ファントムが爆音でKISSを歌う。
さー、こっからは車での旅。
最後までよろしく頼むよファントム!!
宮崎を飛び出し、まず向かうのは大分県佐伯市。
高校生の頃から佐伯にはヒッチハイクしてよく歌いに行ってたもんだ。
慣れた道を飛ばし、県境を越え、市内に入ったら繁華街の近くのコンビニの駐車場の端っこに車をとめて佐伯の飲み屋街、新町へ。
よっしゃ歌うぞーとギターを持って飲み屋が連なる通りを歩き、いつも歌ってた場所に到着。
張り切ってギターケースを開こうとした瞬間、壁になんか張り紙がしてあるのが目に入った。
「ここで歌うな!!」
と書かれてる…………
他にも何ヶ所かそんな紙が貼ってある…………
う、嘘おおおおお…………
マジですか…………
俺が路上を始めた頃はまだそんなに路上ってのがブームになってないころで、どの街に行っても暖かく迎えられたものだった。
警察までもが、がんばってな!!と声をかけてくれることもあった。
それが今や中学生とかまで繁華街に繰り出し、タンバリンをシャカシャカやりまくってるもんだから、路上で歌う連中ってのは煙たがられ、どんどん隅に追いやられている。
まぁいいか、とどっか安全なとこはないか探して焼きイモ売りのおばちゃんに話しかけると、そのおばちゃんは俺が昔佐伯に来てた頃に随分良くしてくれたおばちゃんだった。
「あー!!元気ねー!!」
俺が初めてこの街に来て、ブルブル震えながら歌ってると、このおばちゃんが焼き石で暖めたダンボールを貸してくれて、それに座りながら歌ったもんだった。
何度もイモもらってたなぁ。
「あそこなら大丈夫やがー。がんばってねー。」
ちょっと離れたところに座って歌った。
うー、やっぱ寒っ!!
1時半頃まで歌い5千円ほど入り、車に戻った。
さてどこで寝よーかねーと駐車場を探す。
これからはこうして毎日寝床探しをしなきゃいけないな。
まぁ野宿の時の寝床探しに比べたら楽なもんだ。
ちょっとした良さそうなところを見つけ、車をとめ、後ろで毛布にくるまる。
やっぱさみーなぁ。
あー。明日はどこに行こう。
爆睡しすぎて起きたら13時だった。
あーもったいない。
初日からなにしてんだ。
まずは佐伯の武家屋敷の町並みを見てまわった。
あいにくの雨。
でも紅葉はキレイ。
まぁまぁ立派な町並みを見終え、次は城跡に行こうと車を近くの広い駐車場に止めると、そこは佐伯の文化センター。
入り口のとこの立て看板が目に入った。
「長谷川集平 絵本とロックコンサート」
絵本とロック?
なんだその組み合わせは。
こりゃ行くしかねぇと中に入ってみると、受付の辺りで何人か集まってお喋りしている。
「あ、開場は16時半からになります。」
周りにある長谷川集平さんのプロフィールを見ると元々は絵本の作家として賞も取ったりしており、それと同時に音楽のライブもやったりしてて、いろんな場所を渡り歩いているのだという。
開場時間になり、即席で作った感じの席につく。
しばらくするとぞろぞろお客さんも入ってきてほぼ満席になった。
17時になると、普通のおっちゃんがパレットを並べただけの一段高くなってるステージに出てきた。
これが長谷川集平さんかな?
