さてさて、鳥取の県庁所在地ってどこだっけ？
え？鳥取市？
ここ？
えっ？タワレコがない？
えっ？ビルがない？
え？鳥取砂丘すごくでかい。
鳥取砂丘マジでけぇ！！！！
砂丘の上から見る広大な日本海。
灰色の空。
波がすごく荒々しい。
残念だったのは雨が降ったせいで風紋が見れなかったこと。
本当なら風で砂に模様ができ、それがすごく神秘的な美しさなんだそうだ。
さらに風が強いせいでラクダの花子ちゃんが出てこなかった。
ラクダの花子ちゃんは鳥取砂丘のアイドル。
乗ったり、一緒に写真撮ったりできるんだって。
もちろん有料で。
ちくしょー…………
全然ダメじゃねぇか…………
クソ寒いし…………
うぉーーー！！！と1人叫びながら砂漠を走り回った。
下駄で。
下駄で！？
さぁ砂丘も終わったことだし何しよう。
えっ何もない？
でもまだ兵庫に入れないのは、岡山のお婆ちゃんち家に忘れてきたデジカメの電池の充電器が明日鳥取中央郵便局に届くから。
どうにか明日まで時間を潰さないといけない。
とりあえず鳥取駅裏のジャスコの駐車場で昼寝。
で、起きたら20時。
うわっ、やっば。
起きてから繁華街の中にある宝湯っていう銭湯に行った。
これぞ銭湯っていう銭湯は人生で初めてだ。
ロッカーの上には常連さんたちのお風呂セットが所狭しと並んでる。
310円。
今日は歌おうかなーとネオン街の中に車を停め、アクセサリーの露店を出してるイスラエル人の女の子と話をしてると、雪がジャンジャン降りだした。
寒すぎる。
もう歌うのいいや、と裏通りにあるお好み焼き屋へ入った。
大阪出身のご主人はサーファーで、波の良い都道府県に行き、借金をして店を出し、借金がゼロになったらまた次の都道府県に移動する、ということをやってて、宮崎でも店を開いてたことがあるらしい。
「いや、お兄さんが宮崎出身やからゆーんやなくて、ほんまに宮崎が一番よかったわ。8ヶ月ぐらいで借金なくなったし、波最高やし、女の子美人ばっかりやし、人が陽気やわ。それに比べて鳥取はほんまあかんわー。山陰って、もーほんま字のごとく人が陰気！街も死んどるわ。でも波はいいんよー。」
関西弁丸出しでペラペラ喋るご主人。
やっぱり大阪の人って話が面白いな。
「大阪はええでー。路駐し放題やで。誰もあかんことって思ってへんもんなー。俺なんかワッカつけられてもペンチで切って捨てて、それで11回ほったらかしとったら、ほんまに逮捕されそうになったわー。アハハー。街中走ったらよーわかるわー。車のいたるところに何枚もワッカつけて走っとる車とかおるもんなー。」
信号を無視して止められたときには、思いっきり息を止めて顔を真っ赤にして、警察が窓のところに来た瞬間、
「も、もれる…………」
「あそこ、ローソン！！はよ行け！！」
そんな風にして助かったこともあったらしい。
「大阪はほんまに楽しいで！！」
ご主人に大阪の美味しいたこ焼き屋さんなんかを教えてもらい、店を出た。
大阪かぁ。
大阪なんてテレビの中でしか見たことない大都会だったけど、もうすぐそこまで近づいて来てるんだよな。
港に車を停め、毛布にくるまる。
岡山のお婆ちゃんに送ってもらった電池の充電器、ちゃんと明日届くかなぁ…………
翌日、たまには昼に路上やってみようかなと駅前交差点の地下道で歌った。
でも全然人が止まらない。
昨日のお好み焼き屋のご主人が言ってた言葉を思い出す。
「ははは、ストリートやるの？鳥取で！？せやなー、振り向かせることができたら大したもんや。なんせ人が陰気やから。」
はー修行が足りねぇ。
ちょっとブルーになりながらも歌ってると、1人の外国人さんが立ち止まり、話しかけてきた。
日本語上手。
聞けばどうやら昨日飲み屋街にいたアクセ売りの女の子のボスらしく、彼の買ってきてくれたコーヒーとクロワッサンを食べながら話してると仲良くなり、一緒に歩いた。
彼の名前はトム。
もう路上はいいやとギターを片付け、トムと一緒に郵便局に行くと、無事荷物は届いていた。
よかったー。これでいつでも鳥取を離れられる。
お婆ちゃんありがとう。
それからもトムとドライブしたりして、彼の家にやってきた。
トムの奥さんは日本人で、2人の間にはハーフの子供もいた。
「それでねー、あのねー…………」
料理をしながらひたすら喋り続けるトム。
彼はおしゃべり。
イスラエルやタイでの写真を見せてもらった。
トムと奥さんは2人とも旅好きで、2人で外国のいろんなところに行ってるらしい。
写真の中の奥さんの日焼けした笑顔がすごく輝いている。
「オーストラリアなら、日本人ワーキングビザ取るね。1年いられる。観光ビザ3ヶ月。オーストラリア最高！！旅人いっぱい。みんな温かい。旅人用の車とか、ゲストハウスとか、仕事するとことか、いっぱいある。英語はしゃべれるほうがいいね。そしたら世界中どこでも行ける。行こうよ！！」
