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照和でのフォークライブ







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朝、ハゲおじちゃんの事務所に行くと、まだ早朝6時だというのにたくさんの人が忙しく動き回っていた。



「あー…………すいませーん…………」



「おー来たねー!!ちょっと待ってて!!金丸君は何日までいるんだっけ?」



「19日まで働きたいです。」



「よし、君には近くにある現場にガラ出しの仕事に行ってもらうね。」



ヘルメットと安全長靴を借り、てくてく歩いて近くの団地へ。


足場のかかったマンションに着き、職長さんに話を聞く。

どうやら解体屋さんの手伝いらしい。




人が住んでる団地なのでハンマードリルを使えないらしく、手ばつりをするしかなく、俺はそのはつったガラを土嚢袋に入れ、綺麗に掃いていくという仕事。


体力的にはそこまできつくはないけど、体中ほこりだらけになってしまった。












ハゲおじちゃんのところで色んな現場にバイトに行った。


防水屋さんのお手伝いではボンド注入後の穴にピンを入れまくって体中ベタベタになり、沖縄で野宿の時にいつも着ていた緑色のジャンパーがもう着れなくなったり、


型抜大工さんのお手伝いではクレーンで足場のステージに資材を吊り降ろしたり。




一応鳶の仕事をしていたのでまったくの素人ではない。

玉掛け免許も持っているのでクレーンの手合図もわかる。


キビキビ仕事していると現場の人からも気に入ってもらえて、毎日全力で働いた。







いつも思う。


今の仕事が自分に合ってないからやめたいんだけど、せっかくこれだけ続けたんだからまた1から始めるのはもったいない、と踏み出さない人がいる。


でもそれって1からじゃないんだよな。


ひとつの仕事を経験したんだったら、他の仕事でも何らかの役に立つ。

そうして知らず知らずのうちに自信がついてるんだよな。








仕事を終え、いつものように事務所へ行き、ハゲおじちゃんからバイト代を手渡される。



「はい、お疲れ様。」



と、手渡される束の現金。


岡林信康の世界だなぁ。













バイトに精を出す日々だったけど、ひとつライブにも遊びに行った。


この前天神にストリートミュージシャンの偵察に行ったんだけど、今度、照和でアコースティックの弾き語りライブがあるという情報を仕入れていた。



照和といったら日本フォーク界の殿堂といった場所。



1965年から年からやっているライブハウス照和は、売れる前の海援隊や長渕剛なんかが出演していたものすごく有名なお店。


路上でフォークを歌ってると、必ずおじさんに、



「福岡行って照和でやりなよ。」



と言われていたほどだ。










憧れのそのお店は天神のソラリアステージの裏にひっそりと店を構えていた。








リニューアルオープンしたきれいな階段を降りると、すでに歌声が聞こえる。

もう始まってるみたいだった。




白一色の壁。


小さな机が並べられたその前に、こじんまりとしたステージがある。


ステージの後ろの壁だけが昔のままに残されていて、そこには武田鉄也なんかのサインが書きなぐってあった。





この日のライブは完全なギターのみの弾き語りライブ。


レベルの高い2~3組が終わったところで登場したのは、松本ケンジさんという長髪のおじさん。



何者だろうと思っていると、さりげなくC、G、Em、Amのストロークが始まる。


しゃべるかけるような歌。


ひざを組み、ストロークでジャカジャカやる、無愛想だけどあたたかいギター。


人生経験が物語るシンプルな歌詞。


1曲1曲がとても胸に染みる。








あーこれこそフォークだと思った。


ギターの弾き語りの持つ魅力はこれなんだと思った。



なんか複雑に複雑に、変わったコード進行で聞いたことのないようなメロディーは…………って頭を捻りまくって結局1曲も作れなくて、そんな感じでここ最近ずっと悩んでいた。


それが松本ケンジさんの演奏を見てて、そんな悩みから開放されたような気がした。



思い浮かんだ歌詞に、イメージ通りのメロディをつける。

それに「あー金丸君らしいね」っていう個性がでてきたら、それでいいんだよなぁ。




個性は作るもんじゃないんだよなぁ。


自分らしさっていのは自分では認識できないものなんだろうな。













照和を出ると、天神は恋人たちと忘年会の人たちでごった返している。


ネオンとイルミネーションがキラキラと夜に輝いている。


道路ぎわにズラリと並ぶタクシーの列。

声を上げて笑ってる人もいれば、1人うつむいてポケットに手を突っ込んで歩く人もいる。



すれ違うときに聞こえる会話は、ほんの一言、二言。


話しかければすぐに仲良くなれる人ってのがこの中に何人いるのかな。


都会は本当に本当に人を孤独にする。















福岡に来てあっという間に10日が経ち、最後のバイトの日になった。



「オラァァ!!!早く動けやぁぁぁああああ!!!!」



最後のバイトはポンプ屋の応援。


建設中の都市高速道路のコンクリート打設作業で、生コンを流し込むぶっといホースを持って走り回る。



これがハンパじゃなくきつい。



ホースも重いし、ずっと走りっぱなしだし、職人さんめっちゃ怖いし、


まだギリギリ使えるかなと思っていた緑のジャンパーも、コンクリまみれで完全に使えなくなってしまった。



生コンの量は40リューベーほどで、半日で終わったんだけど、これはマジでスーパー疲れたわ…………


もうポンプ屋さんのバイトしたくねぇ…………










事務所に戻り、半日分の4千円を受け取り、友達の家へ。


シャワーを浴び、10日間ずっと泊めさせてくれた友達にお礼を言い、荷物をまとめて車に乗り込む。




中央埠頭に車を停め、毛布にくるまる。


あああ、マジで疲れた。


でも心は踊ってる。


バイト代でそれなりに懐が潤ったからではなく、明日、美香が福岡に来てくれるから。


茨城の大学に通っている美香が旅中の俺のところに会いにきてくれる。


やっと美香に会える。



嬉しくて嬉しくて、ドキドキしながら毛布にくるまった。






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