続いて女の人も出てきてエレキチェロを抱えて座る。
おっちゃんがエレキギターのチューニングをしてる。
どんなステージなんだろう。
2人だけでこの楽器でロックってのはちょっと興味をひかれる。
打ち込みでもなさそうだし。
ドキドキしながら見つめる。
そして演奏開始。
…………洗脳されそうだった。
ただ音を大きくしただけのエレキギター。
貞子の電話の時に聞こえてくるような金切り音のチェロ。
高田わたるを敬愛してるってのは分かるけど、ちょっと意味不明すぎる歌詞。
マイナーコードをジャッカジャッカッてやりながら「映画に行こう、映画に行こう~」って終始繰り返すだけの曲。
なぜか盛り上がってるお客さん達。
集平さんは髪を振り乱しながら「ロックンロール!!」って叫んでるけど、めっちゃ呆然と眺めた。
一言でいうならものすごくブラックなフォークって感じ、かなぁ…………
「どーもありがとうっ!!」
と言う集平さんに、最後に高校生らしき若い人達からの花束の手渡し。
い、いやぁ…………アートって難しいな…………
軽くゲッソリしながら会場を出て、夜の雨の中、ファントムを動かす。
今夜はあまり移動せずに早めに寝よう。
夜に移動するとレアな観光場所の看板を見逃してしまう。
テキトーに道路脇の駐車場にファントムをとめる。
マップルの地図によると、どうやらここは千歳村という場所。
明日は早めに起きて竹田に行こう。
目覚し時計をセットして目をつむった。
大迫磨崖仏
落磨磨崖仏
用作公園
神明社
普光寺
香りの森博物館
神角寺
岡城跡
竹田城下町
七里田温泉
久住高原
これ全部1日で見て回った。
もー、大分県は至る所になんだかんだ名所があって、寄らずにはいられない。
磨崖仏ってのは読んで字の通り、崖に仏さんを彫ってるやつで普光寺のやつは日本一ってだけあってスーパーでけぇ。
切り立った崖にズゴーって仏さんがそびえ立ってて思わず声が出てしまった。
香りの森博物館には、クリスマスに美香に何かプレゼントするようなものがあるかと思って行ってみた。
車を取りに実家に帰ったときに美香から小包が届いてて、開けると美香の匂いのする手編みのマフラーが入ってて、今までろくに美香にプレゼントなんてしてなかったとの重なり、ちょっと焦ってしまってる。
今年くらい何かいいものあげなきゃと、カップルだらけのお城みたいな博物館に乗り込んだ。
そこには世界中の香水や香料や生成の機械などが展示されている。
香水ってのは香りと名前とボトルの3つがぴったり1つに調和した時に作品として成り立つんだそうだ。
体験コーナーってのがあって、そこではキャンドルや石けん、入浴剤などをオリジナルで作ることができるようになってた。もちろん香水も。
これっきゃねぇと思い、バラの香りをベースにしてオリジナルの香水を作った。
暗くなり始めてから久住に向かい、ちょっとぜいたくして定食屋さんでお腹いっぱいご飯を食べて、店の人に聞いて入泉料の安い七里田温泉へ。
満点の星を見上げながら、のぼせるほど露天風呂で暖まり、休憩所で地元のおばちゃんとお喋りした。
「明日うちのお店に来なさい。お茶だしたるけぇ。真剣言いよんよ!!」
大分では本気で、とか、本当に、とかを「真剣」っていうみたい。
すごくかわいい。
温泉でポカポカに温まった体で車を走らせ、久住高原の何もない高原の空き地みたいなとこに車をとめる。
ポツポツ光る外灯と、満点の星が混ざり合う。
寒いけど外に出てギターを弾いた。
静寂にじんわり広がっていく音色。
あー、今日の孤独は心地いいな。
目が覚めると、周りには草原が広がり、下の方には薄く雲のかかった山々が連なっていた。
車中泊はこんな山の上とかでも朝を迎えられるので、今までの野宿では味わえなかった自由さがある。
ここは久住高原。
昨日、温泉でお喋りしたおばちゃんのとこを尋ねてみた。
峠と言う野菜の直売店にいたおばちゃん。
「おー、こっち来て座んなさいー。」
コーヒーをごちそうになりながら久住の観光ポイントを聞いていると、 「これ、置いてー!!」 と農作業着を着たおばちゃんが頭よりでかいカブを3~4個入れたカゴを抱えて入ってきた。
「いくらでいけるかねぇ。」
「んー150円かな。」
「おっ!!このお兄ちゃんは誰?」
3人のおばちゃんとペチャクチャしゃべり、うどんをごちそうになる。
「この前、ハクサイに虫がいたって返品しにきた人がいたのよー。」
「あら!!ちょっとくらい虫がいたくらいの方がいいのにねー。」
「まぁ大分の街の人やけーねー。」