奥さんや子どもたちが帰ってきて、みんなでトムの自慢の手料理を囲んだ。
ご飯をご馳走になったら鳥取の繁華街にやってきた。
今日も寒い中アクセサリーを売ってるイスラエル人の女の子、レヴィが明るく手を振ってきた。
「フミ、僕たちもう帰る。フミはレヴィの部屋に泊まるといいよ。全然大丈夫。」
と言って、トムは帰っていった。
レヴィの露店の前で歌い始めると、レヴィが自分用のストーブを俺の前に動かしてくれた。
あったかい。
凄まじく寒い中、頑張って歌うんだけど全然金が入らない。
人は少しは止まるけど、財布まで手が伸びない。
まぁ今はそんなに金に困ってはないけど。
っていう気持ちの弛みがいけないのかな。
「おい、兄ちゃん、飲み行くぞ！！」
その時、さっきから何度も前を通っていたおじさんが俺の服をグイッと引っ張っぱった。
おじさんの隣には中山美穂と稲森いずみ激似の美人が2人。
行きます！！
ギターをまとめ、荷物をレヴィに頼んでおじさんについてスナックに行くと、さっそくカラオケで歌わされた。
「ダメだ。お前の歌じゃダメ。お前ぐらいの歌ならなぁ、誰でも歌えるんだよ。だからよー、旅なんかやめて俺んとこ来いっ！！」
おじさんはお寺や家を建てる大工の棟梁さんだった。
型枠ですか？と聞くと、なめんなよー！！と怒られた。
ていうかお前じゃダメとかめっちゃムカつく。
俺は21歳だぞ？
確かにまだ下手くそだけどさ、これから5年後にめっちゃいい歌が歌えるようになるかもしれんやん。
その可能性はゼロじゃないやん。
それなのに、そんな頭ごなしにお前はダメだから諦めろとかよく言えるよな…………
これから伸びることとか全く考えてねぇ。
大人にこんなことを言われて実際諦めてしまう若者がたくさんいることを考えると、なんて夢のない世界だろ。
歌をけなされたのはムカついたけど、トモミさんとユキヨさんが美人すぎて嬉しかった。
トモミさんものすごくタイプ。
Willっていうスナックで働いてるらしかった。
3人と別れ、レヴィのとこに戻る。
「フミ－！！サムイー！！」
レヴィはこうやって毎日毎日、休みなく露店を出している。
昼は13時くらいから夕方まで駅前地下道。
夕方からは繁華街で深夜の3時まで。
イスラエル人は、高校を卒業すると男は3年、女は2年、必ず軍隊に入れられるらしい。
縛り付けられた長い軍隊生活のせいで、ほとんどの人が軍隊を終えると外国に旅に出るらしい。
外国でお金を稼ぎながら旅をするトムみたいな人たちにとってみると日本は最高らしく、月20万以上、景気の良かった頃は3ヶ月で120万も貯めたらしい。
そら日本中のどこの街行っても外国人さんが露店出してるわ。
ほんと、ウソォ！？ってくらい田舎の繁華街にもいるもんなぁ。
3時になり、お店をたたんでレヴィの軽バンに荷物を詰め込み、彼女のアパートへやってきた。
狭い部屋の中には趣味っぽいものはなく、全て仕事のアクセサリー関係のものが散らばってる。
毎日毎日休みもなく路上に立つのは、本当に日本語の勉強と人との出会いのためなんだなぁ。
旅を現実的なものと考える俺と違って、彼女にとっては旅は非現実的なものなんだろうな。
彼女の作ったスパゲッティを食べ、横にマットレスを2つ並べると、もう足の踏み場もなくなる。
さて寝ようかなと横になって、ふとレヴィのほうを見てビビった。
ん？
…………イスラエルのHな本を読んでる。
なんか、漫画のエッチなやつ…………
イスラエルのだから違和感すごい…………
ど、どういう状況？と焦っていると、レヴィもなんか緊張したようなぎこちない感じになってる。
めっちゃ誘ってきてる気がする…………
狭いアパートに21歳の女性と2人きり。
しかも相手はその気。
限りなくおいしい状況だけど、外国人さんとエッチとか怖くてできない。
レヴィには申し訳ないが、何も気づいてないフリをして横になり、強引に背中を向けて目を閉じた。
朝方に寝たせいで、起きたのは13時ごろだった。
なんか若干気まずい感じでレヴィと部屋を出て、駅前の地下道へやってきた。
露店を出すレヴィに別れを告げる。
レヴィ、これからの旅、たくさん楽しんでな。
それから駅前でトムとコーヒーを飲み、家まで送って行った。
「鳥取来たら絶対連絡ください。外国出るときもね。どこの国行っても誰かは紹介できるー。」
「本当にありがとう。じゃあね。」
車を動かしながら窓を開ける。
「It was good meeting you!!」
「え！？どういう意味？！！」
「会えてよかったー！！」
「It was meeting you, too!!」
はぁ、鳥取本当に大したことできなかったなぁ。
でも素晴らしい出会いはあった。
外国かぁ。
早く日本一周しちまったら、いつかオーストラリアだ！！がんばるぞ！！
【山陰 鳥取編】
完！！
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