトレードマークにもなっている辰鼓楼。
明治4年に造られ、当時は1時間ごとに太鼓を打って時を告げてたらしい。
今では時計台になってるが、その存在感は但馬一の名所だ。
あとは、宮本武蔵の本を読んでる人は知ってると思うけど、若い頃の武蔵に説教していた沢庵和尚の生まれた地でもあり、その沢庵さんが住み込んで庭園を作ったり、書物を書いてたりしてた寺、宗鏡寺がある。
この沢庵さんが漬物のタクアンを広めたっていうの初めて知った。
まぁ、見どころはそんなもんで、あとは皿そばが有名。
皿そばを楽しみにやってきたのに、マジで人、人、人。
人だらけ。
皿そば屋は腐るほどあるのに、どこも満席。
日曜だもんなー。
しょうがなく、人ごみから少し離れた辺りにあるお店に入り、1人前800円の皿そばを食べたけど、量が全然足りなかった。
透き通るようなきれいな焼き物、出石焼の陶器を軽く見て車に戻った。
猛吹雪の中、南へ下っていく。
和田山町を抜け、養父町の「古代体験村ログハウス」のログハウスに惹かれ行ってみるも、吹雪以外何もなく、素通りし、朝来町を抜け、生野町へ。
ぶるぶる震えながら向かったのは、生野銀山。
大分の鯛生金山もすごかったけど、ここもすごかった。
900m以上も地下に降りる立坑が8本もある。
鉱山の模型を見たら、本当にアリの巣のようだった。
312号線を下り、神崎町に入るとそこは播磨というエリアになる。
兵庫県は、地方別に6つのピースに分けられている。
半分から上の日本海側が但馬。
姫路なんかが入ってる西側が今いる播磨。
神戸あたりが神戸。
大阪と境目の尼崎あたりが阪神。
阪神の上が丹波。
そして淡路島。
まずはこの大きな播磨から攻めていくとしよう。
神崎町には、そこで材木を買えば400円で1日工具使い放題の木工芸センター「ピノキオセンター」なるものがあると聞き、とりあえず行ってみる。
「今日はもう時間がちょっとしかないからねー。明日は休館日だし。出来るのは週末かなぁ。」
えー……………そんなに居られないよおお…………
しょうがないので、工具や作業現場を見学させてもらい、いろいろ木工技術などの説明を聞き、外に出た。
もう1ヶ所くらい行ってみようと、ガソリンスタンドでもらった神崎町のパンフレットに載ってた、冬に凍る滝ってのを目指して山南町ってとこに向かう。
雪の積もった岩場をソロソロと進むと、森の中に見えてきた滝。
どれどれーー!!どんだけ凍ってんだーー!!?
って凍ってねぇ!!!!
でも、よく見ると滝付近の植物たちが、きれいに氷をまとい、つららになってる。
滝から飛び散るしぶきが付着して氷になるのかな。
想像してたものは見られなかったが、幻想的な世界にすごく満足した。
山を下りる途中に木の枝をいくつか拾い、車の助手席の足元に載せた。
長すぎて、運転席の下にもズラズラ並んでてめっちゃ邪魔だけど、これから作ろうと思ってる机の足ぐらいにはなるだろう。
車の後ろがあまりにもごちゃごちゃして汚いので、整理するために机みたいな棚を作ろうと考えてる。
なるべく金をかけずに。
今めっちゃ木工に興味がある。
自分でカッコいい家具とか作って、それをいつか自分のお店に並べられたら素敵だな。
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