おばちゃんたちにお礼と別れを告げ、ガージーファーム花公園というところを見てまわり、次に上津江村に向かった。
上津江村は大分の1番西にあり、一度熊本に入り、黒川温泉郷を通ってたどり着ける。
そこまでしてやってきたけど、上津江村は何もない。
色々、釣りやなんやらの施設は作ってるみたいだけどこれといったものはなく、そのまま中津江村へと走る。
中津江村といえばワールドカップの時にカメルーン代表がやってきた街として、大分でもなかなか人気が出てるみたい。
深い山間の道を走りつづけると突然黄色と緑と赤の原色に彩られた集落が現れた。
カメルーンの国旗の色だ。
こんな深い山の中で外のことを何も知らずに育った子供達にとったら、いきなり黒人さん達がどやどやとやってきて、かなり衝撃だっただろうなぁ。
子供時代って、校区内にあるものが世の中の全てだと思っていた。
デパートなんか1人で行っちゃいけないものだと思ってたし、外の世界のことなんて何も考えられなかった。
それが年を重ね、行動範囲も広まり、色んな事を考え、世界の広さを知っていく。
まだこの村の子供たちは黒人さんを見て「うわっ人間じゃない!!」と思うはず。
俺も沖縄で黒人さん達といろいろ話したりしたけど、実際面と向かってると、人間じゃねぇ……とふと思ったりした。
もちろん同じ人間なんだって頭では分かっていても、そう思ってしまうのは俺もまだまだ見聞が足りないからだ。
世界中に生息するいろんな色形をした人間を純粋に1つの種だと思えるようになるにはやっぱり外国に行くべきなんだろうな。
中津江村の最大のウリは鯉生金山。
これは1972年に廃鉱になった金の鉱山の鉱道を一般公開しているもの。
ここマジですごかった。
マジで人力で掘ったんですか?っていうどデカい道が山中に張り巡らせている。
エレベーターの箱くらいの大きさの穴が地中に何本ものびており、30mおきに横に道を作っている。
この縦穴が山の中にまだ5~6本あるらしい。
そこからワイヤーで吊った檻みたいな箱に鉱夫を乗せて、各自の受け持ちの鉱道まで降ろすのだと。
ものすごく巨大な鉄のウィンチが物言わず鎮座している。
こんな仕事って絶対人が死にまくってたんだろうなぁ。
借金をしてヤクザに売り飛ばされて連れて行かれるような所がまさにこんな所なのかなと思った。
でもすごいわ。
入場料1000円はちょっとビビッたけど、これなら大満足。
坑道から抜け出し、日が山に隠れた頃に日田市に向け出発。
今日は日田で1発歌おう。
金がもうあと4000円しかない。
けっこーやばい。
大分の山間部に開けた歴史の町、日田。
街灯が渋く光る風情ある町の中に入り、市内を流れる三隅川に車をとめ、繁華街で寒さに震えながら歌った。
しかしものの2千円くらいしか入らなかった。
悔しい…………
弦も切れるし、あまりに寒いんでそろそろ帰ろうとしてると 、酔っ払ったオッちゃんが声をかけてきた。
「おう、にいちゃん、Am、Dm、Gm………飲み行くぞ!!ムニャムニャ…………」
酔いすぎて何言ってるかほとんどわからんおっちゃんに手を引かれ、スナックに入った。
「あらー!!ナオちゃん、どーしたの、こんな若い子連れて!!」
「へへへ…………ちょっと歌っていいかい………この兄ちゃんが…………ムニャムニャ…………」
というわけで1曲歌うと、カウンターにいたおばちゃんが1万円を俺の胸ポケットにつっこんだ。
ま、まま、ま、マジか!!!
やったー!!!
「あたしがねぇ、スポンサーになってあげる!!タモリとか知っとるさかい、心配せんでええよ!!」
左におっちゃん、右に大阪帰りのおばちゃん。
どっちからも飛んでくる酔っ払って支離滅裂になってる話に相槌をうち、左からビール、右からはワインを注がれつづけ、結構飲みすぎてしまった。
「最後にもう1曲歌ってちょうだい。」
ママさんにそう言われて頑張って歌うと、大阪のおばちゃんがさらに5千円をくれた。
それを見て気に食わなかったナオおじちゃん。
「こいつは俺が育てるんだー!!しまやかすぞー!!ムニャムニャ…………」
おばちゃんと喧嘩になりそうだったので、叫んでるナオさんを引っ張って外に出た。
それからもう1軒スナックに行き、ヘベレケでどうしようもなくなってるナオさんを抱え、そろそろ帰りましょうとタクシーで送り届けた。
深夜のアスファルト。
木造の建物が並ぶ古い日田の町をトボトボと歩いた。
川岸に浮かぶ屋形船がライトアップされてる。
はー久しぶりに酔っ払ったなぁ。
リアルタイムの双子との日常はこちらから